ダーク・ファンタジー小説
- Re: 白黒物語—モノクロストーリー— ( No.7 )
- 日時: 2012/11/11 20:46
- 名前: 名純有都 (ID: SfeMjSqR)
三章 World and the white rabbit
(世界と白ウサギ)
その空間に、誰一人として口を開く物はいなかった。
「ヴァロック・シティ」の中心にある対策本部では、しばしの緊張が途切れることがない。改めて、警察幹部を招集し、白き悪魔(ブラン・ディアブロ)について協議する必要があったのだ。
そしてその円卓の中に、エージィの姿もあった。
無論、黒の断罪(ノワール・ギルティ)として、直接脅された人間として。
この事件に関連する全ての白き悪魔の事件は既にイギリスはおろか全国に知れ渡り、「ヴァロック・シティ」は別方向の知名度を博している。
おかげで観光客は減り、唯一の取り柄であった音楽までもが街から消えて行った。
そのわけは、白き悪魔についての逸話が原因である。
白き悪魔は、催眠を使うということがわかっており、しばらくして、彼女は人並み外れた聴力、脚力、頭脳を持ち合わせていることが明らかになった。
無差別殺人をするような「殺人鬼」ではないが、彼女が少しでも機嫌が悪いと無残な死に方をする被害者が多発している。
分析によれば、声や音が人よりも大きくはっきりと聞こえるために、少しでも物音がたったりするのがわかるから、だと考えられる。逃げようとすれば殺す。
「ヴァロック・シティ」には白き悪魔の歌がある。
《死にたくなけりゃ声をひそめろ
よいこは寝たふり 死んだふり
白い悪魔がやってくる
真っ白な死に装束で
真っ赤に汚しながら
けたけた笑ってやってくる
声を出したら殺される
白い悪魔に殺される
死にたくなけりゃ声をひそめろ》
「人間の節理で、それはありえなくないか」
「だが…もはやあれは「悪魔」だ。あの脚力は、尋常じゃない」
「……ビルとビルの間を、飛び蹴りの要領で登ったあれですか」
「それもだ。あとは、人衆を飛び越えたのもあったな」
エージィはかすかに苦笑した。あれは、本当にアリスに出てくる白ウサギかもしれない。そんな生易しいものではないが。
……笑っていられるのは、今だけだった。
会議中に、既に混乱は起き始めていたのである……。