ダーク・ファンタジー小説

Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 2/20 更新! ( No.26 )
日時: 2013/04/08 21:15
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
 第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part4

 「ハルからコード破壊用のチップを戴きました。用意も済みましたし我が主、そろそろいきましょう」
 「あぁ、生き残りに注意しろよ?」

 偵察用の無人探査機で敵生存者がいない、正確には根こそぎ偵察機に取り付けられているマシンガンで殺したのは、とうに分っているのだがどうやら性分らしい。
 私は普段の露出度大目の服装から、全く肌の出ていない宇宙服に着替えた、アルテミスを見ながらジョークを飛ばす。
 アルテミスは素直に了解しました、と答えてくれるのが良いところだな。
 これがカロリーナあたりなら、そのボケ全く面白く有りませんわ、などとあの得意げなお嬢様口調で、痛烈批判するに違いない。

 「遅れましたわ。髪の量が多すぎるというのも考え物ですわね」
 「カロリーナ、貴女にはショートは似合わないと思うが?」
 「あら、褒め言葉と受け取っておきますわ」

 噂をすればなんとやらか。
 いっつもこのやり取り聞いてるとか、突っ込んだらアルテミスにも撲られそうだ。
 ようするに、2人とも仲睦まじくて大変よろしいということだな。
 ちなみに細くしておくがカロリーナの宇宙服は翠で、アルテミスは青いカラーリングです。
 もちろん、黙視時に敵味方勘違いしないための工夫だな。
 さて、メンバーも揃ったことだし、始めるか。

 「あー、そろそろ、良いよな。敵さんの戦艦ジャックさせてもらおうぜ」
 「そうですわね。さっさとすませてしまいましょう」

 私の号令にアルテミスは小さく頷き了承の念を伝え、カロリーナは言葉を返す。
 10秒足らずで、敵艦内に潜入する。
 内部は思っていたよりずっと綺麗で、この船がいかに上手く損傷(そんしょう)を避けれたかが良く分った。

 「司令官殿。あんな間抜けそうな男だったわりに、それなりに優秀だったってことか」
 「何も司令官が一番優秀とは限らないのではなくて?」

 不意に。
 溜息みたいに、尊敬の念が口を付いて出る。
 左横を移動していたカロリーナの台詞に、それは思いつかなかったと私は呟く。
 居住区と思しき廊下を抜けると、巨大な扉が目の前に現れた。
 鋼鉄製の堅牢な自動ドア。
 最も、登録されていない奴は当然ようこそいらしゃいませなどと、迎え入れてくれない。
 認証コードに指紋、網膜、声紋鑑定のどれかをクリアしなければ入れない使用だ。
 それを解決するために、ハルが造ったセキュリティコード破壊ウィルスチップを、アルテミスが持っているわけだが。

 「アルテミス」
 「了解しました我が主」

 名前を呼ばれたアルテミスは、すぐに行動を開始する。
 非常用のセキュリティ解除端末にプラグを差し込む。
 ただそれだけ。
 天才的ハッカーであるハルの造ったデータは効果覿面(てきめん)でまたたくまに旧式戦艦の防護服を丸裸にした。
 音もなく、鎖されていた扉が開く。
 本来なら、船を動かすにもそれなりのパスワードなどが必要だが、すでに電子的な防御は意味を成していない。
 ここからは独壇場(どくだんじょう)だ。
 今まで電気代節約のためオフにしていた無線をオンにして、ハル達の指示を仰ぎながら艦を操作しフレイムに着陸すれば良い。

 「ハル、ジギンド。オペレート頼むぞ」
 「聴こえてますよぉクリミア姉さん! あっ、そうだ。ところでパトロンのアルサーマン氏から電信が入ったんすけどぉ……」

 いつも通り、1番に反応するハル。
 どうやら私達が船から出て数分程度の間に、何か船内では大きな動きが有ったようだな。
 アルサーマン氏と言えば、彼の故郷は確かフレイムだったはずだ。
 妻と息子がいるらしい。
 カイゼル髯(ひげ)の似合う紳士的な顔立ちを思い出しながら、何事だと私はハルに続きを促す。
 
 「あの1ヶ月前の件。十二星座(ゾディアーク)加盟って話っすよ。あれ、マジになったみたいっす」
 「何!?」

 私は思わず頓狂(とんきょう)な声を上げる。
 ゾディアーク、政府公認の海賊稼業(かぎょう)。
 絶対的な知名度と実力の両方を備えた者達しかなることのできない、いわば世界の悪党達に対する抑止力(よくしりょく)だ。
 その称号を手に入れれば、この一攫千金と言えば聴こえは良いが相当に不安定な生業(なりわい)を、それなりに安定した状態で続けていけるのさ。
 宇宙海賊を駆逐しまくることと月単位で上納金を収めることが条件に、政府から追われない上に申請さえすれば上限はあるが金を貰えるというアドバンテージ。
 この称号があるだけで、シャンバラへの道はグッと近付くのだ。
 奇声を上げずにはいられないさ。
 そう、心に言い訳をしながら私は周りを見回す。

 案の定、何事かとカロリーナ達が、疑念の眼差しを向けている。
 どうやらオデッサ達は、この話をしていないらしい。
 彼女達にも話が伝わるように、私は全体回線に切り替えた。
 私はあらためてハルに、話の続きをしてくれと頼む。

 「冗談とかじゃないっすよ! ちゃんとした書簡も添付されてきましたし。ノヴァを手に入れたらすぐにフェルガナに来て欲しいそうっす!」
 
 なるほど。
 まぁ、嘘なら嘘でこちらにもやりようがあるので、それは良いだろう。
 悪党である海賊が騙したななんて怒鳴るのは、二流過ぎるしな。
 早急にとかじゃなくて、こっちの用件を待ってくれるとか中々に話が分るじゃないの。
 そこはゾディアークに名を連ねるアルサーマン氏の配慮かもしれないな。
 しっかし何か最近良いこと尽くめだ。
 近い内に悪いことがおこらないと良いが……
 
 「我が主、これは私達にとって最高の誉れでは!?」
 「喜ばしいことさ。何せ、世界が恐怖するに足るって証明だからな」 

 今はこの美酒を味わおう。
 ノヴァとゾディアーク、どちらも最高だ。
 アルテミスに言われるまでも無い。 

 「セッティングは完了したか?」

 キーボードを打つのを止め、私はカロリーナとアルテミスを見遣る。
 2人はいつでもOKだというように頷く。
 いざ、フレイムへ—— 
 
 「ゴーッッ!」

 私の声と共に、戦艦がワープを開始する。
  
 
 End

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