ダーク・ファンタジー小説

Re: 片翼の紅い天使 ( No.6 )
日時: 2011/10/04 23:00
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)

第004話 天の旅人、セルフィーネ 

 「殊琉ーっ!!」

 学校も終わった丁度その頃、部活無所属の高瀬は幼馴染の名を呼んで手を大きく振った。 
 自分の名前を呼ばれた神乃殊琉は、ふいっと振り向く。

 「龍紀?」
 「お前もこっちだろ、一緒に帰ろーぜっ」
 「別に良いけど…あんた、そんな奴だっけ?」 
 「はぁ?」
 「…普通は嫌がるんだけど」

 と、ぶつぶつと何かを言っていた神乃を横目でちらっと見る高瀬。
 然し自分より身長が高い事を再確認しただけで、肩を落とすように落ち込んでいた。

 
 今時の芸能人とか次のテストの事とか、普通の高校生らしい会話を繰り広げていくうちに寮へと到着した2人。
 無能力者の寮の隣には、ちょっと豪華になった能力者の寮が並んでいる。
 高瀬は殊琉に別れを告げると、いつもの調子でてくてくと寮へ入っていく。
 相変わらず小せぇな、と思っていた神乃も1歩踏み出したところで。


 (————————————!!?)

 
 頭に、“何か”が過ぎった。

 それが恐怖心なのか唯の気のせいだったのか。
 唯1度…大きく心臓が高鳴った事に嘘はない。
 もう1度高瀬の寮の方を見つめ…そして。

 (嫌な予感が——————————した)

 勢いよく踏み込んで、走り出した。

 
 
 
 
 「あいつ……大丈夫かなぁ」

 昨日出会った赤髪の少女の事を思い出し、いざ扉へと手を掛ける高瀬。
 ぎぃ…という錆びた音を鳴らして部屋に入った————その時。


 
 
 「——————————遅かったねぇー?“無能力”のたーかせくん?」


 

 聞き慣れない声が、自分の耳を過ぎった。


 「やっだなぁー、そんな顔して見ないでよー……、別に君に危害は加えないかーらぁーっ」

 
 甘いような、それでいて恐怖感の感じる、嫌な声。
 高瀬は頬に冷たい汗を感じて、ごくりと喉元を鳴らした。
 
 「ボクはティルマっていうんだぁ〜、宜しくね?高瀬君っ」
 
 「…っな……なんだよ、い、い意味分かんねぇーよ!!!!」

 少女であろうその人物の唐突な登場に、高瀬は必死になって声を絞った。
 金髪の髪は短く、横の髪がまるで猫を思わせるように跳ねている。
 瞳は透き通った海のように深い蒼色で、呑み込まれそうなほど綺麗な輝きを誇っている。
 更に背中には純白の羽、頭上には金色の輪が浮かんでいる。
 天使のようにも見える…歳は自分よりは2つ3つ下、といったところだろうか。

 「ボクはねぇー、こいつを回収しに来ただけだから…、安心していいーよっ」
 「……こ、いつ…?」

 ボク、という一人称だが明らかに少女の顔をした天使のようなティルマは、足元へ視線を送る。
 つられて高瀬も下を見る。
 然しそこにいたのは……あの紅の少女だった。

 「お、お…ぃ……おい————————!!!」 
 「……?知り合いなのー?」 
 「離せよ!!!そいつは俺の大事な————————!!!!」

 と、高瀬が言い終わるその前に、
 金髪の少女はふっと口元を歪めて笑った。

 「“大事な”なぁーに?出会って間もない奴をまさか友達とか言わないよねぇーっ!?」
 「……っ!!?」
 「こいつはボクらが処分する。君には関係ないでしょ?」

 くすくすと、まるで嘲笑うように微笑むティルマ。
 “君には関係ない”
 たったその一言で片付けられるのが嫌で…高瀬は。


 
 「……————————関係なく、ねぇーよ」


 小さくそう、呟いた。


 「…ボクらの事、何も知らないのに関係なくない?それって可笑しいんじゃないのかなぁ?」

 「お前……“天族”とかいう奴なんじゃねぇーのか?」

 「————————!!!?」

 高瀬は怒りに満ちた表情でそう言い放つ。
 その台詞に驚愕の表情をつくり上げたティルマは、先程とは違う嫌悪に塗れた顔を作り出す。

 「…何で知ってんの?」
 「そいつから聞いた……まさかお前、そのせるなんちゃらって集団なんじゃねぇーのかよ?」
 「………」

 一度黙り込んだティルマは、はぁっと呆れた溜息を吐き出す。

 「そうだよ、正解。……ボクは【天の旅人】(セルフィーネ)の1人、ティルマ・アーチェインさ」
 「……でも…天族は人間に姿を見られちゃいけないんじゃ……!?」
 「例外だよ。ボクにはこの状況みたいな不具合の際に人間界に天族が紛れ込んでても捕まえる義務があるから」

 然し高瀬は思い出す。
 紅の少女が言っていた、金色の輪の話を。

 「でもその輪…ちゃんとついてるんじゃ……!?」
 「だぁかぁらー……細工してあるんだよ、天の旅人達のだけ、ね」
 「………」

 ふふん、と自慢げに笑ってみせたがその話題もこれまで。
 紅の少女は未だ捕まったままで、高瀬は一瞬たりともその少女から目を離してはない。

 「…こいつは存在自体が最早“罪”。罰せなければならない存在なんだよ」
 「…!?ふざけんな!!!そんなの理不尽だろうが!!!!」
 「理不尽?そんなのこっちの世界じゃ通じないんだよ。……じゃーね、高瀬君っ」
 「……!!!」
 「今起きた事、他の奴等に話されると困るから……君も殺して良い?」

 
 無邪気な少女の声からでは想像もつかない、“殺す”という単語。
 今ここで聞いた事、知った事。その全てを口外されると困ると言ったティルマは、すっと手を伸ばした。
 高瀬に向かって、真っ直ぐに。




 「天滅の章——————————」



 無能力の高瀬は、一瞬の避ける余地も与えられず。


 
 「——————————光砲!!!!」

 
 
 光り輝く砲撃が、高瀬を見事捉え————————衝突する。





 

 ————————————筈だった。






 「……——————————何!!?」


 
 家中に煙が立ち込めて、視界も歪んで前が見えない。
 そんな状況の中、高瀬はちゃんと生きていた。
 傷一つつけずに、唯腰を抜かしたまま床に崩れている。

 そう、目の前に見えたのは。

 
 
 「おーっと?この地上で何をやらかしてくれたのかしら?天の旅人さん?」


 灰色と黄色のタータンチェックの、スカートだけだった。


 「あれあれー……なんで此処に【地の旅人】(オルフィーネ)がいるのかなぁーっ!!!」

 神乃殊琉。
 毛先が黒く染まっていて、頭のてっぺんに向かっていくうちに茶色へ変わる不思議な髪色。
 その額に白淵の眼鏡を乗せて、右手を前へ突き出している。
 
 「こ、と……る…?」

 いきなりの幼馴染の登場をうまく理解できない高瀬。
 そんな男を放っておいて、ティルマと神乃は睨み合う。

 まるで因縁の中の思わせるような…そんな視線を交し合っていた。