ダーク・ファンタジー小説
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 3/6 更新! ( No.32 )
- 日時: 2013/04/13 12:40
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part5
星が光の線となって消えていく。
ダークマタ—という物質の発見により、このワープ技術は可能になった。
細かい仕組みは私は分からないが、何度経験しても凄まじいことだと思う。
光を凌駕する速度で、鉄の塊が移動するのだからな。
これがなければ、宇宙を旅するなど一生不可能だったはずだ。
ダークマターを発見し、その利用方法を開発した男は天才だと思うよ本当に。
しかし、外を見ていても風景はいつまでも星のシャワー。
いくらワープ機能を凄いと思っていても、変り映えしない世界をいつまでもみているのは辛い。
時間は2分にセットされていたか。
変わることない景色に辟易(へきえき)し私は船内を見回す。
2人とも普段喋るほうじゃないせいもあって、ダンマリだ。
さしたる話題もないまま、沈黙が過ぎる。
いや、先ほどビックニュースが入ったばかりのはずなんだが。
普通女3人集まれば、いくらクール系とか言ったって喧しくなるものであって。
静かで落ち着かない。
そう思っていたとき、アルテミスの声が静かな船内に響く。
「我が主」
言葉を切り出せないでいた最中(さなか)だ。
私は待ってましたとばかりに、アルテミスに続きを促す。
「どうした?」
アルテミスは軽く咳払いして話題を口にする。
「そういえば、フレイムはアッサーマンさんの故郷でしたよね? 彼には息子さんと別れた妻が居るって言ってましたが、息子さんの名前はなんでしたっけ?」
「ヴォルト・ジルだったかな? 急にどうしたんだアルテミス?」
わざとらしい話の切り出し方。
表情から察するに、どうやら何かを危惧(きぐ)しているらしい。
まぁ、彼女はアッサーマン氏が苦手であり、私を崇拝しているということから、大体の予測はつく。
「いえ、何となく聞いてみただけです。不本意ながら主は、アッサーマンさんに好意を持っているようですし」
やはりな。
まぁ、部下の言うことはなるべく聞くべきだとは思うが。
ここははっきり言わせて貰おう。
人の色恋に口出しするな、と。
「お前の本意とか関係ないだろう?」
「うっ、ぐ。大有りです! あんなダラしない男、貴女を伴侶(はんりょ)にするような器ではありません!」
ダラしないから何だってんだ。
それを補って有り余る能力と気配りの上手さが、彼にはあるじゃない
か。
そもそも、あれだけ有能なら少しくらい悪いところがあったほうが良いっての。
愛嬌だ愛嬌。
お前の説教はそれ完全に嫉妬だろ。
「まるで、母親だなオイ。言っておくが、私は餓鬼じゃないんだぞ?」
「そんなことは分かっています! 28歳の餓鬼なんて気持ち悪っガハッ」
「…………」
私の多少子供っぽい愚痴に、アルテミスは声を荒げる。
年齢のことはタブーだと昔にも言い聞かせたよなアルテミス。
それを口にしたら殴るぞとも私は言及した。
だから、殴って良いということで歯をくいしばれ。
横っ面を叩かれ奇声を上げ倒れこむ彼女を尻目に、カロリーナは微笑を浮かべる。
どうやら先ほどの寸劇がつぼに入ったらしい。
しかしアルテミスの奴ぐったりしたまま動かないんだが、強く殴りすぎただろうか。
少しの間、アルテミスを見詰めていると、カロリーナが声をかけてきた。
「2人とも仲が良いのはよろしいですが、そろそろ付きますわよ? 衝撃に備えて準備なさいませ」
どうやらもうすぐ、フレイム居住区着くようだ。
アルテミスもノロノロと起き上がり、衝撃緩衝用のシートベルトを着用する。
「分かったよ」
私が了承の言葉を口にした時にはすでに、戦艦は停止行動に入り周りの星達は線から点へと変化していって。
徐々に楕円から小さな点へと形を変えていく。
そして、高速で動いていた物が急停止したような衝撃。
思わず「うっ」と喘ぎ声をあげる。
そして、緩い動作で反射的に閉じた目を開いた。
カロリーナが溜息をつく。
恐らく何でこんなところに住もうとするのだろうと、思っているのだろう。
「真っ赤ですわね。恒星と見分けが付きませんわ。わざわざ、あんな惑星にまで居住する必要ありませんのに」
その先には眩く紅蓮の炎を撒き散らす天体フレイム。
あぁ、目的地まで到着したよ。
あとはノヴァをさらってしまえばことは終わりさ。
入船口(シップゲート)が何の敵意もなく、口を開いているじゃないか。
ウェルカムトゥフレイムって言ってるんだ。
まぁ、仕方ないことだよな。
通常シップゲートは船に銘打たれたコードで、こちらを識別しているんだから。
我々にとっては大したことのない軍勢だったが、おそらくは辺境の自然要塞惑星にあれ以上の戦力はないだろう。
シップゲートは通常軍部が管轄(かんかつ)している。
船の異変を感知する人の目などはないはずだ。
「いや、あの高熱地獄そのものが、セキュリティとして働いているのなら意味はあるんじゃないかな?」
カロリーナの疑問に、私は曖昧な口調で答えた。
実際ある程度以上高級なシールドがなければ近づけないのだから、防壁としての効果は相当なものと言って良いしな。
普通にシップゲートを抜けた負傷艦は、軍用船用駐車施設へと進んでいく。
どうやらオートで進むように設定されているらしい。
すべてのセキュリティを抜けて、船は自分の指定席らしい場所で止まった。
外に出ると、修理用具を持ったロボット達が成立している姿が見える。
どうやら船の様子を見て、修理をすべきと判断したようだ。
彼等を壊せば流石に異常事態発生の警報が居住区中に響き渡るだろう。
参ったなぁ。
ぜんぜん、困っってないけど。
私はカロリーナの名を呼ぶ。
「カロリーナ」
「分りましたわ。やれやれですの」
カロリーナは電機を操るアドンの持ち主だ。
それもそこらの電気使いではなく、最高クラスの応用力と最大級のエネルギー量を有する高次元のな。
所詮ロボット共など、単純な電気信号で動いているだけの木偶人形だ。
彼女にとっては容易く操ることができ、動作基準や周りの風景を誤認させるなど朝飯前ってことさ。
「船の修理頼みましたわよ」
「了解イタシマシタ」
チタン合金製の七頭身ロボット達は、見事に私達を兵隊さんだと誤認し軽々と通してくれた。
「さぁ、着いたぞフレイム居住区! 案外中は綺麗じゃないか!」
End
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