ダーク・ファンタジー小説

Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 5/15 更新 ( No.42 )
日時: 2013/09/07 17:11
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: 久々更新なので少し長くなりました——

 ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
 第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part9

 「見ーつっけたぁ」
 
 いくらテレポートマシンで不規則な移動が可能だといっても、このレーダーからは逃れられない。
 そして私は最高級のテレポートアドンを有している。
 言わば勝ちの決まった鬼ごっこ。
 私の気まぐれでいつでも終わらせれる理不尽(りふじん)な戯(たわむ)れさ。

 「楽しそうですわねクリミア?」

 微塵(みじん)も呆れた様子のないカロリーナ。
 最初から私の性格を把握(はあく)しているというのと、何よりも諦めたのが大きいだろう。
 私にとっては嬉しい限りだ。

 「あぁ、楽しいさ。こんなにも本気で彼はノヴァを守ろうとしているじゃないか! つまり彼にはあれに対して狂気じみた、いやっ完全に狂気だろう! 愛を持っているのだ。それを奪われたら彼はどうするだろうなっ? 絶対に我々を追って宇宙(テラ)へとはばたくはずだ」
 「…………」

 つい両手を広げて高らかに叫んでしまう。
 周りの人間どもは皆エトセトラにしか見えないじゃないか。
 最高だぜ。
 その狂った人形への愛利用させてくれよヴォルト・ジル、アッサーマン氏の息子よ。
 君は執念深そうだ。
 そして彼の息子ならあの力を持っているに違いないよな。
 アドンの力は遺伝(いでん)する。
 あぁ、カロリーナもアルテミスも呆れんなって。
 いや、笑ってるな。
 お前等何だかんだ言ってやっぱ根っこは同じだよ。

 「最高じゃないか。アッサーマン氏の息子に追われ続けるとか」

 最高の追いかけっこをしたいなぁ。
 知ってるか。
 神は魔王からの逃走の末にラストシャンバラを見つけたんだって。
 だから私はこう解釈する。
 地獄の番犬が必要なんだよノヴァ以外に。
 ラストシャンバラを開くには。
 アッサーマン氏から良く聞いてる。
 君はラスとシャンバラを目指してるんだろう貪欲(どんよく)に。
 じゃぁ、私と追いかけっこをしよう。

 だがその前に。
 君に宇宙に出る大きな切欠を作ってやる。
 強く願っても中々踏み出せない君にな。

 「我が主、お戯れの前にノヴァを捕らえなければその遊びはできませんよ?」
 「分ってるさ」

 少し嬉しそうな声でアルテミスが声をかける。
 言われなくても最初からそのつもりだって言外に告げて、2人に自分の近くへ来るように促(うなが)す。
 そしてアドンを発動させる。
 目の前にはツインテールの少女とへヴィーメタルファッションの青年。
 瞠目(どうもく)している。
 どうやら容易く追いつかれたことに驚いているようだ。
 当然だな。
 彼等は私の力など知らないのだから。

 「テレポートマシンで逃げ回っていれば、いづれ警察が動き始めて逃げ出すようになるとでも思ったかな?」
 「それは、テレポートのアドン!?」

 本気でいぶかしむ彼等。
 どうやら居場所が分るとしても、テレポートで長距離移動されてはそんな簡単に追いつけないと思っていたのだろう。
 実際その通りだ。
 仮に私の名を知っていても能力までも知ることは無いしな。
 私が彼等の目の前でテレポートを見せたおかげで、すぐに追いつかれた理由を察した青年は愕然(がくぜん)とする。
 
 しかしそれも1秒足らず。
 彼はすぐさま私の前へと体を踊りだす。
 衆目(しゅうもく)の面前で殺されることは無いとでも思ったのだろうか、いや死ぬ覚悟のある男の目だ。
 呆れたものだよ本当に。 

 「くそっ! 逃げろっ逃げろノヴァッ」
 「ヴォルトツ! 逃げなきゃっ! ヴォルトが体張ってるんだからっ」

 血でも吐き出しそうなほどの声で叫ぶヴォルト。
 平和ボケしている周りの公衆どもは焦る様子も無く何かの出し物と勘違い。
 そんな中を生意気なほどに綺麗な顔立ちをしたノヴァは、必死の形相で駆け抜ける。
 テレポートマシーンへと。
 だが、ごめんな。
 お前等の障害(しょうがい)は私だけじゃないんだ。

 「無意味」

 あらかじめテレポートマシンへの経路を防ぐように移動していたアルテミスがアドンを発動する。
 ガラスのような半透明の青がアルテミスから吹き上がると同時に、周りの温度が一気に5度ほど下がり。
 アルテミスが開いた右手を握ったと同時に、ノヴァは氷のオブチェと化す。
 彼女は最強級の氷使い。
 人1人を永久に凍らすことなど造作(ぞうさ)も無い。
 
 氷漬けになった恋人を見てヴォルトは涙を流しながら叫ぶ。 

 「ノヴァッ! ノヴァアァッ!」
 「じゃぁな。また、会えるといいな」

 私は放心状態になっている彼の真横を何事も無かったの様に素通りし、氷漬けになったノヴァの肩に手を置きテレポートの力を発動する。
 本当は半径3メートル内にいれば何でも移動可能なのだが、少し青年をあおるためにな。
 案の定、ヴォルトは修羅(しゅら)のごとき形相で私を睨み付けてきた。
 良いことだ、薄弱(はくじゃく)な覚悟の奴じゃ私との追いかけっこは勤まらないからな。
  
 「うおおぉぉぉおああぁぁぁぁぁぁぁァッッッッグアッ、あァァァァァァァッッ」

 崩れ落ちて咆哮(ほうこう)する青年を背に、我々はフレイム居住区を脱出するために停船所へと向かった——




 End

 第1章 第1話 The End


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