ダーク・ファンタジー小説

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【1/24更新】あなたの故郷はどこでしょう?
日時: 2014/01/24 17:34
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: CR1FbmJC)

 二十三世紀、後に“地球界”と呼ばれる世界にて大発明が起こる。
 そのテクノロジーは、“ゲートシステム”と名付けられた。発見されたばかりの未知の素粒子を用いることで、異世界への門を広げる技術。そして、そのシステムは、何十という世界を発見する足掛かりとなった。
 その発明から、百年以上の月日が流れた。今では百を越える異世界が発見されている。その百年間で“地球界”から、あらゆるところに“ゲートシステム”が伝えられた。その結果、全ての異世界がお互いにリンクしあう事になった。
 “地球界”とは、私達人間が所属する世界。科学が最も進展している世界でもある。その他にも、魔導師の住まう場所、超能力者の住まう世界、モンスターのひしめく巣窟など、多種多様な異世界が存在する。
 最初は驚くべき大発明で、あらゆる人々はそれに期待の目を向けていたが、時代と共にその想いも推移していく。今となっては、誰もがそんなもの当たり前だと思うようになってしまった。丁度、飛行機で海外旅行に行くのが当たり前になってしまったように。
 いつしか、あらゆる世界を脅かすような巨大な組織が出来上がっていた。それに伴い、その者達を駆逐するための全世界にまたがる警察機構まで生まれていた。

 これは、広大な世界をまたにかける、記憶喪失の少年とその仲間による記憶探しの物語。
 真実を知ることが、いつも優しいとは限らない。


___________________________________


原案はちょっと前から出ていたのですが、イマイチ気に入るストーリーが思いつかなくて……。
ファジーで書きたいと思っていたのですが、もう既に二個書いちゃってます。
そのためこちらで書かせていただく事に。異能学園が終わったらファジーに引っ越すかもしれませんが。

冬休みの間はそれなりの頻度、それが終わったらゆっくり更新(もしくは小まめに少量ずつ更新)。

楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、よろしくお願いしますね。


第一章“旅立ち”

第一話 ようこそ、ネルアへ

>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>8

Re: あなたの故郷はどこでしょう? ( No.1 )
日時: 2013/12/30 16:24
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ybF6OwlW)

第一章“旅立ち” 第一話『ようこそ、ネルアへ』part1




 暗闇の中に溶けていく、俺が感じていたのはそんな気分だった。俺が、俺の心の中にあるものが、虚無の闇に溶けていく。詩的に比喩するなら、そんな感じの。
 目を開けているのか、閉じているのか、そもそも俺の身体は存在しているのか、それすらも分からない。夜の真っ暗闇の中で、自分の姿すらも視認できないような、あんな感じ。
 そう言えば、俺はどうしてこんな所にいるんだったっけ。何かがあったような気がするんだけれど、何が起こっていたのか思い出せない。重要な出来事だったと思うけれど、何だったっけな。
 だけどすぐに俺は気付いた。俺は、もっともっと大切な事を忘れていることに。

 ……そう言えば、俺って。


 ふと、今まで感じていなかった重みを感じた。重みというほどでもないし、とても局所的なものだ。感じたのは、自分自身の瞼の重みだったのだから。
 ああ、そうか。俺は今まで眠っていて、夢を見ていたんだと悟った。固く閉じた目をゆっくりと開くと、それまでの暗黒が嘘だったかのように、真っ白な天井が視界に飛び込んできた。
 無地の、真っ白な天井だけが視界に入っていて、他には何も見えない。だから一瞬だけ、ここはまだ夢の続きじゃないかと錯覚した。だけれど、それは確かにほんの一瞬だけのことで、一つの声が俺を現実に引き戻した。

「あ、目を覚ましましたね」

 だんちょー、という軽い声が聞こえた。何だか嬉々としているようだけれど、どうしてだろうか。
 声がした方向に目を向けてみる。目覚めてすぐなのにも関わらず、俺はハッと息を呑んだ。そこにいたのは、一人の若い女性だった。そしてその人は、とても美しかった。
 顔が、というだけではない。確かに容姿も美しく、異性受けしそうだったがその事を言ったのではない。彼女の事は何一つ知らないが、この人物からは生きている力強さみたいなものが発せられていた。その存在感が、俺に影響を与えて、一目で美しいと感じてしまった。
 黄金の髪の毛は、まるで一面のひまわり畑のような力強い輝きを放っていて、その笑顔自体も輝いていた。宝石のような青い瞳は、彼女の心の中のように澄んでいる。いや、彼女の心の事は何一つ知らないのだけれど。
 彼女は、黄緑を基調としたワンピースに身を包んでいた。頭には、一輪の薔薇の髪留めが咲いている。煌めく髪は、肩の下数センチぐらい伸びていた。

「おお、目覚めたのかい?」
「はい。ちょっとまだ寝起きでぼーっとしてますけど」

 現れたのは、シルクハットを被り、白いひげを蓄えた柔和な老人だった。ステッキを手に持っており、手品師という印象を受けた。
 団長、というからにはこの二人は同じ集団に属していて、この老人がリーダーなのだろうと、まだ重たい脳を叩き起こして必死に考える。それで、一体何のグループなんだろうか。
 格好から考えてみると、マジックショーの一団だろうか、それともサーカスとかそういった人達なのだろうか。
 どちらにせよ、助けられたという形になるのだろう。彼らに感謝をするためにも、コミュニケーションを取るためにも俺は起き上がった。その時の仕草の些細な音に彼女は反応し、こちらを振り返った。

「おはようございます」

 太陽のような笑顔だと思った。俺も彼女も何もしてないのに、その笑顔に気圧されてしまいそうになる。
 だけど、そんな感覚を必死に押し殺して、冷静なふりをして俺は返事をした。

「……おはよう。ここは?」
「ん? ここですか。ここはですね……」
「劇団“ネルア”だ。ネルアというのは“マナ界”において“極上の楽しみ”という意味を持っていて……」

 女性が話しだしたとたんに、それを遮るようにして老人は喋り出した。時折、手に持つステッキを振り回すように、大袈裟な身振り手振りを加えつつ。
 その様子を見て、金髪の彼女は呆れたような表情になった。

「まったく、団長はいつもこうなんだから」
「そして我々の理念は各世界の子供達に笑顔を届けることであり……」
「やっぱり聞いてない」

 いつもこうなるから気にしないで。彼女はあっけらかんとそう言ってみせた。
 最初に問いかけてから、この人達に唖然として、何も喋れなくなってしまった俺だったが、もう一度彼女に問いかけられて、何とかもう一度会話を続けることができた。

「私の名前はルカ。あなたは……」
「ああ、俺の名前か」

 さて、今から自己紹介を始めようとしたその時だ。俺は、さっきの夢の終わり際の事を思い出した。
 自分の表情が、凍ってしまったように硬直したのが、自分でもよく分かった。

「何だっけ?」
「えっ?」

 俺の返答に彼女は動揺する。だけれども、それ以上に俺の方が動揺していた。
 何をどうやっても、俺は自分の名前を思い出すことができなかった。

「俺って一体……誰だっけ?」

 答えてくれる人なんて、ここにいる訳がなかった。



_________________________________________


自分にしては短めな第一話。
多分、以降も一話辺りはこれぐらいの長さになります。

Re: あなたの故郷はどこでしょう? ( No.2 )
日時: 2013/12/30 21:46
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: DHMZtM4G)


 あなたの名前は? そう訊いてきたからには、この人と俺との間に接点は無い、もしくは顔だけ見知っている程度だったという事だ。それでいて、団長が自分の自慢の劇団を解説しているという事は、俺はこの劇団について元々知っていなかった。
 過去に一度でもこの団長と会っていたならば、きっとこの劇団について一度は説明を受けているはずだ。なぜなら、会って間もない俺にもこの人の“ネルア”への愛情は伝わってくるほど、彼の声には感情がこもっていた。
 そういう素振りすら見せず熱弁し続ける団長も、きっと初対面と考えるのが妥当だ。結論として、この二人は俺の事を何一つ知らない。
 一々そんな風に考えないと、この二人との関係性を明示できないことから、やはり記憶が無くなっているという事になる。そう思うと、途方もないほどのもの淋しさを感じた。
 単に記憶を失ってしまったというだけの話ではない。今まで、自分が一生のうちに辿ってきた軌跡、それを自らの頭から消してしまった喪失感。今までの自分を自ら否定してしまった、この悲しみ。それらは言葉では言い尽くせないほどに、大きすぎるものだった。

「まさか……記憶喪失ですか?」

 己の心の中で考えるのでなく、他人から言葉にして出されたその瞬間、既に俺の中で膨張していた不安が一気に弾け飛んだ。言葉を声にされてしまったせいで、もうそれは疑いようも無く、避けようもない出来事なのだ。
 何も答えられなくなった俺は、せめて肯定だけはしておこうと、ゆっくりと首を縦に振った。

「どうしよう、何も思い出せねえよ、ははっ……」

 辛うじて口からこぼれ出たのは、負け惜しみにも似た乾いた笑い声。自分の名前、どこで育ったか、何を学んだのか、そして……なぜ記憶を失ったのか。何一つ頭に浮かんでは来なかった。
 どうしたらいいのか分からず、俺とルカは沈黙の中にいたのだが、団長はそうではなかった。彼は周りを気にしない講釈を、今の今まで続けていたらしく、そのために俺達の会話など耳にしていなかったようだ。何せ、顔色がまったく変わっていない。
 そして、場の雰囲気を読むという力が欠如しているのか、彼はいきなり見当違いな提案をしだした。

「ややっ、まさか我々の劇が見たいんですかな。それならご安心を。怪我人への出血大サービスとして、無料で見せてあげようではありませんか」
「いや、団長実はこの人は……」
「ささ、怪我してへこんでいても、我々の劇を見れば一発で元気百倍です。開演まであと二時間、私達も今から会場に向かうところなので、余裕で間に合います」

 こんな時にも聞く耳を持っていないようだが、今の俺にそんなことを考える余裕はなかった。ただ呆然と、操られるがままに団長の指示を受けてベッドから立ち上がる。
 看護師さんがその様子を見て、団長に文句を言っているようだが、持ち前のマイペースな語り口で丸めこんでいるようである。俺は、ふと近くに置いてあった手鏡で、自分の顔を見てみた。
 それを見たことがきっかけになって、記憶が戻ったら良いな。そんな淡い期待を抱いて覗きこんだのだが、それはあっさりと裏切られた。そこに映っていたものを見て俺が言えたのは、「ああ、俺ってこんな顔なんだ」という呟きだけだった。
 自分で言うのも何だが、優しそうな目をしていた。だけど、茶色い瞳には生気が宿っていなかった。覗きこんだ鏡の中の髪の毛が黒くて、あの夢の中の虚無を思い出すのが怖くなった俺は、慌てて手鏡を裏返して元の場所に置いた。

「さーて、看護師さんの了解ももらいましたし、行きましょうか。えーっと……名前聞いてなかったな。そこのキミ、行きますよ」

 ほら、やっぱり話を聞いてなかった。
 だけど、そのアホらしさに少し癒された俺は、特にすべき事も見つからないのだから彼らの劇を目にしようと考えた。
 少しぐらい、この悲しみを紛らわせることができるんじゃないか。そんなかすかな思いを胸のうちに秘めて。

「ごめんなさい、強引な団長で」
「ううん……俺は大丈夫」
「そうなの。じゃあ、こう言うのも何だけど、楽しんでいってね」

 そうやって笑うルカの顔は、やはり俺の目には眩しすぎた。
 その輝きのせいで網膜が焼けてしまわないように、俺は反射的に目を背けた。何だか、目だけではなく顔全体が火照っているような気がする。
 待ちきれない様子のルカに手を取られて、俺は引っ張られる。もう既に、自己中心的な団長は歩き出しているようだ。
 確かな手のぬくもりを感じながら、俺は二人についていった。

Re: あなたの故郷はどこでしょう? ( No.3 )
日時: 2014/01/01 22:22
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: DHMZtM4G)


 俺は二人に先導されるがままに馬車に乗りこんだ。ばんえい、という種類の馬らしく、かなり大きな車を楽々とひきずることができるらしい。
 配置としては、運転手に道を示すために団長が前の方、残った俺たちが後ろの方に座っていた。席が隣のせいで、ルカとの距離が近く妙に落ちつかない。
 どうしたものかと思い、とりあえずポケットに手を突っ込んでみると固いものが手に触れた。何だろうかと思って取り出してみると、トランプみたいに薄っぺらいものだった。
 手の平サイズに収まる長方形のカード、どこにはいくつかの個人情報と証明写真が印刷されていた。

「何見てるんですか?」
「いや、ポケットに免許証が入っていて……」
「免許証?」

 その言葉に、彼女は首を傾げてみせた。なぜだか知らないが免許を知らないらしい。
 車という道具を運転するのに必要な身分証明書だと説明してみるが、イマイチピンと来ていないようだ。

「車って……馬車じゃないんですか?」
「そうじゃなくて、機械で……エンジンで動くんだ」
「エンジンって? うーん地球界の乗り物でしょうか……」
「地球界?」

 今度は俺が素っ頓狂な声をあげる番だった。そう言えば、さっきも団長が“マナ界”だとか何とか言っていたような気がする。

「えっ、ゲートの事も忘れたんですか?」
「げーとぉ?」

 そこからまたしても講釈が始まった。ゲートというのは百年前に地球界で発明されたテクノロジーなのだとか。それによってあらゆる世界がリンクしだしたのだとか。
 何だか異世界という響きがひどく新鮮で、なんだか魔法みたいな感覚だった。

「うーん……一般常識まで忘れているだなんて」
「いやいや、免許のことは覚えてるんだけど」
「そんなものここじゃあ常識でも何でもないです」

 きっぱりと彼女に言いきられて俺は肩を落とした。複数の世界をつなぐ門の存在はあるのに、運転免許証を知らないだなんて。だが、その直後不意に光明が差したような想いがした。

「……こいつ探せば良いんじゃね?」

 そこには、見知らぬ人物が映っていた。今の日付をルカに確認してみると、2372年の五月十日なのだとか。とすると、この免許の人はそろそろ五十近い年齢だろう。
 もしかしたら、この人は自分の父親かもしれない。そういう期待を抱いて、この人物の名前をよく覚えておこうとした。林道 実篤(りんどう さねあつ)。青い目をしていること以外は、地味な人物だった。

「どうかしたんですか?」
「いや、この免許証っていうのは、結構大事なものだから……。この免許を持ってるってことはこの人と俺が知り合いの可能性が高いんだ」
「そうなんですか。マナ界だったら空飛ぶ絨毯のおかげでそんなもの要りませんでしたからねー」

 さらっと非科学的なものが聞こえてきたが今はそれを気に留めないでおこう。異世界があるなら魔法の国があっても良いじゃないか。

「それにしても、この人とあなた全然似てませんね」
「うーん、だよなー」
「目の色違いますし、この人地味な割にあなたは結構整った顔立ちですからね。とりあえず親子の線は薄いです」

 躊躇なく褒めてもらったことよりも、手がかりだと思ったものが実はあまり頼りにならなさそうだという落胆の方が大きかった。だけど、やはりこの人物と自分は接点が無い訳が無い。それだけは確かだと思う。

「はあ……どうしたものかねえ」

 そんなこんなで落ち込んでいると、団長のはしゃぐ声が聞こえてきた。顔を上げてと指示されたので、とりあえず視線を上げて、窓の外を眺めてみた。
 そこには、大きな建物が居座っていた。シアター、そのような単語がでかでかと飾られている。きっとここが、今日劇が行われるホールなのだろう。

「ここが今日の会場です。さてと……私は控室に行って皆と打ち合わせをしなくては。ルカ、彼と一緒に客席に向かってください」
「はい!」

 馬車を降りると、それだけ告げて団長はどこかに去っていった。見かけの割に軽快な動きで、気付いた時には彼の姿を見失っていた。

「ルカは出ないのか?」
「はい。私は雑用とかがメインですからね。何せ加入してからまだ三カ月しか経っていませんし」
「新入りだったのか」
「はい。あれ? もしかして女優さんだと思ってくれちゃいました? 私なんて舞台に上がるほどの美貌はございません」

 そうでもないと思うけどなー。そんな独り言を心の中で呟く。声になんて出せる訳が無い。ほとんど初対面の人間にそんな事を言えるほど、俺のメンタルは強くない。
 それに、一人で見ていてもすぐに考えごとに没頭してしまいそうだから。この嫌な気分を紛らわせるために、劇に集中するためにも誰かと一緒の方がありがたい。

「さてと、間もなく開演です。楽しんでいってくださいね」

 そう言ってルカは、俺を客席へと案内するためホールへと駆けて行った。
 何だか一瞬嫌な視線を感じた俺だったが、すぐにその後を追って会場の中へと入った。
 本日の演目は“騎士と花束”。そんな看板が堂々と飾られていた。すると遠くからルカの呼ぶ声がした。早く早くと、急かしてきている。
 何だか当たりから妙な電子音を感じた俺だったが、そんな事を気にもかけずに、ルカの方へと走って行った。


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