ダーク・ファンタジー小説

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魔法は街の隙間に
日時: 2017/02/11 12:55
名前: ひのえ (ID: KLUYA2TQ)

初めまして
ひのえです。

これは、一人の女の子がふしぎな魔法使いや或る少年に出会って、街を旅したりするお話です。(適当)

興味がございましたらぜひどうぞ。
それでは。

魔法は街の隙間に 序章 ( No.1 )
日時: 2017/02/11 12:57
名前: ひのえ (ID: KLUYA2TQ)

 青い空が、どこまでも澄み渡っている。
 それとは対照的に、太陽を忘れたみたいに冷え切った空気が、刃物のように冷たかった。
 冬の晴れた日。
 私は学校の屋上から、開けた町並みを見渡した。
 気分は悪くない。
 フェンスに手をかけて越え、校舎の際に立った。
 吹く風で、後ろのフェンスが音を立てる。
 ここに来たことに、大した理由はない。でもなんだかもう、自分がこの世界にいる意味は、あまりなかった。
 しばらく、風に吹かれるままにそこにいた。
 冬の日差しを浴びて、街中の窓ガラスが輝いている。橋の上を走る車の列が見える。川の水面は日の光を反射して、その色は目に眩しい。
 屋上から見る景色は思ったよりも綺麗で。
 世界は知っていたよりもずっと広くて。
 それでも今のままじゃ、そこにはいけない。
 けれど、一歩踏み出して何かがうまい方向に変わっていく保証はどこにもない。
 だから私は進むことも戻ることも選べずに、そこに居た。
 下の地面を覗き込む。
 校舎は四階建てだけれど、一体何メートルあるんだろう。コンクリートの地面と、花の枯れた花壇が見えた。
 ……やはり、この先に私の行きたい場所があるようには思えなかった。
 ため息をついて、ふと、顔を上げる。
 そして。
「……え?」
 そこに、誰かがいた。
『そこ』というのは、私の真正面、空の中。
 空より少し濃い青のローブのようなものを纏った誰かが、いる。
 どうして、空に、人が?
 思考からそれ以外の全てが消えて、その疑問だけが頭の中を繰り返し回る。
 一歩、二歩、後退り、そしてフェンスががしゃんと音を立てた。慌ててフェンスから少し離れる。
 後ろを向いていたその人は、こちらを振り向くことはなく、サッと右側に動いた。
 その時。
 黒い影が、澄んだ空を切り裂く。
 まっすぐ、まっすぐに私の方に向かって。
 ああ、あの人はあの黒い影を避けたんだ、そうわかると同時に、動けない私の身体を、その影が突き飛ばした。
 その力に飛ばされ、そして勢い良くフェンスで跳ね返り。
 当然、数歩先に地面はない。
 私は宙に飛び出した。
 青い人影がこちらを振り返る。そのさらに向こうに、黒い人影があるのが見えた。
 ……ああ、こんなつもりじゃ、なかったのにな。
 落ちていく。
 小さな走馬灯の片隅、誰かの声がした。

Re: 魔法は街の隙間に ( No.2 )
日時: 2017/02/13 01:56
名前: ひのえ (ID: KLUYA2TQ)

 深い沼に沈んでいたような意識が浮かび上がってきた時、まず最初に感じたのは匂いだった。
 甘いような、心地良いような匂い。ほんのりと、蜂蜜の味に似ているようにも思えた。
 ふと、先ほどの出来事が蘇る。
 ……校舎から落ちて、それで……生きてるわけないか、じゃあここは……。
「……!」
 目を開けて飛び込んできたのは、私の顔を覗き込む白い兎のような生物だった。
 それはふわふわと飛び回って、どこかに行ってしまう。
 ……やっぱり死んじゃったのかな。
 なんて思いながら身体を起こすと、あちこちで鈍い痛みを感じた。
 ということは、まだ、生きている?
 けれどその辺りはとりあえず置いておくことにして、私は、部屋の中を見渡す。
 部屋は薄暗い。奥の方に暖炉のようなものが見える。
 天井からはよく分からない小さな球体がいくつもぶらさがって、カラカラと軽い音を立てている。
「……?」
 なんだか、不思議な場所だ。
 私はベッドの上にいるみたいだった。そっと床に足を下ろす。
 靴は履いていなかった。靴下もなくなっていて、裸足になっている。
 そっと立ち上がった時、不意に頬がぴりっと痛んだ。
 昨日、プリントを回した時に切れたんだっけ、そんな風に思って、何気なく手をやった。
 少し濡れたような感覚があって、私は手のひらを見る。
 黒。
「………え?」
 影のような黒が、傷に触れた指先を塗らしていた。
 瞬間、頭が鋭く痛む。
 今まで感じたことのない種類の痛み。私の頭の中では生きられない生物が、無茶苦茶になって暴れているような。
「う……」
 痛い。
 頭を抱えてうずくまる。
 痛い、痛い——。
 揺れる視界の中で、正面に鏡があるのが見えた。
 少し離れている、そこに映る私の頬の傷から、黒い何かが伝っていた。
 そして、瞳が僅かに光っているような……。
 そこまで考えた時だった。
 扉が開いて、声が聞こえる。
「大丈夫か……!?」

Re: 魔法は街の隙間に ( No.3 )
日時: 2017/02/13 18:04
名前: ひのえ (ID: bJHwv4jv)

 ぱちぱちと暖炉が音を立てる。
 現れた少年は、天井で鳴っている球体を千切るようにして外し、私に差し出した。
「これに触って」
 右手で頭を抑えたまま、もう片方の手でそれに触れる。
 どういう仕組みなのかはわからないけれど、木の実のようなものだった。触れると、カラカラと軽快な音がひときわ大きく響いた。
 頭の中で暴れまわる何かが、指先からその物体に流れ込んでいくような感覚。
「……大丈夫?」
「あ……う、ん」
 少しずつ頭の痛みは引いていき、やがて耐えられるようになってから私は少年の方に顔を向ける。
 うずくまっていた私に合わせてしゃがんでいた彼は、真っ黒な髪をしていた。けれど私の傷から流れる黒とは違う、優しさを感じる色。
「きっともうすぐあの人が来るから。大丈夫だよ」
 あの人って誰だろう、という顔をしているように見えたのか。
「さっき見たと思うよ。青いローブの人ね」
 少年はそう言いながら立ち上がり、どこかへ歩いていく。
「あ、あの……私、死んだりしてない……?」
 そんな背中に、ほぼ無意識に訊いてしまう。
 少年は顔だけ振り向かせて笑った。
「大丈夫。あの人、時々周りが見えなくなるんだ。でもそれで何かあった場合、絶対そのまま放っておいたりしないから」
 少年の笑顔には、安心できるような心地よさがあった。
 少年はしばらくしてこちらに戻ってくる。促されたので、ベッドに腰掛けた。
 少年が手にしていたのは白いタオルのような布。
「ちょっとごめん」
 その布が頬に当てられる。滴っていた黒い液体が吸われていくような感覚。
 頬の傷は少し傷む。
「きみは、魔法って、信じる?」
 ふと、少年がそんなことを言った。
「魔法……?」
 視界の隅に、あのうさぎのような生物がふよふよと浮かんでいた。握りしめる木の実は、何もしていないにも関わらずせわしなく音を立てる。
「……信じたい」
 どくん、と心臓が鳴った。
 カラカラと揺れていた木の実が、唐突に粉砕する。
「あ……」
 驚いたような少年の顔。私は何が起こったのかわからず、木の実の欠片で切れた手のひらに視線を向ける。
 その手のひらに、影の塊が落ちてきた。
 それが頬の傷から零れ落ちたものだと気がつくのに、時間がかかる。
「な、なんで……」
 少年はどうしたらいいのかわからないという表情を浮かべ、私は再び激しい頭痛に襲われるのを耐えるしかなかった。
 この痛みに耐えなくては、この暴れまわる何かが外に溢れ出てしまうように思えた。先ほど木の実が砕け散ったように。
 そして少しずつ、意識に語りかけてくる何かの声が聞こえてくる。
 ——どう、なりたい?
 そんな声が聞こえる。意識の中でぐるぐると回る黒い塊が、そう訊いてくる。
 気がつくと真っ暗になった空間で、目の前に潜む影が、そう言う。
 いろいろな思考が、浮かんでは消えた。ぴたりとした答えは出てこない。
 でも。
 ここではない場所に行きたい。屋上から見た、あの広くて輝いていた世界のような、近くて遠い世界。
 だから私は。
「……強くなりたい」
 ——誰かを、自分を、救えるような……どこまでも行けるような、強さがほしい。
 心の奥にいた、私はそう呟いた。
 その瞬間、頭の中を掻き混ぜていた何かが、急に体の一部になったかのように。
 色と形を変えていく。
 真っ暗な影が……夜が、明けていく。
 私の中に、朝焼けのような橙色がゆっくりと溶け込んでいた。

Re:魔法は街の隙間に ( No.4 )
日時: 2017/02/15 19:38
名前: ひのえ (ID: 18CkmatM)

 ぱち、と世界が切りかわる。
 何度か瞬きをすると、目の前には先程の部屋が映った。
「……あ」
 少し離れたところに、少年と……あの青いローブの人がいた。
 少年は驚いたような顔でこちらを見る。青いローブの人はちらりとこちらを向いた。表情は見えない。
「だ、大丈夫? 僕が変なこと言ったから……ごめん」
 少年は私の方を見ながらそう言った。……何か悪いことでもあったのだろうか。私は、さっきまでの痛みも消えたし、なんともないのだけれど。
「……それは、魔法だ」
 不意に、ローブの人が呟くように言った。男とも女ともとれる、中性的な声。
 私の方に、歩いてくる。床に座り込んだままだった私は、なんとなく立ち上がった。
「その魔法を、君が殺されてしまう前に消してしまおうと思ったのだが」
「殺され……る?」
 聞き慣れぬ物騒な単語に、私は思わずそう聞き返す。
「魔法というものは形を変えるが、操ることのできない者にそれが宿れば、大抵の場合コントロールがきかずに死ぬ」
 わけがわからないことを言っている、等とは思えなかった。
 その理由は多分、その人の言う魔法というものが、すでに私の中にあるのを感じるからだろう。
「……そこの奴が余計に触発したせいで危ないことになったんだよ」
 少年の方を見やりながらそう言う声に、少し感情の色が見て取れた気がする。怒りとは違う、なにか……。
「す、すみません……」
「あ、いや、大丈夫だよ全然」
 私は首を横に振りながら言ってみたけど、彼はまだ申し訳なそうな顔をしていた。
しばし、沈黙。
 乾いた暖炉の音が響く中、天井付近をふよふよとうさぎが飛んでいた。
 天井の木の実は軽やかな音を立てている。
「で、でも……魔法が宿ったら、普通の世界では今まで通りに暮らせない……。家族とか、いるんだろう?」
 そんな言葉を聞いて、私は少し考え込んだ。
 ……家族、か。
 それは私の帰りを待っていてくれる人のことだろうか。
 それならばいないと思った。
 青いローブの人が、口を開く。
「……君は死のうとしていた。助けるつもりではなかったが、仕方ないだろう」
 淡々と言ったそれを聞いて、少年は少し目を見開く。
「我は魔法使い。同行を許可する」
 響く、力を孕んだ声。
 天井から下がる木の実が一層激しく音を放ち、そして、青い魔法使いは姿を消した。

魔法は街の隙間に 第一章 ( No.5 )
日時: 2017/02/16 19:47
名前: ひのえ (ID: 18CkmatM)

 第一章

 私は少年と二人残された。人が突然消えたということには驚きはしたけれど、なんだか既に、そういうものなんだろうなぁと割り切ることができていた。
 それよりも、わからないことが多いのはこの先困るのではないかな、という思考が浮かぶ。
 私は口を開こうと少年の方を向く。
「あ、あのさ」
 と。先に声をかけてきたのは少年だった。
「無神経なこと言って……ごめん」
「……あ、え、大丈夫だよ。本気じゃ、なかったし」
 そう言いながら、あれはやっぱり自分の中での冗談みたいなものだったのかどうか考える。
 でも、もしも勢いで飛び降りてしまえたら、それでも良かったと考えてはいたのかもしれなかった。
 そして、さきほど言おうとしたことを口にする。
「私、ここの事とか、魔法とか、あなた達についてもっと知りたいな」
 それで、これからどうするのか決めよう。
「……わかった。僕もあんまり魔法については分かってないんだけどね」
 少年はこっち、と呟きながら、部屋の奥にある扉の方に向かう。
 私はそれに付いて、冷えた木の床を歩いた。最後に、空を浮かぶうさぎに手を振って、私は部屋を出た。


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