ダーク・ファンタジー小説

Re: やよいの過去屋 ( No.2 )
日時: 2024/01/24 09:49
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

──そして今に至る。

今日からオープンする『過去屋』は、オンボロのお店で一人部屋くらいの狭さだった。
その部屋の真ん中に机と椅子を置いて、その椅子にあたしが座っている。
……以下にもあたしが店長みたいだった。
そのあたしの肩にカラスが座る。そしてあたしの相席にはお客さんが座るのだが…。

「お客さん、ほんまに来るん?」
肩に乗っかっているカラスをじーっと見た。
だがカラスはずっと入口の方を丸い目で見つめるだけだった。
あたしはゆっくりもとの姿勢にもどり、入口の方を見つめた。

すると、お店のドアノブが曲がった。
その瞬間あたしは あっ としてすぐに姿勢を整えた。

息を大きく吸って「おいでやす!!」とお客さんに言った。
そのお客さんはなんと、女性警察官だった。

あたしは慌てて肩にいるカラスの方を見た。
「警察来てもうたやん!!」と小さな声でカラスに言うと、その女性警察官は
豪快に笑っていた。

「違う違う!お客さんだよー!」
その女性の一言で、笑顔が本物だとわかった。

「ほんなら、契約書お願い致します!」
あたしは契約書を渡した。
その契約書には名前の記入欄と『過去、取り消しますか?』の一文だけだった。

するとその契約書を見た女性警察官はツバを飲み込んだ。
「…本当に取り消せるんですね。」

「いや、そんなわけ…、」
そうだった… 過去を消すのは『私』だった。

すると女性警察官は契約書の記入欄に『山田やまだ』とインクの薄いペンで描いた。


「では山田さん、あなたの消したい『過去』は──
 なんですか?」

Re: やよいの過去屋 ( No.3 )
日時: 2025/01/19 07:55
名前: とーりょ (ID: Fjgqd/RD)

「7年前…、人を殺した。…私の過去を消してください。」
あたしはビックリしたが、決して表情には出さなかった。
なぜなら『絶対に感情を表情に出すな』とカラスに言われたからだ。

あたしはシンとした顔で言った。
「…ほな、山田さんの過去を見させていただきますね。」

あたしはゆっくり目をつぶった。
カラスの言われた通りにすればきっと……。




そしてゆっくり目を開けた。
すると見えたのは夢のようにぼやけた山田さんの『過去』だった。






その過去の山田さんはまだ中学生くらいの年齢だった。
山田さんのいる 部屋は酒のビン、タバコ、割れた食器などが散らかっていた。
「汚い」という言葉で終わらせられない景色だった。

山田さんはすみっこに体操座りで顔をうつぶせにしていた。
髪型はくしゃくしゃで、服もシャツ一枚だった。

そこに酒で酔っているであろう男が帰ってきた。
その男は山田さんがいる方を目を細めてじーっと見た。
「ぬぉーい!なんでバイト行ってねーんだぁ!?父ちゃん、悲しいぞぉ!?」

すると山田さんは顔をあげて、ゆっくり立ち上がった。
そして、その手にはナイフを持っていた。


男はビックリした顔で、一歩後ろに下がった。
「…おい、お前正気なのか。」

山田さんは男と目を逸らさず、ゆっくり男の方へと歩いた。
「ずーっと泣きたかった!!!!」
泣きじゃくった声でそう叫んだ。

そうしてナイフをゆっくり男の顔に突き刺した。
何度も。何度も。



人間の目玉が落ちた。
過去が現実のように見えた。


「私は、コイツと何のつながりもない…他人だ。」









「っぅうううああああ!!!うあああ!!」
あたしは自分のうなり声で目が覚めた。

すると目の前には男の子の子供がいた。
その男の子は、全く見覚えがなく、部屋の窓から夕日をずっと見ていた。
その目はどこかで見たことあるような目だった。

男の子は振り返って言った。
「君、もうバイトやめていいよ。」
その冷たさにあたしは少し腹が立った。
「なんでや!なんで子供に言われなあかんの!!」

その男の子は夕日が味方しているように夕日で照らされていた。
「わからないのか?これはお前のためでもあるんだぞ。」
その言葉で、なんとなくこの男の子が『ノアール』であることに気がついた。