ダーク・ファンタジー小説

Re: 片翼の紅い天使 ( No.11 )
日時: 2012/01/06 22:18
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aaUcB1fE)

第009話 覚醒

 「れ…——————————るッ!!?」

 息が詰まるその瞬間、その直前。
 紅い天使は荒く手を振って叫んだ。

 「魔滅の章————————、影砲ッ!!!!!」

 紅い天使、レルカの掌からは見た事のある形をした砲撃が出現する。
 それは灰色をした砲撃で、見事高瀬龍紀の目の前を突き通る。
 天族の光砲を相殺したレルカの技で爆煙が舞い、視界が奪われた。
 天族は咄嗟に避け、煙の中から脱出する。
 距離をとった天族に対し、高瀬とレルカは暫くして、煙が晴れた頃に姿を現した。
  
 「れ…か……、何で此処、に…っ?」
 「だ、大丈夫ですか…?私……どうしても高瀬君を巻き込みたくなくて……っ」
 「てかお前…さっきの…」
 「…あれは魔族が扱える技のようです。…然し私も上手に扱える訳ではないので…あまり使えないのです」

 レルカが先程用いた業は、“魔章”と呼ばれるものだ。
 天の旅人が扱うのが“天章”。地の旅人が扱うのが“地章”となる。
 その2つに対峙した魔章は、魔族のみが扱う事のできる技。
 然しレルカ本人があまり戦闘に慣れていないが為に、戦闘用としては扱えない。
 レルカは今まで、天の旅人から逃れる為に使ってきた。
 決してこの技で勝とうとは思っていなかった。

 「…魔族…出現」
 
 天族がそう呟く。
 高瀬は傷ついた体を持ち上げて、服の汚れを払った。
 レルカはその様子を見て、ゆっくりと口を開く。

 「高瀬君……もう、やめて下さい」

 レルカの細い声が、高瀬の耳に届く。
 一瞬驚いた高瀬は言葉も出ず、レルカは続けた。

 「私はもう…良いんです。…例えこのまま捕まっても犠牲者は私1人……もう、私はそれが良いんです」
 「…!!?、い、良い訳ねぇだろ!!!それってお前が殺されるって事だろ!?良い訳ねぇじゃねぇかよ!!!」
 「高瀬君や他の人を…巻き込みたくないん、です……っ」

 レルカは溢れる涙を堪える事ができず、声を漏らして泣いた。 
 唯、巻き込みたくなかった。
 自分が生まれてきてしまったせいで他の人が犠牲になるならばもう良いと。
 レルカは自身の思いを震わせてそう言った。
 
 「お願いです……天族さん」
 「……」
 「私は連れていっても良い……だから…これ以上高瀬君を傷つけないで下さい…っ!!」

 高瀬は自分の無力さを、更に痛感させられた気分だった。
 弱いから、無力だから、傷つく。
 だからレルカをも傷つけ、殺される道を選んでしまった。
 自分のせいで。

 「やめ、ろよ……、そんなの…何の解決にもならねぇだろ!!!!」
 「…私は……生まれてくる事自体が罪なんですよ…?」
 「っ!!?」
 「産んだ親に代わって罪を償う事は…子供の役目ではないですか……?」

 レルカは微笑んだ。
 苦しすぎる笑顔で。

 「了解した。…直ちに捕獲をし、天界への移動を開始する」

 天族は高瀬に殴られた赤い頬に触れた。
 この場でたった1人、高瀬だけが状況を呑み込めず、唯2人を交互に見据えていた。
 このままで良い訳ない。そんなの自分が1番分かっているくせに。

 「待てよ…っ、まだこっちの話が…!!」
 「本人の承認を得た。最早貴様の意見を聞く必要はない」
 「だって…———ッ!!!」

 レルカは小さく首を横に振る。
 高瀬よりもっと、ずっと、重いものを背負って生きてきた少女。
 その覚悟は例え本人が自分より幼くても、ずっとずっと強かった。
 高校生の高瀬より、もっと幼い少女の筈なのに。
 自分より大きく見えて、強く見えて。

 高瀬は————————————、唯悔しかった。



 
 
 神乃殊琉。

 彼女は自分と同い年で、幼馴染。
 小さい頃からずっと一緒だった。
 然し彼女は自分より強く、凛々しく、大きかった。

 それは何故か。





 「待てよ…俺は——————————————ッ!!!!」


 
 
 背が低くて、
 頭が悪くて、
 女の子にモテなくて、
 序に短気。

 友達だって多くない。
 人望だって厚くない。
 
 何の取り得のない自分。
 何の努力もしない自分。


 


 そんな自分が——————————————、












 ——————————————、嫌いだった。






 「——————————ッ!!?」


 突然の光に、天族は思わず振り向いた。
 然しその光は消え、いるのは先程の無力な少年1人。
 天族が気のせいかともう1度顔を逸らした————————、その時。



 「——————————————【形】!!!」


 
 少年の脳裏に、幾つ物単語が流れ込んできた。
 それは能力者が日々、それを駆使して戦っていたもの。
 そう、“能力”。

 「能力…——————————、まさかこの瞬間に!?」

 機械的な少年の口調が歪む。
 それどころは声を荒げて、高瀬の方へ向き直った。
 
 「あ…れ————————、俺…能力?」

 頭の中で何かが絡まりつつあった高瀬は現状を理解できない。
 然し確信する。それは能力を手にした瞬間だと。
 高瀬が先程叫んだ“形”という言葉は、何と高瀬の右の掌に書かれていた。

 「なんじゃこりゃぁ!!?」 
 
 黒い文字で書かれた“形”という文字。
 そして頭の中で絡まる知識。
 高瀬は深呼吸を繰り返し——————————、手を翳す。


 「け…————————【形】の能力!!」


 その途端、高瀬の周りに浮かんでいた“空気”が、形と成した。
 突然周りの酸素を失った高瀬は1度喉を痞え、けほけほと咳をする。

 「って……、何これぇ!!?」

 そうして見た右手に握られているそれは——————————、白い“剣”。

 「く…空気が形、に…!?」
 「…目標を急遽変更。高瀬龍紀の処分を優先とする」

 天族はレルカを離し、戦闘態勢にうつる。 
 高瀬は白い剣をじろじろと見つめ、そしてしかと握る。
 
 「何だか良く分かんねぇけど——————————、これなら戦える!!!」

 突然にも能力を手にした高瀬。 
 目の前に立ちはだかるのは冷徹無情な天族。
 高瀬はもう1度白い剣を握りなおし————————————いざ、足を蹴り上げて加速する。