ダーク・ファンタジー小説
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- 魔王がしんだ。
- 日時: 2017/03/22 22:12
- 名前: くずきり (ID: yGaMVBz.)
ある日、人類は魔王の手によって滅ぼされた。
_____たったひとり、僕をのぞいて。
- Re: 魔王がしんだ。 ( No.1 )
- 日時: 2017/03/29 01:04
- 名前: くずきり (ID: yGaMVBz.)
小さな島があった。
栄えているわけでも、人数が多いわけでもなかったけれど、住んでいる者達は皆笑顔で幸せな日々を過ごしている、そんな島があった。
他とは孤立しているその島の周りは、大きな海が囲んでいる。皆、その美しい海が大好きだった。けれど島には船がなく、海の向こうに行くことはできない。それでも、皆不満はなかったし、島での生活は充実したものだった。
しかしある日、そんな幸せな生活が一転した。
自らを「魔王」と名乗る恐ろしい力をもった一人の青年が、島の者を皆殺しにしたのだ。島中は血で染まり、悲鳴すらも聞こえなくなった。抵抗を、する暇もなかった。
魔王は、ここが最後の島だと言った。もうこの世界に生きている者はいない、と。
人類は、魔王によって滅ぼされた。
ただひとり、僕をのぞいて。
「......退屈だ」
空高くそびえ立つ、灰色の煉瓦でできた塔の最上階。ふかふかのソファに大きな体を横たわらせながら、褐色肌の青年__魔王は呟いた。
「......魔王が全部壊しちゃったから」
「人間がこんなにも脆いとは思わなかった。暇つぶしにもならなかったぞ」
昨日全てを滅ぼした魔王は、僕の後ろでごろごろとくつろいでいる。僕はというと、椅子に座りながら窓の外を眺めていた。
魔王は、僕だけを殺さなかった。
隣にいた友達の頭が吹き飛び、血の雨が降り注ぐ中、彼は僕をみてその手を止めたのだ。
島に誰もいないことを確認したあと、昔からあったこの塔を気に入ったのか、僕を連れて住み始めた。
「どうして、僕を殺さなかったの」
そう問いかけても、魔王はただ首をかしげるばかり。その様子はどこからみてもただの青年で、人々を惨殺した悪魔には到底みえなかった。
「なんとなく......お前は似ていると、思った......気がする」
「......へえ」
魔王は自分自身でも、なぜ僕を殺さなかったのかわからないらしい。
「しかしお前、随分ちんちくりんだな。ちゃんと食ってるのか?」
「......きみと比べたらそりゃあちんちくりんだよ。僕まだ子供だし」
確かに背は低いほうだし、友達にもよく小さいと言われたけれど。
まだなにか言っている魔王のほうにはいっさい顔を向けず、ただひたすら窓の外を眺める。高いところからだとよく見渡せるな。
あそこはよく行った駄菓子屋。その近くには小さな公園。あっちはたけるくんの家。あれは__ああ、もう皆、いないんだ。
「お前、俺が怖くないのか?」
「......さあ。怖いなんて、生まれてから思ったこともないから」
そういえば、と、僕はやっと魔王を振り返りその目をみた。
赤く光る瞳は、僕だけをうつしている。
「魔王は、どこからきたの」
「さあな。気づいたら俺はいたから、どこからなんざ知らん。やることもなかった。ただ、なにかを壊したくなったからここにきた」
「......これから、どうするの」
「知らん。......ああ、じゃあお前が考えろ。壊すことよりももっと面白いことを」
随分無理をいうなこの魔王は。他人が面白いと感じることなんて、僕にはわからないというのに。
「......努力はするけど、期待はしないで」
「時間なら余りあるからな、なんでもできるだろう。つまらなかったら殺す」
どうやら、僕の命は彼の機嫌にかかっているようだ。殺すのならさっさと殺してくれて構わないのに。
「わかった。......きみって、魔王っていう名前なの?」
「生まれた時から俺は魔王だ。なんたって強いからな。お前は?」
「僕? 僕は......リョウ」
「リョウ。せいぜい励めよ」
これは、僕と魔王の話。
そして、魔王が死ぬまでの、短いお話。
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