ダーク・ファンタジー小説

白と黒の境界 〜*+序章+*〜 ( No.2 )
日時: 2012/10/15 00:02
名前: 和里 (ID: uwZWw1uD)



〜+∵ 序 ∵+〜



とても広い平原。見渡す限りの緑色。ここには様々な生き物が生息している。人に危害を加える魔物や、逆に人々が生きていくための糧となる生物もいる。
その南側、癖のあるブルーブラックの髪に金色の光沢を宿す少年、ルキアと金色の髪を少々長めに伸ばした少年、ゼアルがいた。2人は、全長1.5メートル程の魔物に何重にも囲まれていた。その魔物は、柔らかそうな白い毛皮に鋭い爪をもち、今にも襲いかかって来そうな勢いで地面の上を小刻みに跳ねている。

「——まったく、次から次ぎへと…」

2人は先程から、魔物を20匹ほど狩っているが、一向に減る気配がないのだ。それはこの地形も関係あるのかもしれない。ここは森、林とは言い難いが木の集合地帯があちこちにある。そのすべてが巣でもおかしくはない。

ゼアルの両手には変わった形の銃が一丁づつ握られている。そして、ルキアの手には、槍が握られている。

「さっさと殺って、さっさと帰ろうぜッ」

言い終わらない内にルキアは魔物の大群の中で槍を振り回し始めた。その槍の直撃を食らった魔物が後方に吹っ飛んだ。
一方ゼアルは、飛びかかろうとする魔物に銃弾を打ち込んでいく。
その間にも魔物の数は増えている。きりがない。

「あーあ、めんどくせー……」

ルキアが小さくぼやいた。その声はゼアルにも届いたようだった。

「まあそういうな。今日の任務は隊長から直々に頼まれたんだからな…」

きちんとこなさないとな、と隊長の顔を思い浮かべる。

「あと何匹だ?」

「目標値は30匹」

「もう終わってんじゃねぇか!」

魔物に攻撃を与えている武器を操ったまま、ルキアはゼアルに問う。
魔物の数は更に増えている。
この数を2人で片付けるのはさすがに無理そうだ。

「一気に片づけちまおうぜ。」

「お前がやれ」

「いやぁ、無理無理…ダメだって」

「………」

ゼアルは僅かな逡巡の後、魔物から遠ざかる為に後ろへ飛び退る。そして、呆れとも億劫ともつかぬ溜め息をこぼし、右手を前に突き出した。
クリスタルが放出する魔導エネルギーを手に集める。研ぎ澄ませて—鋭い刃。 右手に意識を集中させ、けっして長くない魔法スペルを心の中で素早く唱えた。ゼアルの片手が光を帯び始める。

「全てを貫き打ち砕け……」

ふとゼアルの口が開き、なめらかにその言葉を紡ぎ出す。その瞬間ゼアルの突き出された片手の前に、黄色の複雑な立体魔法陣が形成された。それと同時にルキアを中心に魔物を閉じ込めるように、魔法陣が形成された。

雷鋭雨ライア

そう力強く言い放つと、光を帯びた片手と魔法陣がより一層強い光を放った。
次の瞬間、ゼアルの右手の前に展開された魔法陣から細く光り輝く槍のような物が数十本放たれた。それは魔物を囲む魔法陣の上空で下向きに静止した。
ゼアルは右手を握り、人差し指と中指をあわせ、前に突き出した。

「降れ」

そう告げると同時にそろえた指を下へ振った。
その動きにあわせ、上空で静止していた光の槍が魔物一体一体に降り注ぐ。
それは、ドッという音と共に胴体に食い込み、とたん魔物は感電したように跳ねた。

「ギャンッ!」

魔物はそれぞれ断末魔をあげ、地面に伏してゆく。しばらくの沈黙の後、魔物たちに刺さったままの槍が、ピキッ……パリンッ、と音をそれぞれ発し、砕け散った。その欠片は光の粒子となってしばらく空中を漂っていたが、やがて数を減らし、消滅した。

「やっぱ、すげぇな…」

ルキアはすっかり感嘆した様子で言った。しかし、ゼアルは強い光を宿した黄金の瞳に呆れの色を滲ませる。

「お前は授業を真面目に受けろ」

「めんどーなんだよ…」

ルキアは頭を掻きながら、不満そうに言い返す。

「だが、白兵技術は大したもんだよな」

もう周りに魔物の気配は無くなっていた。ここは魔物すらいなければ、草のそよぐ音しか聞こえない静かな場所だ。何もないため、人も寄り付かない。そのために魔物の出現率が高い。

「新しいのが出てこないうちに帰るぞ」

そっけなく告げると、たかい指笛を吹いた。するとどこからか、クエェ—と言う鳴き声が聞こえた。タッタッ、という軽い足音がふたつ、だんだん近づいてくる。そして、ゼアルとルキアの前でぴたりと停止した。それは、黄金のふさふさした毛におおわれた鳥の様な生き物『ミューカ』だ。
2人はそれにまたがると、更に南に向けて走り出した。

「いま国境あたりでごちゃごちゃしてるっのにこーんなとこで無関係なことしてていいのかよ?」

ルキアが後方を走るゼアルに向かって疑問の声を投げた。

「これも立派な仕事だろ。それに、俺らが行ったって、どうせ無駄死にするだけだ。危ないことは人生経験豊富な大人に任しとくのが一番」

俺らまだ子供だからな、と付け加え、からかい加減に言った。

「そうか?軍隊の奴らだって、魔法使える訳じゃねーんだろ?」

「使えない人がほとんどだろうよ。まあ、全滅はしないだろがな」

「だったら俺らの方が戦力になるんじゃねぇか?」

「どうだか……。それに、今の王は好戦的じゃない」

ゼアルは現王にはあまり好印象を持っていない。だが、この国の軍は厳しい試験、訓練を突破してきたエリートで形成されているため、国境を越えられることはないと信じ切っているらしい。

「俺は出されなくてよかったと思ってるけどな…」

そういう彼の目はどこか遠かった。
森の木々たちがどんどん横を過ぎていく。ゼアルはふわふわの黄金にもたれるように前屈みになった。

頬をなでる風が心地よい。
ミューガは更にスピードをあげ、帰路を急いだ。


*∵*


永久の昔から続く戦乱。勝者なき争い。いまだに終わらぬ戦争。それは神結晶クリスタルの望みとすら云われている。
世界には神結晶クリスタルと言われるものが存在する。神結晶は人々に様々な恵みを与える。その代表的なものが魔力。魔力は人が生活していくためにはとても便利なものだ。
だが、神結晶は恵みを与えるかわりに力を要求した、と古い文書に記載されている。力、すなわち戦うことを要求したのだ、と。
戦争が始まったのはとても昔のこと。300年ほど前。何がきっかけだったのかなど、誰も知り得ない。ゆえに、どうすれば終わるかなど知るものはいない。
しかし、こんな言い伝えがある。
『神結晶の御声聴く者。世界を変化させる力を持つ者。世界に多彩な色。蘇る』
だが、それがどう言うことかは、今では分からない。
神結晶が人に与える恵みのひとつ、魔力。その恩恵を特に強く受けたものは魔法を使うことができ、魔導師と呼ばれる。神結晶に選ばれた者、魔導師は戦の際にはことを有利に運べるため、真っ先に最前線に行かされることが多い。
神結晶は魔導師の中から極めて優れた能力の持ち主に、その者の属性に応じて、ある称号を与えた。
その称号を与えられるのは各国7名。その者たちは各国の守護者と呼ばれ、慕われている。
それぞれの属性は、
空。雷。炎。氷。風。幻。地。

守護者の称号を与えられた者は、その属性に由来する強大な力が与えられる。しかし、守護者に選ばれるのは極めて稀な才能を持つ者のみだ。そんな守護者を所有する国は4つ。この大陸、カネルには国が4つある。
白輝の国、シェルアル。青輝の国、シャナイア。黄輝の国、ミュディア。赤輝の国、リオネル。
白輝、青輝、黄輝、赤輝。これは神結晶が人に与えたもの。半径3.5センチほどの半透明な球体の結晶。これひとつで国全体の生活が支えられている。
この輝石と呼ばれるものには不思議な点がある。輝石にはその国の中枢の人間しか触れることができない。それに、その安置場所と言うのが神結晶のとても近くなのだ。
この大陸にもいささか異様な部分がある。4国は、北にリオネル、南にシェルアル、東にミュディア、西にシャナイア。シャナイアはほとんど島国という感じで、大陸と接している部分が少ない。
その4国の境界線は複雑な形でうねった後、大陸の真ん中で綺麗に円を描くような形でどの線もぴたりと止まっている。その部分は上空からだと、巨大な森の中に黒い穴があって、その中に発光体があるようなふうに見えるだろう。その発光体が神結晶だ。国の境界線は周りの森の外周部で途切れている。この森も異様なことに、綺麗な、少しもずれることのない円形なのだから驚きだ。
神結晶は縦長のひし形のような形をしている。最上部から40センチ程に4国の輝石がふわふわと浮いているのだ。
輝石はその土地が自分たちの物であるという証明でもあるので、その輝石が敵の手に渡るということは敗北を意味する。
この輝石をめぐって時の権力者たちは争った。この争いは輝石を全て手中に収める国が現れない限り続くだろう。
これこそがクリスタルの望みなのだとすると、これは、この世界にかせられた宿命か。