ダーク・ファンタジー小説

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蒼き鬼兵
日時: 2012/07/22 22:10
名前: ファランクス (ID: 5f84h5.J)

初めまして。
小説を書くのはこれで三作品目になります、ファランクスと申します。

と言っても、どれも完結してない上に、駄文ですがそれでもよろしければどうぞ読んでみてください。

それでは〜。


【あらすじ】

武装警察ヴェンサー。
その対テロ特殊部隊に所属するディーン・ダグラスはとある盗難物の捜索を上司に極秘で頼まれる。

その盗難物が、巨大企業サイヴァース社のテロ計画を止める手掛かりである事も知らずに。
その片鱗を掴んだディーンは、盗難の実行者と共に巨大企業に戦いを挑む事となった……。


Re: 蒼き鬼兵 ( No.1 )
日時: 2012/07/22 22:55
名前: ファランクス (ID: 5f84h5.J)


——UW2010年・ロスギリス帝国・首都ゲルファイン・政府ビル——

 晴れ渡る雲一つない空。
 裏を返せばそれは、太陽という灼熱の光線を遮るものが一切ない事を表す。

 季節は真夏と言うべきであり、大都会の真っただ中であるここゲルファインは太陽光線がアスファルトやコンクリートの照り返しで相乗効果を生み出し、まるでフライパンの上で焼かれるような感覚に皆が陥っていた。

 そんな中、とある政府ビルの周辺では物々しい雰囲気が漂っていた。
 その政府ビルの裏口に、数名の男たちが息を潜めて待機していた。

《対策本部より特殊対応班へ。現在目標グループを説得中。作戦の成否によっては貴様らに突撃任務を与える。即応体制で待機していろ》
 ある1人の青年の耳元に無線の声が届く。

 青年は小声で「へいへい」とめんどくさそうに答える。

 彼が身につけている装備は武装警察『ヴェンサー』の標準装備だった。
 ダークブルーとブラックを基調としたカラーリングに、無線やら何やらのゴタゴタした通信機器、警棒など警察としては標準的な装備が施されている。

 その青年の名は、ディーン・ダグラス。
 透き通るような蒼い髪と黒い瞳が特徴的な青年だ。

「おいおい〜ィ、んな不機嫌そうな顔すんなっての。どうせまたいつもの待機命令だろィ?」
 ディーンの隣で聞こえるその陽気な声は、ディーンの相棒であるスキッド・ウェンバースの声。

 彼もディーンと同じく、ビルの壁面に背を貼り付け、武器を握り締め即応待機していた。
 だが、ディーンが握るヴェンサー正式採用の突撃銃『アーヴェル』と違い、彼が持つのは二丁拳銃『セルコート・マグナム』だ。

「いつもの説得・交渉の真っ最中だとよ。“奴ら”が交渉に応じる訳ねぇのに健気なこった」
 ディーンも壁に張り付きながら、右手で仰いで風を得ようとする。

「“奴ら”ねェ。今日のは確かヴェナ教の……ハーデルジェスカ宗派だっけかィ?」
 スキッドは熱気のせいかいつもより薄く見える茶髪を片手で整えた後、ずり落ちた眼鏡を上げて言う。

「ああ、あの『ヴェナ神王の望むままの世界へ』で有名なアレか。最近多いよなアイツら」
 うんざりしながら汗を拭う。
 ヴェンサーの標準装備服は強度には定評があるが、炎天下での使用にはクレームが続出していた。

「確か今月が鳳凰期……だったっけなァ、とにかくハーデルジェスカ宗派の連中には重要な時期らしいぜィ?」
 マグナムの片方をホルスターにしまい、もう片方を両手でチェックする。

 最近テロを頻繁に起こしている宗教団体は、元は五年前の戦争でロスギリス帝国に吸収されたオードリッジ皇国の元国民だった。

 五年前の戦争『ハーバルド戦争』でロスギリスはオードリッジに勝利し、その領土・産業・経済・国民の全てを吸収したが、元々オードリッジは皇王が教祖の宗教国家であった為、今のような現状になってしまっている。

「最近忙しい理由はそれか? お陰でこっちも暇しねぇでいいけど。つーかやけに詳しいな」
 ディーンはする事が無くなったのか、対して興味もなさそうな声で返事をしつつ忌々しそうに空を見る。

「受け売りさ、イリーナのな」
「そういやお前、イリーナとデートするって話はどうなったんだよ?」
 ディーンはここぞとばかりにスキッドを見る。

「何がデートだよ何が……誰があんな高圧女と付き合うか。こっちの身が持たねェってよォ」
 スキッドはムキに否定しているが、実際そのイリーナという通信科の女性との相性は隊の誰もが認める程良かった。

「ダグラス隊長、ウェンバース副隊長! 私語が多すぎますよ。もっと作戦に集中してください!」
 男が二人の間に割って入って注意してきた。

「ラージスお前……いきなりはビックリするだろ」
「そういう問題じゃありません!」
 ラージスと呼ばれた男はディーンに食って掛っていた。
 武装警察ヴェンサー・第八課・特殊対応班・五番隊。
 ディーンはその隊長であり、副隊長スキッドを始め7人の部下を持っている。

「お前ちょっとは物事に柔軟性とやらをだなぁ……待て、指示が来た」
 ディーンはラージスをなだめようとするが、直後に無線が入る。

《対策本部より特殊対応班。説得は中断。現時刻を持って作戦を特殊対応班による制圧及び捕獲に変更する! 各小隊は、作戦通り突入を開始せよ!》
 その無線をヘッドセットで確認した後、ディーンは指示を出す。

「やっぱ来やがったな……よし、ワイル、ローズ、ベンリルは隣のビルで狙撃態勢。他は突っ込むぞ!」
「「「了解ッ!!」」」
 隊の七人から威勢のいい返事が返ってくる。
 それを確認すると、ディーンはヘッドセットを操作して無線を飛ばす。

『五番隊より対策本部。標的座標をマップに転送してくれ』
 送信先は対策本部、情報通信科のイリーナという女性だ。

《安心して。もう送ってるわ。スキッド以外》
『さすがイリーナ。仕事が早いな』

《褒めても何も出ないわよ》
 と言った普通のやり取りが繰り返される中で。

「んがっ! ちょっと待てなんだよその差別はァ!?」
 とスキッドだけが吼えていた。

《あはははは! バーカ嘘よっ! 作戦に私情を挟まないの基本でしょ!? こんな嘘に引っかかるなんて馬鹿丸出しね〜》
 軍の回線を私用に使ってはいけない、という禁則事項を真っ向から破り、笑い飛ばすイリーナ。

「ッ……このクソアマはまったくよォ……! マジブン殴りてェ……」
 ちなみにこの会話は五番隊と情報通信士にしか聞こえない。

「……制圧目標は18人、人質は23人。敵装備は拳銃、突撃銃、手榴弾、光電剣に散弾銃か……調査情報通りだな」
 イリーナとスキッドの“痴話ゲンカ”を尻目にディーンは送られてきた情報を確認していた。

 左腕にある小型の情報機器を右手で叩いてチェックする。 

「ラージス、ケルド、ダルシアンは北階段から回れ! 俺とスキッドは裏から奇襲をかける!」
「了解! ダグラス隊長もご武運を!」
 紫髪を揺らしながらラージスは敬礼し、3人は北へ向かった。

『イリーナ、屋上からの奇襲に一番適したルートを算出』
『了解……ここね。九階三番階段から屋上へあがり、東の窓側から進入するルート』
 ディーンのオーダーにすばやく答えるイリーナ。

『接敵人数……2人? なんだコイツら、狙撃の的じゃねーか』
 ディーンはヘッドセットに組み込まれたミニマップを見て疑問に思う。

『いやディーン、この配置は三日前のテロに似てるぜィ。多分コイツら、狙撃すれば体内の爆薬が反応してドカンだぜィ。屋上が火の海になりゃァ、中の連中は蒸し焼きだ。テロリストもろとも』
 スキッドは三日前のことを思い出す。

『……気に食わねーな。他人どころか自分の命までどうでもいいってか? 下らねぇ。なら直接ブン殴って止めてやらぁ』
『殴る程度で済んだらいいけど。それじゃ、後は任せたわよ』
 そう言ってイリーナは回線を切った。

「そいじゃ、行きますか」
 スキッドのそんな軽い声で、2人は行動を開始した。

Re: 蒼き鬼兵 ( No.2 )
日時: 2012/07/22 22:56
名前: ファランクス (ID: 5f84h5.J)

——ビル屋上——


「目標確認! 情報通りだ! 死なない程度に遊ぶぜスキッド!!」
「オーケィ、ディーン!」
 ディーン、スキッドが屋上へと辿り着く。

 目標2人はあわてて振り返り、すぐに応戦する。
 その手には、突撃銃がそれぞれ1つ。
 テロリストの1人が、

「よし、予想通りだ! 良く聞け! 俺達の体には——ぶっ!」
 と言い掛けた時、ちょうどスキッドの拳銃『セルコート・マグナム』の銃弾が頭に命中する。
 ちなみに、弾種はゴム弾だが、当然当たれば気絶するぐらいの威力はあった。

「ハルト!? おのれ——」
 そうテロリストが言い掛けた時、既にディーンは抜き取った刀『レアブレード』をテロリストの頭上で構えていた。

「——遅い」
「ぐへッ!」
 一薙ぎ。
 レアブレードの剣筋はテロリストの脇腹に命中し、そのまま倒れた。

「峯打ちだが、まぁ肋骨の何本かぐらいは大目に見てくれよ」
 そう気絶した男に言った後、レアブレードを腰の鞘に閉まった。

『目標2、排除確認。早いわね』
 イリーナの無線の声が2人の耳元に届く。

『そりゃどうも。ラージス達は?』
 言いつつ、スキッドとディーンの2人は降下準備に取り掛かっていた。
 東側の窓際へ行き、ロープアンカーを取り付けて降下するのだ。

『北階段から進入、壁一枚の所で待機しているわ』
『上等。ドアには恐らく罠がある。壁を爆破して突入。混乱に乗じて俺とスキッドで奇襲を掛ける。ところで七番隊の連中は来てるんだろうな』
 ディーンは七番隊……人質救出の隊を呼び出した。

『呼んだか? 五番隊さん』
 中年親父の濁声がディーンの耳に届いた。

『流れ弾で人質に死なれたら始末書じゃ済まねー。救出は任せるぜ』
『あいよ。お互い専門分野じゃあヘマしねぇだろーからな』

『上等。ラージス、聞いてるか?』
『はい隊長!』

『突入開始だ! 死人を出さない程度に暴れろよ?』
『了解! 爆破開始!』
 瞬間、ビル全体に少し衝撃が走る。
 壁一枚壊すのに、派手さはいらない。
 炸薬は少量でいいのだ。

「(この絶妙な炸薬の調整はケルドの奴だな? さすがは爆発物のスペシャリストだ)」
 ディーンはケルドの技術に少しだけ感心していた。

「おし、じゃ行くぜスキッド。暴れる準備は良いか?」
「いつでもOKだぜィ」
「上等だ、突入!!」
 そう言い放ち、2人は東の窓際へとロープを伝い降下した。
 手でロープを持ち、両足を壁際に着ける。

 壁を軽く蹴り、同時に手を緩めて少し下がる。
 握りなおし、足を壁際につける。

 こうして少しずつ降下してゆき、窓に辿り着いたところで勢いをつけ、思い切り窓を蹴破る。
 ガラスの割れる甲高い音が響き渡り、2人は9階——テロリストと人質がいる部屋に到着した。
「こんにちはァ! 挨拶代わりに受け取りやがれィ!!」
 スキッドは言うと同時に、二挺拳銃で的確に敵の頭を狙う。
 ゴム弾とは言え、ヘッドショットを決めれば痛みを感じる間もなく失神する。
 下手したら内出血で入院だが、敵に情けは掛けてはいられない。

「ひい! 何してる、撃て、撃てぇぇ!!」
 テロリストの一団がディーンに向かって突撃銃をフルオートでブッ放つ。
 7.62mm弾の集中射撃がディーンを襲うが、しかしそこに既に彼は居なかった。

「はっ、早——」
 言い終わる前に、突撃銃を撃った男は、頭にレアブレードの峰打ちを喰らい気絶していた。
 その一瞬後には、周囲の一団も制圧し終わっていた。

「……ルームクリア。ラージス、ダルシアンとビル全体を見回れ。いたらダウンさせてこい」
「了解!!」
 ディーンは二人に指示を出すと、今度は無線を送る。

『五番隊よりイリーナ。ルームクリア。人質は七番隊に任せて撤収するぞ。いいか?』
『いいわよ。上がってちょうだい』
『りょーかい』
 間延びした返事をディーンはしつつ、撤収を始める。

「にしても、ここ最近ザコの相手しかしてねぇ気がするぜ」
 刀剣を仕舞い、銃を背中に戻しながらディーンは呟く。

「おィおィ。仕事が楽なのは良い事だろ? ま、出動ばっかで家にすら帰れないこの状況を、楽と言うのかは甚だ疑問だが」
 その隣を歩くスキッドは、両手を頭の後ろに回してしゃべる。

「全くだ。っつーかお前、一人暮らしだろ。家でも寮でも変わんねえじゃねーか」
 前にディーンが聞いた時は、確か姉が一人いた筈だ。
 ちなみにディーンもスキッドも、両親は戦争で亡くしている。

 ハーバルド戦争は長く続いたため、両親を失ったという国民も少なくは無かった。 

「馬鹿、家じゃないと仕事終わったって気分じゃねぇだろ? そぉいうディーンは妹居るんだよな、確か」
「妹と親父が住んでるがどっちも義理だよ」
「いいじゃねぇかぁ〜! 義理の妹とか最高だろっ!」
「何がだよこの変態」

 そんな他愛も無い話をしながら、この日の仕事は終わっていった。

Re: 蒼き鬼兵 ( No.3 )
日時: 2012/07/24 00:16
名前: ファランクス (ID: 5f84h5.J)


——UW歴2010年8月4日(翌日)・ロスギリス領内サラン市・ヴェンサーサラン支部・課長室——

「いい加減、休暇が欲しいところなんですがね。今度は一体どんな厄介事を持って来たんですか?」
 第八課のラムサス・ロス課長に呼び出されたディーンは、机の前まで進んで言った。
 出社したディーンは早速課長秘書に呼び出しを喰らい、またかと呟きながらやってきたのだ。

 課長室の少しだけ豪華なイスに座り、葉巻を吸いながらロス課長はイスごとくるりとこちらを向いた。
 50半ばという年相応のしわに白髪だが、その表情には何とも言えぬ凄味がある。

「ここのところ厄介続きでな、休暇を与えたいがそうも言ってられん。だから今回は特別楽そうな任務を選んでやった。感謝しろよ?」

 そう言って、白ひげが目立つ口元をニヤリと曲げた。
 ディーンはどう考えても楽そうな予感がしなかったので、その表情を見て小さくため息を吐いた。

「おい、別に嘘を付いている訳じゃないぞ。今回の任務は、簡単に言えば盗難品の回収だ」
「盗難品?」

「そうだ。犯人が逃げ込んだ場所は、工業都市ヴェルランドと北部鉱山を結ぶ輸送列車“エドラース”内だ」
「列車内? 走行中の?」
 釈然としない表情で聞き返す。
 わざわざそんな逃げ場のない所に逃げ込んだのかと思うと疑問だ。
 
 列車であれば行先は決まっているし、そもそも走行中の列車から脱出する手段は限られる。

「そうだ。よって逃げ道は列車を止めない限り無い。そして、列車の停止コードを当然犯人は知らない」
「袋の鼠……、ですか。確かに楽そうではありますけど。それをわざわざ俺らに頼むって事は、何かあるんですよね?」

 ディーンは確信めいた言い方で聞いた。
 五番隊は、ディーンとスキッドを筆頭に、かなり優秀な人材が集中していて、第八課の中でもエース的存在だった。

 まして、対テロ部隊である第八課に盗難品の奪取という任務自体、非常に特殊だった。

「予想してるとこっちも話しやすい。実はな……、この任務、サイバース連合企業からの極秘の依頼なんだ」
「サイバース……マジですか?」

 ——サイバース連合企業。
 日用品、文房具、衣料品から自動車、重機、自律兵器『オートドール』、ミサイルや軍事衛星まで手掛ける総合企業だ。
 最近では芸能や農林水産業まで手を伸ばしているとか。

 現在、世界で一番巨大な企業の連合体だ。 
 世の中で作られている商品の八割はサイバース製と言いきっても間違いないぐらいの。
 
 そんな超大企業が依頼とは、大変珍しい。
 と、言うのも、サイバースは独自の軍事的警備組織『DETA』を所持していて、大抵の厄介事は自力で解決してしまうからだ。
 
 サイバースは巨大組織だ。
 それほどになると、当然黒い噂も絶えず、人体実験をやっているとか、タイムマシンを造っているとか、宇宙人と交信しているとか、世界を裏で操っているとか、そんな眉唾話をよく耳にする。

 が、火の無い所に煙は立たずというか、必ずしも表と裏は存在するわけで、表沙汰にしたくない面倒事は全てそのDETAが片付けてしまうのが普通だ。

 なので、そんな軍事力を持つ組織が、わざわざ武装警察ヴェンサーを頼ったのが正直薄気味悪い気はする。

「んで、その盗難品って……まさかサイバースから盗まれたんですか?」
「その通り。詳しい事は機密事項だが、重要機密の入った“データディスク”だそうだ」
「よく、そんな重要な物を盗み出せたもんですね」
 仮にも世界最大の企業であり、警備レベルだって相当の筈だった。

「現在の総合警備システム、OH-1109を作りだしたエスロード・ラウという男を知って居るか?」
「いえ、知りませんが。そいつが犯人の一味、という事ですか」

「そうだ。犯行は三人。うち二人はDETAが捕まえた——恐らくもう死んでいるだろう。そして、サイバースは何故か、その最後の一人を我々に追わせている。犯人の拿捕は問わず、データディスクだけの回収を依頼して、な」
 そう言うと、ロス課長はデスクの上にバサリと数枚の資料を置いた。

「それはまた、随分とキナ臭い任務ですね」
 ディーンはその資料を受け取ると、目を通す。

「キナ臭いのはいつもの事だ。綺麗な任務なんて無いさ」
「全くです」
「犯人の武装、特徴、その他はその書類に纏めておいた。列車は二時間後に終点の鉱山に着く。出動は今すぐだ、いいな?」
 終点に辿り着いてしまっては犯人が逃走する可能性がある。
 勝負はそれまでに付けなければいけなかった。

「了解。ただし、俺とスキッドだけで行きます。ここに五番隊全員を投入したって結果は変わりませんよ」
 資料に目を通し終わったのか、見るのをやめて言う。

「良いだろう。どの道これは極秘の任務だ。それはこちらからも言っておくつもりだった。それと資料にもあったと思うが、犯人はウルド傭兵団を雇ってる。一応言っておくが——」

「分かってますって。殺しは無しです。俺らは軍人じゃなくて、一応警官ですから。それじゃすぐに向かいます」
 軽い口調で返事をすると、ディーンは課長室を後にした。

「(警備は手薄、犯人は袋の鼠。依頼主はサイバースで任務は極秘。盗まれたのは重要機密で三人のうち二人は拿捕済み。その残りをわざわざ俺らに……か。考えれば考えるほど意味分からん)」
 ディーンは頭を悩ましていたが、深く考えたって厄介事に巻き込まれるだけだ、と思い思考を停止させた。

 

Re: 蒼き鬼兵 ( No.4 )
日時: 2012/07/30 03:48
名前: ファランクス (ID: 5f84h5.J)

——UW歴2010年8月4日昼・ツェルホーク雪原北部・輸送列車“エドラース”上空——

 雪の降る雪原を、時速200km超で二つの物体が駆け抜ける。
 一つは輸送列車エドラース。
 操縦席のある先頭を除けば、延々と無骨なコンテナだけが繋がっている。

 もう一つ、そのコンテナの上を高速で飛行しているのは、小型の輸送ヘリ。
 ダークブルーの塗装と、“VENSAR”のロゴから武装警察ヴェンサー所属である事が確認出来る。
 副翼の両脇にパトランプは付いているが、極秘任務である為鳴らす事は無いだろう。
 
 その輸送ヘリの中で、操縦士が二人の隊員に告げる。
「間もなく、降下予定地点です。降下の準備をお願いします」

「了ォ解ィ」
「了解。しっかし寒ぃな。さすがは国内最北端だ」

 二人の隊員——スキッドとディーンが答える。
「防寒はしっかりして行ってくださいよ。外はマイナス20度超、その上時速200km以上での飛行中ですからね。急いで中に入らないと、一瞬で氷漬けですから」
 副操縦士が告げる。
 フレンドリーな接し方から、この二人とは顔見知りらしい。

「分かってるよ。そっちこそ、着陸ミスるなよ。この雪原に吹っ飛ばされるのはごめんだからな」
 片刃の剣、レアブレードの表面を見るディーン。
 その刃に自分の顔が映る。
 戦闘で傷が付くとはいえ、手入れをしなければ切れ味が悪くなってしまう。

「了解。——高度+20、相対速度、誤差+−5以内へ修正」
 落ち着いた低い声の操縦士が独り言のように呟く。

「修正確認。高度21、相対速度+3を維持」
 副操縦士は、計器を見て確認する。

「ロック解除。ハッチオープン」
 操縦士が言うと、後部ハッチが開く。

 凍り付かんばかりの冷気が機内を覆う。
 その先には、相対的に見てほぼ止まっている列車のコンテナがある。
 が、実際には時速200kmでこの雪原を駆け抜けている。
 雪と風は絶え間なく吹き荒れ、表面は凍っており、そのまま飛び乗れば間違いなく雪原へ叩きつけられる。

 ハッキリ言って、ここから飛び乗るのは正気の沙汰ではない。
 だが、それを彼らは“少し面倒臭い”程度にしか思っていなかった。

「ヒュ〜。着陸してるのと変わらないぜィ。さッすがァ!」
 スキッドが軽口を叩くが、時速200kmで走る列車の、わずか数㎝上に寸分の狂いなく滞空するヘリの操縦士も凄腕だ。
 着陸しないのは理由がある。
 表面が氷で覆われている為、またヘリの図体が大きい為風をまともに受けてしまい、ヘリごと雪原に叩き付けられ兼ねないからだ。

 ホバリングなら、その点は問題ない。

「無駄口叩いてるとヘリの中が雪で埋まるぞ。じゃあな、帰りも頼むぜ」
 そう言って、ディーンはコンテナの上に進んだ。
 体制を低くして、ロープに繋がれた杭を打ち込む。
 それにスキッドも同様に続く。

「ご武運を!」
 そう言い残し、ヘリはハッチを閉め、吹雪の中を飛び去っていった。

「さっさと中に入らないと凍え死ぬぜィ!!」
 猛烈な吹雪の中、スキッドが大声で叫んだ。
 今二人はコンテナの上で飛ばされないように必死に這い蹲っている。
 頼みは今突き刺した杭と短いロープのみ。
 吹雪く風と雪の音だけが延々と聞こえる。

「分かってる……待ってろ!」
 ディーンはロープを少しずつ伸ばしていき、コンテナの側面にぶら下がると、すぐに金具の取っ手を発見し、持っていたもう一つの杭でこじ開ける。
 扉は、意外と簡単に開いた。
 側面は氷が張っていないので、簡単に開ける事が出来たのだ。

 その事をスキッドも確認し、すぐに二人でコンテナの中へと入った。
 腰に付いていたロープを外す。

「ふう……酷かったぜィ。氷のオブジェ化か、雪の布団でオネンネしなくて済んだな」
 服に張り付いた雪と氷を両手で払いながら、スキッドはおどけて言う。

「まったくだ」
 ディーンは短く返しながら周囲を確認する。
 このコンテナは空……情報通りだ。
 ここから三つ先のコンテナ、その次に操縦車両はある。
 が、この列車は無人である為、普段ならそこに人はいない。

「行くぞスキッド。暖房設備があるのは先端だけだ。どう考えても逃げ道の無い無人列車に乗り込むような馬鹿だ。都合よく防寒装備を持ってないとすれば……いるのはそこだけだ」
 そうディーンは考えていた。
 列車内とは言え、所詮は貨物コンテナの中。
 風雪が避けられるだけで内部は凍りつく程に寒い。

「そうでなけりゃ、この56個繋がるコンテナを全部調べなきゃなんないんだよなァ? このクソ寒い中、それだけは勘弁願いたいねェ」
 そう言いながら、二挺ハンドガン“セルコート”の動作をチェックする。
 極寒の中でも、異常は無いようだった。

 そんな軽口を叩きながら、次のコンテナへ移動する。
 人間で出入り用の小さいドアを開けると、そこは連絡通路になっていた。
 
 そしてその向こうには、警備用のオートドールが目を光らせていた。
 
 ——オートドール、通称AT。
 自律思考回路を搭載した兵器だ。
 形は銃に車輪を付けたような簡単な物から人型や、あるいは航空機型の物まで様々だ。

 そして、二人の目の前に居るのは二機のMR。
 青と白のカラーリングで、足は四本、腕は二本。
 箱形の胴体と、その上に付いている長細い監視カメラのような頭部が特徴だ。

 この世界では非常にポピュラーなタイプで、軍事兵器と言うよりは民間警備会社で広く使われている。
 単価は18万円、民家の警備に使われる事も珍しくない。

 武装は右腕の9mmライトガン一丁のみ。

「狩るぞ!」
「おォ!」
 MRを発見してから、二人の行動は早かった。
 まずその場でスキッドが二挺マグナムを抜く。

 ——二連射。

 一発はメインカメラを撃ち砕き、直後の一発が胴体に直撃。
 表面装甲を簡単に抜け、弾丸は貫通、機能停止に陥った。

 ディーンはその横を通り抜け、腰にあるレアブレードを抜刀。
 同時にそのまま横に一凪ぎ。

 胴体を横に、火花を散らしながら切り裂く。
 MRは完全に真っ二つになり、動ける筈も無く、そのままスクラップと化した。

 この間、わずか八秒。

「……準備運動にもなりゃしねえな」
 ディーンは二台のスクラップを見ながら吐き捨てるように言った。
 それ程に、この二人組は強かった。

Re: 蒼き鬼兵 ( No.5 )
日時: 2012/08/01 03:44
名前: ファランクス (ID: 5f84h5.J)



「にしてもよォ、ディーン」
 ある程度進んだ頃、歩きながら二挺マグナムを片方ずつリロードするスキッド。

「なんだ?」
「犯人はウルド傭兵団を雇ったんじゃなかったのか? このコンテナを過ぎればすぐ操縦室に着くが、一向に姿が見えないんだが」
 スキッドの言うとおりだった。
 広いコンテナで、襲いかかる数台のMRを蹴散らしながら進んでいたが、傭兵達の姿はまるで無かった。

「操縦室に居るんじゃないのか? 傭兵が依頼をほったらかして逃げたって話は流石に聞いた事ねーぞ」
 ウルド傭兵団は一応傭兵団の中では有名だ。
 それ程信頼のある傭兵団が、あっさりと裏切るとは考えにくい。

 もっとも、こうして犯罪に手を貸してしまう事もあるので、ヴェンサーやロスギリス帝国軍とはかなり対立しているが。

「って言ってる間に着いたで。ここまでアッサリしてると、逆に気味が悪いぜィ」
 スキッドは、操縦室への扉を見ながら言った。

 ディーンは、腰のレアブレードを抜くと、
「言えてるな。もしくはもぬけの空か——だなッ!」
 ドアに斜めに一振り。

 ドアは真っ二つに裂け、二人は室内に侵入する。

『撃てッ!!』
 黒衣に身を包み、フードと包帯で顔を隠した人物が叫ぶ。
 声は変声機で変えられていた。

 そして次の瞬間、黒衣の隣のオートドール“DR”が射撃を開始した。

「あぶね!」
「おォっとォ!!」
 二人は左右に避け、砲弾を回避した。

「DRか……! コイツァ室内で使っていいモンじゃないってよォ!」 スキッドは銃を構えながら言う。
 DR——MRを砲撃用に改修したタイプだ。
 背中に背負ったバックパックから伸びているカノン砲と、両腕にあるガトリングガンが武装だ。

 こちらは正真正銘の軍事兵器。
 対戦車用に作られた実戦用だった。

「ちッ! 危ねーのがいるな! そっちは任せたぜスキッド!」
 そう言いながら、ディーンは視線を黒衣から外さない。
 黒衣の方も、フードの中から緑色の瞳を覗かせ、睨んでいた。

『データディスクは、渡さない!』
 一言言うと、ディーンに飛びかかってきた。
 黒衣の腕には、両刃の薙刀が握られている。

 それを、回転させながらディーンに横凪ぎに振る。
 攻撃を見切り、右に避けるディーン。
 
 だが、避けたと思った次の瞬間には、もう片方の刃が目の前にあった。

「——ッ!!」
 激しい金属音。
 辛うじて、ディーンは攻撃をはじき返す。
 
 その衝撃を上手く受け流し、少し距離を置いて構え直す黒衣。

「(コイツ……慣れてやがるな。面白くなって来たじゃねーか)」
 ニッ、と口を歪ませ、同時に目付きを変えた。
 まるで、獲物を目の前にした肉食獣のように。

「行くぜ!」
『はぁッ!』
 二人が、再び交差した。
 先に攻撃をしたのはディーン。
 
 レアブレードが、まっすぐ黒衣の右肩を狙って突かれる。
 それを、黒衣は薙刀の上刃で打ちあげるようにはじき返し、下刃でディーンの胸を狙う。

 レアブレードは握っているが、打ち上げられたまま。
 ディーンの身を守るものは何もない、と黒衣は思っていた。
 
 だが、胸に迫る下刃に向かって、左腕の肘打ちを使ってディーンは狙いを逸らした。
『なッ!?』

 勝利を確信していた黒衣は短い声を漏らす。
 構わずディーンは再び右肩にレアブレードを振り下ろす。

 それに黒衣は素早く反応し、また上刃でレアブレードを打ち返す……が、反応が遅かったようで、軌道を逸らす程度に終わった。

 刃は、顔のすぐわきを通り過ぎ、激しい戦闘で緩んだ顔の包帯を巻きとってしまった。

「えっ、しまった!」
 変声機も一緒に取れてしまい、素の声が出た。

「は? お、女?」
 その声は、紛れも無く女の声だった。
 
 フードはまだ被っているが、前髪は赤、瞳は緑。
 完全に男だと思っていたディーンは、一瞬面喰らってしまった。 
  
 だが、突然襲った爆音と激しい揺れによって、その思考は完全に途切れる。
 
 始めに感じたのは、まるで床が殴って来たような衝撃。
 そして、さっきまで壁だった所が、いつの間にか迫ってきていてそこに叩きつけられた。
 
 それが数回続いた時、既に三人の意識は無くなっていた。


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