ダーク・ファンタジー小説

Re: 白黒物語—モノクロストーリー— ( No.4 )
日時: 2012/11/10 11:24
名前: 名純有都 (ID: SfeMjSqR)

二章 Fate of the dream jaded
(疲れ切った夢の末路)

 深夜。星の見えない霧深い夜。

 テトラの女主人は、「ヴァロック・シティ」随一の立派な屋敷に一人静かに暮らしている。
 彼女の行うことをただ一人の執事である彼は黙認して、血のにおいが残る豪邸で主人を待つ。
 
「そろそろ、戻る時間になりますね……」

誰に言うでもなく呟いて、はぁと嘆息する。

 美しい外見にそぐわない粗暴さが欠点である主人、レイン・インフィータ嬢の正体を、なんで僕は知ってしまったんだろう。

 唯一の後悔はそこだった。

 テトラが時計を見て、エントランスが続くドアを見やる。同じタイミングで、そのドアがきしみながら開いた。

 
「おかえりなさいませ。時間通りです」

「ただいま。これ、乾かしといて。温かい紅茶を入れて頂戴。」


 なびくプラチナブロンドを邪魔そうに払い、珍しく真紅に色づいた唇が答えを返した。いつもなら返事をせずその場からタキシードを投げてよこすのだが、今日はどうやら雨にぬれただけのようだ。手渡しで濡れたタキシードを渡された。

 彼女は、いつもなら必ずビロードでできた白いタキシードを赤く汚し帰ってくる。
 無論、血である。
 催眠術を駆使して暮らしている彼女なら、テトラのことも日常的に催眠できたはずだが、彼女は一度もテトラに催眠をかけなかった。

「今日は……何を?」

 ダージリンティーを淹れながら、静かに問うと、ソファに腰かけていたレインは薄く笑んだ。

「そろそろ、黒の断罪(ノワール・ギルティ)から逃げ続けているのも癪な物だから宣戦布告してきたの。それと、今度貴方に手伝ってほしいことがあるの」

「殺人は勘弁ですよ」

「言うわね。一般人の貴方にそんなことさせないわ。そうね……でも、この前この街の交通網には詳しいと聞いたわ」

 テトラはその意味を含ませた言葉に眉をしかめた。

「何をさせるつもりです」

「わかるでしょう、貴方は賢いもの」

 既に見当はついていた。この小さな街の機能の停止など、テトラにはたやすい。

「つまり、僕にハッキングをしろってことですか」

「話のわかる執事で助かるわ」

 そう言って微笑み、「風呂を沸かして頂戴」と言い自室に戻る背中にテトラは強く疑問を抱いた。

 これから何をするのかは言おうとしないのはわかる。彼は、無駄を承知で後ろ姿に尋ねた。

「レイン様!」

 歩くすらりとした女の後姿が止まる。



「あなたは、結局何がしたいんです?」



白き悪魔(ブラン・ディアブロ)にふさわしい冷たい笑みを残し、やはりレインは何も答えなかった。