ダーク・ファンタジー小説

Re: ユリカント・セカイ ( No.11 )
日時: 2025/03/24 19:22
名前: みぃみぃ。 (ID: 74hicH8q)

〈第十一話 ずっと、このまま〉

「あっはっはっは!」
「な、なんですか」

私があんな答えをしたから笑ったと分かっていながらも、私はすこし驚いた。
フェアリーナ部長ってこんなキャラだっけ…?

「いやあ、全然いいんだけど。そんな答えの人は初めて見たよ。」
「……」

「あははっ、その好きな人とは誰なのさ。もちろん、ユリカント・セカイにいた人なんだろうな?」
「は、はい……。小鳥遊 留姫亜くん、です」
「ああ、留姫亜か。留異だな。あいつ、イケメンだよな」
「………」

フェアリーナ部長ですら知っているなんて。
でも小鳥遊くんなら、納得がいく。

「でもなあ───」

私は息を呑んだ。

「ユリカント・セカイにくるのは、毎年少しずつ変わるんだよなあ」

私は嫌なことが頭をよぎった。

『………俺さ、自分の名前嫌いなんだよね。でも、凛子に呼ばれるなら好きになれるかも』

あれは夢。
でも、あれが本当になったら……………。

「なんか思い出したのか?まあ、いいけど。大抵の人はくるからな。」
「そ、うなんですね」

「ああ、まあ、大丈夫だろう。まああいつのことさ。来年も来るだろう。」
「え、招待状送るのは部長じゃないんですか…?」

「私じゃないよ、なんてっか、部下っていうか?そんなやつらが送ってる」
「じゃあ、部長が言ったら………あ」
「はは、お前そんなに留姫亜が好きなんだな。ま、どうにかなるさ。」
「………」

辛かった。
フェアリーナ部長が、そんなことを思っているなんて。
私の好きな人を、「どうにかなるさ」で表すなんて。

「あんたは本当にいいわ、本当は返してあげたいところだけど、そう言うなら、ここで過ごしてちょうだい」
そう言ってフェアリーナ部長に連れて行かれたのは、大きく、とても豪華な部屋だった。

「え、いや、こんなところ……。」
私は思わずそう言った。

「いやいや、そんなこと言わずに。あんたは優秀なんだから。さ、入って入って。カードキー式だから、カードキー渡しとくわね」
私にカードキーを渡すと、フェアリーナ部長はさっと立ち去ってしまった。

大きな豪華な部屋に一人取り残された私は、床に座り込んだ。
こんな豪華な部屋に私一人なんて、すごくもったいなく感じた。

あの……あのベッドくらいでいいな……
私は少し離れたところにあるベッドを見つめた。

ふっかふかの大きなベッドに、おしゃれな棚。
そして、可愛い、少し変わった植物。ピンクの丸い実がなっている。

……あれでも、十分すぎるくらいだな。あはは…

そう、苦笑している時だった。

向こうのほうから、ガサっと音が聞こえた。

「ひゃっ!?」

何々!?ええ!?

「………あ」

そこから顔を出したのは、知らない男の人だった。

「こんにちは」
「こ、こんにちは………」

信じられない。ていうか誰?

「あ……有栖川 賢太けんた、です。」

「賢太、さん…」
「はい。あなたは?」
「あっ……。橘 流華、です」

有栖川。何か身に覚えがあるような気がする。
有栖川、有栖川…………

「あっ!」
「ど、どうかしましたか?」
「あっ、すみません………」

私は顔に血がのぼる。
きっと私の顔は真っ赤になっているだろう。
でも、きっと………。
私は、勇気を出して話しかける。

「………あの、有栖川 美空異さんの、お兄さんですか………?」

もし違ったら。そう思うと、違う気がしてきた。いや、違う。絶対。まずい。きっと苗字がたまたま一緒なだけだ。
そうオロオロしていた時。
帰ってきたのは、予想外の言葉だった。

「えっと……君……流華さんは、美空異のことを知っているのか…?僕は、
美空異の双子の兄だよ。ええと、兄ってのは間違ってないんだけど……」
「………えっ!?」

小鳥遊くんの好きな人の双子のお兄さんが、この賢太さん。
頭がこんがらがる。

「あの、流華さんは、なんで自分の名前が嫌いなんですか?」

そうだった。
ユリカント・セカイは、自分の名前が嫌いな人たちが集まるんだ。

「私、は……。流華の“華”が、華やかな子に育って欲しいっていう意味なんですけど、それを5年の時にみんなの前で言ったら、華やかじゃないじゃんって揶揄われて、それがコンプレックスになっちゃって……」

「……、そうなんですね」
「あの、賢太さんって、なんで自分の名前が嫌いなんですか……?」

「僕は…賢太の賢って、賢いって書くんですけど、僕、バカで、勉強できなくて……。それで、名前が嫌いになって」
「ああ……」

やっと冷静になった時。
私は大変なことに気づいてしまった。

私は、この人……賢太さんと、同じ部屋で暮らさないといけないってこと……!?




しばらく沈黙が続いた。

気まずいなと思い、私はやっとのこと、声を出した。

「「……あの」」

賢太さんと私は、同時に声を出してしまう。
そんな空気を破ったのは……

「あら、ごめんなさいね〜。流華さん、案内する部屋を間違えてしまいまして。」

フェアリーナ部長だった。

「あらま、ごめんなさいね。邪魔です?」
「「い、いえ」」

私と賢太さんは咄嗟に答える。

「そう。じゃあ流華さん、こちらです」
「は、はい」

「んーと。カードキーはよかったみたいね。はいここ。」
「あ、はい」

私は部屋の中に入る。

「……えっ…?………私の、部屋…………?」

そこは、私の部屋……のようなのだけれど、私のお気に入りの小さなソファは大きくなっていて、ベッドの棚にはあの謎の可愛い植物がおいてある。

しかもベッドは巨大。

まさに私の部屋をそのまま巨大にしたような感じだ。


「……………」


静かな時間が続いた。
特に何をしたいというわけでもないし、ここで1年も過ごすと思うと、気が遠くなりそうだ。



「………あ、スマホ」

机の上には、私の使っている可愛げのないカバーのスマホが置いてあった。

「……………Wi-Fi繋がってる。使えそう」



私はゲームアプリを一つ入れた。

雪ちゃんがハマってて、少し気になっていたけれど、特にやろうとも思わなかったゲームだ。



「……意外と、いいかも」

私はこのゲームでずっと時間を潰し続けた。

流愛もいない。何も文句を言われない。
それは私にとって、とても気楽だった。

でも雪ちゃんに会えないと思うと、少し胸がチクリと痛んだ。

ずっと、このままなのかな?