ダーク・ファンタジー小説

Re: ユリカント・セカイ ( No.3 )
日時: 2023/12/28 16:07
名前: みぃみぃ。 (ID: t7GemDmG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

【第三話 幸福と不幸】
「今日の一時間目は部活を決めるぞー。それまでに考えておくように。」
朝の会の時。
私のクラスの担任の、鈴木すずき 諭吉ゆきち先生が言った。
「そうだった、部活!!どうしよ!!」
「俺サッカー部入る〜」
「私は吹奏楽部!!」
みんなの言葉が飛び交った。
「はい、静かに!」
鈴木先生が言った。
「はい、これで朝の会を終わります。礼!」
「ありがとうございましたー」

朝の会が終わると、私は真っ先に雪ちゃんの席に駆けつけた。
「雪ちゃんは、さ。部活、何に入るの?」
「私?私は、そうだねえ…バスケ好きだし、バスケ部入ろうかな〜って思ってる。流華ちゃんはどうするの?」
…うっ、流華…華やか、じゃなくて、地味、なのに…
ううっ…。
分かりきってる、のに…。
私の心に深く傷がついた気がする。
時々、あるのだ。
1ヶ月に一、二回くらい…
“流華”と聞いたら、精神崩壊しそうになる時が。
「流華、どした?」
「あ、え、あ、ごめんっ!わ、私は…決まってないんだよね…。私もバスケ部入ろうかな…。」
「おお!いいじゃんいいじゃん!!一緒にやろ〜!!」
「うん、!じゃあ私も、バスケ部入るっ!」
その後の休み時間の間も、クラス中部活の話で盛り上がっていた。
でも、私の心にある傷は戻らなかった。


一時間目の初め。
「…じゃあ、部活を決める。アンケートを配るから、それに答えてな。」
アンケートには、第一希望と第二希望を書く場所があった。
私は第一希望にはバスケ部と書いたのだが。
第二希望、どうしよう。
絵描くの好きっちゃ好きだし、美術部にしよっかな。
美術部、っと…。
これでいいか…。
「書いた人から前に出してください。明日には決まるからな。しっかり考えるように。」
「「「はーい」」」
私はとりあえずアンケートを出した。
「…よし、これで全員出したな。じゃあ、今からは自習だ。そのあとミニテストをするから、しっかり復習しておくように。範囲は教科書125ページから132ページの間。先生は職員室でこれを集計しているからな。何かあったら職員室に来い。いいな?」
「「「はーい!」」」
はあ、自習、か…
嫌な予感がする。
まあいいや…。ドリルでもするか。
私が引き出しからドリルを出した時。
「うっわ、流華のやつ、“華やか”な子なのに、ドリルとかしてやがるwまじウケる〜w」
「それな!?まじ“華やか”要素どこにもないよな、この真面目野郎!」
「え、もしかして、流華の“華”って、華やかって意味なの!?全くあってないじゃん!」
「そうそう!信じられないよね!」
「まじで流華さあ〜お姉ちゃんなのにダメダメじゃん!流愛ちゃん、可哀想〜」
「凛子ちゃんの言う通り!流愛がお姉ちゃんなってあげようかなぁ?」
「それがいい!」
「地味流華!地味流華!」
ああ…
予想通り。
でも、クラスの中心的存在の凛子さんに言われたのが一番辛かった。
ついにはコールまで始まってしまった。
もうやだ…
「ちょっと、あんたたち!」
…雪ちゃん。
「あんたらはさ、本気マジで弱いんだね!いい度胸してるわw流華ちゃんの気持ちになってみろ!みーんなから悪口言われてさ、ついにはコールまでやられてさ。されたら嫌じゃないわけ?」
「雪、ちゃん…」
「流華は黙ってたら〜?」
流愛が言う。
「お前もだよ、流愛!お前も加害者だ!」
「はあ?なんで私が加害者になるわけ?」
「そうそう、意味分かんないよね〜!雪、馬鹿馬鹿!あと雪に言わせた流華、最低最低!存在価値ない!」
「…うっ」
私は思わず涙を流した。
「はあ、もうっ!お前らは黙っとけ!流華ちゃん、先生のところいくよ!」
「え、あ、うん…」
「ふっ、流華、雪にしか頼れないのかな?惨めだな〜w」
「それな!」
そうやって、私が教室を出るまで、ずっと悪口を言われ続けたのがとても悲しかった。


そのあと先生から長い長い説教をみんなが受けていた。
私は副担任の柿野かきの 梨沙りさ先生に、状況を話していた。




…その後のことはあまりよく覚えていない。
いつの間にか説教が終わって、いつの間にか給食も食べ終わっていて…。
いつの間にか家に着いていた。
どうやって、誰と帰ったのか、とか、全く覚えていなかった。
本当に、“いつの間にか”だった。
でも、とてつもなく、長かった。
不思議な、日だった。
それと同時に、最悪な、日だった。





次の日の朝。
私は学校を休んだ。
…昨日のことがあるから、だ。
流華には、
「あんなことだけで休むんだね〜w弱〜w」
と、悪口を言われたけど。
…学校で昨日のようなことを言われるのは、散々だった。
…それよりは、マシだ。

お母さんにその事を話すと、休んでもいいよ、と言ってくれた。
それだけが私の救いだった。



学校は、地獄のような場所だ。
学校に行って、良かった、って思える事。

それは、雪ちゃんと、話せること。

ただ、それだけ。



でも、




それは、私の心を支えてくれていた。



長い、でも幸せな時間だった。
お母さんは愚痴を嫌な顔一つせず聞いてくれた。
私が何か言ったら、その通りにしてくれた。

でも。

「ただいまー」

流愛の不機嫌そうな声が聞こえた。

「流華。これ、先生に渡せって言われたんだけど。」
「あ、うん…」
「は?ありがとうの一言もないわけ?重かったんですけどー?もういい。勝手にすれば?」
あーあ。
もうどうでもいいや。
私は流愛から渡されたとりあえず封筒を開けた。
…手紙。
手紙が入っている。
みんな、書いてくれている。
…見たくなかった。
悪口が書いてあるに違いない。
でも、読まないわけにはいかないよね。
失礼、だし…
そこには、予想もしていなかったことがたくさん書いてあった。
「昨日はごめんね。」
「大丈夫だった?昨日は本当にごめんなさい。」
「昨日は色々な人につられてしまって色々言ってしまってごめん。」
「流愛ちゃんが言ったからといってつられてしまったのが悪かったです。本当にごめんなさい。」
凛子さんからも、言われた。
でも私はゾッとした。
流愛は、とんでもないことを書いているのではないだろうか…?
「流華のバカ」
一文目、こう書いてあった。
やっぱり。
「なんで私が加害者になるわけ?お前のせいだよ。責任とれ!」
あーあ。もう、やだ。
「バカ!タヒね!ボケ!アホ!クソ!」
最後には、こんなことまで書いてあった。
私はその手紙をぐちゃぐちゃにして、ゴミ箱に捨てた。
最後は、雪ちゃん。
「流華ちゃんへ。
 昨日、流華ちゃんがとても苦しかったこと、私が一番知っていると思います。
 私の行動が、流華ちゃんを助けることができていたらうれしいです。
 そして。部活は私と同じバスケ部でしたよ!
 流華ちゃんと一緒に部活ができるのが、嬉しいです。
 雪より。」

私は、いつの間にか涙を流していた。
今までで一番嬉しい手紙だった。
どんな手紙よりも、一番。




でも。
この先には地獄が待っていた──。