ダーク・ファンタジー小説

Re: 死ぬ前にすべきこと。 変わり身編  ( No.89 )
日時: 2012/12/09 15:05
名前: 朱雀 (ID: P/sxtNFs)



 はあ、はあ、はあ、私たちは走る。
 真っ暗な街灯さえついていない道なき道を確かに握った温かい手の平の温度を感じながら、ただひたすら走っていた。


「ねえ、前田ッ! この先に隠れる場所なんて、あるのッ?」


 手を引かれた視線の先に、髪を乱して私たちの手を必死に引いて走る、前田の背中が何度も揺れる。真っ暗で、何も見えなくて、でも、私は嬉しくて視界がにじんでしまうんだ。

 ああ、こういうものなんだって。やっぱり、アイツなんかを信じるんじゃなくて、私を信じ助けてくれたんだって。嬉しくて、すべてを許してしまいそうで。


「うん、この先に誰も使ってない小屋があったッ! そこへ隠れれば、今日のうちは王には見つかりはしないッ! あとは考えて動こう」


 助かったんだ。肩の力が抜ける。ささ、ささ、と草を抜ける音が私を掠める。今までアイツが私を奴隷にして、殴ったり、蹴ったり、血のにじむような日々を送っていた時。

些細な音さえ、私は怖くて、アイツが近くで私を見ているんじゃないかって、びくびく馬鹿みたいに震えていたのに。


ああ、なんだ。私には友達が居た。こんなピンチになっても助けてくれる、大切な大切な友達が!

歓喜に頭がくらくらして、私は隣に視線をやった。


 あまりにも変わり果てた形相で、自慢の白い肌さえ、黒くくすんでこの何日かで骨と皮になってしまったかのように、やせ細った藤木が、私と同じように前田に手を引かれているのが、目に入る。


 ……ごめん、藤木。私はあんたを踏み台にして、自分だけ助かろうとしてしまった。謝って許されることじゃない。分かってる。だけど、今は協力しよう。

 もし、この苦境を乗り越えて、アイツが無事に私たちの目に届かないところに言ったら、私は貴方に何度だって謝るよ。ごめんなさいって、声がかすれてしまっても、何度も、何度も。藤木が許してくれるまで。


 足がぬかるんで、うまく動かない。もしかしたら、後ろですでにアイツらが鬼の形相で、私たちを殺しにかかるためにいるんじゃないかと思ったら、全身の毛穴から汗が拭きでる。

 7
 もう、走れない、もう何分走ってる? ——馬鹿を言うな。

 私は、まだ走る。

 
 あのピンチの中で、助けてくれた前田に報いるために。