ダーク・ファンタジー小説
- Re: やよいの過去屋 ( No.8 )
- 日時: 2024/03/12 17:42
- 名前: とーりょ (ID: /30Ji5nR)
そして、あたし達は交番についたのであった。
あたしとノアールは、大きな交番の入口からそーっと入り、「すみませぇ~ん…」と弱々しい声で
交番へ入った。すると、交番には若い男性がビクッとしてあたし達と目が合った。
ただ一人、Tシャツを着た若い男性がいただけで、山田さんのいる気配はなかった。
「…やあ、何か用事かい?僕、今日用事があるから今から帰る予定なんだよね…。
用事なら早めに済ませたいんだけどー…」
あたしはノアールの方を見ても、目すら合わせてくれなかったので慌てた。
山田さんが交番にいなかった場合の事はノープランだったからだ。
「ぅ、あああの……、、」
何も考えず喋り出したのをノアールは察して「コンビニと間違えました」と冷静に言った。
流石にコンビニと交番は間違えないだろうと思いながら、その場をすぐに去ろうと入口まで
ノアールと横並びになって歩いた。
と、その時ノアールはスッと後ろを振り向いて、若い男性の目を睨んだ。
その睨むノアールの目は恐ろしかった。
「…あの、伝えておいてほしいんですけど。」
ノアールは目を逸らすことなく男を睨みながらそう言った。
男は足を一歩ゆっくり前に出し、右ポケットに手をつっこんだ。
するとノアールは男の目を強く見続けながら前へ一歩ずつ歩いた。
「『そんなことして楽しいのか?』って、伝えてほしいんですよ。」
あたしは訳がわからないまま、ノアールと男の距離が近づくだけだった。
「…誰に伝えておけばいい?」
その瞬間、男は右ポケットでずっと握っていたであろうカッターナイフをノアールの首に突きつけた。
あたしはビックリして、カッターナイフの先を見ていただけだった。
ノアールは全く顔色も変えず、喋り続けるだけだった。
「…さぁ?君が一番分かってるようで分かりきってない人じゃないかな。」
男はノアールの話を聞いて、カッターナイフの刃をのばした。
ノアールの首から血が流れはじめた。
「素敵な応えをありがとう。」
そう言いながら男はカッターナイフを強く握った。
その時。
あたしの手から血が流れはじめた。
気付けばあたしは男の目の前にいて、ノアールに突きつけたカッターナイフの刃の部分を
手で握っていた。この時は流石にノアールもビックリした顔であたしを見てきた。
その時にやっとノアールとあたしは目が合い、ほんの少しの間に不思議な空気が流れた。
あたしは両手で刃をおさえ、血が流れていたが絶対に離さなかった。
なぜなら、あたしにこの手を離す理由が無かったから、それが理由だ。
- Re: やよいの過去屋 ( No.9 )
- 日時: 2025/01/19 08:21
- 名前: とーりょ (ID: Fjgqd/RD)
男は、あたしの手から血が流れているのを見て大笑いした。
「なんだよ、友情ごっこ?どうせ『自分はどうなってもいいから助けなきゃ』とか思ってんだろ、
気持ちわりいんだよ」
そう言って男は上を向いて大きく口を開けて笑った。
確かに、もうあたしの手は感覚がわからなくなっていた。けれどなぜか『痛い』。
…ていうか、なんでこんな事になっているんだろう?ノアールが男を怒らせたのがはじまり?
じゃあ、なんでノアールは男を怒らせた?
あたしはノアールの方を見た。
ノアールの手は震えていた。
「おい!!そこの男!!!!そんなことをして何も良いことはないでしょう!!!
いますぐ離れなさい。」
急に大きな女性の声が聞こえた。
山田さんだった。
外から山田さんが走ってきてくれたのだ。
山田さんが「離れろ」と言っても男が離れる気配がなかったので山田さんはすぐに銃を取り出し、
取り出した瞬間─
男の髪がスパッと少しきれてしまった。
なんと、山田さんの撃った弾が男の髪に当たり、よく漫画で見るようなかっこいいシーンのように
なったのだった。男はビックリして、自分のきれた髪をしゃがんで手でかき集めて、男はまるで時が
止まったかのように体がピクリとも動かなかった。
山田さんは、あたしの肩を叩いて「遅くなってごめん、もう大丈夫」とつぶやいてノアールの方へ
行き、ノアールの手を握った。
「君の行動に間違ったことは一つもないと私は思う。…状況はなんとなく分かっているから、説明は
しなくてもいいよ。よく頑張ったね。」
そう優しく微笑んで、ノアールの手を離そうとした時、ノアールは山田さんの腕を掴んだ。
「…違う。頑張ったのは僕じゃない、花倉だから。」
そう言ってノアールは山田さんの腕をはなした。
あたしは、ふと男から言われた言葉を思い出した。
「どうせ『自分はどうなってもいいから助けなきゃ』とか思ってんだろ、気持ちわりいんだよ」
そう言われたっけ。
男は山田さんに、手に手錠をかけられ、パトカーまでゆっくり歩いていた。
男の表情はもう死んでいるような顔で、下を向いていた。
「まってくれへんかな。」
つい、あたしは男の近くまで走ってしまっていた。
そして男と目が合い、あたしは少し息切れしていたが息を整わせて、スーッと大きく息を吸った。
「あたし、思ってるで。『自分はどうなってもいいから助けなきゃ』って思ってる。
…いや、『自分はどうなってもいい』までは流石に言い切れんわなぁ、怖い。…でも、『助けなきゃ』って
気持ちが一番大切だとあたしは思う。」
これがあたしの『こたえ』だ。