ダーク・ファンタジー小説

Re: やよいの過去屋 ( No.1 )
日時: 2024/01/22 18:02
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

この町には、ある小さなお店が立っていた。
そのお店の名前は『過去屋』で店長は カラスである。

なぜ私が『過去屋』でバイトすることになったのか?
それは一匹のカラスのせいである──




その『ノアール』という名前のカラスは あたしの目の前に 突然あらわれた。
どうやら戦争で死亡したカラスで 幽霊らしいが あたしはまだ信じてない。
だって、幽霊ならあたしが見えるはずないからだ。
あたしが霊感など持っていないことは自分がよくわかっている。

そのカラスに「僕の過去を見てほしい」と言われた。
けれど、あたしは過去が見えるわけではなかった。
その事をカラスに話すと「『過去屋』でバイトしろ」と言われた。
お客さんの過去を見れば、過去を見ることに慣れるから。
そうして慣れたら僕の過去を見てほしいと。


あたしは逆らうことができなかった。
なぜなら、その目が少し悲しそうな目をしていたからだ。

それに、理由は分からないが助けてあげたいと思ったから。
「過去を知りたい」と言うことは、何か理由があるはずだから。
あたしが協力できることがあるなら……と、あたしは少しカラスに感情を奪われていた。

Re: やよいの過去屋 ( No.2 )
日時: 2024/01/24 09:49
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

──そして今に至る。

今日からオープンする『過去屋』は、オンボロのお店で一人部屋くらいの狭さだった。
その部屋の真ん中に机と椅子を置いて、その椅子にあたしが座っている。
……以下にもあたしが店長みたいだった。
そのあたしの肩にカラスが座る。そしてあたしの相席にはお客さんが座るのだが…。

「お客さん、ほんまに来るん?」
肩に乗っかっているカラスをじーっと見た。
だがカラスはずっと入口の方を丸い目で見つめるだけだった。
あたしはゆっくりもとの姿勢にもどり、入口の方を見つめた。

すると、お店のドアノブが曲がった。
その瞬間あたしは あっ としてすぐに姿勢を整えた。

息を大きく吸って「おいでやす!!」とお客さんに言った。
そのお客さんはなんと、女性警察官だった。

あたしは慌てて肩にいるカラスの方を見た。
「警察来てもうたやん!!」と小さな声でカラスに言うと、その女性警察官は
豪快に笑っていた。

「違う違う!お客さんだよー!」
その女性の一言で、笑顔が本物だとわかった。

「ほんなら、契約書お願い致します!」
あたしは契約書を渡した。
その契約書には名前の記入欄と『過去、取り消しますか?』の一文だけだった。

するとその契約書を見た女性警察官はツバを飲み込んだ。
「…本当に取り消せるんですね。」

「いや、そんなわけ…、」
そうだった… 過去を消すのは『私』だった。

すると女性警察官は契約書の記入欄に『山田やまだ』とインクの薄いペンで描いた。


「では山田さん、あなたの消したい『過去』は──
 なんですか?」

Re: やよいの過去屋 ( No.3 )
日時: 2025/01/19 07:55
名前: とーりょ (ID: Fjgqd/RD)

「7年前…、人を殺した。…私の過去を消してください。」
あたしはビックリしたが、決して表情には出さなかった。
なぜなら『絶対に感情を表情に出すな』とカラスに言われたからだ。

あたしはシンとした顔で言った。
「…ほな、山田さんの過去を見させていただきますね。」

あたしはゆっくり目をつぶった。
カラスの言われた通りにすればきっと……。




そしてゆっくり目を開けた。
すると見えたのは夢のようにぼやけた山田さんの『過去』だった。






その過去の山田さんはまだ中学生くらいの年齢だった。
山田さんのいる 部屋は酒のビン、タバコ、割れた食器などが散らかっていた。
「汚い」という言葉で終わらせられない景色だった。

山田さんはすみっこに体操座りで顔をうつぶせにしていた。
髪型はくしゃくしゃで、服もシャツ一枚だった。

そこに酒で酔っているであろう男が帰ってきた。
その男は山田さんがいる方を目を細めてじーっと見た。
「ぬぉーい!なんでバイト行ってねーんだぁ!?父ちゃん、悲しいぞぉ!?」

すると山田さんは顔をあげて、ゆっくり立ち上がった。
そして、その手にはナイフを持っていた。


男はビックリした顔で、一歩後ろに下がった。
「…おい、お前正気なのか。」

山田さんは男と目を逸らさず、ゆっくり男の方へと歩いた。
「ずーっと泣きたかった!!!!」
泣きじゃくった声でそう叫んだ。

そうしてナイフをゆっくり男の顔に突き刺した。
何度も。何度も。



人間の目玉が落ちた。
過去が現実のように見えた。


「私は、コイツと何のつながりもない…他人だ。」









「っぅうううああああ!!!うあああ!!」
あたしは自分のうなり声で目が覚めた。

すると目の前には男の子の子供がいた。
その男の子は、全く見覚えがなく、部屋の窓から夕日をずっと見ていた。
その目はどこかで見たことあるような目だった。

男の子は振り返って言った。
「君、もうバイトやめていいよ。」
その冷たさにあたしは少し腹が立った。
「なんでや!なんで子供に言われなあかんの!!」

その男の子は夕日が味方しているように夕日で照らされていた。
「わからないのか?これはお前のためでもあるんだぞ。」
その言葉で、なんとなくこの男の子が『ノアール』であることに気がついた。

Re: やよいの過去屋 ( No.4 )
日時: 2024/02/10 09:04
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

「残念だけど、君はクビってわけだ。」
空気が冷たく、外からはカラスの鳴き声がカァカァと聞こえた。

「あたし、『過去』が見えたんやで…?なんでクビなん!!」
そう言うと、ノアールは少しビックリした顔であたしの顔を見てきた。
「君は、…続けたいのか?」

その質問にあたしはすぐに返事を返した。
「続けたい!…せめて山田さんの件を片付けてクビにしてください!」
あたしはノアールに土下座して頼んだ。

あたしはずっと頭を床にくっつけて土下座していると、ノアールの小さな手があたしの頭に
軽く乗っかった。
「……花倉はなくらは、僕のこと気持ち悪いって思わないのか?」
そのノアールの弱々しい声に、あたしは頭を上げた。
すると目の前にはノアールが座っていて、じーっとあたしの目を見つめていた。

ノアールは手をパーカーのポケットに突っ込んで、少し照れた顔で下を向いた。
「前も言ったけど、僕『幽霊』だからさ。」

あたしはなんとなく察した。
ノアールは何回かあたしのような人に声をかけては『気持ち悪い』と言われ続けたこと。
そう考えると、少しかわいそうに思えてきた。

「…じゃあ、なんであたしはノアールのこと見えるん?」

「僕が花倉はなくらには見えるように魔法のようなものを使っているだけ。」
あたしは自分の事を『花倉』と呼び捨てされていることが気にはなったが、
あたしは呼び捨てなどされたことがなかったので少し嬉しかった。

「けど、この人間の子供の姿になれば他の人間からも自動的に僕のことが見えるようになる。」
あたしはノアールの説明でちょっとだけ理解した。


そして、その時にはもう夕日が見えなくなっており、周りも真っ暗になっていることに気がついた。
あたしが夜になっていることに気付き外を見ていると、ノアールも後ろを向いて外を見た。
「…ほな、あたしそろそろ帰るからっ!」

リュックサックを背負って、帰る用意をしていると…
「待って。」
…ノアールに引き止められてしまった。

Re: やよいの過去屋 ( No.5 )
日時: 2024/02/11 16:22
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

そしてなぜか今、ノアールがあたしの家にいる…。


あたしの住んでいる家には家族4人が住んでいて、父と母、そして兄がいる。
本当はもう一人、長男がいるのだが高校生でグレてそれ以来 会っていない。
家族全員の電話番号も消されて、おそらくあちらも電話番号を変えている。
今、どこにいるのかも分からないが成人済みなので心配はいらないであろう…。


ノアールは家族全員と一緒に食事することになった。
お母さんが得意料理とするから揚げをみんなで囲んで『いただきます』をした。

そして最初に喋り出したのは兄だった。
「でも、やよいが友達連れて来るなんて幼稚園の頃 以来じゃね?」
兄はご飯を食べながら、ペチャクチャと喋っていた。

だがノアールは遠慮しているのか、箸すら持とうとしなかった。
そんなノアールに、母は「いいのよ、食べて!」と箸を持たせた。
ノアールは慣れない様子で箸を持ち、から揚げをつかもうとしたが……

箸が思うようにならず、から揚げがテーブルにコロンと落ちてしまった。
そのから揚げを兄が箸でつかんで食べて、ノアールに『ヒヒー!』と笑顔で笑った。
「母さん、俺が小さい頃に使ってたフォーク、なかったっけ?」

そうするとお父さんが食器棚からフォークの束を取り出した。

その時、あたしは思ってしまった。
『こんなに暖かい家族なのに、なぜ長男が出て行ってしまったのか』…と。
だがその話は絶対にあたしの口から出せるような台詞じゃなかった。


食事が終わり、あたしはお風呂に入ろうとしていた。
すると、兄とノアールが一緒にテレビゲームをしていた。

「おりゃおりゃおりゃ~~!!」
「手加減くらいしてよ~!」
「年下だからって…、いやぁーだねっ!」

ノアールも兄のおかげでこの家には馴染めてしまっていた。
…けど、多分ノアールの方が大分 年上だろうけど。

Re: やよいの過去屋 ( No.6 )
日時: 2024/02/24 18:24
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

「…はぁ?!ノアールがこの家に住むことになったぁ?!」
つい叫んでしまった、けれど流石にあたしもビックリした。
お風呂から出て来たらいきなり、そう兄から言われたからだ。

「コラ、ご近所さんに迷惑だ。」
こんな時に限ってお父さんは冷静になる。

「だ、だってさぁ!!」
するとお母さんが鼻水を垂らしながら泣き出した。
「っうう…、あのれぇ、っぅう、この子…、両親に捨てられたんだってぇ?
 やよぃいっ!なんれ、早く言ってくれはぁかったのぉ!!っぅうう…」

うわー。あのカラス絶対にお母さんに上手いこと演技しやがったなー。

兄の後ろにはノアールがいて、兄のズボンを甘えるように片手で握っていた。
あたしは少しイライラしながらノアールをあたしの部屋に引っ張り、連れて行った。
あたしはドアをドン!と閉めてノアールをじーっと細い目で見た。

「…『家に住みたい』ってノアールが言い出したん?」
あたしがノアールにそう聞くと、ノアールは目を逸らした。

「…でも、親がいないってのは本当だろ。」
…まぁ、確かに。

「……へぇー?兄が気に入ったんや。」
そう言うとノアールの様子は一瞬で変わり、顔が真っ赤になっていた。
パーカーのポケットに手を突っ込み、目がぐるぐる泳いでいた。


「ち、違う! だ・か・ら、僕がこの家に住めば花倉はなくらもバイトが成功しやすいだろうし…、
それに…」
ノアールは少し肩を下ろして大きく息を吸ってまた喋り出した。

「……それになんとなく、僕は君に似た誰かと いつか会ったことがあるような気がした…。
花倉はなくらの少し大阪弁な喋り方…、」
ノアールは手をギュッと握っていた。

「分かぁとるって、ノアールの過去、いつか見てあげる。」
そうして騒がしい夜が過ぎていった。





「ほら、もう7時。僕は先に行ってるから。」
あたしはノアールに起こされ、むーっと起きた。
あたしは目をこすりながら着替えて、階段を降りてリビングに行った。

リビングにはもうみんな揃っており、朝ごはんはパン一枚と牛乳だった。
いつもとは変わらないご飯だったが…、いつもと変わっていることはノアールがいることだ。

「ご馳走様でした。」
お皿をキッチンにおいて、部屋に戻りリュックサックを背負った。


「あれ、出かけんの?」
兄がひょこっと顔を出してあたしに聞いた。

「ノアールと約束してる用事があるんや。」
「へぇー、…なぁ、あいつって何歳いくつなんだ?」

確かにノアールは見た目は子供だが、戦争の時代のカラスだ。
幽霊だとしても、多分800歳くらいじゃないのか…?
でも流石に『ノアールは幽霊だから年齢なんて分からない』と本当の事を言えない。

「ノアール待たせてん、悪いけどまた今度な。」
そう言ってあたしは靴を履いて、鏡で身だしなみを整えた。
外で待っているノアールに「早く」と言われて少し駆け足で「ごめん」と言った。

これからあたし達が行く場所は────
『交番』である。

Re: やよいの過去屋 ( No.7 )
日時: 2025/01/19 08:09
名前: とーりょ (ID: Fjgqd/RD)

これからあたし達が行く交番には、この前 依頼を受けた『山田』さんがいる。
あたしは昔、よく迷子になり毎回その交番に行っていたので交番までの道のりは把握していた。


「…ずっと花倉はなくらに聞きたいことがあった。」

えぇ?今?今そんな深刻な話する??

いきなりノアールが喋り出したので、お互い立ち止まってしまった。
ノアールは黒い目を光らせ、じっとやよいを見ていた。

「なんで、花倉は微妙な大阪弁っぽい喋り方なんだ…?」
「…え??そんな事なん?」
あたしはてっきり、『あの事』を聞かれたのかと思った。
…いや、ノアールには『あの事』をまだ言ってないし、知られてはない。大丈夫だ。

「…お前にとっては『そんな事』かもしれないが、あまりにも不自然すぎる。
お前は産まれも育ちも石川県、両親だって石川県生まれだ。昨日も今日も、家族の中で
お前みたいな特殊な喋り方をする奴はいなかった。なぜ、お前だけ…?」

…確かにそうだった。いつかはノアールにはバレてしまうかもしれない…。
ノアールは鋭い…鋭すぎる。
それをあたしは笑いながらごまかした。

「…うーん、なんでやろうなぁ!あたしも分からんわぁ!!ははは…」
あたしはノアールに遊ばれている気がして、あたしからもノアールに質問した。

「…ほな、あたしからも質問しせてもらう。
 どうやってお客さんから過去を消すつもりなん…?」
これは本当に気になっていた。あたしにそんな力はない。
過去が見られたのもマグレだ。


「んなの、できるわけねぇーだろ。
 …花倉はただ過去を見れるだけでもすごい優秀なんだ。」

「うん!それは知ってる!!」
あたしは、ニカーっと笑った。

「だから、見えた過去についてお客に話す…
 そうすればお客は花倉を信用するだろうから、そこで過去を消さない方向にお前が話を進めればいい。」

…あれ?これって……詐欺!?

「…ほないけど、契約書の『過去、取り消しますか?』はどうなん?これや詐欺やで?!」
あたしは冷汗をかいていた。

「なに言ってんだ、それはただ『過去、取り消しますか?』って聞いてるだけだよ。
 …大丈夫、俺だって努力しておくから。」

その言葉に、あたしは少し信用してしまった。

Re: やよいの過去屋 ( No.8 )
日時: 2024/03/12 17:42
名前: とーりょ (ID: /30Ji5nR)

そして、あたし達は交番についたのであった。

あたしとノアールは、大きな交番の入口からそーっと入り、「すみませぇ~ん…」と弱々しい声で
交番へ入った。すると、交番には若い男性がビクッとしてあたし達と目が合った。
ただ一人、Tシャツを着た若い男性がいただけで、山田さんのいる気配はなかった。

「…やあ、何か用事かい?僕、今日用事があるから今から帰る予定なんだよね…。
用事なら早めに済ませたいんだけどー…」

あたしはノアールの方を見ても、目すら合わせてくれなかったので慌てた。
山田さんが交番にいなかった場合の事はノープランだったからだ。

「ぅ、あああの……、、」
何も考えず喋り出したのをノアールは察して「コンビニと間違えました」と冷静に言った。
流石にコンビニと交番は間違えないだろうと思いながら、その場をすぐに去ろうと入口まで
ノアールと横並びになって歩いた。
と、その時ノアールはスッと後ろを振り向いて、若い男性の目を睨んだ。
その睨むノアールの目は恐ろしかった。

「…あの、伝えておいてほしいんですけど。」
ノアールは目を逸らすことなく男を睨みながらそう言った。

男は足を一歩ゆっくり前に出し、右ポケットに手をつっこんだ。
するとノアールは男の目を強く見続けながら前へ一歩ずつ歩いた。
「『そんなことして楽しいのか?』って、伝えてほしいんですよ。」

あたしは訳がわからないまま、ノアールと男の距離が近づくだけだった。
「…誰に伝えておけばいい?」
その瞬間、男は右ポケットでずっと握っていたであろうカッターナイフをノアールの首に突きつけた。
あたしはビックリして、カッターナイフの先を見ていただけだった。

ノアールは全く顔色も変えず、喋り続けるだけだった。
「…さぁ?君が一番分かってるようで分かりきってない人じゃないかな。」

男はノアールの話を聞いて、カッターナイフの刃をのばした。
ノアールの首から血が流れはじめた。

「素敵な応えをありがとう。」
そう言いながら男はカッターナイフを強く握った。

その時。


あたしの手から血が流れはじめた。
気付けばあたしは男の目の前にいて、ノアールに突きつけたカッターナイフの刃の部分を
手で握っていた。この時は流石にノアールもビックリした顔であたしを見てきた。
その時にやっとノアールとあたしは目が合い、ほんの少しの間に不思議な空気が流れた。

あたしは両手で刃をおさえ、血が流れていたが絶対に離さなかった。


なぜなら、あたしにこの手を離す理由が無かったから、それが理由だ。

Re: やよいの過去屋 ( No.9 )
日時: 2025/01/19 08:21
名前: とーりょ (ID: Fjgqd/RD)

男は、あたしの手から血が流れているのを見て大笑いした。

「なんだよ、友情ごっこ?どうせ『自分はどうなってもいいから助けなきゃ』とか思ってんだろ、
気持ちわりいんだよ」

そう言って男は上を向いて大きく口を開けて笑った。
確かに、もうあたしの手は感覚がわからなくなっていた。けれどなぜか『痛い』。
…ていうか、なんでこんな事になっているんだろう?ノアールが男を怒らせたのがはじまり?
じゃあ、なんでノアールは男を怒らせた?

あたしはノアールの方を見た。


ノアールの手は震えていた。


「おい!!そこの男!!!!そんなことをして何も良いことはないでしょう!!!
いますぐ離れなさい。」

急に大きな女性の声が聞こえた。
山田さんだった。
外から山田さんが走ってきてくれたのだ。


山田さんが「離れろ」と言っても男が離れる気配がなかったので山田さんはすぐに銃を取り出し、
取り出した瞬間─

男の髪がスパッと少しきれてしまった。
なんと、山田さんの撃った弾が男の髪に当たり、よく漫画で見るようなかっこいいシーンのように
なったのだった。男はビックリして、自分のきれた髪をしゃがんで手でかき集めて、男はまるでいま
止まったかのように体がピクリとも動かなかった。

山田さんは、あたしの肩を叩いて「遅くなってごめん、もう大丈夫」とつぶやいてノアールの方へ
行き、ノアールの手を握った。

「君の行動に間違ったことは一つもないと私は思う。…状況はなんとなく分かっているから、説明は
しなくてもいいよ。よく頑張ったね。」
そう優しく微笑んで、ノアールの手を離そうとした時、ノアールは山田さんの腕を掴んだ。

「…違う。頑張ったのは僕じゃない、花倉はなくらだから。」
そう言ってノアールは山田さんの腕をはなした。



あたしは、ふと男から言われた言葉を思い出した。
「どうせ『自分はどうなってもいいから助けなきゃ』とか思ってんだろ、気持ちわりいんだよ」
そう言われたっけ。

男は山田さんに、手に手錠をかけられ、パトカーまでゆっくり歩いていた。
男の表情はもう死んでいるような顔で、下を向いていた。

「まってくれへんかな。」
つい、あたしは男の近くまで走ってしまっていた。

そして男と目が合い、あたしは少し息切れしていたが息を整わせて、スーッと大きく息を吸った。
「あたし、思ってるで。『自分はどうなってもいいから助けなきゃ』って思ってる。
…いや、『自分はどうなってもいい』までは流石に言い切れんわなぁ、怖い。…でも、『助けなきゃ』って
気持ちが一番大切だとあたしは思う。」

これがあたしの『こたえ』だ。