ダーク・ファンタジー小説
- Re: 神人ーカミビトー ( No.2 )
- 日時: 2024/03/22 22:19
- 名前: Nal (ID: JU/PNwY3)
神を信じて来たパラミティ王国が神への反逆をする。
理由は何だろうか。神の力、神力は血筋や才能に左右され誰でも手に入れることが
出来る代物ではないというのが一般常識。誰が最初に定義したのだろうか。
間違いに気付いた王は語り継ぐ。我々が信じる神こそが偽神であり、彼らによって
我々大地に住む人は生まれてから死ぬまで支配されている…と。
「お前を保護した理由は簡単。お前はもう持ってるよ、だけど白夜皇国はその原石を
捨てたってだけ」
その日は妙に静かだった。三人だけしか部屋にいないからかもしれないが、それ以上の
何かがある気がしてならない。カノンはその大きな期待に応えられるとは到底思えない。
「テレサ」
「はい?」
ヴィクトル・パラミティはテレサ・レインウォーターに鍵を投げ渡す。先ほどまで二人の
やり取りを、姉、母のような気持ちで聞いていたので驚いた。銀色、狼を模したような
紋章がある。王の部屋への鍵を渡されたのだ。
「もうすぐ俺が仕事でね。お前に渡したい物がある。青い箱だ」
彼は必死に二人を謁見の間から追い払う。その必死さに困惑しつつ、それだけ王として
重要な仕事が控えているのだろうと自分たちを納得させ部屋に向かった。その後、再び
カノンたちが謁見の間に来るまで誰も王の前に姿を現さなかった。密室での完全犯罪は
いとも簡単に成し得るのだ。
ヴィクトルの部屋、王の自室にしては質素な場所だった。
「そう言う人よ。私も、誰も彼の本心なんて分からないわ。でも彼は王に相応しい人だから」
「人の趣味嗜好に、文句はない」
趣味嗜好は人それぞれである事さえ理解できればいいだろう。鍵を開け、中に入る。
扉も質素なら部屋も質素だった。誰もが想像する豪華なベッドもシャンデリアも無い。
小ぶりな机と椅子、そしてシングルベッド。机の上に置かれている青い箱。持ってみると
大きく、重量のあるものでは無いらしい。軽く振っても音がしない。
「梱包材で包まれているのかも。開けてみましょう」
リボンを丁寧に解く。白いリボンを外し、箱を開く。音がしないわけだ。梱包材で包まれた
二丁拳銃。
「なんで?」
プレゼントに武器なんて聞いたことがない。
「貰っておけば良いんじゃないかしら。文句は、王様に…ね?」
「そうですね。よし、文句言いに行くぞー!」
二丁拳銃には名前が刻まれていた。輝銃ディオスクロイ、左手にカストロ、右手にポルクス、
地球と言われていた時代に語られていた双神の名前を持つ…神器と呼べる代物。
左は青に金、右は青に銀。
「随分な挨拶だな、目的は何かな」
「分かり切っているだろう、ゼウス。貴様が保護する者を貰いに来た」
ヴィクトルは臨戦態勢をとることもなく、玉座にて足を組み見下ろす。その目は慈愛に満ちる
優しい王の眼では無い。冷酷に、敵を見下す目。
「民を愛するのが王ならば、民の為に死ぬことも厭わない…違うか?」
「お前が王を語るとはな―」
誰も証明できない。証言できない。そして政治家たちの中には白夜皇国の人間を受け入れたことに
今も反対する者がいる。彼らが高らかに他へ告げた。
「奴らは狡猾にも皇女を利用し、我が王の暗殺を実行した。やはり白夜皇国の人間を
信頼することは出来ない。彼女を処刑するべきだ」
彼らの話は当人にも知れ渡っている。テレサも懸命に彼女の無実を証言するも
一介の騎士では彼らの権力に太刀打ちできなかった。断罪されることが決定しているが
形だけでもと言うことで弁明の機会が与えられた。そこでテレサの繰り言にはなったが
その時の事を説明した。
「口だけは達者だ。そうしてラプラス夫妻をも騙していたんだな?お前は魔女だ。
お前を野放しにしておけば、国が亡ぶ」
「―待て」
カイ・セルダ、王国騎士団総団長を務める男。彼も強い発言力を有している。だから
全員が口を閉じた。
「カノン・ラプラス。俺から条件を出させて貰う。一年だ」
「一年?」
「一年で犯人を見つけ、ここに連れて来い。生死は問わないが、必ず証拠を持って来い。
期間中、お前を大罪人として国に晒すことはしない。どうだ?お前が潔白であることを
証明する方法はこれだけだろう」
冷たい碧眼はカノンに何を感じているのだろうか。腹の底が見えない。ヴィクトルよりも
読み取りにくい。だが彼は今回の事件に半信半疑。現場には血だまりと首を吊ったであろう
痕跡があった。天井からぶら下がる綱。死体は無い。意味深に残された血塗れの剣と現場。
そして、白夜皇国のシンボルともいえる太陽が何者かの血液で生々しく床に描かれていた。
まるで誰もがカノンを怪しむように仕向けるかの如く。誰も話がうますぎると考えない。
兎に角、手柄が欲しい。自分の地位を確固たるものにする材料を欲している。そんな政治家に
よる国の支配を憂えている。
「分かりました。一年間、その間に必ず犯人を見つけて連れて来ましょう」
「貴公らも同意して貰うぞ。一年は我慢することだ」
カイは政治家たちに釘を刺した。監視役と言う形でテレサは彼女に同行することになった。
騎士団長の指示らしい。彼から話を聞いている。彼はあの場では冷徹な男、その役割を
演じていたが先ほどの条件から遠回しにカノンが助かる方法を提示していた。
「暴走するのは目に見えていたからね。気が楽になったと思わない?僅かだけど、
生きる方法があるのだから」
「…勿論。私は私が潔白だと信じてる。事実だから。それを真実にするだけ。そもそも
死体が見つかって無いのに死んだと断定するのは間違いだと思う。戦闘が起こって出来た
血だまりの可能性も否定できない。暗殺ではなく、誘拐を目的にしていたかもしれないし…」
「可能性は山ほどある?なら簡単ね。全て立証するわよ、カノン」