ダーク・ファンタジー小説

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.136 )
日時: 2013/06/27 17:01
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: LAVz8bty)

【第十一話 】

パーティーが、始まった。
空は黒くなり、月が私達を照らしている。
そろそろ10時。私は、眠たい目をこすりながら、パーティー会場にいた。
会場には、人が沢山いた。赤いドレス、青いドレス、黒いスーツ……そして、豊かな色彩を包み込んでいる黄色い壁の会場。
隣には、一斗がいた。霞を殺した人間。そして、私は葵。霞になりきった人間。私達だけは、私服で来ていた。しかし、一斗は普通の俳優はあまり着ない安っぽい服をきていた。なぜだろうか。
私は、赤いワンピース。鈴のところへいってからそのままだからだ。
すると、突然隣にはから声が聞こえた。
「あ、あいつみたことある」
一斗が指差した人物。確か、有名な企業の社長だ。私と一斗の撮影したドラマ【江戸物語】のスポンサーをしてくれた企業である。
そして、その社長と仲良さげに話している男。彼は、日子さんの夫であり、光の父である坂本 寿樹だ。
二人をぼーっとみていると、社長がこちらを向いた。私は、はっと目を逸らす。だけど、その時はもう遅かった。社長は、細くて厳しそうな秘書と共に、私のところへ歩いてきた。
「やぁ、こんにちは。君が如月 霞ちゃんか。きれいだねぇ、ほんとに」
と、いいながら、拍手を求めてきた。あわあわ、私はどうしたらいいのか分からない。だから、そういうのに慣れている一斗に助けを求めようと、手を差し伸べながら隣をちらりとみた。だけど、そこにいるはずの一斗はいなかった。
周りをぐるっと見回す。いなかった。社長がくる前はいたのに。
(逃げやがったな、あの優男)
「はい、ありがとうございます」
にこっと笑いながら、社長に答える。社長はにこにこと笑顔だ。スーツを着込んでいて、見た目は40代くらい。かなり若そう。寿樹さんと同じくらいの歳だろうか。
「いやいや、どういたしまして。 さて、突然で驚くと思うんだが。 ちょっと提案があってね」
「なんですか?」
「それはね、その、うちの息子を君の……」
その時だった。

プツンッッ!

何かが切れたような音がして、パーティー会場は、真っ暗になった。本当に、いきなりだった。
「どうしたのかしら……」「もう! なんなんだ! これは」「落ち着いてください! 落ち着いてください!」
いろんな人の怒りを含んだ声が聞こえる。その他に、使用人の慌てる声もする。
どうしたのだろうか。こんなところで、停電なんてことは……。
すると、私にまた災難が降りかかってきた。頭になにか硬いものがぶつかってきたかと思った瞬間、私の意識はそこで途絶えてしまった。

意識が戻ると、声が聞こえた。
聞き慣れた男の声もする。

……だめだな、こりゃ。
……おい、お前助けてやれよ。
……いや、無理だろう。
……はは、分かってるよ。
……てか、この娘生きてんのか?
……一応、力加減したし、生きてるだろ。
……そうか。じゃあ、この男は?
……ははっ、しらねっ。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.137 )
日時: 2013/07/20 12:16
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: WzE/lQPv)

「んっ……」
うっすらと目を開けた。
だが、真っ暗で、声は聞こえるが男の姿は見えない。

「どうするんだよ、これから」
「やるしかねーだろ」
「ははっ、情けねぇなぁ。 こいつらの中に、高校生いるんだぜ?」
「お前、そんなこと思ってねーだろ。 お前の教え子がいるってのによ」
「ははっ、別にどうでもいいさ。 こいつらは要らねーし」

この声……赤坂と、寿樹さんだった。

ーーどうして?なんで?何があったの?
私としたことが、酷く混乱してしまった。さっきまではパーティー会場にして、社長さんと話していた。のに……今は、こんな暗い所にいる。しかも、相手が見えない状態で、恐ろしい会話が聞こえる。
何人もを殺してきた私。今から何があるか大体予想はついていた。私は……殺される。きっと、助からない。
だけど、私の体は幸いにも自由だった。男二人は何をおもったか、縛っていないのだ。でも、逃げられない。暗くて、出口も見つからないから。
とりあえず、逃げることはせず、そこら辺に手を伸ばす。すると、もう一人、私と同じ状態の人がいることがわかった。なぜなら、相手の手に私の手が当たったからだ。
「あなた、だれ?」
こそっと小さな声で聞いてみる。男二人は、声の大きさからして、あまり近くにはいないことがわかっていたから、きっと小さな声ならばれない。
「…………」
返答は、返ってこなかった。どうしたのだろう、まだ気絶しているのだろうか。すると、私は異変に気づく。相手の手は、なにかで濡れていたのだ。手を限界まで顔に近づけ、匂いを確認した。少しの鉄の匂い……これは、血だ。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.138 )
日時: 2013/07/19 07:00
名前: ろあ ◆GyWE3zoXX2 (ID: tLdHgI31)

こんにちは!すごく面白いですねっ、頑張ってください!

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.139 )
日時: 2013/07/20 12:28
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: WzE/lQPv)

ということは……相手は、出血しているらしい。死んでいるとは確定できないが……否定もできなかった。心に灯ったろうそくの光が、消えた気がした。
「……」
私は、放心して座り込む。すると、それに合わせるかのように、部屋に明かりがついたのだ。
「葵さん、こんにちは」「よぉ、白咲」
あまりの眩しさに私が目を瞑った時、聞こえた二人の声。もう、嫌だった。確定した、二人が悪い奴だということを。そして、目を少し開ける。隣の人は、……一斗だった。私の共犯者であり、主犯である矛盾している存在である一斗だったのだ。
「さて、パーティーもクライマックスだ。 楽しめよ?」
赤坂の声。私は、そんな声は無視して、小さな震えた声で一斗、一斗、と呼んでいた。出血量は思ったより少ないが、彼は起きてはこなかった。まだ、少し温かい。生きているはずだ。いや、生きていないと困る。
「無視はいけませんね、葵さん」
寿樹さんが、一斗を蹴る。一斗の身体は壁にぶつかる。彼についていた血が周りに飛ぶ。
「やめて」
私は、ポーカーフェースを装い、冷静に一言。今まで何人もの死体をみてきた。私は、……怖くなんて、ないはずだ。
「やめねぇよ。 お前ら邪魔だしな」
赤坂が、私を蹴る、殴る、叩く。やめて、やめてよ。暴力で訴えるよ? ま、生きてたらの話だけど。
「さて、二人とももうダメですか?」
寿樹さん……いや、坂本 寿樹は一斗をまた蹴る。
もうダメだった。
「ねぇ、お父さん。 なにやってるの?」
その時、この部屋のドアを開けて部屋に入ってきたのは、光だった。和やかな笑顔で入ってきた光は、私をみると表情をとても険しいものへと変えた。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.140 )
日時: 2013/07/31 17:33
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: KG6j5ysh)

「ねぇ、父さん、先生。 いくら二人でもさ、葵を殺るのは酷くない? 」
光は、険しい表情のまま、二人に近寄る。
「あぁ、光か。 危ないぞ、離れておけ」
「父さん、僕の話を聞いて」
「坂本。 お父さんのいうことを聞いて、離れなさい」
「先生も、聞いてよ!」
光は、二人を止めようとする。二人の男は、そんな光をはねのけるのでもなく、殴るのではなく、ただ……みつめていた。
比較の抵抗が終わるのを待つ、というように。
それが続き、約一時間。さすがの、光も疲れてきて、動きが鈍くなった。
その時だった。寿樹さんが光を叩いたのは。
「好い加減にしなさい、光」
光は倒れる。かなり、強い力だったようだ。
そして、倒れた光を、赤坂が一斗の隣に引きずり、置いた。私は、光の息を確かめる。……良かった、生きていた。だけど、意識は無い。光の口は、苦しみでゆがんでいた。
光、というヒーローも倒れた。もう、終わりだ。
もう、私になす術は無いのだ。
私は、微笑んでいった。


「さ、殺して」


立ち上がると、私はハサミを、ポケットから取り出し、二人に渡そうとした。

【レッドキル】
周りからは、シザーキラーと恐れられた。だけど、違う。
本当に私に正しい名は、「レッドキル」なのだ。
ただ、人が赤い雫に染められ、苦しんでいるのを蔑んできただけなのだ。ハサミは……より残虐にするための演出なのだ。それだけ。
このハサミには、レッドキルと彫り込まれている。
孤独な私に、「ブルーローズの貴方」がくれたハサミには、最初からそう彫り込まれてあったのだ。赤く、深く。

だけど……現実は、私よりも「ブルーローズの貴方」よりも残酷。
私を、悲劇を味わった〈ヒロイン〉のままで、終わらせてはくれなかったのだ。
「お前は、一番最後だよ。 ちなみに、一番最初はこいつらだぜ」
赤坂がそういって、携帯電話をとりだした。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.141 )
日時: 2013/08/03 08:42
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: kwjWR4CH)

そして、器用に操作して、私に画面を見せた。その顔は、とてもにこやかな、〈学校での〉スマイルだった。
「……」
私は、言葉を失った。
画面に写っている笑顔のポニーテールの少女と、しかめっ面の少年。
それは、そう。私の友人の、鈴と拓だった。
「はは、お前の友達だよな? 悪りぃな、こいつらはこの世にはもう、いねぇよ」
そして、つぎに見せられた写真は、鈴たちの家が燃えているシーンだった。
嘘だ、嘘だ。これは、合成だ。きっと。映画のワンシーンを合成したものなのだ。
「嘘だ、絶対に鈴は死んでない……」
なんで、こんな時。私は、こんなにも冷静なのだろう。なぜ、こんなに。
友達が死んでいる。だけど、そんなに感情的になるほど、悔しくも悲しくもない。なぜ?なぜ?
あぁ、そっか。

私がいつも、人を殺しているからだ。
こういうのに、耐性がつくんだな、人を殺していると。
便利だね、これは。この、スキルは。

「死んでるぜ、なんならみせようか? その惨酷な姿を」
「赤坂。 やめなさい。 相手は高校生だ」
「はいはい、わーったよ」
「ごめんなさい、白咲さま。 ここからは改めて敬語を使わせていただきます。 あなたと私は、他人ですので 」
他人ですので、そういった寿樹さんの顔は笑顔だった。
いつもの優しい微笑みだったのだ。
「……わかった」
私はそういい、腹の痛みも顔の痛みもなかったかのように平然と立ち上がる。
痛いのに、死にそうなのに。それを我慢して立ち上がる。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.142 )
日時: 2013/08/01 18:47
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: fnEXgJbc)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7499

こんにちは。
依頼があった宣伝文です。

このサイトに限らず、どこで使用しても構いませんが、私の名前とスレッド名をお願いいたします。


なぜ、僕らはこんなことをしたのだろうか。
そう思った時はもう——遅かった。

あぁ、それは一瞬だった。
あの瞬間に全ての歯車が狂ったのだろう。
あぁ、それは刹那だった。
その考えが私の人生をより醜くしてしまったのだろう。

意外な所で絡まりあう、縺れた(もつれた)糸。
それらは本当に——些細な嘘から始まった。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.143 )
日時: 2013/08/01 18:53
名前: リンドン (ID: Q9sui1jr)


面白いです!
私も小説の参考にさせていただきます。笑

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.144 )
日時: 2013/08/03 08:47
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: kwjWR4CH)

>>142
黒雪さま、ありがとうございます。
とても素敵な文ですね、さすがです。
最後のまとめがとても気に入りました。
今回は、どうもありがとうございました。

>>143
リンドンさま
とても嬉しいお言葉、ありがとうございます。
参考にしてくださると、嬉しいですね。
また、リンドンさまの小説もぜひ読んでみたいと思います。
ご閲覧、ありがとうございました。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.145 )
日時: 2013/08/03 12:33
名前: ササミ (ID: Oh9/3OA.)


こんにちは!ササミです(*゜v゜*)
一気読みしました!すっっごく面白い!!
とても惹きつけられる文章で、すごいと思います。
続きがとても楽しみです。
更新頑張ってくださいね(*≧艸≦)

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.146 )
日時: 2013/08/04 08:17
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: Z6QTFmvl)

「そうですか。 わかってくださいますか。 それはありがたい」
そういった寿樹さん。その笑みは……もう完全に狂っていた。
彼は、一斗の元へと歩いて行く。靴の音が妙に大きく響く。
「では、さようなら」
狂った笑みのまま、寿樹さんは、一斗を蹴ったり殴ったり、床に叩きつけたりした。もう、それはとても惨酷に。
だけど、とても綺麗だった。寿樹さんの、白いタキシードは、一斗の赤で綺麗に染め上げられていく。
綺麗、綺麗。 私は、自分の共犯者のものであっても、血をみるのは好きだ。とても綺麗だから。
あの時……そうはじめて、一斗の血をみた日。思えば、たった三日前のことだった。あの日、私は中学時代のあの感触を思い出してしまった。また、人を殺したい、そんな感情が胸の底から湧き上がってきた。だけど、私はそれを堪えた。だって、私は霞だから。
霞は、絶対にそんなことはしない。私は、世間のアイドルでなくてはいけないのだ。
そう思ったけど、もう限界だ。
こんな綺麗な赤をみたら。
「あ? どーした、その目は? なんかいーてぇのか? あぁ?」
赤坂が私の一斗を見つめる視線に気づき、私に問いかける。
そんなの、無視無視。
「……」
私は、ニコリと微笑む。多分、私の笑みも寿樹さんと同じ。きっと、狂ってる。
私は、さっき赤坂に渡そうとしたハサミを、赤坂に向けた。もちろん、渡すためじゃなくて、刺すためだ。
「?」
赤坂は、なにが起こるのかわかっていなかった。

Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.147 )
日時: 2013/08/17 13:05
名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: wA2Rnx1Q)

私は、ハサミを刺そうと、勢いよくハサミを前にやった。
しかし、その時に刺した感触はなかった。なぜなら、その時には、赤坂はすでに倒れて、息をしていなかったのだ。
「え、え?」
流石の私も、これは混乱。
なんで? あれ? 私、サシテナカッタヨネ。
ハサミを見つめる。 少しずつの積み重なりで赤みがかかってしまった刃にも、まだ生々しい血はついてはいなかった。
……やばい。 なんで、いきなり死んじゃったの?
「やってくれますねぇ、葵さん。 僕としたことが、失敗だなぁ」
は?私はなにもしてないし!そんな反論もできずに、寿樹さんの言葉は続く。
「本来はね、貴方が殺る予定だったんです。 だけど、光のせいで、一秒のズレでした。 あなたに殺された赤坂さんが、今ここにいるんですよ」
は? 言っている意味が分からない。一秒のズレってなに、本来ってなに?
「あ、わかりませんか? えー、つまりはね、これは『物語』なんですよ。 あなたの人生、僕の人生、光の人生。 他にも沢山の人生は、全て物語の台本によって動いていたんです」
うわ、ヤバイ。 なんか、物語とか台本とか言い出した。 マジで狂ってるね。
もし、その話の通りだったら、私と一斗のあの出会い、私と光のあの出会い、全て赤坂は知っていて、全て寿樹さんは知っていた?物語ってことは。私は、一斗を鉛筆で刺したのも全て物語?
だけど、信じられる気もする。確かに、赤坂は私が刺す前に死んだ。ってことはさ、私が誰に殺されるか、

この前にいる人はわかっている……わけ?
「あ、やっと分かりましたね。 因みに、貴方は私に殺される。 台本通りなら、ね」
ははは、と寿樹さんは高笑いした。
「でも、変わるかもしれない。 赤坂みたいに、葵さんも一秒のズレで、なんの怪我なく死ぬかもしれない」
やばい、やばいやばいやばいやばいやばい。
怖い。 本当にこれはやばい。
「ちなみに、私の死ぬ時間は?」
「零時です。 ロマンチックですよね、零時ぴったり」
どこがだよ。 人が死ぬ時間が零時とか、こえぇよ。
私は、そう思いながら時計を確認した。
いまは、十時。 あと、二時間後に私は死ぬのだ。
「台本を改竄する方法は?」
「今回は、特別ですよ、教えてあげます。 私の妻、日子が持っています。 それをとって、書き換えればいいのでは?」
「……今は、どこにいるの?」
「そうですね。 今は……病院にいると思いますが。 私にはわかりませんね」
寿樹さんは、微笑む。
きっと、日子さんは見つけられない。でも、見つけなきゃいけない。
寿樹さんは、部屋のドアを開けた。 明るい光が差し込む。
これはきっと、行って来いという意味。
「……」
私は、部屋を出た。

【第十話 END】