ダーク・ファンタジー小説
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- clock memorys
- 日時: 2017/03/11 19:55
- 名前: あぽろ (ID: Y79UCnle)
ーーどうして君は泣くの?
まだ名も知らない僕が、声も知らない僕が、そう問う。
人に当たり前の事なんて分かんないから。特に、今の僕には。
ーー君は何故、笑うの?
また考えるより先に声が出た。僕の言葉を遮る様に降る雨は、僕を嘲笑うようで、また、訴えているようで、答えも導き出せないまま、ただ前へと進む。
記憶を失った、あの日へ。
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窓から差し込む光が俺の体に反射して、背中が少し暖かい。
起きなければという焦りと二度寝したい欲望が入り混じって、気持が悪い。
少しだけ体を起こすと、体から布団がずり落ちてくるのが分かる。
まあ、それよりも俺の目に映っている状況の方に集中しなければいけないのだけれど。
「…は?」
その声は直ぐ小鳥の鳴き声にかき消される。でも自分の喉にはかすかに響きが残っていて、もう一度リピートする。
この光は、目覚ましでもなんでもなく、俺を起こすためだけのものに過ぎなかった。
こんなとある春の日。
騒がしい俺の1日が始まった。
「行ってくる。」
そんなちっとも焦りの無い声とは裏に、口にはパンを詰め込んで、靴の踵を踏んでいる。
アスファルトで出来た小石混じりの道をスニーカーで踏み散らすようにして歩く。
喉に少し詰まったパンが俺の呼吸を邪魔する。
ようやく飲み込めたと思えば次は信号を待つ。この時間が焦ったくて、少し苛立つ。
整った眼鏡にスーツ、首元のネクタイに人混みでも動じない忍耐力。
典型的なサラリーマンで、よく見る光景。
将来俺もこうやって働くと思うと、少し不安だ。
こんなことを思っていたら信号は青に切り替わっている。小走りに走った後交差点を曲がり、全力疾走に切り替える。鞄の中の教科書、プリントが全てかすれ会い、慌ただしい音を立てる。こんなのが日常茶飯事になってしまったのだから、今頃後悔などしないだろう。
学校に入って慣れた手つきで上履きに履き替え、階段を一段飛ばしで駆けていく。
慌ただしい姿を教師は呆れた目で見て、生徒は馬鹿らしいと罵りの目を向け。
今頃恥はしないし、気にも留めない。
可笑しいのだろうか。自問自答を繰り返しながら椅子を引く。
座ろうとした時、何か違和感を覚えた。
「…ん?」
雑に疑問を文字に変換して、声に出す。
いつも見える黒板の位置、席、他の奴だって同じ、席の位置が変わっている。
「席替、っ」
そう口に出た時、 いや、出そうになった時。
制服の肘同士がぶつかり合って、横も見向く事が出来ずに声に耳を傾ける。
「お前さあ、席替え…岡山とじゃん…」
その憎たらしい声にはふざけた様子はなく、ただ哀れに思っているだけなのであろう。
こんなに真面目なトーンで哀れに思われるのも仕方がない。何故ならそれは席替えの結果。
『岡山』という名は、知らない奴は居ないほどの有名な奴。
その有名になったら理由は、他でもない。
地味さだけが取り柄の女子だ。
取り柄というのかもはだはだ疑問だが、問題はそれだけではない。
何といっても地味なのだ。地味、喋らない、服がダサい。この三種類が揃った今、当てはまるキーワードは一つしかないだろう。
『昭和』。
ああ、これからの一ヶ月間、宜しくなのか、何も言わなければいいのか。
ただ、岡山を見ながら、くじの運のなさをただ恨んだ。