ダーク・ファンタジー小説
- Re: 片翼の紅い天使 ( No.9 )
- 日時: 2011/11/13 00:44
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: DxRBq1FF)
第007話 地ノ旅団
無機質な部屋の中。
唯機会音だけが鳴り響くその中に、神乃殊琉はいた。
椅子らしき場所に座り込んで、不機嫌そうな顔つきでじっと空を見つめる。
その姿に、鬼帝水痲は近づいた。
「どうしたの?悩み事?」
「別に…やっぱり嫌いだなって」
「何が?」
「この部屋」
此処は、地の旅人の本拠地、【地ノ旅団】。
鬼帝は主に此処にいて、他メンバーに指示を行っている。
他にも8人全員が集結し、会議を行うのもこの場。
然し全員が集まる、というのは珍しい事だ。
大抵集まるのは4、5人程度だという。
「あ…来たよ〜?」
ウィーン、という扉の音で、似たような背丈の少年少女が現れた。
歳は10、11才程度だろうか。
「只今帰還したのじゃっ」
「……」
少年の方は、元気な声で入ってくる。然し何故か昔の喋り方のような…特徴的な口調をしていた。
隣に並んでいるそっくり顔の少女は無言のまま、且つ無表情のまま入ってきた。
「相変わらずだね〜、元気だったぁー?」
「うむ、水痲殿に迷惑をかけまいと、元気に過ごしてたぞ」
「偉いねーっ、やっぱり御鏡姉弟は心配いらないんだねっ」
御鏡鈴町、御鏡風町。
如何にも現代で使われる事のない名前の双子。
姉の方は薄い黄緑の短髪で、向かって右横に黒いリボンがついている。
弟も同じ髪色で、唯リボンが付いていないだけだ。
姉がリボンを外せば完全に見分けがつかなくなるという。
しかも名前の最初が“鈴”と“風”な為、いつしか“風鈴姉弟”と呼ばれていた。
本人達は多少嫌がっているが、何故か毎回スルー。
「あ、殊琉殿っ。戻っていたのじゃな?」
「…まぁね。あんた達を見るのも久しぶりね」
「そうじゃのう…己等はずっと席を外していたからな、まぁ流石に顔は覚えておるのじゃが」
「…実はね、2人とも」
鬼帝は一度神乃と視線を合わせる。
そしてこくりと頷き合わせると、目の前に広がる大きなディスプレイに目を向けた。
「あの天界で…500年ぶりに魔族が出現したの」
神乃は2人にそう告げると、モニターに映された天界の図と、人間界の図を見つめる。
天界の図、といっても丸く広がっているだけ。流石に中まで細密に調査する事ができない。
その丸の中には“天”と記され、仮の天界の図として扱っている。
「なんじゃと…っ!?あの天界で…!?」
「…魔族」
此処に来て初めて、姉の鈴町が口を動かした。
鈴町はその鋭い眼光でじっとモニターを見つめる。
「それにもう1つ…その魔族はこの人間界にいる」
「人間界に!?」
「処分された訳ではないというの?」
神乃は知っている。
あの紅い髪の毛を持った内気な少女を。
片翼を失って、処分されかけた魔族を。
「あの子…いや、レルカは私の友人の家にいる」
「レルカ?それはその魔族の名という事か?」
「まぁね。その友人の話によると、天界で今の今まで逃げ続け、親やその親の友人と逃げ回っていたらしいの。
でもある日レルカと共に逃げていた2人…親は殺され、親の友人は突如姿を消した。
1人になったら逃げ切れず、レルカは紅い翼の片方を撃ち抜かれ、人間界へ落とされた。
輪も、片翼も失ったレルカは傷だらけで私の友人の家に転がり込んだ…という訳」
慣れた口調で長々と説明すると、神乃は口を閉じる。
そして続ける、昨日の出来事を。
「でも、レルカはこの世界から完全に排除しなければならない存在として…天の旅人が人間界へやってきた」
「天の…旅人が…?」
「私は丁度その近くにいたから、天の旅人を追い返す事ができたの」
「流石殊琉殿っ!!、それで、そのレルカ…と呼ばれる魔族は?」
「完治してないから、多分傷だらけのまま。ま、友人がどうにかしてくれると思うけど」
「…その友人は、能力者なの?」
神乃は再度口を閉じた。
まさかそこを突かれるとは…と一度溜息を零す。
「残念だけど、無能力者」
「なんじゃと!?」
「もう1度敵が襲ってきたら如何するつもり?」
「さぁ?あいつが能力に目覚めない限り…、無駄死にする可能性が高い」
神乃の幼馴染である高瀬龍紀は、能力を持っていない。
そう、唯の凡人が、この天と地の闘いに混ざってしまった…という事になる。
本人はどうにかしようと馬鹿なりに考えているのだが。
「それで?“大将”には話したのか?」
「…まだ。てかあいつ、来ないじゃん」
「そうだよね〜…ホント、忘れた頃に来るもんねぇ〜」
鬼帝はモニターに映っていた映像を消した。
そして和気藹々と語っていた“大将”の話に混ざっていった。
「これ…ですか?」
「…ってうぁぁぁあッ!!?また負けたぁーっ!!」
一方の所、高瀬龍紀の自宅にて。
2人はトランプでババ抜きをしていた。
「トランプ弱いんですね…高瀬君って」
「何でだろうなぁー…賭けとかって苦手なんだよ…」
「分かり易いんじゃないですか?表情とか」
高瀬は頭が痛くなり、バッっとトランプを散らして寝転んだ。
何となく天井を仰いでいると、ガチャリ、とドアの音が鳴る。
「誰だよ…こんな時間に」
高瀬はむくりと起き上がり、頭を掻き乱しながら玄関へ向かう。
ふあぁ…、と一つ大きな欠伸をし、冷たいドアノブに手を掛けた。
少し力を込めてゆっくりと開けた————————、その時。
「——————————、え」
知らない顔と、知らない姿。
高瀬はそのまま“何か”で腹部を貫かれた。
見えたのは、自分の血が噴出した様だけ。
そしてゆっくりと、床に体を打ち付け、血に塗れる。
当人の顔を見る事もなく、一瞬のうちにして。
短い金髪、蒼い眼光。
白い両翼、金色の輪。
明らかなる——————————、天族の姿。
「手間掛かった。直ちに回収及び、処分を行う」
まるで小説に書かれた文のような口調。
然しその口調は機会的で、一切の感情も感じさせない。
この間来たあの天族とそっくりだったが、明らかに目が釣り上がっていて笑ってすらいない。
「た、か……せく…——————————?」
レルカは小さく声を零す。
今の音は、砲撃、又は銃声だった。
レルカは途端に震え出した。
高瀬の事が気になる。然し床に座り込んだ彼女は動けなかった。
そう、分かってしまった。
天族が来たという事が。
途端に、レルカの背中が痛みを走らせる。
撃ち貫かれた筈の片翼の根元が、急な激痛を追い、レルカは体を丸くする。
心も、体も、自分の全身が汗を拭き出し、ガタガタと震えていた。
あの時の恐怖が蘇る。まだ数日も経っていないあの記憶が蘇る。
レルカは金色の瞳に涙をいっぱいに溜めて、ぎゅっと目を瞑り顔を伏せる。
天族は構う事なくリビングに入ってくる。その冷たい表情で、レルカの事を上から見下ろしていた。
でもそれは、生き物を見る目ではない。
この世から処分せねばならない化け物にしか、彼の目には映っていない。
そして少年は——————————————冷たい視線のままに、手を翳した。