ダーク・ファンタジー小説

Re: 蒼色の殺し屋 ( No.3 )
日時: 2012/04/22 13:51
名前: 牛鬼 ◆ZdPdHqmtMA (ID: wxv5y7Fd)

ー貮章ー

雨宮椎也は産まれた時から能力者であることの運命を背負って生きてきた。


能力者は能力者を殺すことで力をより強力な物とすることができる。

つまり、能力者は能力者を殺す側であり能力者に殺される側にもなるのだ。

それは雨宮椎也にも言えることである。

中途半端な能力しか持たない能力者は殺しても何も変化は無いが、椎也の様な産まれた時から強力な能力を持っていた能力者は、能力者達の格好な標的になっていた。


ある日まだ椎也が幼かった頃、椎也の両親は椎也を手放した。

能力者に狙われ続ける日々に嫌気がさしたのだろう。

その後椎也は、能力者の子どもが集まる孤児院に引き取られ、中学を卒業するまで孤児院で育った。

孤児院で暮らしている間も、度々能力者と接触し、死闘を繰り返して来た。


中学を卒業する頃になると、椎也の能力は強化され、強力な物となり能力者との戦闘に苦戦することは少なくなると同時に、この頃から椎也は能力者達の間で、能力で水を操る姿から『蒼色の殺し屋』と呼ばれるようになった。


やがて高校生になると、孤児院を出て自立して一人暮らしを始め、高校では自身が能力者であることを隠して過ごした。

極力誰とも関わらないように。


「相変わらず退屈そうだな、雨宮は」

石橋馬博が皆から少し離れた場所で一人黄昏ている椎也に缶コーヒーを投げ渡した。

「皆ではしゃいだりするのはあまり好きじゃないんだ」

そう言うと椎也は缶コーヒーの蓋を開けコーヒーを一口飲んだ。

馬博は椎也の隣に座り、星空を見上げた。

「星ってさ、星によっては地球が産まれるずっと前の光を今俺たちは見てるんだぜ? 何かロマンがあるよな」

椎也はドヤ顔で語る馬博に呆れ顔で言った。

「それお前から何回も聞いた」

椎也はやれやれ、と言った顔でため息をつく。

「そ、そうだったか?悪いな。じゃ、じゃあ俺あいつらとダベって来るわ」

馬博は変に笑いながら足早に柑奈達の元へ戻って行った。


今見ている星の一つ一つにら名前が付けられている。

正直どれも同じにしか見えないがな。

先人は千とある星の一つ一つに名前をつけていった。

「よっぽど暇だったんだろうな」


そして——仰いだ星空から視線を暗い山道へと戻す、その瞬間。
鋭利に大気を切り裂く、風羽の音がして。

グサリと言う何かが刺さる重たい音がした刹那、椎也の肩に激痛が走った。

肩に手をやりながら確認すると、焔を帯びて赤く光るボウガンの短い鉄の矢が突き刺さっていた。


矢に炎を帯びさせるなんて荒技、常人では到底不可能、と言うことは能力者だ___


椎也は矢を抜き捨て、出る限りの大声で叫んだ。

「逃げろ!!能力者だ!!」

柑奈達は振り向いたものの、キョトンとしているだけ。

しかし次の瞬間、柑奈達は状況を把握した。

椎也の背中に赤く光る矢が突き刺さったのだ。

椎也はフラつきながらも鬼の形相で声を張り上げた。

「何モタモタしてやがる!!早く山を下って逃げろ!!」

柑奈達は戸惑いながらも椎也の剣幕に押され、走って山を降りて行く。

椎也はそれを確認すると、先ほどの表情からは考えられない程不気味にニヤけた。

「さて、お荷物も無くなったわけだし。反撃と行こうか?」

椎也は背中に突き刺さった矢を躊躇せず荒々しく引き抜き、能力で矢を氷結させ、ダーツのように飛んで来た方向へ投げるが、焔を帯びた矢に弾かれ地面に落ちた。

「隠れてないでさっさと出て来いよ、それとも俺から殺しに行くか?」
椎也が殺気を放つと、両手にボウガンを持った筋肉質な大男が暗闇から姿を表した。

「一人で俺を殺しに来たのは自殺か何かか?」
椎也の挑発に大男は両手のボウガンを構え、矢を放つ。
「その身体つきでショボいボウガン使ってるのか?」
馬鹿にするような口調で相手を挑発しながら、椎也はいとも簡単にボウガンの矢を避け、挑発を続ける。

大男は挑発に乗り、ボウガンを捨てて吠える様に大声で叫びながら拳に火を纏わせ椎也に殴りかかった。

椎也は柑奈とは比べものにならない重たいパンチを軽々と受け止めると、自分の体の倍ほどある大男を背負い投げで投げ飛ばし、無数の氷の刄を生み出して追い討ちをかける様に大男を斬り刻んだ。

立ち上がろうとする大男から距離を取り、再び無数の氷の刃を飛ばすが、今度は大男が吐いた炎で届く前に無くなってしまった。


「退屈だな、もう終わらせるとするか」



椎也は腕を刀の形に凍らせ、大男が懲りずに吠えながら殴りかかって来るのを、右腕の氷の刀で心臓を貫こうとした瞬間。

目の前で大男の巨大な体は頭から縦に真っ二つに割れ、真っ二つに割れ行く胴体の影からは、輪郭が筆で書かれた様な現実味の無い一振りの刀を右手に持つ黒い長髪のスーツを着た十八九歳ほどの女が現れた。


「全く使えない単細胞ね…。あんな挑発に乗って、作戦が台無しじゃないの……」

冷酷な言葉を大男の死体に吐きかける女は見惚れる美しかった。

腰まで伸びた艶の良い黒髪、吸い込まれてしまいそうな黒い瞳、スッキリとした首筋、ふくよかとは言えないが程よく膨らんだ胸、透き通る様に白い肌。

彼女の完璧と言っても良い美貌は恐らく世の男性を虜にするのでは、と思うほどである。


こんな状況で無ければな___


椎也は頬の男の血液を拭い取り、右腕の氷刀を彼女に向けた。

「乙女に刃を向けるの?貴方にはプライドとかそういう物は無いのかしら?」

女は向けられた氷刀には全く動揺せず、それどころか不気味な笑みを浮かべている。

「黙って殺されろ、と?」
「できればそうして欲しいけれど……そういう訳にもいかないんでしょう?」

女は溜息を吐くと、どこからともなく筆ペンとレポート用紙を取り出して何やら書き始めた。

「遺書でも書く気か?」

椎也の言葉に女は鼻で嗤い、大男に視点を落とす。

「私はこの単細胞みたいに挑発には乗らないわ」

「そうね、これは遺書ではなくて……」

女は書き上げたレポート用紙を破り取り、筆で書いた面を椎也に向けて見せた。

行書で書かれている為、読みづらいがレポート用紙には確かに『爆煙』と書かれている。

「じゃあね、蒼色の殺し屋さん」
女がそういうとレポート用紙から大量の煙が吹き出し、辺りは忽ち煙に包まれ、女の姿は煙の中へ消えた。