ダーク・ファンタジー小説
- Re: ユリカント・セカイ ( No.13 )
- 日時: 2024/11/27 16:54
- 名前: みぃみぃ。 (ID: UFZXYiMQ)
【第十三話】結ばれるはずだった人と、結ばれないはずだった私
『流華が、帰ってこない』
それは、私……流愛にとって、とても嬉しいことだった。
流華は11時くらいに帰ってくる予定だったらしいけど、3時を過ぎても帰ってこないらしい。遊んでくると言った公園も見に行ったらしいけど、いなかったらしい。
公園とか、地味すぎる。ほんと、流愛と正反対。地味。あの名前も馬鹿げてるし。流“華”とか、嘘じゃん。
お母さんは慌ててたけど、流愛には分かんない。馬鹿みたい。流華のことなんか、ほっとけばいいのに。
……ああ、最高。流華がいないんだよ?ああ、気楽。全っ然うざくないし。
あーあ、何しよ。
お腹は空いてないし。さっき、凛子とランチしてきたばっかりだ。
あ、ゲームしよ。そうだ、凛子とオンラインでやろっと。
そう思い、流愛は凛子に電話をかけた。
「……もしもし、凛子?」
『ん、流愛?どした?』
「今、暇?」
『うん、めっちゃ暇』
「じゃ、いつものゲームで繋ごうよ」
『おけ、じゃ申請しとくわ』
「さんきゅ。じゃ、またあとで」
『うい、切るね』
「はーい」
プツッと短い会話が切れる。
「申請来てる。参加っと」
凛子はいつも行動が速い。他の人なら、申請にいつも2、3分はかかるのに。もちろん、流愛も。
「はい、りぃ、来たよー」
りぃ、は、凛子のゲーム内での名前だ。流愛は、るぅだ。言ってしまえば、凛子のパクリ。
『るぅ、やっほー』
「んじゃ、やるか」
『おけ』
ゲームがスタートした。
このゲームは、戦闘ゲーム……という名の、なんか可愛いやつが揉め合いみたいなのしてる、なんか可愛いやつだ。全然グロくないし、見てて癒される。
これは多分、クラスで流愛と凛子以外知らないゲームだと思う。……あ、でも、確か白石雪って人は知ってた気がする。あの人嫌いだけど。
『おりゃおりゃおりゃーっ!!』
「うわダメージえぐ!何その技!!」
『こないだ身につけた!とりゃぁっ!』
「うわーっ!!じゃあるぅだって!おりゃーっ!!」
『うわなんだそれーっ!!負けた!』
「おっしゃー!」
──────この時は、流華が帰ってこないことが、あんなことに繋がるなんて、思ってもみなかった。
来てしまった。
後戻りができないことなんて、知っていた。
でも、私……流華は、留姫亜くんと両思いにならなければ、帰れない。
そんなこと、百も承知だ。
「みなさん、今日はユリカント・セカイにお集まりいただき、誠にありがとうございます。今日は楽しんでいただけると、嬉しいです。それでは……ユリカント・セカイを、開始いたします!」
フェアリーナ部長がそう言うと、不思議と緊張の糸が解けたように段々と騒がしくなった。
「……っ…!」
私は耳を塞いだ。
1年のユリカント・セカイでの生活は、賑やかだったとはいえ、いつもより静かだった。
学校に行けば、影口の連続。
家では、流愛の文句の連続。
それがなくなったことで、静かな環境に慣れてしまったのだろう。
……一言で言ってしまえば、とても、うるさかった。
今すぐ、耳栓をしたいくらい。
どうしよう。
……我慢できないくらいだ……
「……あ、誠ちゃん……」
悩んでいるときに目の前に現れたのは、何度見ても流愛にそっくりな誠ちゃんだった。
「……は?」
帰ってきたのは、まさかの………流愛の口調だった。
「あんた…!あんたのせいでっ……!!」
「流、愛?」
これは流愛なのだろうか。
信じられなかった。
一瞬やっぱり誠ちゃんなのかとも思ったけど、やっぱり雰囲気が違った。
「そうだよ、流愛だよ!!流華の馬鹿野郎!!」
周りにいる人が、流愛の大声でこちらを一斉に見る。
恥ずかしかったけど、そんな場合ではなかった。
「流愛……」
私は、流愛の名を口にすることしかできなかった。
「……あの!」
そう聞こえた。
声の聞こえた方には、凛子さんが居た。
「流愛、ごめん!!ねえ、もうあんなことしないから!!お願い…!もうやめてっ!!」
凛子さんがこんなにか弱く見えたのは、初めてだった。
私は夢を見ているのではないか。
そんな考えが頭をよぎったが、ほっぺをつねったら痛いし、目を擦ってもなにも変わらなかった。
「やめてやめてやめて!凛子なんか大嫌い!!来ないで!!嫌だっ!!」
「流愛、ごめん、許して…」
「許せるわけないでしょ!?ふざけないで!」
流愛が、凛子さんをそんなに嫌うなんて。
何があったんだ、と私は動揺する。
そして、私は意を決して声を出す。
「…ねえ、何があったの?流愛と凛子さんの間に…」
流愛が、私をキッと睨んだ。
「ごめん、流華、全部、私が悪いよ…!ごめん!」
急に凛子さんに謝られて、どきっとする。
「凛子が」
流愛が、口を開く。
「凛子が、クラス全員で、流愛を仲間はずれにした」
「……え?」
「流華が行方不明になって、流華の方が勉強も運動もできるし、ってなって、流愛は前までみたいに愛されなくなった」
吐き捨てるように、流愛が言う。
そこで私は、ああそっか、と納得した。
愛されなくなったから、流愛は名前が嫌いになったんだ。
「ねえ、流華。戻ってきて」
流愛が、急に目に涙を浮かべる。
「ねえ、もう、流華の名前を揶揄ったりしないから。お願い。ねえ……」
最後の方は、流愛の声が掠れて、よく聞こえなかった。
そして、涙がほおにつたって、ポツンと床に落ちる。
「じゃあ」
流愛が希望を感じたのかなんなのか、顔が少しだけ明るくなった。
「凛子さん、私に……留姫亜くんと付き合うのを、許して」
凛子さんの顔が、急に真っ青になった。
「なんで……?私、留姫亜と、やっと、付き合ったのに……」
凛子さんが?留姫亜くんは、美空異さんが好きだったはずなのに………
「嘘だ」
声の聞こえた方を見る。
「俺は、こいつと付き合ってなんかいない」
そこにいたのは……留姫亜くんだ。
「全部、嘘だ。俺は、誰とも付き合ってない」
「凛子!!」
流愛が叫んだ。
「嘘つくなんて、信じらんない!!ふざけないで!!」
さっきまで泣いていたのなど、信じられないくらい、流愛は必死だった。
そして、留姫亜くんが、こっちに近付いてきた。
「今、俺が好きなのは、美空異じゃない」
留姫亜くんの息が荒くなり、顔が真っ赤になる。
「流華さん。あなたが好きです。付き合ってくださいっ!」
「……………え?」
やっとのことで出した声は、変な声になってしまった。
「俺……流華さんが、行方不明になってから、テレビで流華さんの顔を見ました。よくよく見たら、すごく、可愛くて……」
私の顔が、真っ赤になっていくのを感じる。
「それから、与那野東中の女バス部は、どんどん弱くなっていったんです。で、俺の学校のバスケ部のコーチが何か言っているのが聞こえて。『行方不明になった子は、この学校の子だったような。あの子がいる時はこんなに弱くなかったのにな』って呟いてたんです。それですぐ、ああ、流華さんのことだな、って……。」
留姫亜くんの顔が、これでもかと思うくらい、さらに赤くなっていく。
「流華さん、俺は、運動神経が良くて、可愛くて………そんな流華さんが、好きです。」
留姫亜くんが言い終わる前に、もう答えは決まっていた。
でも………言えなかった。
留姫亜くんには、留姫衣さんという、双子の弟がいる。私は…………留姫衣さんにも、惹かれてしまったのだ。
私は、なんて人を好きになってしまったのだろう。
「留姫亜さん、ごめんなさい。」
流愛が、留姫亜くんに断りを入れる。
「凛子!?なんで嘘ついたの!?」
急に、叫び出した。びっくりして、何も声がでなかった。
「流華も、留姫亜さんも………流愛だって、わけわかんないよ」
「だって……」
凛子さんが、泣きそうな声で言う。
「留姫亜くん、私に……凛子に、ちょっと惹かれちゃったかもって……それって、好きって意味じゃないの?」
「それは……」
留姫亜くんが、申し訳なさそうに言う。
でも私は、そんなのどうでも良かった。
留姫亜くんが。あの、美空異さん一筋だった、留姫亜くんが。
凛子さんに、目移りするなんて。
信じられなかった。
「それに、これが終わった後……言ってくれたじゃん…」
凛子さんが、泣きそうな声になる。
「『俺、凛子となら、付き合ってもいいかも』って……
それって、付き合うって意味じゃないの!?!?」
凛子さんは、必死だった。
今までに一番、必死だった。
「俺そんなこと言ってねえ」
留姫亜くんが吐き捨てるように言う。
「お前がそう言われたの、夢じゃねーの?」
そう言われて、ドキッとした。
私は………留姫亜くんが凛子さんに、話しかけて、楽しそうに笑っている夢を見た。
それと同じように、凛子さんも、……留姫亜くんだって、夢を見ていたのかもしれない。
凛子さんはきっと、嬉しくて、現実との区別がつかなくなったのだろう。
「え…………」
凛子さんが、絶望の顔をする。
そして……大粒の涙が、凛子さんの目から流れる。
「……ごめんなさい、私、勘違いしてたなんて……………」
凛子さんは、今までで一番か弱く見えた。
「留姫亜くん………美空異さんは、もう、好きじゃないの……?私が代わりに、なるの………?」
美空異さんに代わる自信がなかった。
みずほらしい自分が。女子力のない自分が。
「留姫亜!!」
美空異さんが、駆け寄ってきた。
「留姫亜、自分が流華さんが好きだと思うなら、そんな言葉に惑わされちゃダメ!!そもそも私、留姫亜に告白されて、驚いたんだから。それで振られたからとかで流華さんになったらわかるけど、今の話聞いてたら……あんた、本気で流華さんが好きなんでしょ?」
美空異さんの話を聞いて、私はびっくりした。
留姫亜さん……本当に、私が、本気で、好きだなんて……
「美空異……」
留姫亜さんの目に涙が浮かんでいる。
そして、遂に、決心したように、こちらを向いた。
「…流華さん。俺は、あなたのことが、好きです。…付き合ってください!」
付き合ってくださいの声だけが異常に大きく聞こえた。
それと同時に、周りの人が、こちらに寄ってきたり、避けて通っていったり、私たちのことを気にしているようだった。
中には、こちらを向いて祈るような手をしている人もいた。
留姫衣さんがどうとか、今の私には関係なかった。
ただ、私は、留姫亜さんが、好き。
私の中で、答えは決まっていた。今は、その言葉を出せば、留姫亜さんに伝えれば、それで良い。
「はい。私も留姫亜くんがずっと、あのときから、大好きでした、……私でよければ、付き合ってください!」
