ダーク・ファンタジー小説
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- 森の中の何でも屋
- 日時: 2017/04/07 21:46
- 名前: 藍兎 (ID: nsZoJCVy)
何処かの国には、僅かだが特殊能力を持った人間がいるらしい。
…でもそれは、生まれつき持って使えたり、後から自然に使えるようになったりするわけではないという。
その国には、特殊能力を生み出すために作られた施設があって、そこで特殊能力を人間に持たせる、使えるようにするらしい。
まぁ、その実態は誰も知らないんだけれどね。
※グロ注意です!
- Re:慟哭する迷い子 ( No.1 )
- 日時: 2017/04/07 22:46
- 名前: 藍兎 (ID: nsZoJCVy)
_コツコツ
ノックする音が部屋に響いた。それは、明らかに人間が扉をノックした音ではなく、小動物が窓をノックした音だ。
迷いなくノックされた窓に向かい、開けてやる。すると、するりとリスが部屋に入ってきた。
どうしたのかと思うより先にリスの片足が赤く染まっているのを見て、リスを机まで、揺らさないように持っていく。
机に乗せてやれば、今度はリスの片足をじっくり診る。片足は、肉が完全に裂けて、ひび割れた骨と薄い皮だけで繋がっていることが分かる。
俺はすぐに、リスからの承諾を得てから治療をした。
片足に手を翳すようにして目を閉じる。暫くして目を開ければ、片足は完全に治っていた。
「おかしな所、ないか?」
「グギャッ!」
「そっか。驚かしたか、ごめんな。でも、もう大丈夫そうだ。外へ行ってきな」
タッタッと、リスは喜ぶように大きな尻尾を揺らしながら窓から出て行く。どうやらあのリスは、俺のことを知らなかったらしい。だから、話すことが出来たときはとても驚いていた。…でも、確かにあのリスは喜んでいた。
ふと、リスが出て行った窓を見た。
今日は雨だったか…。外はいつもより薄暗く、俺しかいなくなった部屋には、ポツポツと、雨音と、少しの、俺の呼吸音だけが響いている。
暫く、何もせずに雨音を聴いていると、人間の足音のような雑音が混じる。思わず舌打ちしそうになるのを堪えていると、今度は扉がノックされた。
仕方なく、俺は立ち上がった。
「はーい、誰ですか?」
「あのっ、助けて下さい!」
「…?」
扉を開ければ、見えたのは狐の妖怪と思える少年だった。ひどく焦燥しきっていて、今にも泣いてしまいそうにも見える。ここで泣かれても困る。仕方なく、部屋まで少年を通すことにした。
少年が言うには、迷子らしい。
「今日、友達と一緒に遊んでたんだけど、迷っちゃって…」
「…そうか…。君のお友達も、迷子かは分かる?」
「多分、迷子」
「ふぅん…。じゃあ、俺がその友達を探して帰してあげる」
そう言うと、少年は大きな目を更に見開いて驚いた。
「いいの!?ありがとう!」
少年は、喜びのあまり立ち上がって叫んだ。
本当、感情豊かで羨ましいと思う。
「そしたら、君のお友達の姿を教えてよ」
「えっと、ヨウ君は狸の妖怪で緑の着物を着てるの。ハル君は、狼の妖怪で赤の着物を着てるよ!」
「そっか…ちょっと俺の友達に見たか聞いてくるけど…一緒に来るか?」
「…うん、行きたい!」
大変元気でよろしい!そんな事を思いつつ、俺と少年は家を出た。
家から出れば、すぐに見えるのは黄色のバラ。それが、玄関前には沢山植えてあるのだ。
そこから、道のない所を進んでいく。少年は、薄暗い森が怖いのかぎゅっと袖を握った。
「…なんで、この森に来たの?」
「いつも、ここで遊んでるんだ。でも、今日は深いとこまで来ちゃったんだ」
「そうかぁ。この森はな、迷いの森なんだよ。だから、子供は絶対に来ちゃいけないんだ」
「そうなの!?」
「そう」
まぁ、そんなの嘘だが。でも、一度身をもって経験すれば簡単に思い込む。人間の子供は、本当に扱い易くて助かる。
そう話しながら歩いていくと、開けた場所に出た。そこにいたのは、とても大きな熊だ。俺が一言声をかけると、熊はのそのそとこちらに近寄ってきた。
少年は熊に怯えているのか、更に強く袖を掴む。
頭を撫でて安心させてから、俺は熊に話しかけた。
「ここら辺で、緑の着物の狸の妖怪と、赤の着物の狼の妖怪は見なかったか?」
「がうがう、がう、がうがう」
「ほう…ありがとう。ほんと助かるよ」
「がう、がう」
「おう、またなー」
熊によれば、ここから南に進んだあたりに二人共いるらしい。少年にそう告げれば、
「良かったぁ…」
とても、安心した顔でそう呟いていた。
「さ、迎えに行くか」
「うん!」
- Re: 迷い子を嗤う ( No.2 )
- 日時: 2017/04/10 22:10
- 名前: 藍兎 (ID: FQc4ogfY)
森の南へ、真っ直ぐに進む。
途中、通りかかった動物や、俺が来ていると知って会いにきてくれた様々な動物達に、少年はとても興奮していた。
そして、会った動物にも少年のお友達の姿を見なかったかと聞くと、いずれもここから南に見たと言う。下手に歩き回れば余計に迷ってしまうと考えたのだろう。賢いとは思うが、良い印象は持たなかった。
「ここから南。そこらへんにまだお友達いるっぽいね」
「……お兄さんって、妖怪?」
「…どうして?」
少年が、今までとは違うような、不安な顔で尋ねてきた。
俺は、訳の分からないまま話を聞く。
「この森にはね、非情な化け物が住んでるんだって」
「俺が、その化け物?」
「い、いや…化け物には、大地を壊すほどのとてつもない能力があるから…」
「…成る程ねぇ。でも残念ながら、大地を壊すほどの能力は俺には備わっていない」
「そうだよね…ただの、言い伝えだから」
「そう。ただの言い伝えだからね」
俺が作って広めた言い伝え。
「今日はなにする?」
「うーん、なにするかなぁ」
「森とか行ってみねぇか?」
「おーいいな!」
「えー、平気かなぁ」
「平気、平気」
「行こーぜ!」
「もう、どうなっても知らないよぉ?」
森を提案したヨウ君と、それを嫌がるハル君。僕は、いつもこの二人についていっているだけだと感じる。
今日も雨の中、二人について森へと入ったのだ。
途中までは、とても楽しい冒険だった。森の中は薄暗くて怖かったが、二人がいれば何も怖れるべきものは無いように感じたのだ。だからか、安心しきって周りが見えていなかった。
気が付けば、周りには木しかない。二人も、人影も、話し声すら聞こえなかった。どれだけ目を凝らしても、霧がかかって何も見えないし、どれだけ耳を澄ませても、聞こえてくるのは雨音だけだ。
どうしたら良いのか分からない僕は、取り敢えず歩いた。何処に向かっているのかもわからないけれど、誰かとすれ違ったりするだろうと信じて、歩き続けた。
もう歩き疲れて、そこら辺の木の幹にもたれかかって寝てしまおうかと考えていた時、森の中には少し不自然だと感じるログハウスが見えた。
ログハウスの周りには、様々な植物が植えられ、一言でいうのなら、綺麗だった。まるで夢の中や、物語などで出てくるお家のようだ。
…そこで、とある話を思い出す。「森の中の化け物」という言い伝えだ。
街で造り出された化け物が、街を滅ぼそうと暴れる。そこで現れた旅人が、見事に化け物をやっつけたのだが、化け物は逃げ出したふりをして森の奥深くにログハウスを建てて暮らしている。
そんな感じの言い伝えだ。
躊躇いはあった。でも、ここで躊躇っていても時間が過ぎていくだけ。僕は、意を決してログハウスへ向かった。
扉を叩き、声を出して人を呼んだ。暫くして出てきたのは、くせっ毛の茶髪に、翠に輝く瞳をした男性だった。医者なのか、ラフな私服の上に白衣を羽織っている。第一印象は、優しそう、だった。
僕は、その後友達を探してほしいと頼み、男性と一緒に森を歩いた。
途中で、忘れていた言い伝えの事を思い出し男性に話そうと思った時だ。目の前が白く光ったかと思うと、僕の記憶はそこで途切れていた。
「さぁ、街に戻りな」
見つけた二人の子供にも、忘れずに忘却の呪いをかけてそう言った。三人の妖怪の子供達は、何事もなかったかのようにそれぞれの家へ戻るだろう。俺は、ただそれを見送り、見守るだけだ。
『お前は守り神かっての!』
ふと、唯一縁のある友人の声が頭をよぎった。漫才でいうならツッコミの立場の友人の声は、とても柔らかくて好きだ。俺の意見にツッコんだ後の、心底楽しそうに笑うのも友人の魅力で、とても好きだと思う。
そういえば、あの狐の妖怪もそんな雰囲気だと思った。が、俺の呪いすら解くことが出来ないやつなんて、ただの出来底無いも当然。…嗚呼、出来底無いが生まれるほどぬるい世の中になったのかと、俺は空を見上げた。
まだ、生憎の雨曇り。
それでも、友人は笑っているのだろうかと、俺は街の人々を嗤う。
…そうすれば、友人は来てくれるはずだから。
- Re: 物騒なお話 ( No.3 )
- 日時: 2017/04/12 21:52
- 名前: 藍兎 (ID: nsZoJCVy)
目の前には、とある男が手と足を削ぎ落とされ、さらに、全身を念入りに動けないように拘束されていた。
俺が男の前に立つ。男が顔を上げると、目の前が歪んだ。
気が付けば周りは一面花畑で、幻想的な空間だった。何処かになにかないかと歩いてみると、一歩一歩踏み出す度に周りの花が成長していく。
つい、子供に戻ったような気分で走っていると、少年の声が聞こえる。後ろからしたその声で振り返ると、少年は後ろを向いていた。
少年がゆっくりと振り返る。
何故か駄目だと思った俺は、何かを少年に向かって叫んだ。そもそも、言葉になっていなかったかも知れない。けれど、ただただ、叫んだ。
ゆっくりと、スローモーションになったかのような空間の中で見た少年の顔は、俺を見て嗤う、少年の頃の俺だった。
「…あれ?」
気が付けば、俺はベッドの上に居た。どうやら目が覚めたらしい。
さっさと顔を洗って、歯を磨いて、朝食を食べる。今日は気分が優れないから、食パンをそのまま焼いただけの簡素なものを食べた。
なんとなく気になって、外のバラを見に行く。
俺の精神状態に影響されてか、黄色のバラは萎れかけているようだった。能力は便利だが、こういうときは面倒くさいと思う。…嗚呼、今回のバラは気に入っていたのに。
でも、そんな事を考えていても仕方がない。結局は、精神状態を良くすればいいだけのことだ。まぁ、簡単に出来るとは言っていないが。
一応、家の周りの植物も見ておく。最近に花が咲いた桜の木は、まだまだ元気だ。他の植物も同様だった。
…能力を使ったのって、バラだけだったっけかなぁ。
最近は忘れっぽいから困る。だからとは言え、医学しか脳がない俺に何かが出来るかと言われたら、何も出来ない。独学って、こういうときに困るのかと感じた。
もう外に用もないし、家に入ろうとした。すると、誰かの足音らしき音。
軽快なステップのそれで、誰が来たのかは一瞬で理解できた。そして、思わず舌打ちが漏れてしまう。
相当苛立っていたのか、来た誰かにもそれは聞こえていたらしく、怒ったような顔で俺の前に姿を現した。
「もう、久しぶりだってのに酷くねぇ?」
「…会って一言目がそれ?」
「よぉ、何でも屋さんよ」
黒帽子に黒ベスト、黒ズボンの、いかにも怪しげな恰好をしたこの男、橋本 浩介_といっただろうか、覚える気のんてないから分からない。_とは、ただの腐れ縁だ。決して友人ではない。
「今日は依頼で来た」
「…そ。話は聞く、そしたら帰って」
「相っ変わらずその塩対応は変わんねぇのな」
橋本が、小さな瞳で睨む。その瞳はただの闇のような黒で光は一切としてない。まるで、吸い込まれてしまいそうな瞳でもある。
俺は、見とれてしまう前に目を逸らした。
家に入れれば、橋本は遠慮も無しに椅子にドカッと座る。礼儀というものを知らないのだろうか。文句を言っていても時間の無駄なので、橋本の反対側に座る。
俺が座って話を聞く準備が出来たことを確認して、橋本は話し始めた。
「ここから北東に五キロくらいの場所に、テロ集団がいてな。そいつらが、とうとう内のシマのみならず、拠点まで襲ってきやがった。…簡単に言う。そのテロ集団を壊滅させてくれ」
「人数は?」
「三十人弱くらいだ。全員顔は割れてる」
「報酬は?」
「5000万」
「…そんなに出して平気なのか?」
「あぁ。今回は、依頼を確実に達成してほしいからな。それを考えて、これだ」
「……分かった。その依頼、受けさせてもらうよ」
「あぁ。宜しく頼む」
話し合いに五分とかからなかった今回の依頼は、周りから見たらただのバカがしていることのようなものだ。
一人だけで三十人の集団に突っ込むのに、話し合いも碌にしない。…でも、俺に限って失敗することは殆どない。これでも、長い時間この仕事をやっている。偉い人からの信頼も厚い。
…自分でいうのもなんだが、つまりは俺が、殺しに関してはエリート並みの実力があるということ。三十人なんて朝飯前である。
結果、俺はバカではない。俺の事を知らないやつの方がバカなのだ。
そう考えていると、思わず口角が上がってしまう。今回の仕事は、楽しくなるかも知れない。
そんな俺の考えを読み取ったのか、橋本も口元を歪めて、言った。
「俺もストッパーとして行くか?」
「巻き添え喰らいたいのなら、どうぞ」
「ははっ。それは遠慮したいな」
そんな、森の中の物騒なお話は、笑い声を響かせながら夜深くまで続いていた。
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