ダーク・ファンタジー小説
- Re: ユリカント・セカイ ( No.9 )
- 日時: 2024/04/23 08:54
- 名前: みぃみぃ。 (ID: t7GemDmG)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
【 第九話 もう一度 】
「はあ………」
そうだ、よく考えればそうだ。
私なんかが小鳥遊くんと付き合えるわけなんか、ない。
きっと、有栖川さんが付き合うんだ。
いや、木村さんかな。それとも、雪ちゃん?
………雪ちゃんと付き合うのが、一番辛い………かな。
「ねえねえお姉ちゃん、ため息ほんっとうるさいんだけど。華やかなお姉ちゃんがため息ついてどーすんの」
ぐるぐるぐるぐると頭の中で考えていると、隣の部屋から来た流愛が文句を言ってくる。
「……私だって人間だよ。悩み事くらいあるよ……」
吐き捨てるようにそう言うと、もう一度ため息をつく。
「あーそうだったね、お姉ちゃんは優等生だもんねー、流愛よりも悩み事多いよねー」
嫌味っぽく言われ、私は少しカッとなる。
「なに、その言い方」
すると、流愛は大きく息を吸い始めた。
何をするのかと思った瞬間。
「お姉ちゃんのバカ!!」
そう言い切った。
私は一瞬、息がぴたっと止まった。
「お姉ちゃんはなんにも分かってないくせに、よくそんなこと言うよね。」
そう続ける。
「流愛が、お姉ちゃんがお姉ちゃんでどんだけ苦労したと思ってんの?お姉ちゃんのせいで流愛は勉強とかスポーツでプレッシャーをかけられっぱなし。バカみたい。お姉ちゃんのせいでっ…!!」
流愛が。あの流愛が。あの自己中な流愛が。
そんなに、悩んでいたなんて……。
私は、衝撃を受けた。
「お姉ちゃんなんか、いなくなればいいのにっ!!」
そう叫ぶと、流愛は自分の部屋に帰って行った。
『お姉ちゃんなんか、いなくなればいいのに』。
これは、あの時、私がすごくいじめられた時、言われた言葉だった。
聞きたくなかった。
私だって、人間だ。
そう思ったのは鮮明に覚えている。
「わ、私だって………、人間、だよ……………。」
言葉にするのが怖かった。
でも、そう言った途端、涙が溢れ出てくる。
止めようとしても、止められなかった。
私だって、私だって………。
涙は止まるどころか、どんどん量が増えていく。
もうこれは、止まらない。
そう確信した私は、ベッドに飛び込み涙を流したまま眠りに落ち……れなかった。
涙は増えるばかりで、止まる気配もない。
どこかに、ずっと流愛を恨む自分がいる。
どこかに、ずっと悲しむ自分がいる。
どこかに、ずっと震える自分がいる。
私はとにかく泣きまくった。
10分、20分………どんどん時間が経っていく。
それから悔しくて辛くて、疲れ果てて眠ってしまった。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
一週間後。
ベッドから起き上がり、部屋着に着替えてリビングに行く。
「お母さん、おはよー」
「おはよう、流華」
「流愛は今日も遊びに行った?」
「ええ」
お母さんと少し会話すると、私は朝ごはんを食べ始める。
だいたいいつも、この時は私もお母さんも無言になる。
別に私はこの時間は嫌いではない。
しばらくの沈黙の後、お母さんが口を開いた。
「流華、今日、図書館に行かない?」
「……え?いいけど、なんで…?」
いきなりのことに少し驚く。
「なんでって、借りたい本があるからに決まっているじゃない」
「そ、そっか。そうだね」
少し驚いたが、私とお母さんは、図書館に行くことにした。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
「ああ、もう、なんで入れてくれないの……!?」
行く途中の交差点、お母さんがイライラしていた。
「ああ、もう!!」
お母さんは、最近、変だ。
流愛ことで、ストレスがあるのだろう。
やっと抜け出したと思ったら、次はまた違う理由でイライラしていた。
「はあ?なんでそこ入れるの!?」
私達がさっき通った小さな交差点と同じようなところで。
入ろうとしていた車を2、3台入れたみたいだ。
私は少し矛盾を感じていた。
まあお母さんのことだ、ストレスがあるのだ……と思い、なんとかその場を沈めた。私の中だけなのだけれど。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
「着いたわよ」
お母さんの声で我に返る。
「お母さんは本を見に行くから、好きな本見てて」
図書館に入るなり、お母さんは奥の方へ入って行った。
何を借りようか……と考えていると、ふいに声をかけられる。
「あ、流華。おひさー」
「み、実乃莉!?ああ、びっくりしたぁ。実乃莉かぁ。」
実乃莉。
工藤 実乃莉。私のいとこ。
「実乃莉かぁって、何よ!あ、流愛は?」
「友達と、遊びに行ったんだって。ここにはお母さんと二人で来てる」
「ふーん」
実乃莉は、流愛のことが嫌いだ。
「あ、そうだった、私の口から伝えたくて。与那野高校合格、おめでとう」
「ふふ。ありがとー!」
実乃莉は満面の笑みを浮かべる。
実乃莉は今、高校1年生。
与那野高校は頭がよく、公立でダントツで頭が良い。
私も、与那野高校を目指してたりして。
「流華も与那野高校受けるつもりなんでしょ?」
「あ、うん。」
「じゃあ今のうちから勉強しといたほうがいいわよ。私は直前に睡眠不足で倒れたんだから………。勉強の詰め込みは厳禁よ」
「え、た、倒れたの……!?それでも受かったの………!?」
私はとても驚く。
「まあ。その後すぐ回復したんだけどね。流華は気をつけなさい」
「う、うん。でもまだ受験まで二年弱あるよ」
「二年弱しかないのよ!せめて本読むくらいやりなさいよ!」
すぅっと息を吸ったかと思ったら、実乃莉が怒鳴る。ここ、図書館です。
「ええ……。じゃあ、おすすめの本は?」
「ああ、ハヤテナオコさんのが良く出るわよ」
「……なんか聞いたことある。あの夏シリーズの人?」
私は記憶を一生懸命辿る。
確か、クラスの女子が、『ハヤテ先生の新シリーズ!あの夏シリーズだって!』とか、『最新のあの夏シリーズ読んだ?』とか、騒いでいた気がする。
「そーそー。でも私、『あの夏の冬』が読めてないんだけどね。飽きちゃった」
「飽きたんかい……」
私はツッコむ。
「実乃莉、借りに行くわよ」
実乃莉のお母さんが実乃莉に声をかける。
「あー、はーい。流華、ごめん、私もう行くね」
「あ、うん。じゃあね」
「バイバイ!」
実乃莉は大きく手を振る。
私は小さく手を振り返す。
『あの夏シリーズ』。
それを借りよう。
ハヤテナオコさんが書いた小説がある本棚に来た。
『あの夏の春』を始め、
『あの夏の夏』や『あの夏の秋』など、沢山並んでいた。
その中に、『あの夏の冬』を見つけた。
私はそれを手に取る。
実乃莉が、読めていない本。
なんだか新鮮な感じがする。
適当に本のどこかのページを開く。
そこには……。
『「なんなの、本当にムカつく、流華ぁ、ふざけんなぁ」
「ほんっとそうだよねー、ふざけんなよって感じ」
「……ねえ。むう、これ、どう思う?」
私はペットのむうに話しかける。
「わ、澪が猫に話しかけてるw」
「なんだよぉ、璃子w」
私は璃子にからかわれたから、からかい返す。
むうは、『にぁーお』とのんびりと鳴くだけだ。
「いやでもさ、ほんっとアイツふざけんな。自分勝手」
「うんうん、マジで許せない。」
璃子は目の前の空気を殴る。
「ねえ、明日流華んち行って流華の親に言いつけにいこうぜ」
「いいねぇ」
「お姉ちゃんの流美さんいるかな?」
「あー、流美さんめっちゃ美人だよねぇ、会いたいわぁ」
「お兄ちゃんもめっちゃイケメンだった気がする。めっちゃ会いてぇ」
「うんうん、流衣さんわかるわぁ、イケメン、絶対モテるやん、羨ましいぃっ!」』
私は胸にナイフを突き刺されたような気がした。
『流華ぁ、ふざけんなぁ』
『流華んち行って流華の親に言いつけにいこうぜ』
流華。私の名前。
ただの偶然ってことは分かってる。分かってるけど……。
私は本を戻す。
頭がクラクラする。
そうだ、これはただの偶然だ。偶然。偶然………。
「流華、帰るわよ、借りる本は決まった?」
お母さんの声で我に返る。
私は咄嗟に声が出なくて、首を振った。
「そう。じゃあ、帰る?」
私は頷く。
「じゃあ借りてくるから、待ってて」
お母さんはそう言うと、カウンターの方に行ってしまった。
なんだか、置いてけぼりにされた気がして、少し寂しかった。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
こうやっていつも通り過ごしている中であんなことがあるなんて、予想しなかった。
それは、夏休み最終日のことだった。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
ベッドから起き上がる。
今日は起きるの遅かったな……。
すると、雪ちゃんからメールが来ていることに気付く。
しかも、昨日の………夜、11時。
私、起きてたはずなのになあ、なんで気付かなかったんだろう。
そう思い、メールを見る。
『流華ちゃん、明日、公園でバスケしない?あ、忙しかったら大丈夫だけど!てか夏休み終わっちゃうの悲しい〜』
いかにも雪ちゃんらしい文章だ。
そうか、バスケかあ……
最近やってなかったもんね、行きたいな……
『返信遅くなってごめんね!私も、行きたい。でもお母さんに一回聞いてみるね。』
送信して、リビングに行く。
静かだから、きっと流愛は友達とどこかに行ったのだろう。
昨日、流愛、宿題に追われてたっけ。
大丈夫かなあ……いや、あの人のことなんかどうでもいい。
そう思い、お母さんに話しかける。
「おはよ、お母さん。あのさ、雪ちゃんと公園でバスケしにいってもいい?」
「…………あ……え?ああ、分かったわ。いいわよ。何時から?」
お母さんは少し驚いた様子だったが、許可してくれた。
「今、雪ちゃんに聞いてるとこ。」
「そうね、午前中ならいいわよ」
「分かった、ありがとう」
部屋に戻ると、通知が鳴る。
『ううん、全然大丈夫!おっけー!一応、9時から11時くらいまでにしようと思うんだけど。』
『今、聞いてきたよ。午前中なら良いらしいから、その時間に行くね』
返信すると、また通知が鳴る。
『りー!』
『え、「り」ってどういう意味?』
「り」って……本当にどういう意味?私『り』とかいう名前じゃないけど……?
『「り」は「了解」っていう意味だよ!流行りに乗れないタイプだったっけ、流華ちゃん?』
胸がズキっと痛む。
乗れないというか、興味ないタイプかなあ……あはは……………
『ま、その時間に待ってるよー』
私はそっとスマホの電源を切る。
今は8時か…………
とりあえず、着替えよう。
ジャージでいいか…
私は黒に少し白の線が入ったシンプルなジャージを着る。
眼鏡は……やめとこう、コンタクトでいいか。
とりあえず適当に髪をくくっとこう。
私の可愛くないところはこういうところなのかなあ…と改めて思う。
…………あ!!
そういえば、作文の宿題…!!
そういえばそうだった。
昨日、ほぼほぼ出来上がったのだけれど、始め方で迷ってて、そのままに……。
私はスマホを開き、作文の下書きをしていたアプリを開く。
適当に始めを考えて、プリントに書き写す。
あ、もうこんな時間。
私は家を出て、自転車にまたがる。
自転車を漕ぎ始めると、風が気持ちいい。
あっという間に公園に着いてしまった。
もうちょっと漕いでいたかった、なんてね。
着くと、雪ちゃんはまだいなかった。
来るまで何をしようか……と考えていると。
小鳥遊くん……?
そこにいたのは、確実に小鳥遊くんだった。
「小鳥遊、こっちこっち!パス!」
「ういよーっ」
小鳥遊くんは、サッカーをしていた。
でもなぜか、少し違和感を感じていた。
あれは小鳥遊くんだ。絶対。
でも自信が持てなくて、なんだか変な感じだった。
サッカーが終わり、私は勇気を振り絞って話しかける。
「…………ぁ、あの………ユリカント・セカイにいた、小鳥遊 留姫亜さんですよね…………?」
「ゆりかんとせかい?なんじゃそら。ていうか留姫亜ってお兄ちゃんじゃん、僕は留姫衣だよ」
「……あ、すみません。間違えました」
私はそう謝ると、すぐその場を離れる。恥ずかしい。
すると、私は謎の光に包まれた。
そこで私は思い出す。
ユリカント・セカイのことを、誰にも言ってはいけないことを……。
………やってしまった。私はもう…
消えてしまうんだ………。
違和感は、きっと、留姫亜くんじゃなかったからだろう…………。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
「橘さん、起きてください」
「………あ、フェアリーナ部長…」
目を覚ますと、そこはユリカント・セカイだった。
ここは紛れもなく、ユリカント・セカイだ…
「試験を受けましょう」
フェアリーナ部長はそれだけ言い切って、奥へ奥へと進んで行く。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
「着きました。試験について簡単に説明します」
……分かった。
フェアリーナ部長は、怒っている。
まあそれはそうだ、だって、きっと沢山の人の対応をしなければいけないのだから。
「これは元々読んでもらう予定だった、利用契約です。」
そう言って、利用契約を出す。A4用紙が、3、4枚くらい重なっている。
「これを読んで、問題に答えてください。100点満点で80点合格、制限時間は30分です。始めてください」
私は少し驚いたが、利用契約を読み始める。
きっと、これからは絶対に言うな、ということだろう。
読み進めると、衝撃を受ける文章を発見した。
『第九条 呼び方について
本サービスの中では、皆様、また、本サービスの従業員の本名(下の名前)で呼ぶことを禁止いたします。
そのため、皆様同士ではペンネーム、本サービスの従業員は苗字で呼んでください。』
これは絶対………問題になっていると思う。
そう思い、問題文を見ると、やはりこういう問題があった。
『第一問
この利用契約の中に、一部知らされていない部分が三つある。第何条か答えよ。』
私は一つ目のマス目に『九』と書く。
そしてまた長い文章を読み始めた。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'
「終了です、少し待っていてください」
フェアリーナ部長が言い、解答用紙を回収して奥に進んで行った。
今から、丸つけをするのだろう。
解けた。解けた……と思う。きっと。
ソワソワしていると、フェアリーナ部長が向こうからやってきた。
まだ1分も立っていないのに。問題数は結構あったはずだ。
「丸つけが終わり、結果が出ました。結果は………。」
私は固唾を飲んで、じっとフェアリーナ部長を見つめた。