ダーク・ファンタジー小説
- Re: 白黒物語—モノクロストーリー— ( No.19 )
- 日時: 2012/12/13 18:52
- 名前: 名純有都 (ID: ty0KknfA)
…私が「大根おろし」に持っている見解。絶対、本気で摩れば痛いはず。
コメディ気味。推理が少し入ります。
第三章 Imitation and conflict
(模倣と葛藤)
「……かくかくしかじかで、ってことがあったんですよ」
「かくかくしかじかで伝わるかどうかが疑問なんだけど、このドアそういうこと?風が入り込んできて寒いし」
「そっそのえっと、それはさておいて!それもこれも、報告書も、兎に角頑張ったんですよ、私達!」
「主に俺だけどね。報告書も結局手伝ったし」
「リョウさん、あんたは黙ってて下さい」
「さておくなよ。ていうか無視かお前ら」
エージィが疲労困憊の形相で中枢から帰還し、“シュヴァルツ・クロウ”に知らせを手土産に訪れたところ、リョウとヘイリアら「お留守番」組に昨晩あったことをおもいおもいにまくし立てられた。
部屋の様子は、まるで空き巣が入ったかのごとき有様である。ドアは蹴破られたかと思ってしまうほど真ん中だけぽっかりと穴があき、冷たい風が吹き込んでいる。棚や机が傾き、なんというか地震の後の様な汚い室内を見てエージィは呆れたのと、さらなる疲労を混ぜた溜息をついた。
やれ「模倣犯」だ、やれ「ドアの破壊は致し方ない」だ、「ちゃんと注文しなおしました」だのといいわけが飛び交い、発言権はすっかりエージィにない。
「部屋がぐっちゃなのも他意はないですよ。犯人がちょっと激しかったんで道具を投げつけるつもりで鈍器漁ってただけで……」
ヘイリアが苦し紛れに理由をこぼす。まず投げつけるつもりというのが予想の斜め上をつらりと滑る。こいつかこの空き巣のような部屋の犯人。というかいやまて、犯人昏倒させる気まんまんだったのか。
「……お前のことだからこの隙に金目のもの盗って売っぱらうのかと」
「失礼な!エージィさんもブロンズの像の一つや二つ置いといて下さいよね。杖があってよかったですけど、もしなかったらインクぶちまけてましたよ」
リョウが生温かい目でヘイリアを見た。
「もっと危険なことしようとしてただでしょ。ヘイリアの持ってた「大根おろし」、力いっぱい「摩り下ろし」たらたぶん刃物真っ青な大怪我だと思うよ」
「………ああ、アレか。誤って自分の手ごとダイコン摩ってしまった時のあの激痛を覚えてるぞ。おいまさかヘイリア、アレでいざというときは対抗しようとしたのか」
「他にめぼしい武器なんてないわ。アレ以外に、絶対的な精神的ダメージと身体的なダメージを与えられる護身道具あります?えげつないうえに、ためらいなく力を行使できるという見た目の抵抗のなさ。刃物なんかよりずっといいわよ」
ハッ、とヘイリアは鼻で笑う。…とても事務的かつ打算的な見解だが、だからこそとんでもなくエグイ。そしてその局面でよくそこまで冷静に相手をいかに痛めつけるか考えたものだ。女は怖い。エージィは心底、この理系女子が恐ろしいと思う。
「———しかし、なぜあの男、白き悪魔(ブラン・ディアブロ)をまねようと思ったのでしょう」
足を組んで、ヘイリアが眉をひそめた。もっともな疑問だ。人間の精神論だのという問題ではなく、時期がおかしい。そう、今までなぜ模倣犯が出なかったのかというのも問題なのだ。
普通、ここまで人々の関心と恐怖と好奇の目線を集める事件があれば、必ず彼女に魅せられるかなにかしてその残虐的な犯行を真似しだす者が出始める、そのはずなのだ。
しかし、そのようなことは最初の事件来に全くない。信者はいるだろう、しかし殺人事件において人の目を引く白き悪魔のような特例は、なかった。皆無である。
たとえ彼女がいたるところで囁かれるその「催眠」を画面越し、声越しやその他諸々の手段でかけたとしてなぜこの瞬間にその模倣は起きたのか。
「…可能性は————まあ有力なのは白き悪魔が意図的に催眠をといた、ってのだろうな」
エージィが判断しかねる表情で述べる。彼は鎌首をもたげた探究心を、理性でそっと沈めた。
「エージィさん、まだ沢山あります。今までの白い悪魔が進出して以来、彼女のように完全な犯罪を行った、とか!きっと、周りに露見しないようにすることくらいできます」
「んなわけあるか。そもそも白い悪魔は『露見させること』を目的にして活動しているんだから、心酔してるやつならそこをまず取り上げて、結果すぐにお縄につく。模倣犯は、だから普通より簡単に捕まるんだ」
「うぐ、確かに。……じゃあ、あたしたちが見ている風景が、全部白き悪魔の催眠によってつくられたパラレル、とか」
「催眠に可能なのは瞬間的な記憶の塗り替え程度じゃないか?まさかここにいるのも幻想なら、俺は今すぐここからバンジーするよ、命綱なしで」
「……うう゛」
ヘイリア、撃墜。リョウは敗戦兵のごとく床に倒れる彼女に合掌した。
エージィは容赦なく「甘い」と笑ってリョウに振り向いた。
「さて、リョウ。お前の考えはどうだ」
「待ってましたー」
緩やかにリョウは口角を上げた。ずっと言いたそうな顔をしていたが、ヘイリアの無茶な案もなかなか面白い。エージィは、探偵業は専門ではないが思考回路は実に探偵に向いた、彼の答えを取っておいたのだ。
「……たぶん、これは白き悪魔にも予想外なことであるんじゃないかなぁ。このこと、まだ知らないはずだよ、あの殺人鬼」
「なるほど?つまり、お前の言いたいことは何だ?」
いつの間にからんらんと瞳を輝かせ、ヘイリアがリョウを見つめていた。
「そりゃあ決まってます。
——————第三者です。何者かが、白き悪魔によって抑えられていた
催眠効果を無視して模倣犯罪を誘発させたんだ」