ダーク・ファンタジー小説

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独りだけの舞台
日時: 2017/01/05 23:02
名前: 糖分過多。 (ID: 4aEPccTQ)

ーー天から降り注ぐ光は酷く暑苦しい上に、キラキラと少女を照らす。

少女はその時、なんとなく「お前もわたしに輝いて欲しいのか」と感じて、季節の割には元気いっぱいな太陽を、そっと目を細めながら睨みつけた。

* * *

おはこんにちばんは、糖分過多。と申します。
基本複雑・ファジー板にてちまちま小説を書かせてもらっている者なのですが、この度リアルでの多忙/執筆中の小説の展開に詰んでしまい、このままでは文を書くことすらままならなくなる…と思ったので、当板にて文章練習も兼ねて新しく書かせて貰おう、と思った次第です。

当小説には
【シリアス、重い、勿論フィクションですが学園もの(と表現しても良いのでしょうか)、多少の過激な思考】の要素が含まれています。
閲覧者様に不快感をもたらさないよう善処していく次第ですが何があるか分かりませんので、一先ず上記の要素が苦手な方には閲覧をお勧め出来ません。

* * *

皐月の話…1 ( No.1 )
日時: 2017/01/05 23:41
名前: 糖分過多。 (ID: 4aEPccTQ)

【一条皐月の話】

…サツキ?誰ですかそれ、そんな子ウチの部には…。
ちょっと待っててください、今名簿見て探してみます。

あの、もしかして一条皐月って人のことですか?ていうかこんな人居たっけ…?
あ、名前の横に『窓際美人』って書いてある。へぇ、美人センパイってこういう名前だったんだ。

それで、なんでしたっけ。えっと、取り敢えず美人センパイでしたら確かにこの部に居ましたよ。
ていうか、どうして今更あの人の話を聞きに?

あの人がウチの部に居たのは、私たち3年が1年だった時ですよ?

* * *

「ねぇ皐月、ここんとこ教えてくんない?」

「あぁ、此処はこっちの公式を使うんだよ」

私はクラスの連中に囲まれていた。其れは勿論、私がクラスの中心人物で、とても面白おかしい人間だったから…。
って自信満々に言えたら良かったんだけどね。
単純に、私がこの学校で一番勉強が出来ていたから、みんなは私に寄って来てる。こういう授業の後とかは特に。
しかも授業後は、私の眼の前にいるこの髪色の明るい、ちょっと遊んでいそうな男女たちまで寄って来るもんだから、てっきり私は「自分はクラスの中心にいる」という錯覚に陥ってしまいそうになるのだ。

そんな風に思い込んでしまったら、私はずぶずぶと底なし沼にハマってしまう。

訳のわからない偽善に塗られた仮面を被って、ピエロのメイクをして、独りだけの舞台で、客席から降り注ぐ冷たい視線に気づくこともなく、楽しげに踊っていなければならない。
勉強を教えてくれるヤツという立ち位置を、期待しているみんなに示さなくてはいけないと感じているから。
そんな期待、最初から何処にも存在していないのに。

「ありがとー皐月、やっぱ頼りになるねぇ」

「そう言ってくれて嬉しいよ…。またなんかあったら言ってね」

「あざーす、恩に着るっす〜!」

ふと、ふざけた調子で笑い転げる眼前の女を、憎いと思った。

研いだ爪で、その騒音を吐き出す喉を、ぐちゃぐちゃに引き裂いてやりたいと思った。
思い出すと止まらない私は、その時爪を立てて握っていた数学のノートをゆっくりと、けれど跡が残るくらい強く引っ掻いた。

そう思った理由…。これも単純。
人に頼りっきりな上に、この女はたった独りだけで笑っているから。

周囲の人間は、勿論笑っているよ?でも私には分かる。それは“笑顔”じゃなくて、“愛想笑い”の延長線上にある何かだ。

笑い、笑われ、欺いて。一体何が楽しいんだコイツら。

同調して笑う私も私だけど、コイツらもかなりどうかしてる。



ーー其れは社会的にはいじめじゃない。勿論本人たちもそう感じていない。
行なっている方も、されている方も。

けれど其れは、なんとなく本人たちの心に募っていく。其れはまるで磨き上げられたダイヤモンドの粉末のように鋭利で、分かりにくく取りにくい。

だからみんな誰にも気づかれないうちに“こうなる”。

自分を殺して場を読まなくては生きていけないような、そんな社会を作り上げながら、共に順応していってしまうのだ。

弥生の話…1 ( No.2 )
日時: 2017/01/06 22:13
名前: 糖分過多 (ID: 4aEPccTQ)

【高遠弥生の話】

部活の時、美人センパイはいつも弥生部長と一緒に居ました。
クラスではどうだったか知りませんけど、少なくとも部活動中の二人は凄く仲よさそうでしたよ?

…いや、違うかな。
ホントは多分、美人センパイ嫌だったと思います。弥生部長と美人センパイ、全然カンジが違いましたから。

それに、窓際美人ってあだ名をつけたのも弥生部長なんですよ。
あっけらかんとしてて、面白い人でしたけど、あれはちょっと良くなかったかなって思います。
美人センパイ、凄い嫌そうなカオしてましたから。きっとからかわれてるって思ったんですよ、あの人。

え、根拠ですか?

弥生部長が「皐月は被害妄想が過ぎる」って言ってたからですよ。

* * *

皐月とは結構仲良しだと思ってる。
クラスの中では接点が全然無くて、話そうと思っても話題が浮かばないから、あんまり絡めてないけどね。

「皐月、一緒に部活行こう!」

「弥生ちゃん…。うん、いいよ。一緒に行こう」

この大人しそうな黒髪美人が皐月。部活の休憩時間中に、一人で窓際に立って練習してたもんだから、思わず『窓際美人』ってあだ名をあげたの。個人的には割と上手いあだ名を考えられたなぁって感じてる。会心の出来ってヤツ?

「今日も寒いねぇ。この季節は乾燥するし、喉痛くなるー」

「分かる。部活の前に飲んじゃダメって言われてるけど、ついつい紅茶買いに行っちゃうよね」

「うっそ、皐月も?やっぱそうだよねぇー」

不毛な会話?ノンノン。分かってないねぇ、こういう一見つまらなそうな会話こそ、日々の信頼関係を作っていくのに大切なんだよ。まぁ本当につまらないからなんとも言えないんだけどね。

皐月は私に本心を語らない。

其れは距離感が有るとかじゃなくて、単純にそういう子なんだって思ってる。クラスとか部活とか職場に一人は居るでしょ?誰とでもある程度は喋れるのに、そこから先誰とも深く関わらないような子。八方美人って感じかな?…ちょっと違う?まぁいいよ、雰囲気はそんな感じ。

「あ、そうだ。弥生ちゃん、今日の練習は何するの?」

こんな風に皐月から話を振ってくることはまず無い。あっても業務連絡っぽいヤツだけ。

「今日はね、全体練習だけをするつもり。そろそろ本格的にハーモニーを作っていきたいしねー」

だから私もそれ以上掘り下げて会話をしようとは思わない。皐月の返答はいつだって淡白で、代わり映えしないんだもん。合唱のためとは言え、みんなの気持ちを繋げるためにこうして一緒にいるわけだから、“結構”仲良い状態から先へ進みたいとも思わない。

「そうなんだ。楽しみだなぁ、みんなで何かを作るのって楽しいよね!」

思わず私は、皐月のこの言葉を聞いて、眉間にシワを寄せた。
…この一年。皐月と一緒になってから、驚かされることが多くて困る。

皐月は平気で嘘をつける子だ。歌うのは楽しくても、“みんなで何かを作ること”を楽しんでなんかいない。

この屈託の無い笑顔の下では、きっと腹わたが煮えくり返った状態で、私への不平不満を垂れ流していることだろう。本当に恐ろしいことだけど、皐月はそういう子なんだ。
人を信用したくない。だから歌にも身が入ってない。彼女は確かに凄く歌が上手いけど、其の“上手”というのは“音程が取れてる”っていう意味の上手で、本当に上手って訳じゃない。

皐月のすることは、何もかもが淡白だ。
真っ白ですかすかで、なんの感情も見当たらない歌声は、何時だって合唱の中で一人だけ置いてけぼりにされてしまっている。加えて良く響く声だから、何も知らない観客にも伝わってしまう。
『あれ、この合唱、なんだか合唱っぽくないなぁ』
そう思われてしまったら終わりだ。

…極力そうならないよう、私がこうして“つなぎ役”をしているけど、皐月は一向に心を開こうとしない。寧ろ更に亀裂が深まった気がする。

なんでかなぁ、なんて思いながら、私も皐月の笑顔と大差ない、ハリボテの笑顔で答える。

「うん、そうだね!」

Re: 独りだけの舞台 ( No.3 )
日時: 2017/01/14 19:13
名前: 糖分過多。 (ID: 4aEPccTQ)

【小椿遍の話】

其れにしても、本当に変なことばかり聞くんですね、小椿さんって。
え、知らないんですか?校内では有名ですよ。文芸部部長の小椿さんは、やたらと昔の……それも、どうでもいいようなことを聞いてくるって。

あぁ、みんな煙たがってるって訳じゃ無いですよ。ただ、こんな平和の象徴みたいな学校を、『如何にもワケありデース』って言ってるようで、ちょっと……アレかなぁ、ってなってるだけで。

ーーって、ウッソ!もう四時じゃないですか!その場所から時計見えてましたよね?どうして教えてくれなかったんですか!?

これから全体練習あるんで、コレで失礼します!

* * *

言いながら、少女はさっさと部室に戻ってしまった。

阿呆ね、其れを煙たがっているって言うのよ。くっだらない嘘を並べるくらいならとっとと知ってること吐きなさいよバーカ。

なんて、もう居もしない少女の背に向かって悪態を付いたのは、16歳の中学三年生、小椿遍だった。
黒髪を小窓から吹きつける風になびかせながら、小椿は眉をひそめつつも、その場を後にする。

自分たちが平凡だと信じることの何が楽しいのかしら。貴女達は、決して清純な天使でも無ければ、汚れきった悪魔にもなりきれていない、酷く不確かな存在だというのに。

イラつきを抑えようともせずに肩で風を切る小椿を、周囲の少女たちは目で追った。その中にはただ好奇の目で見つめる者も居たが、案の定、と言ったところか。小椿の進路を塞ぐようにして、彼女の眼前に立ち塞がる者もいた。

「ふふ、小椿さん、眉間にシワが寄ってるわよ。っていうか大股で歩き過ぎ。黙ってればお人形みたいなんだから、もっと淑やかに歩いたらいかが?」

この学校に置いて、嫌味ったらしい物言いを好む女は、皆小椿の敵である。
同時に、そういった女の敵も、皆等しく小椿であった。

現に眼前の女は、若干乱れた小椿の髪を見て嘲笑している。

「ご忠告有難う。でも貴女ってば歳上への礼儀がなってないわね。こういった女子中じゃあ、歳上への配慮って大事なことだと記憶してるけど?」

語尾の母音を跳ね上げるようにしながら唇の端を持ち上げる小椿も結局、馬鹿にしきっているこの女と同じようなものなのだろう。

「あら、でも私たちって同学年よ?どんなに小椿さんが年増で、私たちよりもずぅっと学があるとしても、結局は同学年。
先生方に不平不満を垂れたところで、きっとそう返されちゃうんじゃないかしら?」

女の取り巻きが、一斉に小椿に向かって指を指し、高らかに笑い始める。
屈辱と何とも言えない不快感で、思わず小椿は唇を噛み、拳を握りしめた。

小椿はこういう雰囲気が大嫌いだ。
姉がそうであったように、彼女もまた本心から彼女たちに同調することが出来なかったからである。
しかし、姉と決定的に違っていたところは、少なくとも姉は空中ブランコのお姉さんとして、彼女らと同じ道化も舞台に上がれていたという点。

小椿は、高いプライドが邪魔をして、舞台への階段に脚を掛けることが出来なかったのだ。


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