ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

青き蓮の提言:『或いは可能な七つの奇跡』
日時: 2016/09/05 04:17
名前: SHAKUSYA ◆8LxakMYDtc (ID: 3YwmDpNV)

——最愛の弟子に、未だ成され得ぬ奇跡のひとひらを。

***

【閲覧上の注意】
・ この小説は要素「R-12」「レトロファンタジー」「三人称」「人外キャラ登場」「募集オリキャラ登場」「流血・死亡描写」「軽微な残虐的描写」を含みます。どれか一つでも「無理」と思った方はUターンを推奨します。
・ テーマの都合上、やや胸糞の悪い描写を出さざるを得ないことがあります。予めご了承下さい。
・ 誤字・脱字・考証の誤りは適時修正していますが、時折修正出来ていない箇所があります。見つけた場合はコメントにてご一報くださるとうれしいです。

・ 一般に言う『荒らし行為』に準ずる投稿はお止めください。本文に対する言及のない/極端に少ない宣伝、本文に関係のない雑談や相談もこれに該当するものとさせていただきます。
・ 更新は不定期です。あらかじめご了承ください。
・ コメントは毎回しっかりと読ませて頂いていますが、時に作者の返信能力が追い付かず、スルーさせていただく場合がございます。あらかじめご了承いただくか、中身のない文章の羅列は御控え頂くようお願い申し上げます。

***

【目次】

Tale-0 >>1
Note-0 >>2

Note-1 >>3
Tale-1 >>4
-2 >>5

Re: 青き蓮の提言:『或いは可能な七つの奇跡』 ( No.1 )
日時: 2016/08/27 10:18
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 3YwmDpNV)

Tale-0:『前夜』

「“五月蠅い”わね……」

 ゴキブリか、ネズミか、或いは隅にうずくまる小さな弟子か。
 何かの身動ぎする小さな音が、視界の中に極彩色の閃光を散らす。網膜を隙間なく突き刺す実体のない棘に、ロータスは文字を綴る手を止めざるを得なかった。
 溜息をつきつき、胼胝と傷痕に覆われた手で、机に立てかけた鉄の杖を取る。髑髏とバラの装飾に覆われたそれは、周囲から大変な不評を買った代物だが、彼女にとっては数世紀の長きに亘って愛用してきた相棒。最早手放せないものだ。当然のように馴染むそれを握りしめ、先で小さく円を描いた。
 音はない。光も出さない。しかし流れる空気の変化は、どれほど些細であっても肌に感じられる。何より、先程まで視界に居座っていた不快な覆いは一つ残らず消え去っていた。それが証拠だ。

「ロータス?」

 一息ついて再びペンを取ったと同時、横合いからしわがれた声が掛かる。
 しかし手は止めず、視線も合わせず、ただ意識だけをそちらへ向けた。それで通じる程度には、長い付き合いである。
 夜の帳が降り、月さえ地平線の彼方へ没し、暗闇に沈んだ部屋の隅から、低い声が続いた。

「何やってんだ? 何度も“応急処置”してるけど」
「あーら、いつものことじゃない。あんたが気にする必要ないわ」

 怪訝そうな声にも顔色一つ変えず、ロータスはおどけた風に言い返す。実際、これまでも何十回、時に何百回何千回と、同じことを繰り返してきたのだ。暗きに潜んだ声の主とて、それは分かっている。
 いつもの光景と言い切ってもいいほど見慣れたそれに——否、すっかり馴染み慣れ親しんだ光景であるからこそ、彼は違和感を抱いた。
 けれども。

「それもそうだな」
「そうよ」

 かの声は淡白そのもの。
 話題と違和感はただ一言の会話で全て無に帰し、二人の興味と意識も霧消していく。程なくして部屋の隅から立ち始めた寝息に、ロータスは少しばかり聞き耳を立ててはいたが、それも長くは続かない。意識は上等な紙の上に並んだ文字の方へ向いていった。
 そうしてまた、静謐が満ちるばかり。

Re: 青き蓮の提言:『或いは可能な七つの奇跡』 ( No.2 )
日時: 2016/08/27 01:42
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 3YwmDpNV)

Note-0:『オーク材の抽斗に埋もれていた手紙』

 嗚呼。お前ならきっとこれを探し当ててくれると信じていた。認識阻害の穴。八重垣の綻び。鍵穴の罠。よくぞ見つけ出した。
 お前が天才で安心したよ。

 さて。書き残しておきたいことがある。
 言ってもお前の頭ではすぐに理解しきれないことだろうし、今日こうして書いているものが至極大事になると思うからだ。
 私にとって、ではない。私がその事を成すために必要な時間は、とうに食い潰している。私はどうやらお前に隣人との付き合い方を教えることに時間を使いすぎてしまったらしい。ついでに、私には恐らく、それは出来ない。お前でなければ完璧にはいかないだろう。
 だから、お前に事を成すだけの力と時間を遺しておいた。この手紙は、成し遂げようとするお前の助けにくらいはなるだろう。もしそれが許されるのならば。

 嗚呼、お前に私の何もかも語ってやりたいが、いい加減聞き飽きているところだろう。紙面もそれほど多くない。文才まで持ち合わせるほど多才でもない。
 だが少なくとも、私達が相手していたものがトチ狂っていたと気付いたのが遅すぎたことだけは此処に記しておく。私達は平和に浸りすぎていた。あれがもっとまともに魔法を研究しているものだとばかり思っていた。私も、部下も、王もだ。
 ……分かっていた。
 踏んだだけで地面ごと脚を吹き飛ばす紙。演算速度の異常な短さ。尋常な魔法では絶対に作れないであろう“獣”。疑う要素は戦場のそこかしこに転がっていた。積み上げた骸に違和感を抱いてもいた。それでも、私達は確信を持てずにいた。単に信じたくなかっただけなのかもしれない。根拠のない幼稚な不安が私達を頑迷にした。
 それでも真実は見えてしまうものだ。
 『召還擬き』。覚えているはずだ。際限なく力を吸い上げ、街を存亡の危機に立たせたクソみたいな魔法。私達がようやく違和感に確信を得たのは、あれを初めて目の当たりにしたその瞬間だった。もっとも、動くには遅すぎたが。

 私達は勝った。しかし、この世界は最早手遅れだ。力脈が砕け散り、可能性が横溢し、凡そ悪しきものの跋扈する辺獄(ファンタジア)に成り果ててしまった。お前も知っていただろう。
 虚ろを彷徨ったあの妖精は、お伽噺に見るような善良さも、神性も、何一つ持ち合わせてはいなかった。あれは麗しき死体。可能性によって変質し、悪意を持って人を殺すもの。
 荒れ野を歩くグールを見ただろう? まるでグリッシーニでもつまむように妖精を食い漁っていった巨人だ。あれは生きた男。魔力に生きたまま喰われた男達はああなった。下品な大喰らいに。
 お前は海に渡れないだろうから、その当時を知っている人間に出会えたら話を聞いてみるといい。彼等はきっと、大海を揺蕩うリヴァイアサンのことを教えてくれる。海に遊ぶ鯨は畏れ多くおぞましい姿へ変容させられた。全てではないが、ほとんどがそうなった。
 変わったのは無論生物だけではなかった。人々はあの化け物の存在を当然のことと見做し、自分達がその化け物に変わってしまう運命さえ平然と受け入れた。私が信頼を置いていた本の記録も全て、最低な幻想を肯定し、さもそれが遥か昔から続いていたことであるかのように変化した。
 肉体だけではない。精神も、認識さえも、変質した世界がそこにはあった。

 私の知る世界は終わってしまった。
 それでも尚、私や私の知る数人の魔法使いは、そして何よりお前は、このファンタジアにあっても正常だった世界の感覚と知識を持つことが出来た。クソッタレにも通じる魔法を持ち、それを行使することが許された。
 ある種の啓示だったと思う。
 けれどそれは、私の友人達ではいけない。ましてお前では尚更に出来ない。私でなくては駄目だった。
 だから私がやった。
 悪意と邪念に塗り込められた者どもは私の肉体が叩き潰し、常識は私の魂で枠にはめた。混沌は遍く押し固められ、私が、友人達が、お前が知る世界に“蘇生”された。
 代償は私だ。

 悔やんではいない。私は私の世界を取り戻したのだから。
 強いて一つ後悔するなら、お前に大事なことをいくつか教え損ねたくらいだ。お前はもうお前だけでも十分に生きていけると信じているが、お前独りで生きていけるほど、私の知っている世界は優しい世界でないことも知っている。
 だから、お前に私から教えよう。私からお前に教えられる最後のことになるだろう。

 ——七つ、“奇跡”の結果と、その為に必要な要素を示す。
 これらは理の範疇で理解し、行使できる限界の事象だ。実際に発動可能であることは私が試算した。
 お前はこの“奇跡”の全てを解明、構築、行使してみろ。どんな手を使ってもいい。
 それが出来たとき、お前は私の手から離れるだろう。

 考え続けろ。
 そして高みへ飛んでゆけ。


   愛弟子の“小烏(ジャック)” へ
      ロータス・ブラウ より



++++++

【Author's Memo】
 手紙は『マリアナ海溝から回収された文書』の書き方や文の運び方を参考にして書いています。全体的に設定や世界観に共通の要素が見られるかもしれませんが、誓って内容はオリジナルです。

Re: 青き蓮の提言:『或いは可能な七つの奇跡』 ( No.3 )
日時: 2016/08/27 10:11
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 3YwmDpNV)

Note-1:『提言1,2——“離散結界”“空間転移”』

 “凝集結界”はお前も知っているだろう。あの当時は私以外の誰も使えなかった技術だが、今これを見ているときなら、或いは数人の使い手がいるかもしれない。
 だが、お前にそれをそのまま使わせることははっきり言って不可能だ。お前の魔法は離散の傾向があまりに強い。悪意ある力やそれによって生じた結果を退け、身を護る——その目的は同じなれど、達成への手段は私のやり方を模倣するわけにはいかない。
 しかし、理論上確かなことが一つある。“離散結界”は害あるものを「吹き散らす」。風のような結界だ。私が使っていたそれのように、力を固めて強引に「弾き返す」、所謂一般的な結界のイメージとは違うことを覚えておくといい。物理的な干渉に無力であることも、肝に銘じておけ。
 結界の座標指定の仕方は昔教えた通りだ。より洗練されたと言うならばそれを組み込むのも良かろう。

 ……

 “空間転移”。
 いきなり難易度が上がったと思うだろうが、お前ならば比較的容易にその原理を想像できるだろう。少なくとも、私よりも事を成すのは簡単な筈であろうし、やろうと思えばお前は何処にだって行ける。
 存在を離散させ、力の残りで飛ばし、任意の地点で再構築する。主軸となるのはこの三つだ。肉体をそのままに飛ばすことも無論可能だが、魂は軽い方が制動しやすい。手加減の出来ないお前なら、尚更に身を軽くした方が安全だろう。
 離散させるのは、お前ならば簡単だ。力だけを内に向け、後はいつもやっているようにやればいい。お前が気に掛けるべきは、着いた後に自身を取り戻せるかどうかだ。私の使っていた術式をお前に適用するのが一番容易かろうが、お前の場合もっと強化したものが必要になるかもしれない。
 そして、忘れるな。空間転移の座標指定は難しい。お前を存在させる座標が他の固体存在の座標と重なってはいけない。無用な重複は双方の損壊を招く。慎重に見定めろ、それこそ刹那や須臾の単位で。どの瞬間に自身を再構築するか、タイミングをはかるための術式を昔教えたはずだ。
 離散結界でも同じことが言えるが、座標指定は昔教えた通りで構わない。しかし、私の教えた座標指定の術式は精度が甘い。恐らく洗練されてもこの魔法のオーダーには適わないだろう。一直線に転移するのは避け、二段階転移を採用するのが賢明だと思う。

 実験台に他人を巻き込むんじゃないぞ。
 お前はひどく、冷淡なときがあるから。



++++++

【Author's Memo】
 次から本編(tale)です。更新速度はまちまち。


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。