ダーク・ファンタジー小説
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- 授けられた能力 〜世界が変わったその時〜
- 日時: 2017/02/15 17:23
- 名前: WSCHK (ID: kaDNG7L3)
ここは、とある町の商店街…
大寒波が吹く季節の中、多くの人が道を行き交っており大変活気に溢れている。そんな中一人の少年がゲーム屋さんの窓ガラスの先に写るある商品を物欲しそうにじっと見ていた。
彼の名前は夢川ゆめかわ優希ゆうき。14歳の中学三年生で今は2月。つまり受験シーズンなのだが何故、今頃県立に向けて必死に勉強してはいけないような時にこんなところでのんびりと外を歩いているのかというともう高校を決めたためである。決めた場所は、私立の学園高等学校で二つのコースがあるのだが、一番下のコースだ。
「VRゲームか...俺もやってみたいけどその機器が高いんだよな...どうしようかな。まあ、私立は金かかるし携帯買ってもらえるんだから贅沢言ってらんないけど」
「ん? またお前か。どんだけ欲しいんだVRゲーム」
すると、店内から見知った店員のおじさんが出てきた。俺がよくここに来ているため話しかけてきたのだろう。
「別に良いでしょ。見てたって」
するとおじさんは呆れたような視線を向けてきた。
「お前がそこにつったっているせいで、道行く人の邪魔になっているだろ? 店の中に入っていいからそこからどけ」
「え、だけど別に何にも買わないのに入っていいの?」
「何を勘違いしているんだ? 別に見に来ているだけって人もたまにいる。何の問題もない。まあ、買ってくれればこちらとしては儲かるんでありがたいが」
俺はそうだと勘違いしていたために店の外から見ていたが、店の中に入れるんならむしろ入りたいぐらいだった。それに外寒いし。
中に入ってみると暖房が効いているようで外の寒さがまるで嘘だったかのように暖かい空気が体全体にかかり、快適な温度に…とはならなかった。
「ジャンバー脱ごう。これ着たままだと逆に暑いな」
「そうか、まあゆっくり見て行ってくれ。その代り、ゲーム製品はうちで買ってくれよ。そうだ、お前その中学のジャージ、ひょっとして学校帰りか?」
「え? いいえ。家にちゃんといったん帰ってます」
「そうなのか? いやー、今日はそんなに下校時間早かったのか?」
「違います。受験生ですから他の学年は部活が有りますけど引退したので」
「なるほど、そういうことか」
そう言いながらおじさんは少しの間わはははと笑いながら店の奥へと消えていった。
さっきの「ゲームの製品は家で買ってくれよ」というセリフ冗談だろうとは思うけどどうせゲーム売ってる店この辺にここ以外ないしそもそもここ以外利用したことが無いからどっちみちここでしか買わないんだけどね。
「えっと、VRゲームのコーナーは…」
そう言って目で見てみると直ぐ右側だった。窓から見えていたのだから当たり前だったが。
そこの直ぐそばには友達が面白いと言っていたゲームの映像が流れているテレビがあった。
今考えればこんなに欲しいと思ったのはこの友達が原因であった。別にVRと聞いて凄すぎるだろ。やってみたいな。という風にしか思っていなかったのだがこれを聞いて、凄すぎるだろ。がおかしいだろ何だこれ...。になり、やってみたいな。が絶対にやりたいにランクアップしたのだった。
「あ、これだ。最近発売されたVRMMORPGのコンペティション・オンライン。やりたいけど家にVR機器が一つもないから出来ないん…だけどね」
しかし、さっき見ていたある商品とはこれではない。そもそもがVRゲームはソフト式ではない。ネットダウンロード式のためVR機がないとどんなゲームがあるのか余り知ることが出来ないのである。それである商品とは...
「これ欲しいけど、97200円(税込)は高くて買えないな。と言ってもVR機は新品だと普通にこれぐらいするからな。諦めるしかないか...」
俺は最初から知っていた事なのであまり見ずに別の場所にも行ってみることにした。
色々なゲームが売っていたが今の俺には余り興味のあるものでは無かった。3DSや、PS4が家にはある。しかし、受験で有った為3DSは親に隠されていたのだがこっそり見つけて夜中に持ち出してやっていた時期はあったもののことごとくばれて結局隠されるし、PS4は兄が使っておりパスワードを掛けているらしく使うことが出来ないのだ。
よって、3DSへの興味が無くなり、PS4はやってみたかったけど後に諦めの気持ちが強くなりもう、良いやと思うようにまでなってしまったのだった。
そこで現れたのがVRゲームである。開発された当初はオンラインだとか脳による直接制御なんて夢のまた夢だったにも関わらず、途轍もない速度で研究が進められていき遂にはアニメとかでしか見たことが無いようなものを開発してしまったのである。
最近の技術力の上昇はおかしいと思う。なぜなら、公民の教科書で知ったのだが1990年は初めての携帯電話ショルダーフォンという肩からかけるタイプで重量が5㎏だったというではないか。今の携帯電話スマホはどうだろうか? まだ買ってもらってはいないけど有名だし兄や両親が使っているし貸してもらったこともあるから知っている。素晴らしいほどにおかしいということが。
重量g単位。電話機能は勿論のこと、ネットに繋ぎ色々なことが出来、アプリをダウンロードして沢山のことをすることが出来る...俺はこれを知ってはっきり言おう。怖くなった。これから先の技術の進歩がもしもよくない方向に突き進んでいくかもしれないと思おうと怖くなったのだ。
現にASIMOなんかそうだ。外国人からのコメントにこんなのがあった。
『こいつに銃持たせることってできるの?』
『武装して戦争しているとこに出せば軍事利用できるじゃん』
それを見てこう思った。どうか、戦争の無い世界になりますように...と。
こんな事を頭の中で考えていると、いつの間にか見回り終わってしまった。
「やっぱり買うの諦めるしか無いのかな。今年の誕生日で金が余り無いだろうから高いもの、ましてや10万近くするようなものなんて買ってくれるわけないしな。それに、VR以外に今の所欲しいのないし考えておくか」
俺は店を出た。すると、空はすっかりと真っ赤になっておりそれを見て冬の夜はやっぱ早いなと思い足早に家へと帰ったのだった。
〜〜〜〜〜
家に着くと、3段の石造りの赤レンガっぽい階段をジャンプして飛ばす。そして、2,3歩くとまた階段が2段あり目の前に黒とシルバーのドアがある。
「ふう、やっと着いた」
ドアを開けた。そしてただいまも言わずに玄関からリビングへのドアを開ける。
すると、座布団に座りながら動画を見ている妹の姿が有ったが、無視した。いつもの事である。俺はすぐにパソコンに向かった。
調べたりするのは、学園の情報など。あと小説を読んだりする。Twitterなどもするが、つまらない呟きを適当にしてみたり、返信したりするだけ。はっきりと言ってしまおう。何もすることが無い! 暇だ。刺激が欲しい!そして、母が帰ってきて夕飯を食べる。そしてテレビを見て風呂に入って明日の学校に備えた。そして、寝る。いつもの日課だった。
しかし、それは寝た瞬間突然起きた。
『あなたは、この世界が楽しいですか?』
脳の奥に直接語り掛けてくるような女性の声が聞こえた。俺はその声を聴いた瞬間にいきなりだったため驚き飛び起きた。
「誰?」
『私の名前はありません。しかし、神に近しい存在です』
「神? 神に近しい? 神様なんてこの世にいるもんか」
『なら今あなたに語り掛けている私をどう説明するおつもりですか?』
俺はその質問に押し黙ってしまった。なぜなら、この俺にそんなの分からなかったためだ。
『もう一度聞きます。あなたはこの世界に居て楽しいですか?』
「楽しくないよ。そんなの。勉強や学校はあるし、無理やりこれをやれだとかあれをやれだとか言われるからね」
『なら、異世界n』
「だけど、異世界には行きたくない。なぜなら、俺には家族がいるし友達もいるから。それに、VRゲームもやってみたいんだ」
『そうですか。しかし、こうして話したのも運の尽き、あなたに能力を授けましょう。この能力はあなたをこの世界に知らしめる事も出来るものです。しかし、その能力は使い方によっては、人を傷つけたり殺したりするかもしれません。ですがそれはあなたの使い方次第です。したいことをしなさい。あなたに幸あれ…』
そう言って、その声は徐々に遠くなっていき気が付くと聞こえなくなっていた。
「一体何だったんだろう? 幻聴かな...」
俺は気にしないで布団に入り、今度は何事もなく寝入ったのだった...
- Re: 授けられた能力 〜世界が変わったその時〜 ( No.1 )
- 日時: 2017/02/15 17:25
- 名前: WSCHK (ID: kaDNG7L3)
意識が覚醒した。それと同時に聞こえてくる階段を上って来る聞きなれた足音。お母さんだ。
「ほら、学校よ。早く起きなさい」
俺は少し目を開けて布団の直ぐ近くに置いてある電子時計を見た。そこには6:48と表示されている。まだ眠かったためそのままの寝ている態勢でいると...ジャージを頭の上に投げつけられた。
「雪降ってるから早く起きてきなさいよ」
そして、お母さんは階段を下りて行った。
別にまだ眠っていたっていいじゃないか15分程度で着くんだから。俺はもうひと眠りした。
「ほら、何やってんの。遅刻するわよー。今日はもう会社行かないといけないから母さんいないよ」
その声で覚醒した。まだ眠気は有ったが学校に行かないわけにはいかないので、無理やり目を覚まし時計を確認する。今は7:10だった。俺は、その辺に放り投げられていたジャージに着替えて階段を下りる。
「朝ご飯は?」
「そこに食パンあるでしょ。チョコペーストが有るからそれつけて食べて」
「分かった」
俺は適当に食パンを手に取り更にのっけてチョコを付けて食べた。
左側にある窓を見てみると予想外の景色だった。この積雪量の雪、一体いつぶりだろうか?
滅多に雪なんて降らない気候だというのに。これを見て急ぐことにした。こんな雪の中いつもどうりの速度で自転車漕いでいたらスリップしてしまう。因みに兄の姿はいない。兄はいつも6:50ごろの電車に乗っていくのでもう既に登校しているのだ。
テレビを見ながら食べ終えると、yシャツを着て中学の制服を着る。あと少しで高校の制服になるのかと思うとどんな制服なのか少しわくわくした。制服に着替え終えると洗面所で歯磨きをして顔を洗い寝ぐせのついてはねている髪に水を少しつけてタオルで拭く。すると、寝ぐせがきれいさっぱり治った。それを鏡で確認すると何の確認もしていないリュックを背負って言った。
「行ってきます」
その時テレビで時間を確認すると7:31だった。いつもよりも早い。
「ちょっと待って」
お父さんの声が洗面所の方からそう聞こえたので取り敢えず靴を履いて待っていることにした。
「まだ?」
俺がそういうと、足音が聞こえて玄関のドアからお父さんがやってきた。
「手袋いる?」
「あ、欲しいです」
手袋をはめた。
「じゃあ、行ってきまーす」
「はい」
俺はタッチして家のドアを開けた。
そして広がる白銀の世界。北の方でしか見たことのないような雪が降っていた。右側の芝生の庭を少し歩くといっつも自転車を置いてある場所に着く。自転車のロックを外してそのまま自転車を引きながら階段を下りる。
道路に着いたら途中まで引いていたがめんどくさくなってきたので自転車に乗って漕いで学校まで結局行ったのだった。
学校に行くとき、カッパを着ていかなかったため着いた時には制服が雪で真っ白になってしまっていた。手袋の上から触っているというのに手が冷たさでかじかむ。走っていると前方から雪が突撃して目に入ったり口に入ったりで最悪な登校だった。
学校に到着すると自転車を駐輪場に置いた。因みに友達とは登校時にはめったに会うことは無い。本当にまれだ。
今の『時間』は確認することが出来ない。駐輪場には時計があるがしかし、針がずっと前から止まっているため使えないのだ。
昇降口に入ると緑色のマットが敷かれている。そこまで外靴で行き、脱いで、靴下だけとなった。そのため、マットの外に足を置いたのだが、俺はつくづく運が悪いのだろうか?
置いた場所がびしょびしょに水で濡れていた。しかも僅かに土も混じっていたのか濁っている水にだ。
「あ」
この言葉しか出なかった。取り敢えず濡れたまま靴箱まで外靴を持っていき上靴を取り出して履く。そうすれば、そこまで気になることはないから...。
時計を見ると7:58。教室は2階にある。8:15までに教室に入っていれば遅刻することなんて無いので、余裕で間に合う。そして雪で濡れた制服とリュック、さっき不注意で濡れてしまった靴下をはいた状態という酷い恰好で教室へ向かったのだった。
教室に着くとそのままの足取りで自分の席に座った。これだけの目にあってても眠気は覚めることはなかった。
俺の友達はまだ来ていなかった。いつもは俺の方が遅いはずなのだけど…早く来すぎたかな?
しばらくすると友達が登校してくる。
朝は基本的に友達と話すこと以外特に何もしないが別の関わり合いのある男子もいるんだけども...その男子とは話したりするものの2人を除いて友達...とは思ってない。
だってねぇ...
俺はそいつらがいる方向を見た。すると、今日も平常運行のようで、奇声上げたり暴れたりしている。その内の一人は極めて酷い。自分で元ホモとか言い放ってるし精神科行ってるらしいからな。偶に巻き込まれることが有るけどね。あれが友達なわけがない。というか、あんな奴らと友達だと思われたくない。それぐらい破天荒なのだから。
朝の会が終わった。
「よう、会田あいた」
「あ、夢川か。VR出来ない?」
「やっぱり無理だと思うよ。あんな最新技術の詰まった高価なゲーム機とても買えそうもないし」
「ふーん。まあ、言ってしまうと俺も県立合格しないと逆に親に殺されるけど...」
「そ、そうなんだ...。俺はもう私立決まったけど金かかるからね。携帯買うよね? 俺もそのつもりだけどね」
「買うよ」
「買ったらLineやろうよ。高校入ったら滅多に話せなくなるだろうしな」
「ああ」
「それにしても動画でしか見たこと無いけどバーチャルリアリティって、やっぱり凄いよな」
友達と他愛のない話をしているとチャイムが鳴った。
しかし、このチャイムの音で良くアニメなんかでは「きりーつ! 礼! 着席!」なんか言っているがそんなぴったりに始まるわけがない。大抵それまでに座っていない生徒が何人かいるし、先生がまだ来ていない。
自分の席に戻った。後ろの黒板に今日の時間割表が載っているので見てみると、『1時間目 理科』 『2時間目 英語』 『3時間目 学活』だった。そして給食、下校。余り予定を見たりしていないので今更今日が午前授業のみだということを思い出した。
先ほどから、自分のセリフが余り出ていないが学校では基本的にその友達以外とは喋らないから。ほとんど俺に話す奴いないです。
そんなこと考えていると白衣を着た先生がやってきた。
「はい、席に座ってー。今日もプリントをやります」
もう理科の習わなくてはならない範囲が終わってしまったのでずっとプリントだ。他に範囲の終わっている教科は、数学、社会、国語、英語...って5教科全部終わっているな。
プリントを配られて問題を見る。しかし、解くスピードはいつもよりも遅い。起きたばかりで頭が中々冴えないし、そもそも、私立受かったんだから別にやんなくていいじゃん! という気持ちが有るから。授業中なんかだと、もっと喋ることなんて無くなる。
1時間目の終了のチャイムがなった。
そして日直さんが少し遅れて「起立。礼。着席ー」と言った。
それと同時に聞こえてくる辺りからの喧騒音。大変騒がしい。そういう自分は何をしているのかというと暇で暇で仕方ないので消しゴムを机の上に置いて、人差し指をスリーブの上の右側に当てて、思いっきり力を入れる。
こうすると、上手くいけば消しゴムがバク転をしながら飛んでいく。
やっていると、「それ何が面白いの?」 と友達に聞かれるが、その問いに対して俺は「なんとなく」と答えた。
暇をつぶせるのなら何でもいいんだ。
前何て、つるつる滑る体育カードの角をつまんでプランプランさせたりして暇つぶしてたし。
先ほど言っていた破天荒な男子達は下ネタ連発したりしている。逆に俺は下ネタだとか悪口を言っていて何が楽しいのかが分からない。
そんなことしているぐらいなら、ゲームの話したり、鉛筆で白紙のノートに落書きという名の絵を書いたりしている方が数倍は楽しいのに。
2時間目のチャイムが鳴る。そして、またプリントか...と思っているとリスニング込だった。うわ、めんどくさそうだな...。早く家に帰りたい。
〜〜〜〜〜〜
学校がやっと終わったので家に帰る。今回はゲーム屋さんに行かない。見に行ってもどうせ買えないなんて知っているし。
自分の部屋に入った。
「学校終わったー。午後があるから何していようかな...。そうだ。将来の夢でも考えてみるか。小学生の時は科学者になりたかったけど、今の成績じゃとても無理だしな」
俺は布団に横になってふてくされた。人生なんて分かったもんじゃないや。今の事を考えていればいいのかな?
「俺の...夢・か。どうしようかなぁ」
そう言いながら人差し指で適当な場所に漢字で『夢』となぞった。
その瞬間視界が眩しい閃光に包まれた……
良く考えれば、こんな何気ない日に非日常への幕があがったのかもしれない。
視界が今日見た雪で覆われたように真っ白になり何も見えなくなる。いや、光が有るからこそ眩しく感じることが出来るのだろう。
体がまるで綿のように軽くなる感覚が一瞬起きたかと思うと閃光が消え視界が開ける…
最初に見えたその景色は、いつもの俺の部屋。でも、何かが違う気がしたんだ...
- Re: 授けられた能力 〜世界が変わったその時〜 ( No.2 )
- 日時: 2017/02/16 00:20
- 名前: WSCHK (ID: kaDNG7L3)
この得体のしれない違和感に恐怖を覚えた。その恐怖はとても耐えられるものでは無く、もし自分がおかしいのならば羞恥の覚悟で大声で助けを求めるように叫んだ。
「兄ー!」
その声は部屋中に聞こえた。でも、部屋の扉を開けて出ていくなんてことはとても出来なかった。
自分を締め付けるような恐怖が襲ってくる中で開けることなんてとても出来なかったんだ。手が、体が、氷のように凍り付いて動くことが出来ないから。
長い静寂の中、自分の心臓の音だけがドクンドクンと響ている。しかし、兄の声での返答は返ってこない。返ってきたのは、ただ、どこまでも静かな音だった。
部屋の中からも何の音もしてこない。一体どのくらい経っただろうか? 一分? 十分? 一時間かな? いや、本当は一瞬の時間が酷くゆっくりと流れただけだ。
「誰か答えてくれよ! おい!」
俺はこの静寂がとても耐え切れず、一思いに叫んだ。でも、その答えは大変虚しく誰の声も聞こえることは無く...ただ、心の中を恐怖だけが支配する。
いつの間にか自分が立っていたことに気づいた。思わず反射的に立ってしまっていたのだろう。取り敢えず布団の上に座ることにした。そして今の状況を冷静に考えてみる。
(なんで何処からも音がしないのだろう?)
外からも音が無いことに気づいた。でも、車の通る大通りは家からは大体100m位だ。ベランダに出ないと車の音は聞こえないので気のせいだろうと思った。
だけど、いくらなんでもこんなのはおかしい。いや、よく考えてみたら今日1階で妹がテレビを見ているのはちらっと見たはず、だが、今日はまだ兄の姿を見ていなかった。
俺は、兎に角このままじゃ何も始まらないと思い立ち、行動を起こすことにする。布団から離れて扉の前まで来た。
「きっと大丈夫だ。大丈夫なはず!」
そう自分に言い聞かせ思いっきりノブを捻る。開いた先に見えたのはいつもと変わらない踊り場だった。この踊り場の柵から覗くように下を見ると1階を見ることが出来る。そのため、様子を確認してみた。
しかし、自分の思っていたものとは違かった。さっきまでテレビを見ていたはずの妹の姿もなくテレビの音もしなかった。
「おーい、妹? いるなら返事してくれないか?」
家中にこの声は空気に乗せて響き渡ったはずなのに、やっぱり返事が返ってくることはない。
「おい、おい! 誰でもいいから返事をしてくれよ! ねえ、おいってば。お願いだから。俺が何したってんだよ。なあ、これおふざけなんだろ? 良く分かんないけど反省するからさ。返事ぐらいしてくれたっていいんじゃないのか? ねえ、ねえ! 何か言ってくれよ! ねえ...お..い」
自分以外に誰もいないというのを今初めて味わった。涙が込み上げてきそうになった。でも、それでもなお叫んでみる。でも、何時しかそれは泣き叫ぶようになっていたのだった。
(なんで、誰も返事してくれないんだよ。誰でもいいから返事してくれよ...)
〜〜〜〜〜〜〜〜
数分後
「泣いてても何も分からないし解決しない。そうだ! 外に出てみよう!」
さっそく実行してみることにした。階段をダッシュで駆け下りる。『外に出れば誰かに会えるはず』そう考えると、気づかないうちに涙が止まっていた。玄関のドアを開けて今期待を胸に外への扉を開いたのだった。
ドアを開けると聞こえてきたのは風の音、そして雨の音だった。周りを見渡してみると雪が積もっており全体的に白い景色が広がっている。
でも、それだけだった。車の音も何もしない。もっと、何か、別の音を聞いてみたくなってきた。何でだろうか?
心の内が闇に染まっていく。何の光もない絶望だった—
この時初めて知ったんだ。この世界は、僕以外誰もいないというのを...
〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は家の直ぐ近くの道路に出てみる。いつもなら右の方から車の音が聞こえてくるのに、本当に何も聞こえない。ザアザアと地面に降り注いでは水たまりを作っていく雨。
ただ、それをぼんやりと見やる。
でも、何かが起こるわけでは無い。ただ、何もすることが無いだけだ。あの時と同じだ...学校でも、家でも、何もない。暇しかない。でも、これはそんないつも感じている暇とは何かが違う気がした。
打ちひしがれては崩れていく光。雲が太陽を遮り、辺りは一層と暗くなる。ただでさえ寒い冬だというのに。
身体に打ち付けては滴って落ちてゆく水。それは、急速に俺の体温を奪っていきそこに風が辺り鳥肌が立つ。手が痛い。見てみると真っ赤になっている。
ねえ、俺は何をすべきなんだ。 それに答えてくれるものなどいるはずもなく...
ただ、大通りの方に足を進めた。
大通りに着くと車は走っていなかった。雨の中でで水浸しになった道路の上で大の字になって寝っ転がっている。だが、今の状態でそんなの気にならなかった。
「あはははは、これからどうやって生きていけば良いんだろうな」
誰もいない世界。車なんて走っていない。でも、一つだけ奇妙なものを発見した。それは、うちの家の駐車場に車が置いてあったということだ。いや、それだけではなく別の家の駐車場にも有ったのだ。これは一体どういうことなのだろう?
「家族にもう会えないのかな、友人にも。ああ、もう夜か。最初、時が止まったのかと思ってたけど太陽は動いて1日が過ぎていくんだな。本当にどうすれば良いんだよ! 誰でも良いから出てきてくれよ! これが天罰というのなら何がいけなかったんだ。神様も本当はいるのか...な..!?」
家族に会えない? 友人に会えない? 神様...そのキーワードが1つに重なったような気がした。そしてなんとなく忘れ去ろうとしていた昨日の夜の出来事を思い出した。
でも、何かが有ったということしかまるで陰に隠れているかのように思い出すことが出来ない。そんなことをしていると、一つの単語だけが頭の中に浮かび上がってきた。それは大変はっきりしているものだった。
『したいことをしなさい—』
「したいことを...しなさい? やりたいことをやれってことなのか?」
俺の精神状態は大変不安定で、絶望を越えて快楽のような状態に陥っていた。もうどうなってもいいような気持ちになっていた。あの締め付けていた恐怖も今では何も無かったかのように消え失せている。それぐらい、分かってしまったから。
「やりたいこと...やりたいことってなんだろう? いや、今自分がしたいことは?」
そう考えたら、簡単に一つの答えにたどり着いた。
「そんなの、決まってる...!」
今まで快楽のようだった感情が剥がれ落ちて、本来の精神に戻ることが出来た。その時、本当の感情が溢れ出る。それは、家族に会いたい気持ちだろうか?
いや、人恋しいだけなんだろうな。まだ、会ってない時から1日も経っていないんだから。こんな訳の分からない所に数10人が放り込まれたならまだ耐えることも出来ただろう。でも、一人じゃ何もできない。
一人っていうのはこんなにも不便で、弱弱しく、何もできなくなってしまうんだ。
「元の世界に戻りたい!」
俺は、今までの人生でこんなにも大きく声を出したことが有っただろうか? そう思えてしまうほどの声を出したのだった。
その瞬間再び目の前が閃光で眩く光った。
(やっと、いつもの世界に戻れるんだ...きっと!)
- Re: 授けられた能力 〜世界が変わったその時〜 ( No.3 )
- 日時: 2017/02/16 16:48
- 名前: WSCHK (ID: kaDNG7L3)
晴れていく光。視界が取り戻せると、映った景色はさっきと何かが違うわけではなかった。でも、俺には涙が出ていた。
周りから、耳に吸い込まれていくかのように音が流れていたのだから。でも、怖い。本当に元の世界に戻れたのかと思うととても怖かった。もしかしたらここは別の世界なんじゃないかって。
左側から突然大音量が流れたため心臓が跳ねた。
「わっ、一体なんだ?」
すると、そこには車がおりクラクションを鳴らしていた。
「車? なんでこんなところ...あ」
あ、そうだよ。馬鹿じゃないのか俺は。ここ大通りじゃないか!
「ご、ごめんなさい!」
そう言いながら俺は慌てて一目散に家の方向へと立ち去った
「はあ、疲れた」
いつもの階段を登りドアまで来ると俺は開ける前に立ち止まった。今は一体何時何だろう? 上を見上げれば真っ暗で雲は晴れておらず星を見ることは出来ない。でも、このような時間にとてもドアが開いているとは思えなかった。それに、俺が見当たらないことに既に気づいているはず。もしかしたら、行方不明の捜索願も出されているかもしれない。
「とりあえず、開けてみるか...」
しかし、予想通り鍵は開いていなかった。これは、しょうがないか。なら、とインターホンのボタンを押す。ピンポーンという音が鳴る。でも、まだ少し怖い。その中には親に何が有ったのかどう説明すればいいのか分からないというのも有ったが...
「はーい。どちら様ですか?」
「え、俺だよ。優希」
「え、優希?」
途中から聞こえなくなったがさっきの声は妹だな。おそらくお母さんを呼びに行ったのだろう。
しばらくすると、カチャリという鍵の開く音がした。
「優希?」
ドアから出てきたその声は母さんの声だった。でも、おかしい。なんか引っかかる。
「うん、えっと、ごめんなさい。何でこんな夜遅くに帰ってきてしまったのかというと話すと、その、長くなります...」
「優希!」
突然叫んだかと思うと、怒った顔でこちらに近づいてきてほっぺたを叩かれた。叩いた後、直ぐに心配顔になっていった。
「もう、どこに行っていたの? 帰ってきてくれて良かった。あと少しで警察呼ぶところだったのよ」
「え…?」
俺はそれを想像してしまった。よかった。捜索願出されて無くて。
「お母さん!」
「え、どうしたの? 突然泣き出すなんて。」
少し会っていなかっただけなのに、ちゃんとしたいつもの母さんだということが分かって思わず安心した。その瞬間我慢していた感情があふれ出て、涙を流してしまった。
「うわぁぁああ」
「はぁ...」
俺の行動が本当にわからないようで困ったかのような表情になる母さん。俺は今周りから見たらとても変な人のように見えるだろう。でも、良かったんだ。俺はこの時まであんまり好きじゃなかったけど実感した。どんなに好きじゃなかったとしてもお母さんは母さんなんだって—
「何が有ったのかは分からないけど、まあ、取り敢えずもう夕食出来たから家に入って。ほら、みっともないわよ」
その言葉が聞こえた瞬間俺はこう答えた。
「うん!」
家に入ると母さんが俺が下半身びしょびしょになっていることに気づいた。
「ゆうき。なんでそんなにびしょびしょになっているの? 本当に何が有ったのよ」
「え、えーと」
俺は真実を伝えたい。でも、どう伝えればいいのか全然分からなかった。突然異世界? に飛ばされてなんとか戻れたとでもいえば良いのだろうか? そんな事信じてくれるか分からない。もしかしたら、精神科に連れてかれるかもしれない。流石にそれはごめんだ。
「良く分かんないけど、これ着なさい。ジャージは後で洗濯しといてあげるから」
「う、うん」
「ねえ、兄。何やったらこんなに濡れたの?」
妹に聞かれた。母さんの場合は、そんなに詮索しないとは思うけど、妹と兄にはしつこく聞かれるかもしれない...
「外、雨でしょ。だから、雨の中外行ってたから濡れただけ」
「外雨だって分かってたのに外でたの?」
「え、それは...」
ヤバい。弁解が出来ない。確かに正論だけど。
「まあ、いいや」
そう言って、飽きたのかまた動画見始めた。iPadで。
「ああ、俺は何してれば良いのだろうな。そうだ、パソコンで調べていようかな。不思議体験同じ目に逢った人がいるかもしれない」
俺は、気になったので調べてみることにした。2chのオカルトには似たようなスレが幾つかあった。でも、ちょっと違う気がする。あれは、もしかしたら何かしらの能力なんじゃないだろうか?
「夕飯出来たから机片づけてー」
台所からお母さんの声が聞こえてきた。カレーの匂いがしてきた。色々と疲れていたからなのかお腹がなってしまった。自分の大好物はカレーでは無いのだが十分好きな食べ物だ。ただ、片づけは嫌いでしなさいと言われても大抵パソコンをし続ける。でも、今回は違かった。
「はい」
俺は直ぐに机の片づけをし始めた。今日から改心しようと思ったからだ。机の上の明らかに夕飯を食べるのに邪魔な鉛筆やら本。朝食の時から置きっぱなしの袋に入った食べ物などを置くべき場所だろう所に片づけてゆく。兄は2階から降りてこない。いつものことだ。携帯でゲームでもしているのだろう。そんなことを思っているうちに机の上が片付いた。
「ぞうきんなげるよ」
飛んできた雑巾をキャッチして机を拭いた。妹はまだ動画見ている。
「ほら、はな。動画見てないで手伝いなさい。ゆうきさっき帰ってきたばっかりなんだから疲れてるのにちゃんとやってくれてるわよ」
「はーい」
ただ妹はそう返事しただけで全くしようとしない。まあ、良くあることなのだけれども。そんなふうに夕飯の準備が終わった。
「俊介ー! 夕飯要らないの?」
兄が中々降りてこない。これも良くあることで日常の風景だ。
「優希。で、今日何が有ったの?」
「うーん」
俺は当然そんなことを聞かれたため答えることが出来ず唸ってしまった。でも、食べる。
「一回食べんのやめなさい。こっちは心配して聞いてるのよ」
「待って」
一口だけ食べて、手を止めた。
「えっと、」
「何? いじめられたりしてたの? それとも、友達の家にでも遊びに行ってたの?」
「だから、待ってよ」
つい、少し攻撃的に言ってしまった。でも、本当に聞かれてもこっちも良く分からなかったのだからどう説明すればいいのか。
「言うね。まあ、信じられないかもしれないけど」
俺は正直に言うことにした。別に信じてもらえなくてもいいから言っておくべきだと思ったから。
「実は、うーと、異世界? っぽい場所に行ってしまったかもしれない」
「?」
すると、お母さんは普通の反応をした。多分、万人に言ったら全員そうするかぐらいの。
「異世界?」
「あー、やっぱり良いよ。聞かなかったことにして」
「もうちょっとちゃんと言ってちょうだい」
「別にいいけど。信じるかはそっちに任せるよ? 異世界に行ったの」
「異世界に行った? うーん...」
考え込むような表情をされた。まあ、妥当だろうな。誰でもこういう反応するだろうし。こうやって話していると兄がゆっくりとゲームをしながら降りてきた。あいつ...
「何の話してんの?」
「ん? 何か優希が異世界に言ったとか可笑しなことを言い始めたのよ」
「はあ? 異世界? 優希。お前頭どっか打ったのか?あ、分かった。厨二病に目覚めたのか」
「ちげーよ! いや、確かにおかしいこと言ってんのは分かるけどさ。流石に今ふざけてなんて言ってないです」
そう言うと、あからさまに痛い人を見るような目でこちらを兄は見つめてきた。気まずい空間ができる。やっぱり言わなかった方が良かったかもしれない...
「あの、夕飯食べるの再開してもいいですか?」
返事は特に返っては来なかったが食うのを再開することにした。それにしても、あの誰もいなかった世界は一体何だったんだろう。何故、あんなことに? 俺が夢遊病にでもかかったのかな。でもな、夢遊病にしても大通りまで行くわけが無いよな。もしかして、最近THIS!世界驚愕ニュースでやってた多重人格...それはないか。
そのまま夕食の時間は黙々と過ぎて行った。ただ、心の中には家族に再会できた喜びと、それを越えてくるかのようなどうしようもない不安や恐怖に俺は襲われていたのだった。
そして、風呂に入って寝ようとした。でも、自分の部屋の中で一人になり、より一層隠していた不安、恐怖は大きくなっていた。どうしても、寝付くことなんて出来なかった。
もしかしたら、夜殺されるかもしれない、幽霊に襲われるかもしれない、朝起きたら家族がいなくなってるかもしれない。俺のネガティブな思考は徐々に深刻化していく... でも、いつの間にか寝ることは出来ていたんだ...
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