ダーク・ファンタジー小説

Re: やよいの過去屋 ( No.5 )
日時: 2024/02/11 16:22
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

そしてなぜか今、ノアールがあたしの家にいる…。


あたしの住んでいる家には家族4人が住んでいて、父と母、そして兄がいる。
本当はもう一人、長男がいるのだが高校生でグレてそれ以来 会っていない。
家族全員の電話番号も消されて、おそらくあちらも電話番号を変えている。
今、どこにいるのかも分からないが成人済みなので心配はいらないであろう…。


ノアールは家族全員と一緒に食事することになった。
お母さんが得意料理とするから揚げをみんなで囲んで『いただきます』をした。

そして最初に喋り出したのは兄だった。
「でも、やよいが友達連れて来るなんて幼稚園の頃 以来じゃね?」
兄はご飯を食べながら、ペチャクチャと喋っていた。

だがノアールは遠慮しているのか、箸すら持とうとしなかった。
そんなノアールに、母は「いいのよ、食べて!」と箸を持たせた。
ノアールは慣れない様子で箸を持ち、から揚げをつかもうとしたが……

箸が思うようにならず、から揚げがテーブルにコロンと落ちてしまった。
そのから揚げを兄が箸でつかんで食べて、ノアールに『ヒヒー!』と笑顔で笑った。
「母さん、俺が小さい頃に使ってたフォーク、なかったっけ?」

そうするとお父さんが食器棚からフォークの束を取り出した。

その時、あたしは思ってしまった。
『こんなに暖かい家族なのに、なぜ長男が出て行ってしまったのか』…と。
だがその話は絶対にあたしの口から出せるような台詞じゃなかった。


食事が終わり、あたしはお風呂に入ろうとしていた。
すると、兄とノアールが一緒にテレビゲームをしていた。

「おりゃおりゃおりゃ~~!!」
「手加減くらいしてよ~!」
「年下だからって…、いやぁーだねっ!」

ノアールも兄のおかげでこの家には馴染めてしまっていた。
…けど、多分ノアールの方が大分 年上だろうけど。

Re: やよいの過去屋 ( No.6 )
日時: 2024/02/24 18:24
名前: とーりょ (ID: J0KoWDkF)

「…はぁ?!ノアールがこの家に住むことになったぁ?!」
つい叫んでしまった、けれど流石にあたしもビックリした。
お風呂から出て来たらいきなり、そう兄から言われたからだ。

「コラ、ご近所さんに迷惑だ。」
こんな時に限ってお父さんは冷静になる。

「だ、だってさぁ!!」
するとお母さんが鼻水を垂らしながら泣き出した。
「っうう…、あのれぇ、っぅう、この子…、両親に捨てられたんだってぇ?
 やよぃいっ!なんれ、早く言ってくれはぁかったのぉ!!っぅうう…」

うわー。あのカラス絶対にお母さんに上手いこと演技しやがったなー。

兄の後ろにはノアールがいて、兄のズボンを甘えるように片手で握っていた。
あたしは少しイライラしながらノアールをあたしの部屋に引っ張り、連れて行った。
あたしはドアをドン!と閉めてノアールをじーっと細い目で見た。

「…『家に住みたい』ってノアールが言い出したん?」
あたしがノアールにそう聞くと、ノアールは目を逸らした。

「…でも、親がいないってのは本当だろ。」
…まぁ、確かに。

「……へぇー?兄が気に入ったんや。」
そう言うとノアールの様子は一瞬で変わり、顔が真っ赤になっていた。
パーカーのポケットに手を突っ込み、目がぐるぐる泳いでいた。


「ち、違う! だ・か・ら、僕がこの家に住めば花倉はなくらもバイトが成功しやすいだろうし…、
それに…」
ノアールは少し肩を下ろして大きく息を吸ってまた喋り出した。

「……それになんとなく、僕は君に似た誰かと いつか会ったことがあるような気がした…。
花倉はなくらの少し大阪弁な喋り方…、」
ノアールは手をギュッと握っていた。

「分かぁとるって、ノアールの過去、いつか見てあげる。」
そうして騒がしい夜が過ぎていった。





「ほら、もう7時。僕は先に行ってるから。」
あたしはノアールに起こされ、むーっと起きた。
あたしは目をこすりながら着替えて、階段を降りてリビングに行った。

リビングにはもうみんな揃っており、朝ごはんはパン一枚と牛乳だった。
いつもとは変わらないご飯だったが…、いつもと変わっていることはノアールがいることだ。

「ご馳走様でした。」
お皿をキッチンにおいて、部屋に戻りリュックサックを背負った。


「あれ、出かけんの?」
兄がひょこっと顔を出してあたしに聞いた。

「ノアールと約束してる用事があるんや。」
「へぇー、…なぁ、あいつって何歳いくつなんだ?」

確かにノアールは見た目は子供だが、戦争の時代のカラスだ。
幽霊だとしても、多分800歳くらいじゃないのか…?
でも流石に『ノアールは幽霊だから年齢なんて分からない』と本当の事を言えない。

「ノアール待たせてん、悪いけどまた今度な。」
そう言ってあたしは靴を履いて、鏡で身だしなみを整えた。
外で待っているノアールに「早く」と言われて少し駆け足で「ごめん」と言った。

これからあたし達が行く場所は────
『交番』である。