ダーク・ファンタジー小説
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 11/17更新 ( No.12 )
- 日時: 2013/03/05 20:29
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔B〕 ——宇宙の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part2
目に映るは、浮遊するデブリ群。
宇宙は広いので、このままにしていても衝突事故とかが起きることなんてありえないから、なんの処分もされず醜態をさらしたまま朽ち果てるまでうかび続けるわけだが。
正直、まぬけすぎて哀れを誘うな。
一方、クロノスのほうを見ると、予想以上に易々と引き裂かれている敵艦を目にして嬉々としている。
どうやら早く仕事を終わらせれそうで嬉しいようだ。
「うひゃあぁぁっ、これもう半分終わってますってクリミア様ぁ。お相手様方は旧式のうえに、素人ですかぁ?」
両手をぽんとあわせ、クネクネさせながら相手側を駄目だしするクロノス。
小さい体を楽ししそうに動かし、アルヴェット族の特徴たる耳を左右させている同士の肩に手を置き私は言う。
「そうだな。楽な仕事で何より。3回もやれば片がつきそうだ」
「そんなぁ、3回とかだれるぅ。あんなに動かない艦隊1回で十分だよぉ?」
相手が弱いと俄然やる気がでるのは、アルヴェット族の特徴だな。
感覚が敏感な小動物が先祖である彼女の種族は、基本的に強弱の別が激しい。
なぜなら、強い奴からは徹底して隠れる本能が刷り込まれている分、弱い奴を見つけてストレス発散するすべを歴史の中で身につけたからだ。知的生命体は脳を使うことの少ない通常の動物と比べ精神的ダメージを受けやすい。ストレス解消法を編み出すのはとうぜんのことだ。
どうやら、フレイム居住区防衛隊の連中が弱いと認識したらしい。まぁ、そうなるとは思っていたが、一応祈りでもささげておこう。
アーメン。
さて、と。では、全艦鉄くずになってもらうとしよう。
「1回ってお前楽したいだけだろう?」
「当たり前じゃん?」
余裕綽々のクロノスに軽口をたたきながら、私はアドンを開放させる。
クロノスのにべもない本音は無視して波長を安定させていく。
金色の蝶が私の周りを舞ったかと思うと、それは長大な光の柱となり空間を貫いた。
その時、私が能力開放したことを察したのだろうハルから回線が入る。
「お嬢! 僕の活躍凄かったでしょっ、褒めてほめっ」
「あぁ、うっざい。クロノス、準備できたか?」
相手が弱者であることからくる余裕からでたのだろ、うハルの下らない冗談を回線を強引に切った。
クリミアは調子に乗りやすいハルに対し盛大にため息をつく。
そして、クロノスに準備が整ったかを確認する。
彼女の体が眩い緑色の燐光に包まれているのを視認して、もういつでも発動できると私は察す。
「オッケーですよクリミア様ぁ! よっしゃ行くよぉ、僕たちのランデヴーパワーは無限大だあぁ!」
「…………」
私の問いに対しクロノスはブイサインをつくる。そして、準備万端とばかりに大笑いした。
ランデヴーパワーとかわけの分らないことは無視する。
クリミアのアドン、念力によって動きを停止させられた哀れな旧型艦を私は見下ろす。
「6……9、10.全部ロックしたよぉクリミア様ぁ」
敵艦でロックできていない奴がないか、クロノスは入念に指差しながら数える。
全ての船が完全に緑の幕に覆われ、停止しているのを確認してクロノスが私のほうを振り向く。
彼女の念力は、相手を拘束する力には長けているが、圧縮力に乏しい。
人間くらいなら造作もなく捻じ切るが、鉄をはるかにしのぐ硬度の戦艦を破砕することはできないのだ。
そもそも、今回は相手艦に搭載されているシールドを拝借したいわけだから、そんな風に粉砕することはできないわけだが。
まぁ、そこで私の出番ってわけだな。私は、相手が動いてさえいなければ、幾らでも敵の急所を狙い打てる。
我がアドンはテレポーテーション。自らを移動させるのは苦手だが、他の物質を移動させるのは得意だ。
さすがに戦艦をそのままてレポートさせるのは難しいが、残骸を飛ばすくらいのことは造作もない。
それも物体の中に移動させることも可能だ。
つまりは、ジギンド達が破壊した敵艦の残骸を攻撃に転用するということさ。
「よし、ジギンド。情報を頼む!」
私は、回線をオンにして、艦の構造に詳しいジギンドから指示をあおぐ。
敵側が、動きを止められ焦っている間に、ことは進む。
これだけの数抑えていれば、クロノスの念力による拘束力も低下していて、主砲でも放てば破れるのだが。
相手側は逆に暴発を恐れているようだ。
私は、狙うべきポイントを完璧に押さえ、テレポート能力の有効範囲へはすでに到達している。
この勝負は決まった……
「終わりだ」
宇宙という漆黒の大海原を漂流する船の残骸達。それらが次々と、残った敵艦を貫いていく。
爆発することもなく、デブリたちは仲間の船を沈める墓標と化した。
「あぁー、すっきりしたねぇ! じゃぁ、次はデザートぉ」
「残念だがもう少し仕事があるんだ。まぁ、10分くらいで終わるはずだから、我慢してくれ」
敵が殲滅されたのを見届けることもなく、クロノスは飄々とした足取りで艦の中へと歩き出す。
結果は分りきっているから当然とも言えるが、彼女の発言は少し訂正しなければならない。
何せ、まだ仕事は残っている。デザートはもう少しあとにしてもらわないと困るのだ。
私に首根っこをつかまれ、息が詰まったのか「グッ」と彼女は呻くと、仕方ないという顔をして静かになった。
End
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