ダーク・ファンタジー小説

Re: 白黒物語—モノクロストーリー— ( No.21 )
日時: 2012/12/30 20:06
名前: 名純有都 (ID: pzcqBRyu)

第五章 Judgement for you
(あなたに裁きを)



 『おつかれパーティー』と評されて単なるやけ酒が展開された後、ヘイリアは一人で暴れて一人で沈んだ。

「この馬鹿新入り、所々俺への不満ばっかし言いやがって……」

 リョウは嘆息して、そのまま眠りこけた彼女を抱き起こす。だらしない、というか眼のやり場に困るような姿勢で寝がえりをうちそうになるヘイリアを必死で押しとどめてソファに転がした。

「というか、こいつは図太すぎないか?普通、怯えて一晩は怖いって言って泊りに来るとかいう展開もあり得るだろ」

「待て待てエージィ、この顔を見てよ。まず、この男二人女一人って状況でここまで安心した顔で寝る女なんて、ヘイリアぐらいだから」

 革のソファに気持ちよさそうに寝ている彼女は、自覚がないのか図太いのか。

「それだけ信頼されてんだろ、俺ら」

「でもだからって、その信頼に付け込んで襲うほど俺らも女に飢えてないですよね?」

「まあ、な」

 そう言って、何杯目かのワインをあおる。疲れに、酔いはさっさとまわってゆく。そういえば、と揺れる思考の中で忘れていたことを思い出した。


「————そうだ、間諜だがな、中枢本部の嫌味なジジイ共の中にいたぜ」


「……へぇ、白の悪魔(ブラン・ディアブロ)、ずいぶん明け透けな策に出たもんだな」

 さして驚かないリョウに、エージィはさらに続ける。

「奴等は俺のことを良く思っていないのが多いからな。また白き悪魔のことで言われたときに、ソイツが、白き悪魔についての『容姿』のことをこぼしたんだ。
 おかしいだろ?俺以外、顔を知るものはヴァロックの街にいないはず。もしいたなら、それは内通者だ。あぶり出しが利くから、さっさと御用になった」


「そういうわけか、帰りが少し遅かったのは。で?結局、エージィの問題は解決してないでしょ。こっちも、話がどうやら嫌な方面に動きそうで不穏なんだよな」

「ああ。まだ、あのメッセージは解けていない」

「≪あなたの大切な物を奪う≫。よくわかんないね。それに、もうひとつの方もよくわからない」

「≪トラン通りの占拠≫——————そう言ったらしいが、一切動きがない。これから、とも言ったようだが、まさかダミーなんてことは————」

 脳裏に、白い姿だけが浮かぶ。白は黒があるから輝き、黒は白があるから引き立つ。—————宿敵、そうだと昔から言われていたような気がした。

「ああ、それとね、エージィ。———あいつ、来るよ。俺は御免こうむるけど、あいつがいなきゃもっと人が死ぬよな」


 不意に白き女の影が薄れて、浮かぶのは招かれざる客人だ。
—————————————————————アルフィス・ハイレン。

あの男は、間違いなく、躊躇わずに………あの女を、殺すだろう。



 では、こう思うのは罪かと、エージィは黒の断罪(ノワール・ギルティ)として思う。





 お前を殺すなら、俺が。俺が殺されるなら、お前に。


                   第二話 完