ダーク・ファンタジー小説

Re: 片翼の紅い天使 ( No.3 )
日時: 2011/09/06 19:17
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第001話 出会いは偶然

 「…あ、あづぃぃ…」
 
 もう秋だというのに、夏を引きずる熱さのせいで思わず少年は声を上げた。
 蒸し暑い日が続く中、少年は今日も学校に残されて、この間のテストの再テストまで受けてきた。
 その為体はぐだーっというように疲れきっているようにも見え、恐らく本人は疲れていた。

 「よっ!!夕方だっつぅーのに相変わらず青春してねぇーなぁー?なぁチビ——————」
 「うっせぇよ!!つうかさっき会ったばっかだろーがっ!!」

 背後からのスキンシップに思わず突っ込みを入れる少年。
 手に提げているカバンには“高瀬龍紀”と記名されている。

 「なぁたっちゃんや、いいか、我等が通う奈川高等学校の男子の平均身長は172せん——————ぐぼぁッ!!?」

 言い終わる前に、彼の腹には渾身の一撃。

 「黙りやがれ、そして爆ぜろ」
 「……ぐ…っ、顔は可愛いくせして言葉遣いが荒——————ぎょぼばぁッ!!?」

 またも言い終わる前に、高瀬は彼の顎を拳で押し上げる。
 見事ノックアウトされた少年————、澤上仁はバリバリ高速違反の赤髪を地面にべっとりとつける。
 そして割れた眼鏡をふいっと指の先端で持ち上げ、

 「——————、流石身長158㎝の我親友だなっ!!」

 と勝手に感心した後、再び顔を地面に打ち付けた。




 「さ、更に熱いぃ……これも全部澤上のせいだ…」

 肌に焼け付く熱さを我慢しながらも、寮へと入って行く高瀬。
 高瀬の学校、奈川高校は寮制な為生徒は皆この寮で過ごす。
 然し特例で“能力”を持った生徒達は此処とは違う学生寮で過ごす事になっている。
 能力を持っていない高瀬は普通寮で毎日を過ごしている…筈だったのだが。
 
 「……あれ?」

 高瀬はエレベーターで自分の階まで来ると、そう素っ頓狂な声を上げた。
 思わず目をごしごしする、そして足早に自分の部屋の前へと向かい、その場で止まる。
 高瀬はすっとしゃがんで、扉の前に落ちた“何か”を拾い上げた。

 
 「——————————————羽?」

 
 見つけたのは、“紅い羽”


 募金キャンペーンか何かかなぁ、と思っていた高瀬は気にせずそのまま扉を開く。
 2LDKで、入ってすぐ右隣にトイレ、そしてその奥にお風呂場。
 左側は物入れ何かに使われている。 
 奥に進むと右隣に台所があり、左隣には自分の部屋。
 1つ1つ確認していった高瀬は最後にリビングに目をやって——————————。


 はぁ?、と再び声を上げた。


 一瞬冷や汗が自分の頬を伝った。
 そしてその汗がぽたりと床に落ちると同時。



 高瀬龍紀は、フードを深く被った女の子を発見する。
 


 寝っ転がっている。
 薄い黄土色のマントを羽織って、可愛らしい寝息をたてて。
 頭に被ったフードから覗く朱色の髪がふわりと窓から入ってくる風に靡く。
 
 思わず高瀬の時は静止した。

 
 (え……ちょ…え?こ、これ如何いう状況……?えーとえーっと……俺は確かに自分の家に入って………えーっと…)

 
 混乱を始めた高瀬の脳内は最早止まらない。
 帰ってくる最中、立ち寄ったコンビニの袋を思わず落とす。
 
 「あ、あ…のー……?」

 恐る恐る顔を覗く。然し可愛らしい顔を見て敏速に顔を引っ込める。
 そしてふいに、背中が何故か不自然に盛り上がっている事に気が付いた。
 悪いなとは思っていても気になる自分の好奇心に負け、高瀬はゆっくりとマントを持ち上げた。

 
 「————————————ッ!!?」

 
 自分で呼吸ができない程のものを見てしまった事を、心から後悔した。






 あれから何時間という時が経つ。 
 既に真っ暗で、夜の8時をまわったところだろう。

 高瀬はふっと起き上がる。

 「あ、あの……」

 そして背後から聞こえてきた小さな声に反応した。
 どうやらそのまま寝てしまったらしい。自分の体が床にぺったりとくっついていた。
 
 「き、気がついたのか…っ」
 
 少女はにっこりと笑うと、ふわっとフードを外す。
 朱色の髪が全体的に見え、閉ざされていた金色の両目まではっきりと見えた。
 
 「すみません…貴方様に迷惑をかけてしまって…」
 「良いんだよ、ちょ…ちょっとびびったけど…」
 「私は此処には留まれないので…これで失礼しますね」

 少女はまた太陽を思わせる笑顔で微笑む。
 然し己は気付いていない。
 高瀬が少し、焦っている事に。

 
 「ね……ねぇっ」

 
 高瀬は思わず呼びとめた。
 その声にふっと、少女は振り返る。



 「な、何…で————————」

  
 喉が詰まり、声も詰まったのに。

 高瀬は、手に汗を滾らせて…少女の顔と向き合った。




 「——————————————羽っぽいのが、生えてんの?」




 これが少年と少女の出会い。

 これが、運命の歯車が回り始めた正にその瞬間だった事は、

 今は誰も知らなかった。