ダーク・ファンタジー小説

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影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜
日時: 2016/06/12 14:49
名前: RINBYO (ID: jV4BqHMK)

参照1000感謝です! ありがとうございます!
皆様に読んでもらえていると思うと、こんな未熟者の作品を……と、なにやら恥ずかしいような(笑) しかしとても嬉しいです! これからもよろしくお願いします^^
受験につき更新遅めとなっております。すみませんm(_ _)m

遅れてすみません、2015夏、銅賞受賞……!ありがとうございました!!本当に嬉しいです……っ
長い間更新できなかったんですが、これからも、『影舞う月夜に君思う』の世界にはいりこんで読んでいただけるととても嬉しいです^^

どうも、RINBYOこと鈴猫、初投稿です。(今は改名して吉田です)
文法など間違いは指摘していただけると嬉しいです
感想をくださると、とても嬉しいです。励みになります^^
参考にしたいので、作品名とかのせていただけると、見に行きます。

              目次
人物紹介1 >>21

第一章LOOTINGMOON
>>0 >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
第二章NIGHTWALKER
>>11 >>12 >>13 >>14 >>16 >>17 >>18 >>19
第三章BLOODYMOVIE
>>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32
第四章WIN OR……?
>>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45 >>46 >>47 >>48
第五章BLUE LIRY
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55 >>56 >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64
第六章REGRET SCAR
>>65 >>67 >>68 >>69 >>72 >>73 >>74 >>77 >>78 >>79 >>80 >>81

(続きをお待ち下さい……



では、本編を。




一章 LOOTINGMOON
 叩きつけるような雨。月は雲に覆われている。このような真夜中では、起きている人は皆無だ。灯りは、ポツポツとあたりを照らす外灯のみ。
 そんななか、傘もささずに、深くフードを被り、ゆっくりと歩いていく長身の男が一人。
 顔はほとんど見えないが、僅かな灯りをうけて、口元のピアスがギラギラと光っているのは見てとれる。
 男は、ある家の前で足を止めた。鍵がかかっていないのはとっくに把握していて、躊躇せず、静かにドアを開く。
 キィイ、と軋む音が雨に混じって、消えた。
 玄関にある靴は三足。子供向けの人気キャラクターのついた、可愛らしい小さなスニーカー。この季節には不向きな厚手のブーツ。あとはボロボロのくすんだサンダル。
 家族だろうか。男はそこまで知らなかったし、興味もなかった。
 この家は、けっして裕福ではない。そこに、その家の者でない人間が入る目的とは。
 選択肢はそう多くないだろう。
 ……彼は、快楽殺人を目的とした、シリアルキラーだ。

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.77 )
日時: 2016/04/02 13:18
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)


 急に動きを止め、思い詰めるような表情をした枝暮を見て、月詩は、今しかないと思った。彼が続の言葉を受けて何を思ったのかなんて見当もつかなかったが、今ならば、ばれずに続の縄をほどくことができるかもしれない。
 自分はどうでも良い。彼女だけでも助かれば……
「……?」
 月詩の動きに気づき、続はその意味を理解する。堅く結ばれた縄、しかも自分からは見えない位置にある。それをほどくことは容易ではなく、月詩の美しかった赤い爪は、もうボロボロだった。
「……っ」
 爪先から血が滴る。人差し指の爪が剥がれかかり、激痛が走る。それでも月詩は諦めなかった。手を休めることもしなかった。全ては彼女のためだ。

「僕はいくらでも罵られて良い……はじめっから無い罪の續罪を求められても、怪物と嘲られても構いやしない……! でも、今日夜を貶すのは許さない……っ!」
 枝暮は二人を鋭い眼光で睨み付け、ナイフで空を斬り、怒りで震えた声で言った。
「……屋形さんは、貴方がそんなことをして、本当に嬉しいのかしら?」
 続は、きりねを殺されたことの怒りを胸の奥に抑え、落ち着いて言った。会話を長引かせて、少しでも時間を稼ぐために、枝暮に話しかけ続ける。
「貴方はもう今までの面影がない……貴方が変わってしまうことを、屋形さんは望んだのかしら?」
「うるさい……っ! 僕の命は今日夜のためだけにある! 今日夜のためなら、僕はどうなっても良いんだっ!」
「それは貴方の一人よがりではなくて? 貴方が今日夜さんの側に寄り添っているだけで、それで充分で……」
「続さん……貴方は何も知らないからそんなことがいえるんだ……」
 枝暮は、今度は悲痛な、今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
「今日夜の側にいて……周りがどんなに今日夜を苦しませようとしても、僕はずっと近くにいてあげる……そんなこと、僕だって何度も願ったよ……でも、できないんだよ……[計画]を止めるには、僕が犠牲になるしか、道はない」
「[計画]……それを止めるために、貴方は殺戮を続けているの?」
「……っ」
 続の縄が解けた。月詩は安心するが、それを悟られないように、今はただ、その時を待つ。逃げられる隙を伺い続ける。
「[計画]が成功したその時……今日夜は本当の怪物になる。闇に堕ちてしまい、もう二度と光を見ることができなくなる……世界の罪という罪を背負わされ、忌まれる存在……今日夜がそうなるなんて、この身の破滅より、何倍も辛い」
 今度は、続が月詩の縄をほどこうと、自由になった手を動かした。しかし、月詩はその手を、そっと掴むことで拒んだ。まだ彼女の足の縄はほどけていない。このままでは逃亡はできないだろう。それを分かっている月詩は、血まみれになった手で、動揺する彼女の手を、その足の方へ促した。
 月詩の縄をほどくまで、時間を稼ぐことはできないだろう。それは、続を助けるために、自分は犠牲になるという意思の表れだった。
 そんな……! と、続は躊躇った。自分の手の縄がほどけたら、今度は自分が彼を助ける番だと思っていた。彼も共に逃げるものだと、そう思っていた。

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.78 )
日時: 2016/04/06 21:58
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

 しかし彼は、はじめから自分の命を棄てていた。身代わり同然だった。
 お願い、俺のことは良いから__彼が錯乱している内なら、無茶なこの策も成功するかもしれない。そう心の中で強く願って、月詩は続の身を隠す様に身を捩った。
「……こんなこと、君たちに言っても伝わるわけがないか」
 枝暮は虚ろな瞳に陰りを見せて、すっと姿勢を正した。月詩の背が凍る。 このままじゃ、間に合わない。
「枝暮さん……俺は、このまま死ねない。やり残したことがある」
 声の震えは抑えられていない。動揺を隠す余裕さえもなかった。
 三分。
 三分稼げれば良い。
「それで僕が君を逃がすと思う?」
「思わない。でも、諦めきれないんだ……かきかけの絵がある。僕の今までの人生をこめた大作だ……だから」
「月詩……僕も君の絵は好きだったよ……でも、僕にはもう時間が無いんだ……」
「……っ!」
 僅かにもれこんだ月光が、悲しく歪な笑顔を見せた枝暮を淡く照らした。月詩は、一瞬細められた彼のその瞳が赤く光るのを見た。しかし、その光景も、手に感じた予想外の感覚が、彼を引き戻す。
 月詩の手の戒めが解けた。
「……なにを……っ!?」
 驚いたのは月詩だけではない。枝暮もだ。今の今まで、二人が希望を捨てていなかったことを知らなかった。
 続は、苦しさなど微塵も感じさせず、力強く、凛と立ち上がった。驚愕に口を半開きにした月詩の手を引いて。
「色々言いたいこともありますが……今は逃げるのが先ですわ……!」
「そ、そんな! どうやって!」
「待て……っ!」
 続は駆け出す。月詩も足をもたつかせながら走る。予想外の出来事に一瞬動きをフリーズさせるも、すぐさま枝暮はそれを追った。
「レディーはレディーなりに、武器を隠し持っているのよ?」
 続の手元に光るそれは、医療用のメスだった。彼女はこれで自分と月詩の縄を切ったのだった。

「逃がすものか……!!」
「続さんっ、危ない……っ!!」

 このままでは追い付けない。それを感じとった枝暮は、持っていたナイフを投げつけた。投てき用のナイフではないし、枝暮には技術もないため命中さえしないが、二人を怯ませ、逃げる足を一瞬止めるのには充分だった。
 ナイフが床に落ちる音が反響した。その刃は折れて、もう使えそうにない。
 それを目の端に捉えた月詩が安心したのも束の間、枝暮は別のナイフを直ぐ様ジャケット裏から取り出した。大事な局面で予備を用意しないほど、枝暮は不用心ではなかった。それを考えるだけの冷静さはまだ残っている。
「僕は一度も失敗するわけにはいかない……っ!」
 先程まで、親しい二人を自分の手で殺すことに躊躇の意思も残っていたように見えた枝暮だったが、今度は容赦なくそのナイフをふりかざして、突き刺し、命を奪わんと、鬼神の如く力強い一撃をはなとうと__

「……ぐ、ぅ……っ!!」
「憑々さん……!?」

 距離感を掴まないまま一気に距離を詰めた枝暮、腕のリーチもあり、その刃は続のきしゃな肩に突き刺さる筈だった。

 しかし、そのナイフの刃を、月詩が力強く掴んでいた。ザックリと肉を切り裂くナイフ。つかんだ掌からダラダラと流れ落ちる真っ赤な血。苦痛に歪み冷や汗を流す月詩だったが、そこには続を守り抜く意思がハッキリと残っていた。月詩は、一度チャンスができたことに安堵し、油断してはいなかった。また追い詰められることを想定していた。
「続さん、貴女だけでも、逃げてくれ……!」
「離せ! 君たちを殺さない限り、今日夜は救えない……!」
 
 一方は心の底から愛する想い人を……一方は家族愛も、恋愛も、友情も越えた特別な愛情を抱く相手を、守るため。双方、自分を犠牲にすることは変わらない。
 双方、意思が折れることはありえない。
 愛する人を救いたい。気高い美徳であるはずのその想いは、あまりにも歪みすぎていた。
 故に、2つがあいなれることは無い。

         *

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.79 )
日時: 2016/04/12 21:24
名前: 吉田 網張(RINBYO) (ID: jV4BqHMK)

 深夜、シーンとしきった部屋のなか、綴は一人目を覚ました。今日夜が使っていたベッドを今は綴が使っていて、彼は今居間にあったソファで寝ている筈だ。
 身体を起こし、手で目を擦る。それでも視界の霞みははれず、綴は目をしばたかせた。
「……」
 ベッドから立ち上がった綴は、よたよたと歩き、自分より少しだけ低い棚の上を……その上の水槽を覗きこんだ。
 綴がさかなと呼んで大切にしていた金魚は、その生を終えていた。
 悲しかったが、ある程度予想はしていたことだった。
 飼い始めたのは、霧のように曖昧な記憶でしかないような小さな頃だった。一人っきりで淋しい時、母親が誕生日にくれたプレゼントだ。人間以外の生きた生物を見るのははじめてだったし、他の人と何も変わらないというように、餌をくれと自分に寄ってくる様子は、新鮮なものであった。

 自分の手で両親を殺した今、母親との__家族との、目に見える最後の繋がりだった。

 これで、私の中からあの人たちは消えたんだ……と、小さな水槽を両手で持ち、その水の冷たさを肌で感じながら綴は思う。
 今度こそ、綴の家族は居なくなった。しかし、独りではない。

「いままで、ありがとう」

 綴は、小さな味方に囁きかけた。

「わたしはもう、だいじょうぶ」

 慈しみ、愛情を持つことをはじめて知ったのは、この金魚の世話をしたときだ。
 父親からはいないもののように扱われ、母親は結局、愛してくれているようで、実際は自分を守りたいだけだった。綴は本当の家族愛を知らない。
 絵本の中で、家族たちはどんなピンチでも助け合い、時には自分の身を挺してでも守ろうとしていた。
 それを思い返してみると、今、自分が今日夜に思うのは、もしかしたら家族に対するそれなのかもしれないと、綴は、虚構でしかしらなかった答えを掴もうとしていた。
 
 死んでしまった命は、星になって輝き続ける__そして、のこしていった人々を見守るのだ。

「だいじょうぶだよ。だから__」

 それは、きっとただの『お話』なんだろうけど。でも、もし本当にそうならば……

「キョウヤおにいさんにひかりをあげて……てらしていて……」

 それは、運命の日の前日、眠る街を照らし続ける電灯の光に負けそうになりながらも、星々が美しく光を放ち続けていた夜の、少女の1つの願いだった。

          *

「お願い、本当の怪物にならないで……ずっと、優しいままで__」

 

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.80 )
日時: 2016/04/26 17:03
名前: 吉田 網張 (ID: jV4BqHMK)

受験ということもあり、更新遅めです。申し訳ありません。

_________________

「こ、こう、か?」
「……そう、あってるあってる、上手だよ、今日夜くん」
 戸惑いつつも少しずつ野菜を切っていく拙い後ろ姿。
 その側で見守り、優しく声をかけ続ける、少し背の高い男。
 __出会って数ヵ月。
 今日夜と鍛見、二人の距離は縮まりつつあった。
 まるで兄と弟のような、はたから見ればほほえましい日常の1ページ。今日夜からすれば、少し前までは夢見ることも許されなかった、『あたりまえ』という最高の幸福。刻まれた傷は二度と癒えなくても、その痛みを気にせずにいられるほどの幸な刻。
 今日夜は鍛見から、少しずつ、家事を教わっていた。料理、洗濯、掃除……日常に必要なことの数々を、一から丁寧に。全く経験のなかった今日夜も、今では動きがぎこちなくとも、塾教師だという鍛見がいない時間でも、ある程度生活できるようになってきていた。
 近すぎず遠すぎず、鍛見は今日夜を大事に思い、側に寄り添うが、けっして詮索しようとはせず、知りすぎようとはしない。彼なりの気づかいと優しさに、今日夜は心を許していた。
 
 そんな鍛見が……様子がおかしい、元気がないようだ、と気付きはじめたのは、数日前だった。
 朝、少し寝坊して今日夜が起きて見れば、いつもは明るく迎えてくれるはずの鍛見が、今日は深くため息を吐き、弱々しく微笑んでおはようと言ったのだ。
 何かあったのだろうか、と思ったものの、その時は、それ以上踏み入れることはしなかった。
 しかし、何日もその状況が続き、今日夜は今日こそは話を聞いてみようと決意した。自分に何ができるのだ、とは思ったものの、自分を救ってくれた相手が困っているのを放っておけなかった。

「な、なぁ、鍛見……」
「ん、何?」
 そう言っていつものように笑顔を見せた鍛見だが、やはりその表情は優れない。
「なんかあったのか……?」
「え」
「え、いや、あのさ……元気、ねぇから」
 おずおずと尋ねれば、驚いて首をかしげる鍛見。否定してくれれば一番良いと、心のどこかで思っていた今日夜は、口どもり、あわてて目を伏せた。
「べ、別になんかあったんじゃねぇんなら良いんだケド……し、心配? だし……」
「そ、そんな! 大丈夫、大丈夫だよ……?」
 見たことのなかった、今日夜の照れ隠しするような様子に、鍛見はまたも驚き、両手を顔の前で振って否定を示した。それでも今日夜は、安心することができない。
「いや、でも……」
「ごめんね、心配させて……少し忙しくなっただけだから、ね?」
 嘘をついているのはバレバレだった。いくら言っても本当のことを言おうとしない鍛見に、今日夜は思わず語勢を強めた。
「隠すなよ……! 俺、あんたのこと心配で……でも、知らなかったらなんもできねぇし……それに……」
「今日夜くん……」
「それに、もし俺のせいだったらって思って……」
 鍛見は息を詰まらせた。

Re: 影舞う月夜に君想う〜What a ugly beast〜 ( No.81 )
日時: 2016/05/22 01:25
名前: 吉田 網張 (ID: jV4BqHMK)

「……」
「やっぱ……やっぱ、俺のせい、なの、か……」
 今日夜は眉を寄せ、悲しげな表情を、長い前髪からかいま見せる。濁った黄金色、悪魔の目……目の前の相手を直視できなくなる。目元がじわりと熱くなっていく。
 お前は世界に存在すべきではない。
 気色の悪い悪魔め。
 不幸を呼ぶ、化け物が。
 __さっさと死んでしまえばいいのに。
 ぐるりぐるりと、言葉が脳内を回っていく。混ざりあって、淀んで、消えない染みとなって染み付いて__
「違う、今日夜君は何もしてないよ
…」
「ごめん、ごめんなさい……俺のせいだ」
 うつむいて、口を小さく開いて。それが一番化け物の自分を人間に見せなくてすむから。だから、自分を隠して、こうして生きてきた。

「俺を、棄てて……」

 孤独なんて痛くない。馴れているんだ。それが当たり前だから。

 孤独という氷の要塞で生きてきた化け物の僕にとって、愛という温もりは、忘れられない火傷となってしまう、炎なのでしょうか?
「もう、充分だ……こんな幸せな時間……本当の家族のように過ごせたこの時間……俺には見に余る」
 そう……そうなんです。愛されることなんて、求めてはいけないのでした。僕は忘れていた__自分が化け物だと、出来損ないですらない、世界の汚点こそ僕なんだと。
「もう、夢は充分見れた」

 鍛見は、今日夜に言葉をかけることができなかった。違うと、そう言いたいはずなのに。

 嘘だとしても、言うべきなのに。 

 否定の代わりに出てきたのは、今日夜の存在を赦す言葉。
「今日夜くん、僕は今日夜くんの父親だ」
 かかんで、目をあわせて、まだ幼さののこる頬に触れる。異形の瞳、牙……その全てを受け入れ、その証にそっと微笑む。
「子供が父親に迷惑をかけたり、困らせたりするなんて……人間なら、だれだってするものだよ? 今日夜くんは僕の子供だ。僕を困らせて? 僕を悩ませて? それはね、きっといつか、今日夜くんが大人になったとき、良い思い出になるよ。一緒に思い出して笑おうよ。あんなこともあったなぁ……って」
 子供らしからぬことを、強がって言う今日夜は、脆くて、指先で触れたら崩れてしまいそうだった。
 だからこそ、鍛見は彼を抱き締めた。
 化け物といわれ続け、そうして作られた、屋形今日夜という彼を壊してしまいたかった。悲しみを癒すことが困難なように、何度も傷つけられたものを直すのは難しい。それならば、人間である今日夜を作り直すべきだと、そう思ったのだ。
「僕は、ずっと側にいるよ、今日夜くん……」
 
 壊れることは、なにも不幸なことだけではない。
 ガラガラと自分が崩れていく。それは、とても幸せな崩壊だった。

_________________


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