ダーク・ファンタジー小説
- Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.148 )
- 日時: 2013/08/17 13:31
- 名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: wA2Rnx1Q)
【 第十二話 】最終と呼ばれたそれは。
光と、一斗。ごめん、きっと二人は今から寿樹さんに殺される。だって、そんな音がしたから。 二人はもう、終わった。
だけど、私は生き延びる。絶対に。絶対に死なない。
私は、光の家をすぐに出た。裏口から。皆にばれない様に。
そして、病院に向かった。走れ、はしれ。 目の前が、涙でぐちゃぐちゃ。周りの人からの視線が痛い。だけど、走った。意識が遠くなるくらい走った。
前に、坂本病院が見えた。 もう、すぐ。
ドアの前に立つ。 病院は、あいていた。ドアを思いっきり開けて、病院にはいる。 患者と看護師がこちらを見る。そして、一人の看護師が私に聞いた。
「あら、どうしたの、お嬢ちゃん?」
私は、それを無視した。 そんな問いに答えたくない。
廊下を走る。「こら、走っちゃダメよ!」
そんな声は無視。聞くな、私。こんな時だけ、イイコ面をするな。
看護師が見えなくなる頃、私はふと立ち止まる。日子さんは、どこにいるの? この病院は、広い。 探せるのだろうか? だけど、探すしかない。
私は、一階から部屋を覗いて行く。 一百一号室、いない。一百二号室、いない。 ……いない、いない、いない。
そして、四階。 八百一号室にはいる。 ……いなかった。
だけど、そこには手紙が置いてあった。 青いバラを添えて。
私は、手紙を開けて、読んだ。
「ご苦労様でした。 今は何時? もう、終わりですね。 本当に、可哀想です」
それをみるなり、私は八百一号室からでて、廊下にあった時計をみた。 十一時五十三分。あと、一時間七分。
だけど、この病院は、九百室もある。 一時間で足りるだろうか。
でも、考える暇はない。 私は、すべての部屋をめぐる。
そして、九百室目。 部屋のドアを開けた。 そこには、手紙があった。また、青いバラを添えて。
私は、手紙を開く。
「ご苦労さま。 でも、無駄。 今は何時?」
時計を確認。十二時半。あと、三十分。
無理だ。 病院には、いなかったのだ。 日子さんは。
でも、この手紙は、きっと日子さんが書いたものだ。なら、まだ病院にいるはずだ。
ていうか、その前に。 私は、この台本の主人公のはず。 なら、主人公が死ぬのはありえない。 最後の一分で、見つかって、 私が改竄して、私は、生きられる。そうしないと、おかしい。
私は、走った。 体がぶつかった花瓶が割れた。水やガラスが飛び散る。 花が無残に床に叩きつけられた。
でも、知らない。私は、走る。
十二時五十五分。 日子さんは、……いない。
ダメだった。 あと、五分。 探そうとしても、もうダメだ、と心が決めつけていた。
- Re: ■些細な嘘から始まった ■感想 大歓迎 ( No.149 )
- 日時: 2013/08/17 13:56
- 名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: wA2Rnx1Q)
「おい」
そして、後ろから声がした。 私は、振り向く。
そして、その目に映るのは……清水だった。彼が、ヒーロー。
この物語で、私を助けてくれる人だった。
「よし、 葵だな。 あと、四分」
そういった、彼は。 あれ? おかしい。彼は、白咲葵のことは知らないはず。
なんで? もしかして、……寿樹さんの協力者?
逃げる! だけど、無理。 力で大人に敵うわけないし、私には逃げる強い精神もなかった。
「そーいやさ、 これ」
清水さんが、優しい笑顔で写真を見せる。つい、その笑顔につられて、写真をみてしまった。
そこには、もう……死んでいる光の姿があった。ひどい。 こんな、知らせ方があるだろうか。
あっけに取られていると、 清水の携帯がなる。 新しくきたメールを開けると、また私にそのメールについた写真を見せた。
想像していたとおり。 一斗がしんでいた。 なんということだ。 ほんとに二人はもうこの世界にいない。
「……」
私は、もうボロボロ。 心も、体も。
「あ、きたね、 五十秒前。 四十九、四十八……」
清水がカウントするのを、黙って聞くしかなかった。
きっと、誰かが助けてくれる。
「五、四、三、……」
助けてくれる。ほら、登場してよ!ねぇ。
「一。 はい、終わり」
清水は、果物ナイフを取り出した。
ナイフが、私に突き刺さる。ぐさっと。心臓部に驚くほどに正確な位置で。
清水は、優しい笑顔のまま、楽しそうに私の体を切り開いて行く。 まぁ、当然の報いか。 ……私の気は、絶ってしまった。
皆さんに質問したい。 人は……こんなにも簡単に人が殺せるのだろうか。それに、楽しそうに。知っている人を。
私は、殺せるのだろう、と思う。だって、私も殺せたから。
殺す。 これだけ残虐な響きの言葉が他にあるだろうか。だけど、この言葉があるからこそ、 人を殺すことに躊躇しなくなる人間がいるのだ。 この、殺すという事がどれだけ重いか、ということも考えずに。 この言葉は、世界に存在しなければいけないものだ。「殺された」を、この言葉以外で言い表すとしよう。「死にさせられた」?「亡くならせられた」? 意味がわからないだろう。 「殺された」なら、意味は通る。
そして、この言葉は悪い言葉だ。 だけど、生まれた。 なぜ生まれたか。 それは必要があったからに決まってる。
誰かが、人を殺した。 それを、誰かが後世に伝えるために殺すという言葉を作ったのだ。
この言葉は悪い。 貴方も、滅多につかってはいけないものだ。だけど、この残虐な言葉には、昔の人の考えが入っているように私は思う。遺族が、人を死なせることがどれほど悪いことかわかるように。という思いを込めている。そうじゃないだろうか。 私、白咲葵は、そう考えた。
私は、そう考えていたのだ。だけど、人を「殺した」。
私は、とても悪い人だ。 それは、分かっている。
だから、皆さんに伝えたい。
絶対に、人を殺すな。 絶対に。私のようになるな。
死の間際、私は、こんなことを考えていた。
ま、自分の考えが正しいかは、わからないけど。
【第十二話 END】