ダーク・ファンタジー小説

Re: 片翼の紅い天使 ( No.16 )
日時: 2012/07/14 13:09
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: TDcrpe6v)

第012話 学力テスト

 気が付けば高瀬龍紀は、自分の家のベッドの上だった。
 あの日、神乃殊琉は高瀬を連れて自分達の街へ戻ってきた。
 勿論レルカは、未だ地ノ旅団で預けられたまま。
 あの後、気を失った彼女を保護すると、そう神乃は言っていた。

 「能…力、か……」

 高瀬は自分の掌を見つめる。
 確かにそこには“形”という文字があった、あの時は。
 能力稼動時のみ紋章が浮かび上がるらしい。
 今まで想像もしていなかった展開。 
 能力に憧れ、ずっとずっとこの街で過ごしてきた高瀬にとって、この間の出来事は素晴らしいものに思えた。
 能力者の一員だ、自分ももうバカにされる事はないと。
 そう思っていた。

 「でもまぁ……使い道がいまいち……って、あれ」

 高瀬はひょいと立ち上がり、何気なく時計を見つめる。
 現時刻は7時50分。

 「あ、はははははは…って、俺のバカぁぁぁ————!!!」

 今日が登校日だという事を、忘れていたらしい。




 
 「たっちゃぁーんっ!! どうしたどうした!? まぁた朝からぐったりタイム突入ですかーっ!?」
 「うるせぇ、色々あったんだよ」
 「イロイロ? イロイロって…ま、ままままさか女の子絡み!?」
 「…そうだと言ったら信じるか?」 
 「いや全然」
 「ぶっ殺すぞ変態眼鏡!!」

 朝から騒がしい2人は、いつも通り教室のドアを潜り、自分達の教室に足を踏み入れる。
 確か自分のクラスにいる能力者の数は10人程度だった筈。
 その中の仲間入りを果たした高瀬は、表には出さないが一応舞い上がっていた。
 
 
 「えーと、今度の学力テストの範囲ですが……」

 そうだそうだとクラスメイトが騒ぎ出す。
 1週間後には、学力テストが控えている。
 それは一般高校と変わらない学力テストで、能力開発の高校が一般高校と何が違うかといえば。

 「尚、テスト終了日の次の日は“実技テスト”なので十分気を付けて下さいねー」

 実技テスト。 
 言わば能力のレベルを測る為のテストである。
 非能力者もこれを受ける事になっていて、能力者ではないと診断されたものは一次試験で落第。
 能力者の者は二次試験へ進み、そこで実際に能力を発揮し、測定し、階級を叩き出す。
 高瀬は今まで能力者ではなかったが為に、一次試験落第で他の生徒のテストを見ていた。
 体育館で行われる為、どの生徒も自由に見る事ができる公開式の実技テストなのだ。
 
 「たっちゃーん、テスト勉強したかぁー?」 
 「全くー。つか、俺はやっても無駄だし」
 「そんな事もないと思うけどなぁ…、たっちゃんは隠れ努力家だ
し?」
 「…けっ、天才の台詞ってどうも受け止めらんねぇーんだよなぁ」
 「ひっでーいっ」

 高瀬はぺったんこのバッグを肩に掛けて欠伸をする。
 天才且つ長身で整った顔立ちの澤上仁はその隣で鼻歌を歌っていた。
 そんな時、神乃の姿が2人の目に飛び込んだ。

 「殊琉は良いよなぁー、頭も良いし能力階級もSだし」
 「はぁ?」
 「神乃はお悩みなしってとこかぁー?」
 「あんただって大体そんな感じでしょ……澤上」
 「おっ、そこ言っちゃいますかっ」
 
 天才同士の会話に嫌気のさす高瀬。
 どうせ俺なんて、なんてぼやきながら高瀬は口を尖らせた。
 然し急に、2人の会話に違和感を覚えた。
 そう、何故か神乃と澤上が親しい。

 「あんたしかも今“A級”でしょ? すぐS級に来るかと思うと怖いわー」
 「やっだなぁー、S級ってのは“真の努力家”に与えられる称号みたいなもんだぜー? 無理無理っ」

 笑顔で否定をする澤上。
 然し神乃の言っている事は全て本当な訳で。
 高瀬は、んーっと唸った後、
 
 「あのさ、ちょっと疑問に思ったんだけど」
 「「ん?」」
 「澤上と殊琉って何だか親しくね?」
 
 とか言い出した。
 今まで自分とつるんできたとは言え、澤上と神乃の組み合わせは珍しい。
 それをふと疑問に思った高瀬は純粋にそう聞いたのだが。
 何故か神乃は赤くなり、澤上は腹筋を押さえ込んでいた。

 「な、何だよたっちゃあーん!! 妬いてんの? ねぇ妬いてんのー!?」
 「は…はぁァ!?」
 「ちょ、あ、あんたねぇ…!! そ、そんな事聞かないでよ!! 誤解されるでしょうが!!!」
 「え、ちょ、な、なな何が!?」
 「高瀬君だいたぁ〜ん」
 「ちげぇよ!! てか鬼帝いつからいたァ!?」
 「マジでかっこいいよ、惚れるよたっちゃん!!」
 「惚れるなぁァァ!!!!」

 結局何も分からないまま時が過ぎていく。
 そして1週間後に控えたテストの日程へと迫り行く時間。

 高瀬が嫌うものの中で最も嫌いなお勉強オンリーの日がやってきた。


 
 「…始め!!」

 先生の合図で一斉に薄い紙を表に反す生徒達。
 勢い良くカリカリカリカリ……ッ、というシャープペンシルを走らせる音が鳴る。
 唯一人、高瀬はふらふらとシャーペンの上の方を摘んで揺らしていた。
 然しちらと横目で見れば物凄いスピードで神乃が問題を解いていく。
 何で止まらないの!?と高瀬は内心びくっとしながらも自身の問題用紙に視線を落とした。

 「いやぁ、一問目からきつかったわ…何であんなん出て来るのかしら……」
 「でも、解けたでしょう〜?」
 「一応ね、あんたは?」
 「ばっちり〜っ」

 特徴的な暢気な口調の彼女はピースサインを繰り出しながらへへへと微笑んだ。
 神乃も自信はあるようで、次のテスト勉強をしだす。
 一方高瀬と澤上は勉強もせずにぺらぺらとおしゃべりをしていた。

 「まぁまぁたっちゃんや、人生七転び八起きって言うじゃん?」
 「俺は起き上がった事がない」
 「はっはは〜、それ言っちゃぁお終いだぜー?」
 「言わせたのはてめぇだろうが!!」
 
 ガンッ、という勢いで机を拳で殴る高瀬。
 天才故の余裕を見せる眼鏡変態男子澤上。
 
 この2人だけが唯一教室で騒がしかった。







 「では、明日は実技テストになります。持ち物は特に必要ないのでそのつもりで…」

 ついにきたかきたかと生徒の瞳が煌く。
 実はふいに能力に目覚めている事もあるとかないとか。
 そんな噂もあるのだから、生徒達はペーパーテストが終わった喜びと重ねて頬を緩ませ始めた。
 馬鹿みたい、と一人呟く彼女は曇った空なんかを見つめながら、活気溢れるクラスに溜息を吐いた。