ダーク・ファンタジー小説

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あの頃、私は確かに幸せだったのです。
日時: 2012/08/11 01:17
名前: すずか (ID: 8TfzicNZ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=25449

小説が完結しないことに定評のあるすずかですいらっしゃいませ。
とりあえずポッと思い付いたので書き殴ってみようという次第。最後まで辿り着けたら良いのですが。タイトルはこんなのですがファンタジーものです。よろしければお付き合いください。コメントやアドバイス等頂けると喜びます。

URLの小説は、ストーリーとかシリアスとかそんなものは全く無視して突き進むコメディです。

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0 ( No.1 )
日時: 2012/06/11 22:12
名前: すずか (ID: GsncfwNf)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

 報告をすると、あの人は突然私を抱きしめました。

「おめでとう!おめでとう!凄いな!よう頑張ったな!ほんまによう頑張ったな!!」

 私が大好きな(あの人が使っているからこそですが)訛りの言葉で、あの人は労ってくれました。いつでも温かい人でした。抱きしめられると、心がぽわってなります。

「く、苦しい!」
「おお、堪忍な!いやー、偉いな!ほんまに偉いな!」

 きらきらした笑顔を振りまくあの人は、笑顔なのに何故か泣いていました。

「何で泣いてるの?ひょ、ひょっとして哀しい?ど、ど、どうしよう、ごめんなさ」
「謝らんでええ!全然哀しくないで!これは嬉し泣きっていうんや!幸せすぎたり、嬉しすぎたりするとな、笑いながら泣いてしまう時があるんやで!」

 ボロボロ涙を流しながら、それでも満面の笑みで、私の頭を撫でてくれます。慌てていた心もその手のおかげで落ち着きました。嘘はつかない人だったのです。
 まだぎゅっとされたままでしたが、私はあの人の顔を見上げました。綺麗に笑って、綺麗に泣いてるあの人の、お日様みたいな金髪が視界の上半分を埋めてくれます。ほんとに綺麗です。
 名前を呼ぶと、あの人は顔を覗きこんでくれました。

「んー?何や?」
「今ね、」
「おう」
「幸せ」
「……!そうか!俺もやで!もー、ほんま可愛いなー!」
「うぎゅ」

 抱きしめる力が強くなって、思わず息が漏れました。それに気付いたあの人は、慌てて手を緩めます。ほんとのことを言うと、もうちょっとぎゅーっとして欲しかったのですが。

「じゃあお祝いやな!お金はあんまないけど、今日は奮発して美味しいもん食べよな!」
「うん!これからは私ががんがん稼ぐから心配しなくていい!」
「それは頼もしいわ!」

 顔を見合わせて笑い合いました。もう一度、名前を呼びます。

「どした?」
「ありがとう!今からたくさん恩返しする!」
「おお!期待してるで!」

 あの頃、私は確かに幸せだったのです。

1 ( No.2 )
日時: 2012/06/21 21:52
名前: すずか (ID: WylDIAQ4)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

「あー、着いた着いた」
「かナり遠かっタ」

 マヴァル大陸の東半分を治めるイルガ国、その最東端に位置する辺境の町『ラベル』。貿易商団護衛の依頼を受け出発してから3日間、ようやく目的の地に辿り着いた。レーグとユズハは大きく伸びをする。レーグの背中に担がれた大剣が、ガチャリと音を立てた。

「ああ、レーグ殿にユズハ殿、ありがとうございます。無事にたどり着けたのもお二人のお力があってこそです。少ないですがこれを」

 商団のグループを代表して、恰幅の良い男性が二人に向かって礼をする。手にはいくらか金貨の入った袋。

「いえ、それは頂けません。まだ依頼は完了していませんので。無事に城下まで送り届けてから受け取らせてもらいます」
「貰っテおけばいいのニ」

 後ろでボソリと呟くユズハに拳骨をくれてから、レーグは商人へと向き直る。

「ところで、何故こんな田舎に?」
「いや、ここの町で生産が盛んである薬草が、近頃城下でじわじわと人気を広げていましてね。今のうちに買い込んでおこうと」
「成程。では、一度解散しましょうか。その方が其方も行動しやすいでしょう。集合は、明日の……そうですね、早い方が良い、5時半にでも」
「分かりました、それまでに商売を済ませておきます」
「お願いします。ではまた後ほど。ユズハ、行くぞ」
「どコに」
「……特に決まってない」
「使えナい奴だ」

 遠ざかる2人の後ろ姿を眺めながら、商人達が呟きを漏らす。

「若いのにしっかりした騎士様だ」
「そりゃあ、騎士様なんだからしっかりしてるだろうよ」
「全くだ。あの傭兵の嬢ちゃんも、可愛らしい見かけによらず、えらく手錬だったな」
「ビースターは見かけによらんってのは本当だな。よし、こっちも行くぞ」




「暇ダ」
「知ってるよ」

 焼き林檎を齧りながら、ユズハが無表情に呟く。髪と同じ色をした赤い毛並みの尾が、ばさばさと地面を叩く行動はユズハが不機嫌なことを示すものだ。そのことをレーグが知ったのは、つい一月ほど前の話である。その尾と、頭のピンと尖った狐の耳が、行き交う人々の目を引く。城下ではビースターなど珍しくもないが、ラベルには滅多に見かけないようだ。そもそも、ユズハの場合は見栄えも良いので、耳と尾が無くとも視線は集中するだろうが。
 
 ビースターと呼ばれる種族がこの大陸に渡来してきたのは、僅か20年ほど前の話である。背丈や姿はほぼ人間と変わらないが、獣の耳と尾、そしてそれぞれ一風変わった特技を持つ彼等を、マヴァル大陸の人間はそれほど大きな混乱もなく受け入れた。それこそビースターが拍子抜けするほどである。元々温厚な性質であり、宗教による偏見なども無かった事が幸いしたのだろう。また、彼等の持つ特技がどれもこれも非常に役立つことも理由の一つだ。以後、ビースターはマヴァル大陸に住み着き、人間と共に、至って普通に暮らしている。
 そんな種族のユズハも、勿論変わった力を持つ。今、ユズハの手にある林檎が焼き林檎へと姿を変えたのも、その力のおかげだ。その攻撃的な能力と、元々備えていた高い身体能力を生かし、ユズハは傭兵として生計を立てている。

「あんなこと言ったが、日没まですることねぇな……」

 そして、ユズハと契約を結んでいるのが騎士レーグ。一目見ただけでは端正な顔立ちをした、線の細い青年としか思えないが、その実騎士団でも密かに注目を集めている、期待の新人である。愛用の武器は両刃の大剣。
 騎士団と傭兵団、違いはさほどない。依頼先が国か国民か、あとは騎士になると当番制で回ってくる城下の警備ぐらいか。それ以外は大して中身は変わらない。勿論、国家公認である騎士団の方が、依頼料は高額。騎士団に加入するには実力試験があり、受かることはかなり名誉なことだが、堅苦しいイメージがあるようで、楽々と試験に受かる実力者が傭兵団に居座る、といったことも多い。その結果、全体としての戦力差はそれほどない。無論、傭兵団の方がムラッ気があるが。
 
 騎士と傭兵が行動を共にする姿は、イルガ国では自然に見かけるものになっている。その方が、依頼をこなしやすいからだ。騎士が持ち寄った依頼をパートナーの傭兵とこなす、またその逆の光景も極普通に見られる。正式な契約としては、騎士が傭兵を雇うということになっているが、特に主従関係が発生することはなく、それこそパートナーの体で依頼をこなす。勿論、単独で依頼をこなすこのもアリだ。これが、今のイルガ国の傭兵と騎士であり、おおよそ関係は良好といえる。

「林檎をもう1ツ食べタい」
「俺も食いたい。ついでに買ってやる」
「ふとっパら!」
「どこで覚えたんだそんな言葉」

 意味が分かっているのだろうか、と疑問に思いつつも、目の前の果物屋で再び林檎を購入する。購入ついでに、暇を潰せる場所がないかと店主に聞いてみた。

「暇潰しですか?そうですねえ……騎士様なのでしたら、そこの路地裏にある鍛冶屋とかはどうですかね」

 店主が指差す先に、細い路地が見える。人一人がやっと通れるぐらいだろう。

「鍛冶屋ですか」
「ええ。若いのに、かなり腕が良いと評判みたいですよ」
「へえ、それは。ありがとうございました、行ってみます」



 林檎を齧りながら歩くこと数分、二人は目当ての鍛冶屋にいた。店内は整理整頓はされているものの、全体的に煤けている印象を与える。鍛冶屋だからしょうがないものではある。ユズハがきょろきょろと店内を見回すが、人の姿はない。

「人、いナいのか?」
「看板は開店だったから、必ずいるはずだが……すみません、誰かいますか?」

 レーグが少し声を張り上げると、奥にあった机の影から、一人の人物がむくりと起き上った。

「……らっしゃーせー」

 酷くしゃがれた声で眠たげに返事をしたのは、声とは裏腹に整った外見を持ち、頭にごついゴーグルをした若い黒髪の青年だった。

2 ( No.3 )
日時: 2012/06/19 23:33
名前: すずか (ID: sD26PePp)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

 レーグとユズハを目に入れると、青年は軽く目を見開いた。しかし、それは一瞬のものであり、直ぐに元の無表情に戻る。

「……えらく若いお客さんやな」
「お前ガ言うノか」

 ユズハの言い分ももっともではある。青年は、20歳のレーグどころか、17歳のユズハと比べても大差が無さそうな見目をしていた。まず間違いなく成人はしていない。女性のように細身の身体は、作業着に着られているようだ。そのせいか、益々無骨なゴーグルが目立つ。
 そんな青年は、ユズハの言葉に何の反応もしない。よっこらしょ、と外見に似合わないしゃがれ声を出しながら立ち上がり、2人のもとへとやってくる。

「しかも騎士さんにビースター。何ちゅーレアな組み合わせや」

 その言葉に、今度はレーグが目を見開くこととなった。

「……何故分かった?」
「ん?いや、ビースターとか見れば一発ですやろ」

 青年は、きょとんとした顔でユズハを指差す。ユズハは指を指されるのが嫌なのか、青年を少し敵意のある目で睨む。

「そっちじゃない。どこで俺が騎士だと判断した?」
「ああ、そっち」

 得心したように、青年が頷く。そして、今度はレーグの背中の大剣を指で示す。

「鞘に彫ったる紋様。その紋様は騎士の証やないですか」

 大剣を収める鞘には、竜と剣をモチーフにした紋様が彫られている。青年の言うように、それは騎士の資格を得た者が、入団の際に証として付けられるものだった。

「……よく知ってるな。その通りだ」
「鍛冶屋やるなら常識ですわ。ほら、その剣貸してください。整備でしょ?」
「お前がやルのか?店主ハ?」

 さっきの指差されがよほど癪に障ったのか、仕返しとばかりに棘のある言葉をユズハが飛ばす。青年は表情をまったく変えずに、さらりと答えを返した。

「俺が店主や」

 再び驚かされたレーグだったが、とりあえず大剣を青年へと渡すことにする。大剣を受け取った青年は、様々な角度から大剣を眺め回す。

「ええ剣すね。1時間ぐらいかかりますけど、構わないっすか」
「ああ、宜しく頼む」

 一度大剣を机の上に置き、店の奥へと青年が消える。レーグとユズハ、近くの椅子に腰かけた。ユズハがつんとそっぽを向きながら腕を組む。尻尾がぱたぱたと動いているので、機嫌が悪いようだ。

「マナーのなっテない奴ダ」
「ユズハも大概だがな」
「……この国ノ敬語は難しスぎる」

 そうぼやくユズハに、苦笑する。ぼやいている割に、ユズハの言葉は敬語をできないことを除けば中々のもの。レーグも初対面では舌を巻いた。

(……しかし)

 暇になって尻尾の毛繕いを始めたユズハを横目に、レーグは物思いにふける。内容は、あの青年について。色々と不可解な点があるのだ。5分ほど考え込んではみたが、結論は出なかった。

「……まあ、本人に聞くか」
「何の話ダ?」

 思わず漏れ出た独り言に反応し、ひょこりと顔を上げるユズハに説明をする。

「あの鍛冶屋の店主なんだがな」
「俺が何ですか」

 噂をすれば何とやら、整備用具を抱えた青年が戻ってきた。間の悪さに思わずビクリとしてしまったが、気を取り直して質問する。

「貴方にいくつか聞きたいことがある」
「キルでええですよ。貴方とか言うんめんどくさいでしょ」

 キルと名乗った少年は、整備用具を机の上に並べ、大剣を膝の上に乗せる。整備用具の中から布を手に取り、刃を磨き始めた。

「ならばキルと呼ばせてもらう」
「どうぞ。ほんで、何です?」
「キルは騎士だったのか?」

 その問いかけに、キルは切れ長の目を伏せたまま答える。

「……どうしてそう思うんです?」
「そのゴーグル」
「はあ。これが何ですか」

 指摘をされ、キルは一瞬だけ視線を頭上のゴーグルに向ける。くすんだ茶色のゴーグルは、煤によって所々が黒になっていた。

「それは、騎士の中でも唯一竜騎士のみが与えられる、飛竜用のゴーグルのはずだ。かなり貴重な代物であるそれを、何故辺境で鍛冶屋を営むキルが持っている?」
「……姉の形見ですわ」

 表情を全く変えず、キルはそう答えた。


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