ダーク・ファンタジー小説

Re: 魔界にうまれた僕達の、 ( No.7 )
日時: 2024/02/25 11:53
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818


 爆発音と共に現れたのは、この国の兵士。
 兵士達ではローズ女王の暴走を止める事は出来ない。
 それに国の為にもあまり多くは犠牲に出来ないので、攻撃技の無い風村の住民を徴兵しに来たのだ。

 「兎に角、これ以上村に入るな、帰れ」
 「言っておくけど、僕達雑魚じゃないからね」
 すると、今まで黙っていた兵士長が口を開いた。
 「引く気は無いみたいだな?なら容赦なくやらせて貰う」
 その合図で、兵士達は続々とこちらへ向かって来る。
 「トワ、安心しろ!兵士は基本は魔法を使わない!」
 「僕とシャノで片すから、無理しないでね!」
 はーい、分かった、うん。
 言葉はいくらでも思い付いたけど、言えなかった。
 やっぱり目下に見られてるのかぁ、そうだよね、私、魔力無いもんね。
 ちょっと泣きそうだけど、今は、守るものがある。
 女王のために、今まで通りの国であるために。
 ぎゅっと涙を振り払って、目の前の敵に集中する。
 「アイシクル・ブレイド!」
 「グレイダスランス!」
 シャノの剣で、フィアの槍で殆どの兵士は倒れる。
 それを繰り返すうちに、残るは兵士長だけとなった。

 「氷と火のお前らは、そこそこといった所か。嫌、氷の方はもう上級のようだな」
 「火の方は俺の知らない技を使っていたな。魔術師か」
 「で、そこのお前は何が出来る?」
 「!!」
 魔法の分析が早い。そして何もしなかった私への質問。
 この人、きっと___
 「私?そうだなぁ、私は何も出来ないよ」
 「ッおい!」
 「トワ?!」
 「そうか、何も出来ないのか。ならお前は連れて帰ろう」
 雷属性だ。
 今まで何もしていなかったのは、“あの技”を使う為だ…!!
 「チャージド・ストライク!」
 「2人共逃げて!」
 どうしよう、これ風村壊れるんじゃ__?!
 こういう時、私はどうすれば良い?
 私しか状況を把握していない時。
 私は何も……出来ないのに……!






 ドカーン



 「これで、アイツらと…風村は全滅だな、身を引こう」
 兵士長は閃光の如く去って行った。








 「___か」
 「大___ですか」
 「大丈夫ですか?!」
 「…え」
 気が付くと私は村役場に来ていて、フィアとシャノが苦い顔をしていた。
 「トワ……大丈夫?!」
 「何があったか覚えてるか?俺達が分かるか?」
 みんなあ然としていて、そんなびっくりする事したかなぁと考える。
 「トワ、魔法使えないんじゃなかったの?」
 え?
 「落ち着いて聞け、お前…」










 『超上級魔法使ったんだぞ』

Re: 魔界にうまれた僕達の、 ( No.8 )
日時: 2024/03/03 16:05
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818


 私…が?超上級?
 「え、使ってないよ?多分それ兵士長の奴…」
 「それに、私に魔力なんて無いよ」
 自分でも動揺は隠しきれないけど、技の一つも知らない私が魔法なんて、嘘。
 数秒の沈黙を切り裂いたのはフィアだった。
 「光…って言うのかな、バチバチィッ!って雷の波動を包んで消したの」
 「そこでお前は倒れた。単なる魔力切れか、それとも____」
 え。
 正直、フィアの説明じゃ特徴が掴みづらい。
 それに、シャノが言ってる事は一般の魔力がある人用の対応だし、よく分からない。




 ヒュオーーーーッ




 ???
 風が、嫌、大きな竜巻が、球状に回転している。
 目にも留まらない程の速度で落下、再度空中に浮かび、弾ける。
 その頃には潰れたはずの地面が元に戻っていて、思わず拍手したくなる。
 この魔法を使ったと思われる魔法使いが、私の方を見て口を開いた。
 「貴女のはもっと大きくてピリピリして速くて、もっと凄かったんですけどね」
 「そうそう!ビュ~バッピカァ~!!って言う感じの!淒かったんだよ!」
 「多少相違点はあるが風でここまで再現できるなんて……」
 「え、私(がやったとするなら)こんなの使ったの?!」
 本当にびっくり。違うと思うけど、私がやったなら魔力…があったり…?
 「はい、貴女様はこのワタクシでも真似できない超上級魔法を使ったのです」
 「申し遅れましたがワタクシはネイト・ウィンガという者です」
 「ネイ卜はねぇ、人の魔法の真似が大好きなんですぅ」
 案内人さんが口を開く。
 「ネイトの才能は計り知れないんですよ、どんな上級魔法も真似してねぇ」
 「今日はじめて、ワタクシが再現出来ない魔法を見ました」
 「それで…お願いがあるのですが」
 ネイトが少し俯きがちに声を発する。





 「皆様、噂では旅をされているようですが」
 「ワタクシもその旅に連れて行って頂けませんか」



 「ネイトが?本当に?」
 一応、確認。
 「__はい」
 さっきとは180度違う、不安そうな顔を浮かべて答える。
 「私はむしろ歓迎っていうか…」
 「僕は良いよ?シャノも良いね?よし!これからよろしくね!ネイト!」
 「は?ちょっと待て!___まぁ、このレベルの魔法使いなら構わないが」
 「じゃあ決定だね!よろしく、ネイト」
 「…はいっ!」






 魔力の無い雷魔法使い トワ・マディカ

 明るい笑顔の炎魔術師 フィア・リエイム

 冷静な天才氷魔法使い シャノ・フローズ

 真似好き風魔法回復師 ネイト・ウィンガ



 これから、私達4人の長い旅がはじまる。

Re: 魔界にうまれた僕達の、 ( No.9 )
日時: 2024/03/10 07:52
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818


 夢を、見たんだ。

 雷村に4人で走って向かって、私が魔法を使えた事を話しに行った。
 でも村の人達はそんな訳ない、よりによってお前が、とにまともに聞いてもらえず、
 フィア・シャノ・ネイトにも嘲笑われる、そんな夢を。






 がばっと目を覚ます。
 「調子に乗りすぎた、かなぁ」
 そう言い捨て、宿の外に出る。





 『魔法のろくな知識もないお前に、そんな事できるか」
 雷魔法は一通り覚えたし、属性どうしの相性も把握してる。
 『魔力検査を舐めているのか。お前に魔力なんて、無い』
 分かってる。そんなの分かってるけど___!!




 『お前は何もできない』




 私の頬を、涙がさらりと伝っていく。
 「誰よりも勉強して、誰よりも努力した。のに、何で私は…いつもこうなの?
  中途半端で苦しむくらいなら、魔力が無いって思ってた方が楽だったのに」
 次々と私を締め付ける物を思い返す。

 『ローズ姫が好き?貴女みたいな魔界の落ち溢れが?無理、諦めて」
 『女じゃないの?何で女が女を好きになるの』
 『やっぱりあの子変だよ。気持ち悪い』







 今もその苦しみから逃れる事はできていないけど、前よりは平気になったと思う。
 魔法、改めて学び直そうかな。
 宿の階段を駆け上がり、ただいま、と扉を開ける。
 「トワ!どこ行ってたの?目、赤いけど大丈夫?」
 「もしかして、泣いてたんですか?」
 「お前ら質問攻めしすぎだろ。トワ、無視しろ」
 「あはは、やっぱり4人で居ると賑やかだね、楽しいよ」

 「ねぇ、私もう一度魔法について学び直したくて。みんなの事、もっと教えてほしい」
 「……」
 「僕もやりた~い!魔法って範囲すごいから、勉強するの渋ってたんだよね~」
 「そうだな、百聞は一見にしかずって言うし、村を知る良い機会かもしれない」
 「トワさんがやりたい事を聞かないなんて、ワタクシはそんな事しません」
 「みんな、ありがとう!」
 ローズ女王、もう少しお待ちください。いつか必ず、私達が助けにいきます。



 <お知らせ>
 毎週日曜日に更新を続けていましたが、
 このままだと永遠に終わらないのでは、と判断したため、
 不定期更新に戻そうと思います。
 一応、二日に一回くらいを目安に執筆させて頂きます。
 (平日は主に夕方の更新となります。ご了承ください)

Re: 魔界にうまれた僕達の、 ( No.10 )
日時: 2024/03/12 20:02
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818


 トワが魔法を勉強したいと言って、もうすぐ一週間になる。
 「すごい!シャノは上級魔法も簡単に出せちゃうんだ!」
 「トワに比べたら、俺は大したことねぇよ」
 「ネイトもすごいね!ずっと座ってても全然疲れない」
 「トワさんにそんな事言わるなんて光栄です~!」

 …あーあ。
 この中で僕は、僕だけは、魔術師。
 卜ワに出会ったときは気にしないって言ったけど、気にしちゃうんだよね。

 だって僕、鬱陶しい程諦めきれなくて、村の人達を困らせたから。
 一個諦めて一個頑張った。
 本当はどっちも大切な事なんだけど、みんなには片方しか言ってないんだよな。


 トワのリアクションを木陰で静かに眺める。
 一個、頑張った。
 魔法が使えないから遠く感じた村の景色を近くで見たくて、
 必死に勉強して魔術師になった。
 努力の塊である僕の魔術が認められた時は、何にも変えられないぐらい嬉しかった。

 一個、諦めた。
 僕がなりたかったものでいる事を、諦めた。
 魔法使いだとか魔術師だとか以前に、それ以上に大切なものを諦めた。
 周りに見えてる僕の姿は、自分が追い求めている姿ではない。
 今も、ね。
 自分らしく生きる事を諦らめた僕だからこそ、自分らしさを殺されかけても諦めない卜ワに心を動かされたのかな。
 ちょーっと前の僕が卜ワに会ってたら、こうはなってなかったかもね。


 「トワ~!!」
 「___フィア!どこ行ってたの?」
 「っへへ、ちょっとね~?」
 今の自分がどうであれ、僕の居場所はここだ。もう二度と失わないように、大切にしよう。

Re: 魔界にうまれた僕達の、 ( No.11 )
日時: 2024/03/17 08:00
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818


 ある日、ネイトが俺に変な事を聞いた。
 「氷村って、雷村ほどじゃないけど魔法社会ですよね」
 「まぁ、そうかもな」
 「じゃあ、実力で妬まれるって何か、変じゃないですか?
  あ、温厚で穏やかな風村出身のワタクシが言うのもですけれど」
 「___確かに、な」


 トワやフィアなら騙せると思ったんだが、流石、ネイトにはお見通しか。
 嫌、魔法使いなら誰もが疑問を抱くだろうな。
 ドライで薄情な氷村のヤツが妬むなんて、と。
 まぁ、な。
 アイツらが嫌うなんて、よっぽどの理由が無いとあり得ない。
 その『よっぽどの理由』を俺が持っている。それだけの事だ。
 「はぁ…」
 ただただ自己嫌悪に呑み込まれる。
 変な奴には近付かない、何をされるか分からない。
 俺に対する冷えきった心を持ったのが何人か居て、それが次第に広まっていったのだろう。
 別に、俺は孤独である事に苦しみを感じたりはしなかった。
 何なら、永遠に孤独だったって構わない。


 ___なんて、思ってた程なのに。
 あの日、俺は孤独に解放された。
 俺と同じ、それ以上の孤独を抱えた奴らに。
 今も変わらず馴れ合う姿を見ると、はじめて出会ったとき見た笑顔とは印象が違う。
 正義感しか無いと思っていたトワ、意外と馴れ合いを嫌う傾向がある。
 ただただ馬鹿だと思っていたフィア、寂しそうで依存しているようにも見える。
 ネイ卜の事はよく知らないが、俺達同様、決定的な何かが足りていないのだろう。

 「シャノさん、卜ワさんが呼んでますよ」
 「…あぁ、今行く」

 変に模索するのも、良くないか。

 俺達は互いに、足りないものを分け合って、補い合って進んでいく。
 誰に何て言われたって、もうきっと孤独を感じる事も無いだろう。
 だって、ここが俺の本当の居場所だからな。


Re: 魔界にうまれた僕達の、 ( No.12 )
日時: 2024/03/19 18:50
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818


 明日には、風村を出るらしいです。
 ずっとこの優しい村の外に出る事は無かったので、凄く不安です。
 「ネイト、大丈夫?荷物まとめてちょっとしたら出発するよ~!」
 「…わかりました!」

 今日は役場に挨拶に行って、一晩中パーティーして、明日には出発。
 今はある程度の持ち物をまとめて、明日すぐ村を出られるように準備している段階です。
 村を出たら、氷村、炎村の順に挨拶しに行くらしいのですが、
 当然、雷村には行かないみたいです。

 卜ワさんは強い、そう思いました。
 ワタクシだったら耐えられない。そんな傷を負って、それでも前を向ける。
 そういう精神的な部分にも憧れて、着いて行きたいと思ったんです。
 きっと、トワさん達も疑問に思っている部分はあると思います。ワタクシの事。

 「トワ、良い意味でデリカシーに欠けてるよね」
 「え、フィアに言われたくないなぁ~」
 「でも分かるな。普通に俺と同じ部屋でも気にしねぇし」
 「そんなの気にしてたら、部屋割決まっちゃうじゃん」
 「え、トワさ、ネイトの事どっちと思ってる?」
 「私?私は…」

 ___どっちでも無い、なんて考えてもくれないですよね。
 どっちにもなりたくない、ワタクシはワタクシだなんて厨二病みたいな考え方。
 気持ち悪い、変だって言ってくれたら、はっきり区別できるんでしょうか。
 追いて行ってしまったら、しっかリ決断できるんでしょうか。
 すぅっと涙が頬を濁す。

 「私はね、ネイ卜にそういう壁は無さそうだな、とか思ってる」



 え?




 「私もそうだけど、壁があるから遠く感じるんだよね。みんなと仲良くするのに、そんな区別要らないと思ってる」

 部屋で立ち尽くしていると、ギィ、と扉の開く音がした。
 「わー!!勝手に色々ごめん!声大きかったよね、気を付ける!」
 「___卜ワさんは、優しいんですね」




 風村のみんな、ワタクシを育ててくれてありがとう。
 ワタクシは明日、風村を旅立ちます。
 絶対、帰って来ますから、そのときは笑顔で迎えてください。