ダーク・ファンタジー小説
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- 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照400thanks!!】
- 日時： 2016/03/26 19:23
- 名前： 吉田 網張 （ID: jV4BqHMK）
※極道さんや情もなにもない感じの登場人物が多いため、結構な暴力表現があります。苦手な方はご注意ください。※
はじめまして。そしてクリックありがとうございます。
暴力表現への注意書きをわすれていました。すみません。
小説をかくのは好きなのですが、趣味ではじめたことなので、読み苦しい点があると思いますが、アドバイスなどありましたら是非。
というか、またまた重苦しい話で……こんな話しかかけないのか！といわれると返す言葉もありません……((
更新は不定期です。時間があるときに一気にかいていくかんじです。一週間に1、2回は更新できるようにしてます。
閲覧400感謝です！ 順調に数字が延びていてとても嬉しいです^^* ご愛顧いただけるよう頑張りますので、これからもこの小説をよろしくお願いします！
感想等もお待ちしております…！
◇目次◇
1.赤蜘蛛
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19 >>21
2.西の狂犬
>>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36
◇用語等解説◇
【彼岸花】 ヒガンバナ科。鱗根に毒を持つ。別名死人花。毒があるため動物を寄せ付けないため、墓や田んぼの畦道の周りに植えられることが多い。花と葉が同時につくことがない、珍しい花。花言葉「悲しい思い出」「情熱」
【人形】 人間と見た目はほぼ同じだが、身体の一部が球体関節になっている。個々が特別な能力を持っているが、人間と契約(後に解説)していないと100%解放することができず、生命力(後に解説)の消費が激しい。契約した人間に能力を分け与え使わせる代わりに、生命力を貰っている。どこから生まれているのか不明。ほぼ全員が美しい容姿を持つ。
【契約】人間と人形が特別に契りを交わすこと。人間が人形に生命力をあたえ、能力を使わせて貰う。人形は能力使わせる代わりに、生命力を貰う。つまり力の等価交換。また、特別な関係性があるため、人形は人間を主とすることが多い。
【契約者】人形と契約を交わした人間のこと。契約した人形と同じ能力を使うことができる。
【生命力】 体力と精神力をあわせたようなもの。人形は能力を使う際に、これを多く消費する。消費しすぎると死に至る。
【探し物】人形に生まれもって課せられた物。個々で違う。25歳になるまでにこれを手に入れないと、狂化(後に解説)してしまう。
【狂化】人形が探し物を25歳までにみつけないと起こってしまう。自我を失い、能力の制御もできなくなる。会話もほぼ不可能。人形は「美しさ」というものに誇りをもっていることが多いため、狂化を防ぐために、探し物を探している。
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照300thanks!!】 ( No.36 )
- 日時： 2016/03/26 11:20
- 名前： 吉田 網張(RINBYO) （ID: jV4BqHMK）
「そ、それは洒落になんないス……」
竜門は今でも明里を恐怖し、恐れている。それと同時に、一生忘れることも拭うこともできない憎しみも抱いている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
竜門は、その人並み外れた力を毎晩のようにふるっていた。自分自身でさえも、それをもて余していたのかもしれない。
そんな彼を止めたのは、一人の人形だった。
＿＿痛々しい痕に、こんなにハッキリと残る傷をつけられたのは、初めてだった。
「……櫻田との約束を果たしてない……まだ、死ねない……っ」
「…… っ！」
「あれ、どうしよう、動かないや……足、が……」
「もういい、 。俺が…… の分まで、きっと……」
「お別れは終わったか？ 俺に挑めばお前は死ぬんや、すぐ再会させたる」
怨念につき動かされるままに、怒りのままに。復讐の鬼と化した竜門は、満身ソウイ、傷だらけの身体で、唯一無二の友を殺した敵に、明里に拳を叩きつけた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あん時も、今も、馬鹿は直ってへんな……竜門」
ぎりぎりと、明里の爪が竜門の傷に食い込む。その痛みに、竜門は呻きを漏らした。否応なしにあの時のことを思い起こさせられ、精神的にも、竜門は辛い痛みをその身に受ける。
「……俺、そんなに怒らせることしました？」
慎重に、探るように言った竜門のその問いに、明里は怒りまじりの呆れ顔を見せた。深くため息をついて、更にその指に力を込める。
「お前が今生きてるんはなんでや？ ほんまはあん時死ぬ筈だったお前がや、なんで今生きてる？」
「……っ、組長、痛、い……っス」
「そのくだらん約束だかなんだかのために、俺に従うことに決めたからやろ？ お前は俺の好きなように動かされてればええねん。俺がやれ言うたことをやって、黙れ言うたら黙れ。分かったか？」
「……っ」
いつになく冷たく突き刺さる明里の視線に、竜門は言葉を詰まらせた。否、理由はそれだけでは無い。明里から見て、自分はやはり『道具』で、『駒』でしかないのだと……彼のその孤高の支配者であり続ける非人間性に、かつての自分のような危うさを感じたのだ。
「分かったかって、聞いとるやろ……ッ」
「いや、組長つ」
竜門が慌てて弁解しようとしたその時、バンッ、と、乱暴にドアが開いた。
「お前ら……ッ！！ ぅるっっさいんだよ……！！！」
入って来たのは、先程部屋を出ていった早綾だった。
「馬鹿でしょ！？ 他の人もいるの！ 家じゃないの！ いや、家だとしてもうるさすぎっ！ お前らはちゅうがくせ……」
そこまで言ったとき、早綾はピタリと、浴びせていた罵声を止めた。
「何勝手に入ってきてんねん、うるっさいんはお前やろ……っ」
明里が、怒りの視線を早綾に向ける。
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照400thanks!!】 ( No.37 )
- 日時： 2016/03/31 11:52
- 名前： 吉田 網張(RINBYO) （ID: jV4BqHMK）
「え、あ……いや、ごめん。でも、え……？」
目を白黒させて、あっさりと謝罪するその姿に、怒髪衝天の明里も、いぶかしげに目を細め、傷を抉っていた竜門の頬から手を離した。
「いや、あの……2人がそういう関係だったとは知らなかったというか……」
「あぁ！？ なんやそれ、どういう意味や」
困惑し、しどろもどろな早綾に、その理由が分からない明里は、もう片方の腕も壁から離し、苛々した表情をそのまみに、腕を組んだ。
「別に同性愛に偏見は無いけど……まさかミョーリが」
「ち、違いますからっ！？」
早綾が言い終わる前に、今度は竜門が大声で反論した。早綾の勘違いが過ぎるとんでもない誤解に、そんな目でみられたら堪らないと、竜門は必死に説明する。明里はまだ早綾の言うことを理解できていないようで、何を言っているんだ？ と、眉間に皺をよせた。
「そんなわけないでしょ！？ なんでそーなるんスかぁッ！！ 俺が組長怒らせちゃっただけっスから！」
「うるせぇ竜門」
「……ごめん、やっぱキッツいわ」
「だーかーらッ！ 違いますってー！！」
「ほんっとごめん……！ お邪魔だよね、すぐに出てくっ」
竜門の弁解虚しく、早綾は誤解したまま、逃げるように部屋を出ていこうとした。しかし、焦っているからか上手くドアノブが回らず、ただガチャガチャという音をたてた。
「……おい」
「え？」
黙って二人のやりとりを見ていた明里は、早綾が足早にこの場を後にしようとすると、その肩をガッと掴み、乱暴に自分の方を向かせた。
「だーれがこのどアホクズ野郎命令もろくに聞けんクソバカなんかをイロにするって？」
竜門は、これから大事な襲撃だというのに修羅場になりそうな予感に、本当に、どうしてこうなったんだ……と、頭を抱えた。
第2章 西の狂犬 fin.
第3章 硝煙
「これ、早綾さんのせいっスからねー……」
「はー？ 明里をあんなに怒らせたリューモンのせいでしょ？ というか、こんなんで大丈夫かなー……」
助手席と3列目の後部座席座り、微妙に距離をとった二人は、不満たらたらに明里と他の幹部たちを待っていた。二人は奇襲前だというのに負傷している。いわずもがな、明里による傷である。
早綾は、全てを絶ち切る能力、『絶縁』の持ち主ということもあり、比較的傷は軽い。能力を防御壁代わりに使って、ある程度の攻撃を防いだのだ。
問題は竜門の方だ。
顔、首、手……見えているところは隈無くといっていいほど包帯やら絆創膏やらで覆われている。
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照400thanks!!】 ( No.38 )
- 日時： 2016/04/05 21:39
- 名前： 吉田 網張(RINBYO) （ID: jV4BqHMK）
「これで上手くいかなかったら俺組長のせいにします〜」
「また怒らす気……」
服で隠されているところにも、痛々しい傷が刻まれている。明里は、あろうことか、一般客の目を防ぐために、ギターケースに厳重にしまわれていた刀まで持ち出してきたのだ。打撲し、内出血した痕……刀での切り傷、刺し傷……幸い、室内という自由な立ち回りのとれない場所ということもあって重傷にはいたらなかったものの、実に痛々しい風貌である。
「……てか、なんであんなに怒ってたの」
「……早綾さんがゲイ呼ばわりするからー……俺は寛容なんで良いですけどー、組長短気ですしー」
「語尾を伸ばさないでよムカつくな……じゃなくて、その前だよ……怒ってるとこにアタシが油注いじゃったんでしょ？」
明里は助手席から振り向いて、首をかしげた。なにぶん絆創膏だらけで表情は読み取りにくいが、疑問の念を浮かべているようだった。
「それがいまいちわっかんないんスよね〜……いつもならちょっと小突かれる位のことしかしてないってゆーか？ 俺、本当に悪いことしてないんスよ？ てか組長俺に刀で斬りかかりながら『俺を見下すようなでかい図体するな』って！ それ俺のせいじゃないし！ 組長がちっちゃいだけ！」
竜門は地団駄踏んで不満を露にした。やっていることこそ子供のそれだが、竜門のような上背もあり体格も良い男がそれをやると子供のようにはいかない。車がグラグラと揺れて、早綾は不快そうに眉間に皺を寄せた。
確かに明里は怒りやすいし、すぐに手も足もでる。しかし、普段の彼は、あれだけで過去の傷を精神的にも物理的にも抉ることはしなかった。
「へー……何かあった？」
それには早綾も驚いたのか、声色に不安を滲ませた。トップである彼が冷静ではなかったら、組織の壊滅にも繋がる。跡継ぎどころか若頭もいない今、明里の命は、夜宮組の命運をも握っるのだ。
「なーんか……親父さんから電話があって、さっきの高校生たちを連れてく見たいな話してましたねー」
「明里の弟子……だっけ？」
「うーん、組長には似合わない明るくて可愛い男の子って感じでしたね。まぁ組長があんな表情するくらいの子だから、実はそうとうパネェのかも？」
「うーん……あれ、でもその弟子以外は一般人なんじゃ？ それって怪我とかさせたらかなり面倒じゃない？ ていうかまちがいなくするよ？ 警察沙汰になったらうちなんかはシャレになんないじゃん」
「あー……でもそれはなんかー……酒浸サンに聞いたことありますねー。うちにはまだ高校生だけど、とんでもない兵士がいる……って。なんか、ここらじゃ名をきかせてるとんでもコンビらしいっスよー、犬がなんとかって」
竜門が、包帯でぐるぐる巻きの右腕を身体の正面に出して……さながら犬のポーズをして言った。
「わん！」
「分かった……明里がアンタを殺しにかかるほどイラつく理由……やっぱリューモンのせいだね」
「えッ！？ なんで！？」
理由を問いただそうとする竜門を、手をシッシと振ってあしらい、早綾はシートに深く腰かけて目を閉じた。
「ミョーリがくるまで寝るから……絶対話かけないでね」
「ちょ、早綾さん〜せめてなんでか教えてから寝て下さいよ！」
早綾は目を閉じたまま左腕を伸ばし、少しのびた爪で空を切る動作をした。そこがパックリと避け、黒い闇が姿を表した。早綾の能力、『絶縁』は、空間をも切り裂く。その闇に浮き出る赤く、黒く細い瞳孔のあるおぞましい目がせわしなくうごめく。
「話しかけたら……その顔の傷、もう二度と塞がんなくするから」
「……」
明里と同じことを言う早綾に、ここに自分の味方はいないのか……と、口をつぐんだ明里は、苦笑いを浮かべた。
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照400thanks!!】 ( No.39 )
- 日時： 2016/04/09 21:58
- 名前： 吉田 網張(RINBYO) （ID: jV4BqHMK）
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「東道の初陣、華々しく飾らんとなぁ〜」
「死なないようにな〜」
「縁起でもないこと言うな……」
髪の毛をピンクでラメの入った派手なゴムでまとめた、如何にもな可愛らしい系男子だが、生粋の極道の倅、南舘と、煌めく金髪、ジャラジャラと幾重にも重ねたアクセサリーというアバンギャルト天然男子北町に挟まれた、今日の今日まで平凡な生活を望み、送ってきた東道は、可哀想なほどに震えていた。抗議の声も、消え入りそうなほどに小さい。
自分の特異な生い立ちを受け入れ、裏社会に足を踏み入れることを決心したはずの東道がここまで気を萎ませているのは、いくつもの理由があった。
例えば、事実を知っただけで、なんの変わりもないこの体で暴力団組織に乗り込むこととか。
それに、親に簡単なメールを送っただけで、黙って危険なことをしようとしている、いや、させられているこの状況とか。
あとは、後ろから直に感じられるギンギンの殺気とか。
この車に乗って、秦野組に向かおうとしているのは7人だ。後ろから明里が連れてきた夜宮組幹部たちの車がついてきている。
まず、運転席に乗っているのは、三人の保護者的役回りである雨鶴。その隣の助手席に、雨鶴と同年齢である竜門。竜門のその痛々しい姿に、雨鶴は驚いたものの哀れみの視線を向けるだけだった。心配していないのは、竜門の腕前に対する信頼でもある。
真ん中のシートに乗るのは、同級生三人組。急に襲撃を知らされ、威鮫に同行を指示されたものの、平常心、むしろ浮き足だっている二人と、吐いてしまいそうなほどに緊張と恐怖でぐちゃぐちゃの心境な東道だ。今日は彼にとって、人生で一位になってもおかしくない厄日に違いない。
そして、一番後ろに、人一人の間を開けて座っているのは、人形と契約者という主従関係にある二人、明里と早綾。先程のこともあってか二人は喧嘩をした子供のようにそっぽを向いていて、会話を交わすどころか、互いを視界に入れようともしない。明里にいたっては、イライラ感満載で、終始眉間に皺を寄せ、時々わざとらしく舌打ちをしては無関係な東道をビビらせていた。
「皆さん、そろそろ着きますからね」
案内役さながら、穏やかに到着を伝える雨鶴。竜門と南館、それに北町は明るく返事をし、東道はヘタレ丸出しな、返事になりきらない声を出した。
忘れがちだが、両隣にいる同級生たちも、名を轟かせる喧嘩の強さである。東道は、自分の場違い感と、ここにいるべきではないという危険信号を感じていた。しかしここを抜け出す勇気もない。
もはやデジャヴュであるテンプレート的な感情の推移に、東道は文字通り頭を抱えた。
「どないしたん、東道。頭痛いんか？」
「分かった、緊張してお腹痛なったんやろ」
「お腹痛く……？ 女子の日か、東道」
「ほな薬局寄るか？ て、あほ、東道は男やで」
「お前らぁ……」
真顔で冗談を飛ばす北町に、つっこむ南舘。東道は二人のいつものペースを見て、その度に少しばかり落ち着くのだが、すぐに明里の殺気に縮み上がってしまう。
「はは、良いっスねぇ、仲良しって感じで！」
ボリューム大きく軽快な笑い声をあげた竜門の方を、東道は冷や汗ダラダラな顔を少しだけ上げて見た。
青堂家で会った時の初見のイメージは日本人離れした身長、北町よりも目立ちそうなオレンジじみた派手な髪、何よりも大きくぎょうぎょうしい傷に恐ろしさしか無かった。それに今日再び会った時には傷だらけで、何が会ったのかと、自分もこうなるのかと恐怖した。
しかし、そうして同じ車内にいて、雨鶴と親しげに話したり、明里に何度うるせぇと一蹴されてもこりずに声をかけつづけたりする陽気な様子を見て、実はそう怖い人じゃないんじゃないか？ と思い始めていた。
- Re: 錆びた刃と赤い蜘蛛【参照400thanks!!】 ( No.40 )
- 日時： 2016/04/21 20:53
- 名前： 吉田網張 （ID: jV4BqHMK）
「……本気で正面突破するんだ」
今まで黙っていた早綾が口を開く。東道は、はじめ見たときに、早綾の中性的な凛とした美しい顔立ちに目を奪われたものの、その心の奥まで射抜くようなターコイズの視線に、すぐに腰がひけてしまった。
「間取りが分かんねーっスからねぇ、正面玄関からガシャーンでてっとりばやくて良いじゃないっスかぁ」
「その身体でよくこうも自信まんまんでいられるよね、尊敬するよ」
早綾はあきれて、嫌味まじりに深くため息を吐いた。
「あざーっス」
「それ馬鹿にされてるんやで櫻田〜……て、正面玄関ですか……？」
赤信号で揺れもほぼなく停車する車。さすが南舘の送迎係もするほどである。実に快適、ベテランタクシー運転手並の運転だった。
竜門の言葉に耳を疑い、雨鶴は後ろを振り向いて、おずおずと、遠慮がちに早綾に尋ねた。
「そ。こいつら馬鹿だから、慎重にとかいう考えがないんだよね。この奇襲死んでもおかしくない。早死に確実、むしろ私が殺したい」
早綾は明里を睨みつけて、苦笑いした。
東道は、死んでもおかしくないという言葉に反応し、一瞬絶望的な表情をしているその顔をあげた。この手だれたちが死ぬかもしれないのなら、殴りあいの喧嘩だってしたことがない自分はどうなのか……という話なのだ。
「はぁ……まぁ皆さん構へんなら従いますけど……あの、ええの？」
信号が青になり、再び車を走らせた雨鶴は、横目でちらと櫻田を見て言った。
「やて……いくらうちの傘下やいうたって、ヤクザには変わらないんよ？ それに、櫻田は知らんかもだけど一騎さん傘下には武闘派集めてるし、秦野組もその１つなんやで？」
「いんや、大丈夫！ なんせ組長は俺が知るかぎり一番ヤバイっスからね！ 何がヤバいって、とにかくパネェしこう、バサーッ、グサーッて感じでー、マジ、見た目を裏切らないからー！」
「あは、えーと、櫻田さん？ おもろいなぁ」
「ウツルさんとうちのリューモン交換したい……」
妙に息の合う竜門と南舘、たしなめる雨鶴、叱りつける早綾、マイペースに携帯で音楽を聴きはじめた北町。いぜんしかめっ面で脚を組み、ふんぞりかえる明里と、完全にグロッキーで、半ば命を諦めたような生気のない東道。今回キーパーソンになるであろう二人だけが、黙り続けていた。
「……あ、秦野組、見えましたよ」
角を曲がったところで、雨鶴が発した一言で、車内の空気がどことなく変わった。
「へー……まぁ攻撃的で、東馬会にいるにも関わらず怖いものしらずにヤクを売る……少し覗けば真っ黒だろうし……あたりまえっちゃあたりまえか……」
そこは、静かなところだった。山奥、とはいわないものの、賑やかな街からは離れていて、そこだけ明かりが灯っている。
「えー、それ、隠れてるつもりってことスかぁ？ 俺なら木を隠すなら森の中だと思うんスけどー、馬鹿なんスかね？」
竜門も軽口を叩くが、その雰囲気は、いつもよりキリッと引き締まっているように感じられた。
付近に車が停められる。エンジンの音が止まると、妙な静けさに包まれる。
「そんなん、どうでもええわ」
明里が閉ざされていた口を開いた。気だるげでぶっきらぼうではあるものの、強い敵意が籠った声だった。
「やるんは雑魚潰すだけ、こんな簡単なことないやろ？ 場所もなんも関係あらへん。アイツの道に繋がるんは全て俺がぶち壊す＿＿ただ、それだけや」
明里がいう『アイツ』とは誰か知りもしない南舘たちも、明里の気迫に押し黙った。
「……殺せ」
傍らにある、血を求め続ける刀を、今その欲望を果たさせてやらんと、明里は掴みとる。
＿＿それは、いわずもがな、出陣の合図だ。