ダーク・ファンタジー小説
- Re: 神人ーカミビトー ( No.3 )
- 日時: 2024/03/23 15:10
- 名前: Nal (ID: JU/PNwY3)
目撃者のいない完全密室、完全犯罪。そこに果たして犯人への糸口は残っているのだろうか。
「その犯人に私が仕立て上げられている…たまたま私が直前まで王様と会話をしていたから?」
「だとしたら、私も充分犯行が可能よ。床に描かれた太陽。太陽は白夜皇国の国旗にも
使われるほど神聖視されているわ。つまり犯行は白夜皇国の人間であると推測できる。
犯人を姿を誰も見ていない以上、例の国に関係していて、尚且つ城に足を運んでいた
カノン」
自然と犯人と思しき人間が見えて来る。もしかして城にいる人間全てが容疑者なのではないか?
テレサも同じ考えに至った。国の関係者でありながら、城に全く姿を見せない者がいる。
先代の王、カノンをこの国に迎え入れると決めた人物を一番近くで支えていた側近。
宰相プリムローズ、宰相でありながら国王の執事でもあった人物。
「その前に、マーガレットさんたちに長く家を空けることを伝えておきたい」
「そうね。分かりました、待っていますね」
一度家に戻り、事情を説明しておかなければ二人を心配させてしまう。血の繋がりは無くても
二人は実の両親と変わらない愛を注いでくれた人だ。家に戻ってくるとその騒ぎを何処かから
聞いていたらしい。
「…分かったわ。私たちはずっと待ってるから、必ず無事に帰って来なさい。忘れないで、
私たちはこれまでもこれからも貴方の親よ」
「ありがとう」
困惑することなく、二人はこの事実を受け止め、彼女のこれからの事も快く受け入れる。
家を出て行くまで僅か五分だけ。カノンが家を離れた後、一匹の烏がマーガレットたちの
もとへやって来た。
「貴方も苦労するわね。これから頼むわよ」
語りかけても烏は人の言葉を話さない。
宰相プリムローズの隠居先をなんと現騎士団長カイ・セルダが知っていた。彼はプリムローズと
顔見知り、実際に手合わせまでしたことがあるという。その実力は非常に高い。先代王より
前から国に忠誠を誓っていたという噂があるが彼の容姿は若者だったという。外見年齢に関して
聞いても彼は軽く受け流したり、はぐらかしたりして真相は分からない。でも忘れてはならない。
ドリシュタ、人の世界。人とは人間だけではなく大地に住む亜人をも包括する。全ての種族は
平等であるという意味だ。
「もしかしたら長寿な種族か、その混血かもしれないね」
「私も思ったわ。出会ったら、真相を聞いてみましょう。彼が隠居しているのは王国でも
特殊な地域、温かな太陽の光が巨木によって遮られた夜に包まれる街ニュクステラ」
そこには不思議な言い伝えがある。曰く樹齢千年の木があるらしい。その根元に眠る魂が
ニュクステラを夜空の街にしている、祝福を与えているのだとか。幻想的で、そして恐ろしい
言い伝えだ。
王冠、栄光、基礎、勝利、理解、美、慈愛、知恵、峻厳、王国。
その名を持つ者が主戦力として属している組織があるらしい。あくまで噂のまま
留まっている。彼らの動向は不明。今の神へ叛逆する者を確実に消すために、そして神が
望む大地にするために手足となって動く。彼らは必ずカノンたちと敵対する。
「これはこれは、勝利様。お早い御帰りです事」
美を担当する女は淫らにも彼にすり寄る。ティファレト、彼女はネツァクの名を持つ男の
身体に指を添わせる。
「あぁ、やはり貴方に適う者がいるはずもございません。魔を使わずとも貴方は完全無敵だと
言うのに神は貴方に力を授けたのです。何人たりとも貴方と対等になるなど不可能」
「そう悲しい事を言うな。いるだろう、対等な人間が」
ある意味で危険な男だ。ネツァクなどと言う名前は本名では無い。だが彼も間違いなくカノンの
前に立ちはだかるだろう。別の部屋からは怒号が轟いた。
「逃げられただと!?」
「あの男…ヴィクトルは狡猾な男でした。使者が全員返り討ちにされたんです」
「そんなことはどうでも良い!どんな手を使ってでも行方を探せ!私が致命傷を与えた、
遠くに逃げたり、動き回ったり出来ないはずだ」
迂闊だった。見誤った。だが彼らの狙い通りに一部、事が進んでいる。だが誤算が幾つもある。
白夜皇国から追放された娘は処刑されることなく、とある人間の提案が通ったことで
一年は誰からも手出しされない状態。
彼らの苛立ちをネツァクは聞き耳を立てていた。
十人のうち一人がパラミティ王国で、国王殺害未遂を起こした張本人だ。未遂、国では
死んだと信じる輩がいるものの、実行者としては未遂で終わってしまった。
「よっ、レグルス」
レグルスと呼ばれた青年はネツァクとは異なり小柄で童顔だ。だがネツァクとは双子である。
似ていないが…。性格も似ていない。
「カイさんには感謝しなくては。彼がいなければ、そのまま彼女は問答無用で処刑されていました。
真犯人を探すために行動を開始したようです」
「そうかい。元々アイツは気に入らねえ。もっと引っ掻き回してやろうかな」
「それは、どちらを」
分かり切っているがレグルスは敢えて尋ねた。獣のようだ、と誰もがネツァクに対して評価する。
レグルスはその評価を肯定する。彼は獣だ、果たして彼を飼い慣らす獣遣いはいるのだろうか。
「あ、でも全部を流すなよ」
「分かっていますよ。兄さん」