ダーク・ファンタジー小説

Re: 死ぬ前にすべきこと。 変わり身編  ( No.85 )
日時: 2012/12/06 16:43
名前: 朱雀 (ID: P/sxtNFs)



ゆらゆらと、影が動く。

それは、でこぼこに歪な形をしたまま、私を囲む。笑い声が聞こえる。
ははははははははははっはははははっは、これは罰なんだよ、お前が悪いんだよ、ははははははははははははははは。

誰もが、口をにぃいっと不気味なほど、ゆがませながら笑ってる。
息が吸えない、心臓が血液を流すことすら忘れてしまったかのように、頭がくらくらして。


目の前がかすむ。

ああ、違う。

頭がくらくらするから、目の前がこんなにぼやけてるんじゃなくて。
私の瞳から、洪水しそうなほどたまった涙で、見えないんだ。




とん。



誰かが後ろで、私に一歩近づいてくる。


アイツだ、くる、来る、来る、来る、来る、来る、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、手が震えてしまっても、足が震えてしまっても、私はやらなくちゃならないんだ。



これは、復讐だ。


私は、私は、こいつに殺されるなんて虫唾が走るぐらい、嫌で嫌でたまらない。
私は、私のために私が好きだったあの、幸せな日常を手に入れるんだ。
こいつなんかに、こいつなんかにッ!
壊されたくないッ! 壊させない、みんなだって仕方なくアイツに従ってるだけなんだから、私が、私が、正気に戻してあげるんだ。

とん。とん。

一定のテンポを刻みながら、近づいてくるアイツの足音が私の鼓膜を反射して、五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い!



自然な動作で、私は上着のポケットに手を入れる。


ひやり、と冷たいものが私の神経に伝わる。





みんな。みんな、騙されてるだけなんだ。


なら、なら、私は……ワタシハ。


「澤田ちゃん、こんばんわぁー? 元気してたぁ?」



目の前にアイツが立つ。私の伏せた瞳を覗こうと、私の髪の毛を鷲掴みして、覗き込んでくる。



そのとき、はっきりと確認した。

そうだ、こいつは人じゃない。



だって、悪魔のように歪む口とは正反対に目は笑っていない。
死んでいる。どこも見ていない。真っ暗。


こんな奴、人じゃないんだ。生きてない、存在すら不必要。

そうだ、こいつは、人じゃない。


人じゃないないなら、私が、退治してあげなくちゃ。


「さぁさぁ、みなさんお集まりいただいてありがとう。

 今宵は、最高のショーを用意していますよ? 楽しみにしていてねぇ?」


私の髪をつかんだまま、みんなに言う。


アイツがそう口にすると、アイツの笑いにこたえるように、くすくすくすくすくすくすくすくすくすくす。あはははははっはははははははっはははっははは、笑い声が同調する。




あはははは。


私も思わず笑ってしまいそうになった。

おかしくて、何も知らないのだと、おかしくて。


ざまあ見ろ。ざまあ見ろ。


私は、お前みたいに馬鹿の一つ覚えのようにごめんなさいごめんなさい許してください、私がわるかったんです。許してください許してくださいなんて言わないんだよ?



お前は、私がお前の奴隷になったとでも思っているの?







……………………殺して、あげる。





一瞬、私の髪をつかんでいたアイツの力が緩む。




もう、あとは計画通りだった。




掴まれていた手を逆につかみ返す、きつく。それと同時に私はポケットに突っ込んでいた手をそれと、一緒に引き出して——


















「もうやめてぇええええええええええええ!!」


















手が、止まった。