ダーク・ファンタジー小説

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Divine Force【第2章準備中】
日時: 2017/05/18 23:08
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

—その日、妹が俺の前から消えた。
それに気付いていたのは俺だけだった。
妹の、「澤村 悠那」の存在を覚えていたのは。
この世界でたった1人、俺だけだった。

—神隠し。
いや、それ以上の何かを感じる。
何故俺だけがそれを覚えていたのか。
何故俺だけがそれに気付けたのか。

ただ悩んで、ただ思考して、ただ時間は風のように過ぎて行った。
それが起こったのは夏休みだった。
それが起こったのは堕落した毎日の初日だった。

だからその日、「彼女」が俺の部屋に現れなければ。
俺は何も知らずにいられたのかもしれない。
妹の存在を—
—忘れることが出来たのかもしれない。


「……君が、澤村翔君かな……?」


それは夏休みが魅せた夢なのか。
俺の一夏の冒険譚がはじまる。

『彼らの旅は世界から世界へと。
一風変わった異世界トラベル・ファンタジー、開幕』

◆ ◆ ◆

◇登場人物(>>の先が詳細設定となります。更新するのは各章終了毎です)

澤村 翔 >>26
ステラ・E・フォーサイス >>27

《第1章》
澤村 悠那 >>29
リリー・E・フォーサイス >>30

《第2章》
アリス・ヴァレーズ&グリモワ >>
フロッグ店主 >>

◇報告&news

11/5:参照100突破
3/20:第1章完結に伴い親記事整理
3/21:参照500突破
(現在、荒らし対応のため目次が更新されていません)

◇目次

用語解説 >>31

序章 >>1-3
第1章 >>5-9 >>11-16 >>18-22
第2章 >>32-

参照100突破記念短編 >>10
参照500突破記念短編 >>25

Divine Force 序章 ( No.1 )
日時: 2016/10/01 20:23
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)


「……明日から夏休みか」

鳴り響くチャイムが放課後の訪れを告げる。
クラスメートが部活だ何だのに向かっている中、俺は窓際の席に座って空を眺めていた。
別に空を眺めるのが好きな訳じゃなかった。
俺は帰宅部で。
友達も数人しかいなかった。
クラスメートの、眩しい姿を直視できなかっただけだ。
だからこの言葉も、ただの独り言だった。
誰にも聞かれずに、ただ空気と塵になるだけの独り言だった。

別に教室に居残って何をするわけでもない。
さっさと家に帰って、どっさり大量に出された宿題を片付けてしまおうか。
俺はバッグを背負って、学校から出ることにした。

◆ ◆ ◆

「ただいまー……」
そう言いながら玄関のドアを開ける。
夏休み前日ということもあり、半日授業だったので両親は帰っていなかった。
「ん、悠那がいるのか」
玄関には妹の靴がきっちり揃えて置かれてあった。
俺は脱ぎ散らかすタイプなので少しは見習っておこう。
「あれ、お兄ちゃんもう帰ってきたんだ。おかえりー」
「ただいま。悠那はもう夏休みだっけか」
「今日からね。いっぱいお出掛けするぞーっと」

悠那は俺の妹である。
中学二年生の妹である。
成績優秀。性格は温厚—……俺とは正反対の妹である。
少し長めの髪を後ろで2つ結びにしている。
身長は低め(もっとも、コレを言うと激怒するのだが)。

「あー……悠那は元気でいいのう」
「なに老人ぶっちゃってるの。老人だからって別に労らないよ?」
「それ、全国の老人に怒られそうな台詞だな……」

俺が老人言葉で話すとそう返された。
老人どころか介護施設にも叱られそうである。
というかこの妹は、老人の座ろうとした席を横取りする様な奴だった。
性格が温厚というのは大嘘レベルである。訂正しておこう。
性格は「ハイエナの如し」。うん、バッチリだな。
俺は1人色々考えていたのだが、妹の声で現実に引き戻された。
「ちょっとお兄ちゃん、今超絶失礼なこと考えてなかった?」
「おお、すまない妹よ。どうして分かった?」
「うん、お兄ちゃんの顔に『妹はハイエナの如し』って書いてあった」
「兄妹だからってそんなに意思疎通出来るわけねぇだろ!エスパーかよ!」

妹は超能力者の如しだった。
真っ昼間からこのテンションで会話というのもなかなか凄い。
というか、場面切り替わっただけで雰囲気が変わり過ぎである。
さっきまでのシリアスムードを返せ。

「そうだ、お兄ちゃん」
「どうした悠那。さっきまでのシリアスムードを返せ」
「うん、それはお兄ちゃんとの会話が馬鹿げてるのが悪い。お兄ちゃんが悪い」
心の声が出てしまっただけなのにここまで言われなければならないのか。
この妹、戸惑いもせずに返しやがった。
恐るべし我がエスパー妹、悠那である。

「つーかさりげなく兄のせいにするんじゃない。ところで、何の用だ?」
「あ、そうそう。私今からお昼ご飯作ろうとしてたんだけど、お兄ちゃんも何か食べるかなって思って」
「それが本題ってことか。いつもはそんなこと言わないのにどうした?」
「だってお兄ちゃん、放っておくとインスタントラーメンで済ませるじゃん」
毎日カップヌードルばかり食べてる兄なんて見てられないよ、と。
物凄く優しい妹である。世界で1番優しいかもしれない。
二転三転して悪いが、性格はハイエナなんかじゃなく母性本能の塊だった。

「なんか悪いな。それじゃお言葉に甘えることにするよ」
俺があらんかぎりの感謝を込めてそう言うと。
「いいっていいって。代わりに夏休みの宿題教えてね」

悲しくもあるが、やっぱりハイエナだった。

Divine Force 序章 ( No.2 )
日時: 2016/10/10 09:03
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

そしてその日の夜。
今日はどちらも帰りが遅くなる、と両親から連絡が入った。
つまり、俺達兄妹は昼食も夕食も共に食べることになってしまったのである。
「お兄ちゃん」
「なんだ、妹よ。ハイエナ妹よ。」
「えっ、まだその話続けるの!?」
章が変わったんだからリセットしてよ、と悠那は頭を抱え込んで言った。
章が変わってもリセットなんかしてたまるか。
一生これで弄り続けていく所存だ。
「あのさお兄ちゃん、私のイメージがハイエナになっちゃうよ」
「実際問題ハイエナではないか」
「なんでそうなるのよ。読者の方々が勘違いしちゃうじゃん」
「やめろ。そんなその場の雰囲気でメタ発言をするな」
読者の方々、って。メタ過ぎるぞ。ハイエナならずハイメタだぞ。
つまりこれは高いレベルのメタ発言をしているという意味があってだな。
それをハイエナとかけてるのだ。
「お兄ちゃんうまいこと言おうとして失敗してるよ。何よハイメタって」
「ほっとけ。序盤のシリアスホントに何だったんだよ。返せよ」
「シリアスって言う程シリアスじゃないじゃん」
「お前言いたい放題だな!!」

ちなみにこれは夕食中の会話である。
お互いもぐもぐしながら喋っている。なんというかはしたない。
「それよりお兄ちゃん、味はどう?」
「あ?」
「あ?じゃないよ。折角可愛い妹が夕食まで作ってあげたんだから感想ぐらい言いなよ」
「お前今さりげなく自分のこと可愛いって言ったな」
「は?私は可愛いでしょ。読者の方々はきっと私の身長は158cmだと思ってるよ」
「それは俺が好きな女子の身長だぞ……なんで知ってるんだよ」
「お兄ちゃんのやってるゲームのチャット覗いた」
「お前なぁ!」
どうせ俺がトイレとかに行っている間に覗いたんだろ。
プライベートという単語が通用しない妹だった。
まったくもって恐ろしい。
ちなみに悠那の身長は四月時点で155cmである。
「ついでにアレな本を1冊いただいておいた」
「すみません勘弁してください」
なんて物を兄の部屋から調達しているのだ。
この妹、相当闇が深いと見られる。
「で、話を戻すけどお味はどうなの?」
「あ、あぁそうだな……普通に美味しいよ」
「何その感想。星2つ」
「感想を評価されても困る」
「★★☆☆☆☆☆☆☆☆」
「まさかの十段階評価ー!?」
あと!と?以外の記号を使うんじゃない、妹よ。
これはあくまで小説なのだ。
序盤だから雑談と何も変わらないのが悲しいがな。
「ま、でも美味しいなら良かった良かった」
「悠那料理も出来たんだな」
「ふふん、能ある鷹は爪を隠すだよ、お兄ちゃん」

悠那はそう言ってにっこりと笑った。
その笑顔はとても幸せそうで。
そんな妹の笑顔が俺は多分、大好きだった。

◆◆◆

「ふう……今日の勉強はここまでかな」
俺はそう言いながら、自室のベッドに寝転んだ。
夏休みがはじまったばかりだというのに、張り切って宿題をしてしまった。
まあ毎年そうなのだが。やはり後半は休みたい。

俺はベッドの上から、窓の外を見た。
綺麗な星空が、そこには広がっていた。
昼の空か夜の空か。
どちらもいいものだな、とロマンチックなことを考えてみたりした。
ここに悠那がいたら思いっきりツッコまれるだろうな、と思いつつ。

時刻は日付が変わる直前だった。
ボーン、ボーンと。
街のシンボルの時計塔が、新たな1日のはじまりを告げる。
その音に気を取られていたから、
その音を聴きながら微睡んだから、
俺はそれに気が付かなかった。
すぐ隣の妹の部屋から聴こえたであろう。
異変を知らせる物音に。


そして翌日。
俺の妹、悠那が俺の前から姿を消してしまった。

Divine Force 序盤 ( No.3 )
日時: 2016/10/09 22:15
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

妹の、悠那の、叫ぶ声が、助けを呼ぶ声が聞こえた。

「お兄ちゃん!
「ねえ、聞こえる!?
「助けて、ねえ、お兄ちゃん—」

悠那が何処かに行ってしまう。
俺は暗闇に向かって手を伸ばしていた。

瞬間、景色が切り替わる。
中世の王国のような、そんな街に俺はいた。
ゲームの中に出てくるような世界が眼前に広がっていた。
しかし、そこには誰もいない。人っ子1人見当たらない。
まるでそう、本当のゴーストタウン。
ここは、何処なんだ?
いや、それより悠那を捜さないと……
そう思って俺が走り出そうとすると、目の前に1人の少女がいることに気付いた。
さっきまで誰もいなかったのに、と俺は違和感を覚える。

少女はこちらを見ていた。
銀髪の、俺と同じぐらいの歳の少女だ。
俺は少女に話しかける。
俺は、少女に何かを話しかける。
自分が何故、これほどまでに焦っているのかを—


「……っ!」
嫌な夢から覚めた、そんな感覚がした。
俺はベッドからはね起きた。
見ると、体中から汗が噴き出していた。
うん、悪夢を見て汗が噴き出すことなんてあるのか。
てっきり都市伝説だと思っていた。
そしてこれもお決まり、夢の内容は砂のように脳内から抜け落ちていった。
「なんだってんだ、まったく」
時計は午前7時の表示だった。結構早起きしてしまったようだ。
俺は静まり返った家の中を、階段を軋ませながら階下に降りた。
「悠那、まだ起きてないのか」
部屋から物音もまったくしなかったし、まだぐっすりってところか。
まったく、俺に宿題全部押し付けてるからって余裕の構えが過ぎるだろう。
いや本当に自分で勉強しろよ。宿題ぐらいやれよ。
なんで俺が妹の宿題まで片付けなければならないのだ。
世界は本当に理不尽だらけである。
「にしても、静かだな……」
どうせやることも無いし、部屋に戻るとするか。
洗面所で顔を洗い(我が家の洗面所は1階にある)、俺は2階に戻った。
いつもは悠那が騒いでるから家がこんなに静かなことはないのだが。

ゴトッ。

「……ん?」
悠那の部屋から何か物音がした。
家の中は静まり返っていたから俺はそれに気付けた。
気付いてしまった。
しかし、その後に妹の部屋のドアノブを捻らなければ。
俺はこんなに取り乱すことはなかった。

「は……?」

◆◆◆

何が起こってるんだ。
俺は自室に戻り、思考を巡らせた。
悠那の部屋には、段ボールが沢山積まれていた。

それは俺の知ってる妹の部屋じゃない。
完全にそこは、物置と化していた。
誰が見ても、女の子の部屋とは言えないだろう。

母親が帰ってきた。
俺は必死に悠那のことを伝えた。
母は言った。
「何言ってるの。うちの子は正真正銘、翔君だけじゃない」
父も、同じ反応だった。
悠那のことを、忘れていた。

どうして、どうして、どうして……!
俺は頭を掻き毟った。
悠那が、世界でたった1人の妹が、俺の前から消えた。
俺の世界から消えてしまった。
それに気付いていたのは俺だけだった。
澤村悠那の存在を覚えていたのは。
この世界でたった1人、俺だけだった。

—神隠し。
いや、それ以上の何かを感じる。
歴史の改竄か何かか。
現実で、そんなことが起こるのか。

何故俺だけが妹を覚えていたのか。
何故俺だけが妹が消えたことに気が付けたのか。
ただ悩んで、ただ思考して、ただ時間は風のように過ぎて行った。
それが起こったのは夏休みだった。
それが起こったのは堕落した毎日の初日だった。

尋常じゃない事態が起きている。
悠那が写っている写真が、家に一つも無いのもさらに不安を加速させた。
何が起こってるんだ。
どうして、悠那が消えてしまったんだ?
そもそも澤村悠那は、この世界に存在していたのか……?

「君は間違っていないよ」

俺の部屋に突然、声が響いた。
勿論、俺のものではない。
誰か知らない、少女の声だ。

「君が、澤村翔君かな?」

俺が窓の方を振り向くと、そこに銀髪の少女が座っていた。
どこかで見たような、そんな少女だった。
「澤村悠那は確かにこの世界に存在してたよ」
「お前、どうして俺達の名前を知って……」
「詳しい話はあとで話すことにするね」
「あとって、どういう事だよ!」
俺は激昴したように大声を出す。
なら、俺は誰に怒っているのか。
この少女なのか。それとも。
「君が妹を救いたいのなら、私達はそれに繋がるヒントを知っているかもしれない」
「……!」
「今日の夜12時、この街の時計塔で待ってるね」

そう言って少女は目の前から掻き消えた。
まるで魔法のように。
「悠那を、助けられるのか……?」

俺はそんな、ただ空気と塵になるだけの独り言を発するだけだった。


序章 fin

次回予告 第1章/始まりの鐘が鳴る時に ( No.4 )
日時: 2016/10/09 16:50
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

次回予告 第1章/始まりの鐘が鳴る時に

「ゲートよ、開けっ!我等に進む道を与えよ!」

何故、悠那は世界から消えてしまったのか。

「俺は、悠那を助けられるなら何処にでも行ってやるよ」

何故、翔は悠那の存在を覚えていたのか。

「この世界はね、簡単に言うと他の世界との中継点みたいなものなんだよ」

そして、翔の前に突如として現れた少女、ステラの目的とは。

「世界も、悠那も、俺が救ってやるよ。案外楽しいかもだしな」

ついに翔の悠那を捜す旅が幕を開ける—!

Divine Force、本章開幕!

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』01 ( No.5 )
日時: 2016/10/09 23:35
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

7月26日午前11時55分。
俺はこの街のシンボル、時計塔の下に来ていた。
理由はただ一つ。悠那を救うヒントを見つける為だ。
あの少女の言葉を鵜呑みにした訳ではないが。
溺れる者は藁もを掴む、ということだ。
そんな俺の思いを感じ取ったのか。

「待ってたよ、翔君」
銀髪の少女は突然現れた。
暗がりに紛れていたのだろうか。
彼女は何故か、雨に濡れたように身体中がびしょ濡れだった。
「お前、妹を救うヒントを知ってるって言ったよな」
俺は少女にずい、と詰め寄って言った。
最早一刻の猶予も許されない。
早く、そして速く悠那を助けなければ。
「ちょちょ、近いよ……とりあえず、ついて来て欲しい」
「ついて来てほしい……?何処に行くってんだよ」
「私、さっき言ったよね」
12時に来て欲しいって。
銀髪の少女はそう言った。
その時間に何かあるのだろうか。
「ううん、12時に何かあるのはこっちの都合だよ」
「こんなシリアスシーンで地の文を読まないでくれ」
どんな小説なんだよこれ。前代未聞だぞ。
シリアスシーンで地の文読んでその疑問に答えちゃうって。
「私も思ったんだけど、この小説そんなにシリアスじゃ」
「やめろそれ以上は言わせねえぞ」
お前がそれを言ってしまったら時系列がおかしくなってしまう。
読者の混乱を避けるためにもそれは言わせない。
「うん、やっぱり翔君は面白いね」
「アンタが俺の何を知ってるんだよ」
「さぁね、何も知らないよ。」
少女はお手上げ状態のポーズをとった。
銀髪も相まって外国人のアクションそのままである。
「知らねえのかよ……」
「うん。君が妹を失って、ただ1人君がそれに気付いた事以外はね」
それは私達の世界ではイレギュラー、と少女は言った。
私達の世界……?何を言っているのだろうか。
「さて、そろそろ12時なのだけど。翔君の意思を聞かせてほしい」
「俺の、意思……?」
「そう。君が妹を救う為に私について来る覚悟があるのか」
「だから何処に行くのかって聞いてるんだよ」
「ここではない、どこかだよ」
「それがアンタ達の世界、ってことか?」
「おお。飲み込みがとても速い。素晴らしいね」
銀髪の少女は関心したように腕を組みながらうんうんと頷く。
「だけど、これだけは知っておいて欲しい。君には選ぶ権利がある。
私について来ると、とても危険な目に合うことになるよ」
「それがどうした」
「……え?」
「俺は、悠那を助けられるなら何処にでも行ってやるさ」
「最高。やっぱり翔君は面白いね」
「あぁ……お褒めに預り光栄だぜ」

その時、12時の鐘が鳴り響いた。
その鐘は旅の始まりを告げる号砲だった。
「時間だね」
「時間だな」
「ちょっと構えといてね」
「あぁ」
俺の同意を聞いて。意思を聞いて安心したのか。
銀髪の少女は俺に背を向けてこう唱えた。
「ゲートよ、開けっ!我等に進む道を与えよ!」
瞬間、辺りに暴風が吹き荒れた。
それと同時に眩い光が辺りを包み込む。
「なッ……!?」
「手を伸ばして、翔君!」
俺は言われるがままに前方に手を伸ばした。
「これで良いのか!?」
誰かに手を掴まれた。無論、銀髪の少女だろうが。
「絶対に、離さないでね!」
「それは言われなくても本能で理解してたぜ!」
「さぁ、私達の世界に行くよ」
それっ、と少女が言い、俺は光の中に吸い込まれた。
少女の手を堅く握り締めながら、それでも俺達はもみくちゃにされた。
異世界に行くって、こんなに大変なのか。
小説の主人公ってやっぱりすげぇな……

うーむ、こんな時でもどうでもいい事を考えてしまうのか。
でもそれが、澤村翔という人間だった。
そして紛れもなく、俺は今でも変わらずに悠那の兄で居続けている。
誰が何の為にこんな事をしたのかは分からない。
だけど、誰であろうと、そんな奴の好きにさせてたまるものか。

◆◆◆

「……んっ」
「お、目が覚めたかな?」
「成功、したのか?」
俺は隣の少女を見ながら言った。
当の少女は凄く面白がっていたが。
「ははは。そこは普通『ここは……?』って言うところでしょ」
「ここは……?とは言えねえだろ。アンタらの世界なんだろ?」
「まあね。特にこれといったトラブルもなく、トリップは成功したよ」
「なら良かった」
見回すと、辺りには広大な丘が広がっていた。
見たことの無い動物が草原を走り回っている。
それが俺を、別の世界に来たんだなと実感させた。
少女はそんな俺を見ながら、会話を続ける。
「あー、そういえば途中翔君が私のあんなところやそんなところを触ってきたけど」
「それは正真正銘トラブルじゃねえのか!?」
おいおい。この小説をR指定しなければいけなくなるだろ。
やめてほしい。いや、やめてほしいのは俺自身か。
「あの揺れが激しいトリップを手を繋ぐだけで乗り切ろうなんていう私が浅はかだったよ」
「俺の判断は割と正しかったのか」
「ちなみにあんなところやそんなところっていうのは頭と腹のことね」
「紛らわしい表現をするんじゃねー!」

俺のツッコミで幕を開けた悠那を捜す旅は。
俺の予想を遥かに上回る、過酷な旅になるのだった。


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