ダーク・ファンタジー小説
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 —最後の楽園— ( No.6 )
- 日時: 2013/11/30 16:29
- 名前: 風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part1
「カタカタカタカタァっと。通電完了しましたクリミア姉さん!」
ボサボサした赤髪を、無造作に結った男が答える。タイピング時に出る音を擬音語で口にするのは、昔から続く彼の癖だ。
彼の名はハル・マルブローサ。燃え盛る炎のような紅の頭髪と、深い紫色の瞳が特徴的な、中性系美男子だ。
ジギンドとは逆で、クルー内では古株の部類に入る。
12歳で我が艦の乗員になり、今年で10年目になるな。長い付き合いだ。
高めながら、マイルドで心地よい声で発されるハルの報告を聞き、私は短い言葉で問う。
相手がどれ位で来るか、確認しておきたいからだ。
「相手方の返答は?」
ハルは無駄口をたたかず、相手側の返信を待つ。そして、程なくして送られてきた来た情報を、声に出して読む。
「うぅー、30分ほどでこちらに到着するそうですよぉ? 船の数は一隻らしいっすわ」
「了承と受け取って良いな?」
宇宙船1つで来るということは、単純に私を連行することだけが目的だろう。
排除目的で大艦隊なんぞつれて来られたら、面倒なので嬉しいことだ。
しかし、30分で来るとか、早急だって。おめかしし急がないとな。
露出度の高いドレスでも着てみるか。いや、さすがに自治軍の反感を買われるだろうし……止めておこう。
十分すぎるほど、敵視されているが、今後の行動にも支障が出るだろうしな。
だが、どうせ囚人のふりをするのは、居住区に入るまでの短い間だし、それなり良い服を着ていたいものだな。
正直、貧乏になって、悪事も行えなくなったから、自首したなんて思われたら嫌だし。
仕方ない。少し仲間に意見を仰ぐとしよう。男衆の返答は下らないものになりそうだし。
あぁ、アルテミスとカロリーナは休眠中か。仕方ない。余り良い返答が機体できるとは思えないが。
「なぁ、クロノス! クロノス・ドルキホーテ。自首する人間ってのは、普通どんな服装をしているんだろうな?」
「うー、そうですねぇ。少なくとも、ドレスとかタキシードみたいなのは着てないんじゃないですか?」
そうだよなぁ。まぁ、期待したような答えが返ってこないのは分ってた。
だって、猫耳きぐるみにネズミ髭とか、センスの一切感じられない格好をいつもしてる女から、深慮に満ちた回答が来るとか……私は、何を期待しているんだって。
あぁ、クロノス。お前中々に綺麗な体つきと顔なんだから、もう少し服装とか装飾品に気配れよぉ。
頭を抱える私に、何で溜息をついているのか本気で分らないというような、クロノスが疑問に満ちた視線を向けてくる。
「ねぇ、何でクリミア様うつむいてるの?」
恐らく、頭一杯に嵐の如く疑問符が渦巻いているのだろう。やはり、ずれた女だ。
胡乱な眼差しを向けていたのも一瞬。彼女はすぐに趣味である読書にいそしむ。
できればガールズラブとかは見ないでほしいものだ……
しばらくすると、私の憂鬱な雰囲気を察したのか、ハルが私のほうに顔を向け、声をかけてきた。
「いやぁ、クリミア姉さんなら、囚人服でもやばいほど似合いますので、大丈夫っすよぉ! ねぇ、ジギンドさぁん」
「ハルの言うとおりだな。お嬢に囚人服とか、相当にエロいぜ」
どうやら私を慰めているつもりらしいが。ジギンド、ハル。お前ら両方死刑だ。
っていうか、年功序列が適用されているわけでもないのに、ジギンドに敬称付けとか、お前なめてるとしか思えん。
盛大に、今日何度目かの嘆息をしたあとだった。
地球軍所属の宇宙船が近づいてきたときに発される、警戒音が響き渡ったのは。
まだ、15分も経っていないはずだが。私は訝しがり思案気な表情を浮かべる。
2秒程度経って、ソナーを確認したハルの声が響く。
「クリミア姉さん。どうやら、相手さん相当調子乗っちゃってるみたいっすねぇ」
「結局、何の準備もできなかったか……ってか、馬鹿か。大馬鹿なんだな。戦艦20台でメフェルゾメアに挑むだと!?」
もともと、信じきっていたわけじゃないが、1隻で来るとか言っておきながら、艦隊を組んでくるとはな。
しかも全てが戦闘艦。どうやってこの短時間で用意したのか分らないが、交戦の意思があるのは明確だ。
なるべく、ことを荒立てずに進めたかったのだが。やれやれだな。
私達メフェルゾメアは、全員一騎当千と呼ぶにふさわしいハイアドント(高位異能者)。
余り良い装備を与えられない、辺境部の戦艦20隻など、敵ではない。
どうやら実戦経験が少ないガルガアース宇宙区の軍隊は、彼我の戦力差など理解できていないようだ。
こうなったら派手にドンパチやって、船を奪い取るほうが良さそうだな。
分り易い。実に好みだよ。力を持ったからには、振るえる時に振るえってな。
後悔しろ自治軍共。セオリー通りにしておけば良かった物を……
そう、私が戦意を固めている時だった。敵側が私達の船に、直接アクセスしてきたのは。
「やぁ、諸君。我々は、君達の殲滅をすることを決めたよ。世間ではずいぶんと名が通ってるようだが、どうせ、小悪党と見逃されてきた口だろう? 本気で殲滅しにかかれば、君達程度何の障害でもないはずだ。我らが栄誉のために、宇宙の残骸となってもらおう。メフェルゾメア諸君!」
自信に満ち溢れたねちっこい男声。自治軍のリーダー格らしい。
稚拙な宣戦布告。あぁ、下らない。言いたいことはそれだけか雑魚が。勘違いもはなはだしいだろう。
そんな逃げ足だけの小悪党なら、10年以上も活動なんてできてねぇんだよ。分った。
そんなに功を焦って死ぬのが望みなら、その通りにしてやる。最早、何も言う必要はない。
私たちは無法者だ。怒気の篭った声で、私は部下達に命令を飛ばす。
「ハル、オデッサ、ジギンド! 私とクロノスが宇宙外戦闘の準備を終了させるまで、時間稼ぎを頼む!」
「イエッサー!」
私の声に呼応するように、男衆三人が、了解の声を上げる。
普段は眠ったように、何もしゃべらないオデッサだが、戦時となると饒舌だ。
基本的に恥ずかしがりやで、いつも全身を衣服で覆っている男だが、彼には戦闘狂で有名なアルスカ星人の血が流れている。
戦時においての判断力は凄まじく、はっきり言って饒舌だけが取柄の男衆で一番頼りにできる男だ。
決して上背があるわけではないが、筋骨隆々とした彼の背中を見やりながら、私はクロノスを引きずり更衣室へと向かった。
「ちょっちぃー、クリミア様あぁー! 今良い所なのにぃ」
「すぐ終わるから、薄い本は後でな。デザートだデザート……」
クロノスは基本的に戦闘が嫌いだ。いや、正確には死んでも趣味を優先したいという、狂気の持ち主なのだが。
そんな面倒なやつは放っておいて、休憩中の違うメンバーを使えば良いのでは、と思うだろうがそうもいかない。
我が艦のベッドは欠陥品で、対象が眠りにつくと決まった時間まで、どうしても起こせないようになっているのだ。
残念ながら、近いうちに目を覚ます予定の者はいない。一番早い奴で、あと30分は眠り続けている状態だ。
彼女とて弱くはない。むしろ、戦線に出れば化け物に等しい女だ。
正直、旧型20など、今いる面子が本気になれば10分程度で殲滅できるだろう。
すぐに終わるという旨を私は、クロノスに筋道立てて伝える。彼女は納得したようにうなずき、本をポケットにしまう。
そして、笑顔を作り言った。
「今日のデザートは、クリミア様かなぁ? それともアルテミスさん?」
あぁ、だからやっぱりガールズラブとか読んで欲しくないんだ……
全く緊張感のないやり取りをしながら、私たちは宇宙服に着替え、船外へと出る。
周りを見渡すと、目視できる距離に10数隻程度、船の残骸が見えた。
「思った以上に容易く済みそうだな。ははっ」
思わず冷笑が漏れる。
幾らなんでも、少し弱すぎないかお前ら——
End
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