ダーク・ファンタジー小説

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その復讐、翻訳アプリにて。
日時: 2017/05/03 06:48
名前: DAi (ID: VHURwkNj)

妹を失った、愛華。
親友を失った、雛瀬。
そんな彼女らの元に、
『相手の嘘を、真実に翻訳できるアプリ』
が現れる。
彼女らはそれを以って、妹を、親友を死に追いやった者達に復讐することを誓う。
狙うのは、犯人らの最も大切にしているものを奪うこと。
そして、事件の真相を知ること、だ。

Re: その復讐、翻訳アプリにて。 ( No.1 )
日時: 2017/05/03 06:50
名前: DAi (ID: VHURwkNj)


「店長。そちらの方、万引きなどしてないのでは?」
「はぁ? お前が見たと言ったんだろ藍山《あおやま》!」
「私はただ、店長が見付けたからと、そちらの方を連れて来ただけなのだけれど」

 事件があったのは、駅近くにある2階建ての大型書店だった。買い物に来ていた女子高生が万引きをしたと、レジ裏の事務所に連れて来られていたのだ。

 店長は、立ち尽くすその女子高生を前に、ふんぞり返り座っている。だが、少し離れて壁にもたれかかるアルバイトの女子大生、藍山愛華《あおやま あいか》が異を唱えた。

 すると女子高生も店長を指差しながら、

「だから違うって言ってんじゃん! 冤罪なんですけどー?」

えらく派手な長い髪とやたら大きく目立った胸を揺らす。

 人がすれ違うのがやっとで、事務所と言いつつ店長用のデスクと、新刊も返本も大量に折り重なるだけの空間では、彼らの大声が周りに漏れることを防げないだろう。


「噂に聞けば」

 そしてそんな大音量達の中、愛華だけは冷かな目と声を持っていた。

「店長は女性の万引き犯を見つけると奥へ連れ込みよくないことをするという。女性の店員にも罰と称して……。まさかこれですか? いつも個人PCも持ち込んでいますが、そのPC、何に使っているのでしょ?」

 話しつつ壁から離れて店長の背後に近寄ると、腕組みをして彼を見下す。店長は一瞬デスクに置かれた自分のPCに目をやるが、すぐに愛華の方に振り返り、

「そんな噂誰から聞いた? 事実無根ってやつだ! 個人PCは、ここにあるPCが使いにくいから仕方なく持ってきているんだ! OSが合わんOSが!!」

愛華の胸倉を掴まんとする勢いで立ち上がった。

 対する彼女は一歩も引かず、見ていたスマホをしまう。そればかりか、口元に僅かだけ笑みを浮かべると、姫カットにした長髪を軽く掻き上げて店長を睨み返した。その凛と澄んだツリ目を向けられた店長は、思わずたじろぐ。

「その様子を見るに、やはり噂は本当ということですか。恐らくそのPCの中に、色々な動画が入っていそうですね、隠しフォルダの中に。事実無根だと言うのでしたら、それを見せていただけます?」
「か、隠し……!? や、やめろ、プライバシーの心外だ!」

 店長の前には愛華、後ろには女子高生。最初は威勢よく万引き犯を連れ込んだはずの彼は、右往左往さえも出来ない程焦りの顔を浮かべていた。それでも、わずかにあった隙間を転がるように通過すると、PCを持ったまま逃げようとする。

「どわ!?」

 しかし。どうやら中の騒ぎに気付いていたらしい他の店員が、レジ側と事務所とを隔てる扉で、聞き耳を立てていたらしい。それらにぶつかった店長は、尻餅をついていた。

「皆さん、今の話を聞いていたのなら、後はお願いしても良いですか? 私はこちらの方を外にお連れしますので」

 いよいよ店長の逃げ場がないのを見て、愛華は女子高生を連れて店外に向かっていく。一瞬振り返ったその冷たい瞳には、取り囲まれた店長と、取り上げられたPCが映った。


 そして、彼にはこの程度でも復讐完了でいいでしょ、と考えつつ、愛華は目を瞑った。


 店長は言った。万引き犯を見付けたのは愛華であると。

 愛華は否定していたが、これは事実である。愛華は、万引き犯に聞かれないためという名目で、スマホに文字を打って店長に知らせていた。

 では、なぜ否定したのか。

 愛華が文字でそれを打って店長だけに見せたということは、他の店員や客は誰もそれを耳にしていないことになる。愛華は監視カメラを背にしていたので、カメラにも映っていない。つまり、誰が万引き犯を見つけたと言い出したかは、本人達にしか分からないのだ。

 そして、この書店での噂、“店長は万引き犯の女性を連れ込み悪事を働く”というもの。これがある中、店長と女性客がバックヤードへと消えて行けば、他の店員目線では『これが噂の?』と考えて然るべし。他の店員は、店長が連れ込んだと考えて、聞き耳を立てたのである。

 要は、誰も店長の言葉など信じない。


 愛華はそもそも、こうして店長をハメるためだけにここでバイトをしていたのだ。

 ただノートPCを見せろと言っても、店長はそれを許さないだろう。そこで実際に女性の万引き犯を目の前にさせた後に噂を暴露する。こうなれば、当然冤罪の女子高生も店長を責め、彼は冷静さを失うしかない。
 そして、これをしてくれそうな女でなくてはならないので、愛華はあえて、派手な女子高生を……ギャルっぽいそれを選び万引き犯と言い出したのである。

 その結果、店長のノートPCは白日の下に晒され……その後は、愛華の知るところではない。

 まずは、1人目。
 全ては、妹のための行動だ。妹の死のきっかけを作った人物全員を探し出し、復讐をする。

Re: その復讐、翻訳アプリにて。 ( No.2 )
日時: 2017/05/03 06:52
名前: DAi (ID: VHURwkNj)

 藍山愛華には、明乃《あけの》という、3つ違いで高校1年の妹がいた。彼女らの両親は、愛華が中学生の時に事故で他界しており、たった2人だけの家族だ。

 当時は一時親戚の家で過ごすも、愛華が高校生になってからは2人でアパートを暮らして住んでいた。だがそのかけがえのない、唯一の家族も、1ヶ月前に亡き者になっていて……原因は、高校で起きた事故……屋上からの転落である。

 学校側の説明では、いつも施錠し進入禁止の屋上へ、放課後勝手に明乃が入り、壊れたフェンスから誤って落下したとのことだった。

 学校側は、フェンスが壊れていることを把握しておきながらの事故については謝罪したが、元々屋上へは進入禁止だったこともあり、明乃が悪いということで、あまり大事にならずに終わっている。


 だが。愛華はそれを信じていない。


 妹は、引っ込み思案な性格だ。
 両親が亡くなってからというもの、愛華がずっとそれを守って生きてきた。明乃は愛華が卒業した高校に入学し、色々と愛華から聞いていたし、困ったことがあれば何でも相談してきていたはず。

 そんな妹が、進入禁止である屋上に、何の用もなく行くだろうか? 屋上への鍵は職員室に保管されており、それを取るには教師らの目を盗む必要があるのに。

 であれば、考えられるのは、2つ。

 ①他人に呼び出されて殺された。つまり犯人が鍵を盗んだ。
 ②妹が何かに追い詰められて自殺した。追い込まれた人間は何をしても不思議ではない。

 妹は高校入学から数ヶ月した後、彼氏が出来たと喜んでいた。だが、それから少しすると元気をなくし……どうやらイジメを受けていたらしい。本人の口から語られたわけではないが、様子を見ていた愛華が気付いたのだ。

 ならば、それがエスカレートして①になったのかもしれないし、それを苦に②になったのかもしれない。

 他殺にしろ自殺にしろ、ただの事故よりもマスコミの反応は大きいために、学校が隠蔽したのだろう。そしてどちらにしろ確かなのは、“妹を殺した犯人が存在する”、ということ。


 愛華の狙いは、復讐と、真犯人が誰か、なぜ妹は死ななければならなかったのか明らかにすることなのだ。
 自分は最も大事なものを奪われたのだから、それに関与した人物の、大事なものを奪ってやる、と。

 そしてその第一歩として、妹がバイトしていたこの書店に愛華も入り、セクハラをしていたという店長に制裁をしたのである。

 もっとも、妹はすぐにバイトをやめていたので、これがきっかけで死、ということにならない。だが、心に傷を負ったことは間違いなく、店長は復讐すべき相手だったのだ。

 恐らく店長という地位を奪うことが出来ただろうが、それが彼にとって最も大事なものか分からない。だがこれは、自分は果たして復讐を果たせる力があるのかと、愛華にとってのテストで行ったもの。店長の大事なものなど興味はない。

「……とりあえず、上手く行きましたか……」

 店外に出た愛華は、バイト用のエプロンを脱ぎゴミ箱に捨てると、安堵の溜息を吐いた。ようやく、握っていた手から力が抜ける。

「これで、いいのですよね……」

 愛華も、大事なものが奪われたのだから、即復讐をしようなどと考えていたわけではない。その気持ちは当然あったが、復讐などして何になる? とか、自分にそんなことは出来るはずがない、とか、ギリギリのところで、自分の中だけで消化しようとしていたのだ。


 ……しかし。

 スマホ画面をタップすると、愛華が復讐をすると決めた所以が映る。
 起動したアプリは、翻訳アプリ。そこには、先程の店長の発言と、それを“翻訳”した文章が映っていて——

【原文】
 そんな噂誰から聞いた? 事実無根ってやつだ! 個人PCは、ここにあるPCが使いにくいから仕方なく慣れた自分のPCで仕事しているんだ! OSが合わんOSが!!
【訳文】
 副店長が俺を失脚させるために流したのか。証拠はこのPCにたんまり入ってるわ! だが、隠しフォルダにあるから分からないだろう。仕事に使うわけないわ。

と、表示されていた。

 愛華が自信を持って店長の嘘を見破ったのは、このアプリが発揮した力があったからだ。

 これは、例えば英語を日本語にという翻訳をするのではない。“発言した内容を真実に翻訳するアプリ”なのである。つまり、嘘を見破ることが出来る。原文は入力する必要はなく、対象者の発言が勝手に記載される仕組みだ。


 愛華自信、こんなアプリをインストールした記憶はなく、気付いたら先日スマホに入っていたのだ。

 だが、愛華は、今日のことで確信した。

 この翻訳アプリを以ってすれば、愛華の目的を、必ず果たすことが出来る、と。


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