ダーク・ファンタジー小説
- Re: 蒼色の殺し屋 ( No.2 )
- 日時: 2012/04/22 13:51
- 名前: 牛鬼 ◆ZdPdHqmtMA (ID: wxv5y7Fd)
ー壹章ー
裏と表は決して交えない______
ふと椎也はクラスメイトの話に耳を傾けた。
「聞いたか?また蒼色の殺し屋が能力者を狩ったらしいぜ」
「ああ、俺能力者だし気をつけなきゃな」
「大丈夫だ、お前みたいな三流な能力者なんて殺しに来ない」
交えさせてはならない______
椎也は彼らの話に傾けていた耳をイヤホンで塞いで机に突っ伏した。
椎也は表では、ただの高校生その一として暮らしている。
しかし、裏では能力者として日夜能力者との死闘を繰り返していた。
表の人間を裏の世界に巻き込みたくない、絶対に巻き込んではならない。
そう考えた椎也は、自身が能力者であることを高校では秘密にしていた。
平凡な暮らしを守る為にも、裏と表を交えさせない。
表の奴らを絶対に裏には引き込まない。
絶対にな。
でも、もしも巻き混んでしまったら……。
……いや、力尽くでも巻き混ませない!!______
「雨宮君っ」
突然背中に重たい衝撃が加わった。
椎也は何事かと振り向くが、無意識に殺気を放っていたらしい。
椎也よりも、冗談で椎也の背中を拳で殴った本人、天文部の仲間の桐原柑奈が驚いていた。
「ごっ、ごめんね、冗談のつもりだったの…」
戸惑う柑奈。
何処かホッとした椎也。
「いや、悪い、ちょっと考え事をしてて少し驚いただけだ」
柑奈は首を傾げた。
「少しって言うか、尋常じゃない驚き方だったけど…」
柑奈は少し考えると、真面目な顔で椎也に疑問をぶつけた。
「もしかしてイジメられて…」
「ない」
「即答…、でもそうだよね、雨宮君イジメられてる所想像できないもの」
笑いながら柑奈はそう言った。
「とりあえず向こう行ってろ」
シッシッと手で払う動作をして、再び椎也は突っ伏す。
「でりゃぁっ!!」
教室中に響く声と共に、再び椎也の背中に重たい衝撃が加わった。
「なんなんだよ桐原」
「天丼だよっ、お笑いの基本」
笑顔で話す柑奈に、椎也は呆れて要件を聞くことにした。
「…で、なんの用だ」
「今日の夜の約束忘れてないかな?」
「なんだったか?」
「どぼけてるでしょ、考えてすらないじゃん」
柑奈は一瞬ムッと顔を歪めた後、約束について語り始めた。
「天文部の天体観測、今晩だから。先週言ったよね?」
「………ああ、あったな」
椎也は億劫そうに肘をつき、窓辺を見る。
「もう三年だし、天体観測行けるのも限られてるんだよ?」
椎也の興味のなさそうな態度が不満だったのか、柑奈はまた顔を顰めた。
そうだった、気がつけばもう三年か______
「わかったよ、行くよ」
億劫そうな言い方に柑奈は再び顔を歪めた。
「わかりました、行かせてもらいます、行かせてください桐原さん」
その言葉は棒読みながらも、柑奈は満足気な顔をした。
「それでよし」
******
放課後、午後五時。
椎也は約束通りの時間に荷物を持って、待ち合わせ場所である裏山の麓にある神社の境内にたどり着いた。
蜩の鳴き声が境内中を響き、意味も無く空虚な気分にさせられる。
「雨宮君ちゃんと来たかー、偉い、よくできました」
小馬鹿にするような口調でやって来たのは柑奈だった。
柑奈は新入部員の一年生三人を引き連れやって来ると、辺りを見渡した。
「あれ?二年と馬博は?」
「まだ来てない」
椎也が億劫そうな表情を見せたら柑奈はまた顔を顰めた。
「そんな顔しないの、めっ」
一年生達はいつも通りの二人のやり取りを見てクスクスと笑った。
それから五分後。
石橋馬博と二年生が待ち合わせ場所に到着して、天文部一同は天体観測をするために裏山を登り始めた。