ダーク・ファンタジー小説

Re: 神人ーカミビトー ( No.1 )
日時: 2024/03/20 21:02
名前: Nal (ID: JU/PNwY3)

白夜皇国、アートマン帝国、パラミティ王国、聖エンブリオ公国。
四大国と呼ばれ、ドリシュタを支配している。始まりは十年前。
白夜皇国の皇族に生まれた一人の少女は皇女と呼ばれるべき女性に
なるはずだった。ほとんど鎖国状態に近いこの国には黒い噂が
流れている。


「カノン」

祖国から追放された少女カノン・ラプラスはパラミティ王国の侯爵家である
ラプラス夫妻に養子として引き取られた。二人は中々子が出来ないことに
悩んでいた。海の上を彷徨っていた幼いカノンを見つけ、引き取った国の王は
長く自分を支えてくれた夫妻の恩返しの為に行き場の無いカノンを養子にしては
どうかと提案したらしい。

「今日は国王が貴方に会いたいと言っていました」
「どうして?」

マーガレット・ラプラス夫人、彼女はカノンを実の娘のように愛している。
カノンも彼女を本当の母親のように思っている。それはマーガレットの夫である
ニコラス・ラプラスも同じだ。彼の事もまた父親のように思っている。

「先代国王が逝去してから彼の息子であるヴィクトル・パラミティ様が即位
したの。彼はまだ貴方の事を知らないのよ」
「そうだっけ?」

立ち上がろうとしたマーガレットだったが不意に顔を歪ませる。

「ハァ…年は取りたくないよ」
「無理しないでください、お母さん。大丈夫。一人でも城まで
行けるから」
「そ、そうかい?気を付けるんだよ」

腰の痛みを堪えながら、マーガレットはカノンを見送った。用意された
青いワンピースの裾が大きく揺れる。揺れがピタリと止まると彼女は振り返り、
手を振った。
聞けば、城まで向かう馬車が既に決まった場所に待機しているらしい。
やはり侯爵家で長らく国王を支えて来た家の人間だからだろうか。

「城へ向かう馬車、ですよね?」
「あ、えぇ、そうですよ。さっさと乗ってください」

馬車の車夫はカノンに対して蔑みの眼を向けていた。態度にも出ているが仕事。
馬車が動き出した。中にも人がいた。女性だ。長い青緑色の髪の女性は城で働く
騎士らしい。

「お初にお目にかかります。パラミティ王国騎士、テレサ・レインウォーターと
申します」
「女性騎士、珍しいですね」
「えぇ。騎士団に属する騎士の多くが男性だから。私のような女性の騎士は凄く
少ないわ。車夫、少し態度が厳しかったでしょ?彼に代わって謝罪させて」

カノンに対する態度には理由がある。彼女が異国の、それも白夜皇国の人間だから
嫌っているらしい。先代国王が全て説明をして納得させたはずだが、内心では納得
出来ていない者も多かった。新たに王になったヴィクトルはカノンの出自に理解を
示しており、彼女がこの国に居座ることを許容している。

「大丈夫よ。彼がいる限り、手を出されたりはしない。私も、貴方の事を信じてる。
一目見れば分かるわ。貴方はとても優しい人だってね」
「私も同じです。テレサさんは素敵な女性だと思います」
「褒めても何も出ないわよ、カノンちゃん」

城まで向かう道中、人が多い街道を抜けるまで長いようで短かった。
何も起こらないだろうか。テレサと共に城の中へ入った。謁見の間に揃って
案内された。そこに待ち構えていた青年こそがヴィクトル・パラミティ。
雷のような金色の髪の青年。隻眼は王でありながら戦場を駆けた証だろう。

「そう畏まるな、お前たち。改めて名乗ろう。俺がパラミティ王国の王
ヴィクトル・パラミティ。初めましてだな、カノン・ラプラス。俺の事は
ヴィクトルと呼べ」
「えぇ!?そんな…呼べません」
「なら、これは命令だ。俺とお前は対等な友、俺もお前をカノンと呼ぶ。だから
お前も俺をヴィクトルと呼べ」

型破りな王だ。威厳があるのだろうか。テレサは姉、母のような立場で二人のやり取りを
そっと見守っていた。