ダーク・ファンタジー小説

Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 4/8 更新! ( No.33 )
日時: 2013/05/01 19:10
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
 第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part6

 地形探査装置の情報によるとどうやらフレイム居住区は、相当整備された機能的な都市らしい。
 東西南北、そして中央巨大区で階級分けがなされ、さらに施設別に細分化されていく。
 計算しつくされたデザインと、利便性を極限まで追求した都市機能。
 これが意味していることは、私達が対象であるノヴァを発見するのが格段に容易くなるということ。
 一通り、地理を確認した私達は、探査装置の情報をレーダーに転送する。
 
 「さて、行くか」 
 「えぇ、さっさと終わらせてしまいましょう!」

 そして移動を開始する意思を伝え合い、私達は走り出す。

 「そうですね。ゾディアーク任命という大きな事情も出来ましたし。緩々とはしていられませんよ我が主」

 走り出してすぐ、カロリーナの台詞を受け、アルテミスが急かすように言う。
 まるで瑣事(さじ)に時間を割っている暇はないとでも言いたげだが。
 正直、本音が駄々漏れだ。
 
 「お前、絶対アッサーマン氏の故郷ってことでフレイム居住区を嫌ってるだろ?」
 「別にそんなことはありません!」
 
 何度も説明しているが彼女にとってアッサーマン氏と私が意中の関係になるのは、途轍(とてつ)もなく嫌なことらしい。
 各面通りに受け取れば、普通に彼をふさわしくないと爪弾きしているだけなんだが。
 私に対する崇拝からの嫉妬、或いは確立こそ低いがアルテミス自身が彼に恋慕の情を抱いているなんてことも有りかも知れん。
 まぁ、とりあえず一々否定したりするところが年相応でかわいらしいということだけは言っておこう。
 アルテミスって基本的にクールで頭固いから、からかいたくなるんだよ。
 
 「しっかし、賑やかですわねぇ。何だか暇さえあったら、買い物くらいしたい気分ですわ」

 一方、私達の会話にはまるで入る気がないカロリーナは、街で行われている祭りに参加したいと口にする。
 戦艦ドッグを抜けるとその先は、相当なお祭り騒ぎ。
 屋台や的屋、移動型の売買車など所狭しと溢れ返っていた。
 昼間から酒を飲む者、買い物や遊びに興じる者など様々だが、規模から察するに都市全体を巻き込んだ大祭のようだ。
 特に目を引くのは、上空を飛ぶ巨大な扁平型の船。
 どうやらその船がイベントの目玉らしい。
 市民達の多くが船をときおり羨望の眼差しで見ていることからも間違いないだろう。
 選ばれた者しか直接乗り込むことはできないってところか。

 「悪いがその暇はないから、我慢してくれカロリーナ」
 「分かってますわよ。さっさと終らせましょう!」

 一応、周りの状況を確認してから、私はカロリーナに無理だと告げる。
 カロリーナはさして気分を害した様子も無く頷く。
 我々は機械の眼を強引に欺(あざむ)くことにより、街区に到達したがそれも時間稼ぎに過ぎない。

 いづれは対策機能が作動し、ロボット達も異変に気づくはずだ。
 そうなってからは情報の伝達は速い。
 すぐに我々はお尋ね者として顔が知れるようになるだろう。
 いかにカロリーナの電気能力が強力でも、せいぜいあと20分かからないはず。
 急いだほうが良いと、言外に私は2人に告げる。
  
 その時。

 「おっ、お客さん! 外来客かい!? どうだい、内自慢のカルパッチョはいかがかな!」

 後ろからしゃがれた声。
 私は振り返りもせず断った。

 「遠慮しておく」
 「そう言わずに!」

 しかし、売り上げのノルマがあるのだろうか。
 相手も食い下がってくる。
 そのまま振りきることもできたが、時間的にはまだ多少の余裕があるので興味本位で、今行われている祭りが何なのか問う。

 「……そう言えばこの騒ぎはなんだ?」

 私の問いに男性は不思議そうな声音を上げるが、すぐに答えてくれた。

 「おやっ、お客さん。サンファンカーニバル目的で来たんじゃないのかい?」
 「サンファン!? なるほど通りで賑わってるわけだな」
 「ちょっ、お客さん! 結局なにも買わねぇのかよぉ?」
 
 サンファンカーニバルか。
 通りで。
 ガルガアース近辺の厳重種族が最もする崇拝する神サン・ファンを祭る5年に1度しか開かれぬ大祭。
 地球軍連邦自治領内においても、最大級に敬愛される神の1つだ。
 なるほど、こんなことを失念しているとは浮かれすぎだな。
 
 後ろから聞こえる店主の愚痴は無視し、私達は走り出す。
 疑問が氷解し動きが軽快になった気がする。
 やはりどんな小さなことでも解明しておいたほうが、心はすっきりするものだな。

 しばらくまっすぐ走っていると、レーダーの反応を見ていたアルテミスが一言。 

 「東区。そういえばアッサーマンさんの住居があるのは、東部とか言ってましたよね」

 私ははっとなってレーダーの地図を注視する。
 たしかに東区に入ったことが表記されていた。
 まさかな。
 アッサーマン氏の息子に会うなどということは。
 ははっ、馬鹿か。
 少女漫画じゃあるまいし、東区と1口に言ってもそれなりに広いじゃないか。
 
 咳払いする私に被せるように、カロリーナがアルテミスをからかう。
 
  「アルテミス、意識しすぎですわよ? むしろ貴女が彼を狙っているように見えてしまうのですけど?」

 あぁ、実際それは私も危惧していたことだ。
 お前にまで言われると、本気で意識しないといけなくなるから止めてくれ。

 「ばっ馬鹿な!? 私はあんな奴、大嫌いだ!」
  
 全力でアルテミスは否定しているが女は役者と言うし……油断はならん。
 お前も雌だろとか突っ込みは認めない。

 「大声で否定するなよ? 分りやすい」

 アルテミスの本音を聞きだしたいと私は粘ることを選択する。
 しかしアルテミスは素気ない顔で、話題をずらした。

 「近いですね。あと、100mあるかないか……」
 「逃げるなよぉ?」
 「ふざけないでください! 主こそ本旨をお忘れでは!?」


 アルテミスの計算は正しいようだ。
 どうやらすでに対象を目視できるかもしれない位置に、我々はいるらしい。

 最後にしぶとくアルテミスに問うが、結局厳しい声で振り切られ終わった。
 舌打ちをし、主目的を完遂(かんすい)することに心血(しんけつ)を注ぐことを決める私。

 付属のズーム機能を使う。
 限界まで拡大したところで私は驚く。
 いや、他の2人も。
 
 「おいおい、冗談だろう? ノヴァが人の形を取っているなど……」 
 「この少女がノヴァかどうか私に図りかねますが、となりの少年、彼氏というべきか? でしょうか、誰かに似ているような」
 「アッサーマン様にそっくりな顔立ちですわね」

 拡大画像に記された情報。
 それは私達に2つの驚愕をもたらした。
 
 1つは今回のノヴァが人間型であること。
 今まで幾つものノヴァを手に入れてきたが、一切生物型を取ったものは発見していない。
 勿論、情報として聞いたことも。
 今までも気になってはいたんだ。
 なんで動くことのできないはずのノヴァが、移動しているんだってこと。
 有りえないと否定していただけで。
 まさか真っ向から否定したことが現実になるとはな。 
 
 そして、そのノヴァと常に寄り添うように写る少年。
 アッサーマン氏そっくりじゃないか。
 髪の色や目の色などからも、形質を受け継いでいる可能性は十分だ。

 「全く、今日は退屈しないな」

 不意に愚痴がこぼれる。
 どうやら、疲れているらしい。
 いつにもまして新しい出来事が多い、楽しい1日だよ全く。

 
  
   
 


 End

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