ダーク・ファンタジー小説

Re: 白黒物語—モノクロストーリー— ( No.2 )
日時: 2012/11/09 15:56
名前: 名純有都 (ID: SfeMjSqR)

【そして白は挑み】

【やがて黒は応ず】

【決して相容れぬ】

【互いに持つ色は】


第一話 一章 white dyed bright
(白は眩しく染める)

 頭が痛い。
白き悪魔(ブラン・ディアブロ)の話題は今のエージィ・トラキアにとって唐突の悩みの種となった。忘れていたころにやってくる。なんてはた迷惑なやつだ。

 今は丁度、白き悪魔の出没に居合わせた知人からのメールでの報告だった。
 小さい探偵事務所で、久しく穏便に調査報告書を書き終えのんびりしていた時だった。

《黒の断罪(ノワール・ギルティ)に告げなさい。私はあなたの大切なものを奪う。そしてこの街も消す》

「……宣戦布告された」

「はぁ?」

なんだよ、という顔で同僚に睨まれるが、エージィは放心したままうな垂れた。

 美しい女の殺人鬼。
白き悪魔が「ヴァロック・シティ」に出没しはじめたのは、黒の断罪という二つ名で呼ばれ始め、数々の盗難を防ぎ始めたころからだった。実際のところ、めったにエージィの本名は公開されていない。二つ名ばかりが有名である。(二つ名は、名前負けするのでとてもこっ恥ずかしい。)

 「探偵」のエージィに合わせての登場と、その道化の様な恰好から、ただの「怪盗」かと思わせた。しかし、それはとんだ間違いだったのだ。

 初めにエージィと白き悪魔が接触したのは、彼女が惨殺事件を起こした時だった。

 盗難事件ばかりを起こしていた時は、「連続盗」ぐらいのニュースだったが、殺人ともなると話が違う。

 腹部を鋭利ななにかで切り裂かれ、肺を引きずり出された死体。

 そしてその中の、血まみれの白タキシード。

 その中に輝きを著しく放つプラチナブロンド。
 血に同化する、鈍い赤。
 そして、凄絶(せいぜつ)な美貌。息をのむ程の、作り物めいた美女だった。美しさを超越すると人は性別をなくす。彼女も普通にしていれば男か女かわからなかっただろうが、そのときの彼女は香り立つなにかがあった。女と、一目でわかった。

 狂気の赤と白に圧迫された自分を覚えている。
そのあとまざまざと逃げられた。その時の、白き悪魔がおいて言ったセリフを覚えている。

「負けないわ」

と。笑みさえ浮かべて、「最初の宣戦布告」をされた。そこから、黒の断罪と白き悪魔は宿敵と言う立場になる。
 そして、二度目の宣戦布告であった。脅し文句つきの。

「……もうやだ」

エージィは報告書が乱れるのも構わずデスクに突っ伏した。