ダーク・ファンタジー小説

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マリー・アントワネット殺人事件
日時: 2017/05/23 19:42
名前: 千崎みずほ (ID: Fv2OCy5P)

 幼馴染みが首なし死体に成り果てたことを——まるで欧米の昔話のように、ギロチンで斬られたかのような幼馴染みの頭が発見されたことを、僕は真っ先に塾友達である樽工ジュンという女子高生に伝えた。
 酷く冷静に。
 冷たく静かに、僕は彼女に伝えた。
 世間一般的には、幼馴染みが死んでしまったのだから、もっと焦る必要があるのかもしれないが——本来ならば、そうしたいところなのだが、しかしながら焦ることに無駄な労力を注ぎたくないというか、『まあ、アイツはああなることを望んでいたんだろうな』と勝手に解釈してしまっている僕は、ただただ、単に『人が殺されただけの事件』として、樽工ジュンに幼馴染みの死を告げた。
「……私からしてみれば、ただ単に人が殺されただけの事件ではないような気がするけどな。というか、どうしてそのことを『真っ先に』私に伝えてくれたの?」
 樽工は、半透明で中身が若干見えているシャープペンシルを自慢の銀縁眼鏡の縁と縁に乗せて言う。
 そんなことを、ただの建前として言っているだけで、本当は——僕が樽工にこのことを告げる前から、樽工は僕が幼馴染みの死を伝えに来ると分かっていた筈だ。
 何故なら——理由として説明できる範囲の答えとしてなら、僕程度の人間はこう答えるべきなのだろう——樽工ジュンには、『神の声』が聴こえるのだ。
 さながら、ジャンヌ・ダルクのように。
 ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりである彼女には、聴こえる。
「何故って——勿論、そんなの決まっているじゃないか。お前がいざというとき、物凄く頼りになるからだよ。前回も前々回も、そのずっと前の回から、僕を助けてくれた。そういうお前の仕事のできるところに漬け込んで、僕はこうやって『犯人を探してもらいに』来たんだから」
「……犯人、ね。私はまだ、この話を君からしか聴いたことがないから、君からしか聴くことが出来ていないから、断片的な部分しか解らないのだけれど、多分——君の幼馴染みの死は、君が簡単に予測したような結末じゃないわ」
「? どういうことだよ」
「つまり、君が簡単に予想できるような簡単な真相じゃないってこと。まあ、私もまだ全然、全くといっていいほど真相に辿り着けてはいないわ。……でも、私の頭の中には、今の段階で二つの可能性が浮上している」
「二つの可能性?」
 結構じゃないか。僕では一つが限界だったというのに——しかも、その一つが誰にでも予想可能なチープで陳腐な可能性だ。
 その二つの可能性のどちらかが合っているのであれば。
 今回の件は——前回の件よりも早く終わりそうではないか。
「ええ。といっても、一つ目はきっと、誰にだって想像できる簡単で単純な話。それに二つ目だって……あんまり、自信はないな。この二つの可能性のうち、どちらの方が可能性は高いかって比べたら、やっぱり前者の方だから」
「じゃあ、まずは前者から聴かせてくれ」
「分かったわ。じゃあ、君に一つ教えてほしいことがあるわ。君の幼馴染みはもしかして、誰かと交際していたの?」
「ああ——同じクラスの奴とな。僕の幼馴染みも、その彼氏も、かなり派手なグループのリーダー格としてグループのみならずクラスの頂点にも君臨していた。まるで、独裁政治みたいに——絶対王政みたいに」

Re: マリー・アントワネット殺人事件 ( No.1 )
日時: 2017/05/21 12:51
名前: 千崎みずほ (ID: ObIO3ZF8)

「そう、だとしたら」
 樽工はシャーペンを眼鏡の上から取りながら、さぞ簡単な算数の問題を解いたときのように言った。
「一つ目の可能性としては——犯人は、君の幼馴染みになんらかの恨みを持っている人物、ということになるわ」
「その可能性については、僕も真っ先に考えたよ。アイツは独裁者として、一方的なまでにクラスを支配していた。それについて恨みを持った誰か——クラスメイトがアイツを処刑した、と」
 うん、まあ、そうなんだけどね、と樽工は口を動かす。他にも何かあると言うのだろうか。
「恨みといっても、世の中には様々なきっかけというものが存在するわ。支配者に対する弱者の恨み。自分を除け者にした相手への恨み。——想い人を奪われたことへの恨み」
「想い人? もしかして、僕の幼馴染みの恋人のことか?」
「ええ。まあ、その可能性もあるんじゃないかっていう、『可能性』の話だからね。あんまり深くは受け取らない方がいいかもしれない」
 だがしかし。
 考えにくいことではない。
 可能性がないわけではない。
 アイツが付き合っていた男は、僕が通う『白鎌月高校』の中でも有数の美形だ。その彼女であったアイツも——僕の幼馴染みもかなりの美形ではあったが、確かに、美形の彼氏を持つ女に嫉妬しない女はいないのかもしれない。
「……でも、だからといって、何も首なし死体にすることはなかったんじゃないか? 確かに、恋愛は人を変えると聞いたことはあるが、ただ好きな人を盗られたからって——」
「何も私は、犯人が君の幼馴染みに対して恨みを持っていたという可能性だけで話をするつもりはないよ。それじゃあ、世界が狭まってしまうからね。そうじゃなくて、まあ要するに——カップルのどちらかに恨みを持っていた人物が、そのカップルの男と女の両方を殺そうとした可能性もある、って言いたいんだよ」

Re: マリー・アントワネット殺人事件 ( No.2 )
日時: 2017/05/21 13:24
名前: 千崎みずほ (ID: q0I/HxeS)

「アイツとアイツの恋人を……でも、それじゃあ動機が解らないじゃないか。それに、あの二人を殺そうとしたなら、何故、僕の幼馴染みだけが首なし死体になったんだ?」
「さっきから、君はずっと『首なし死体』という単語ばかりを繰り返しているけれど、むしろ、私は頭の部分に着目しているよ」
「頭?」
 首なし死体——ギロチンで斬られたかのような頭部。
 この二つは今朝、ほぼ同時刻に発見されたものだった。
 頭部の方は、毎日ランニングをしている男子高校生によって、僕の幼馴染みの自宅近くの林で発見された。
 そして同じく首なし死体は、彼女の母親が彼女に部活の朝練に行くように催促するために、彼女の自室を訪ねたときに発見された。
 ちなみに、彼女は軟式テニス部に所属していた。
 腕前は普通。特別強いというわけではなかったが、部の中ではムードメーカー的存在として、後輩からの信頼も分厚く、練習にも積極的に参加していたので(僕がこれを聞いたときは、かなり驚いた)、多分部活内のトラブルはなかっただろう。
 ということは——やはり、クラスの中の人物が犯人ということになるのだろうか。
 だがしかし。
 何故、樽工は『首なし死体』ではなく、『頭部』に着目しているのだろう。
「確かに、普通人を殺すときって、方法は色々あるけれど、一番考えるのは相手を殺すことじゃない。殺せるなら、心臓の部分を狙ったり、お腹を刺したり、首を絞めたり。方法はなんだっていいはずだよ」
「樽工だったら、人を殺すときにどんな手段を使うんだ?」
「私なら——毒物、とか」
「毒……」
「うん。私だったら、相手を殺すことの次に、どうやったら自分が疑われないかを考えるわ。どうすれば、自分以外に疑いの目を向けることができるだろうって」
「じゃあ、今の樽工の考えを元にすれば、犯人が頭と身体を切り分けたのは、自分に疑いの目が行かないため……か?」
「ううん。なんの意味があるのよ、それ。そうじゃなくて、私は、『犯人は頭を身体から切り離したかったのか、身体を頭から切り離したかったのか』と考えているのよ」

Re: マリー・アントワネット殺人事件 ( No.3 )
日時: 2017/05/21 17:29
名前: 千崎みずほ (ID: W2nkXu2t)

「どういうことだよ……それを考えることの方が、どんな意味があるんだよ」
「だって、現実的におかしいじゃない。確かに、胴体から頭部を切り離すなんて、よっぽど被害者を恨んでいたとしか思えないかもしれないけど、もしかしたら、胴体か頭部か『どちらかが必要だった』っていう可能性もあるわ。まあ、私が小説を読みすぎているせいかもしれないけれど」
 まあ。
 確かに、ミステリ小説の推理を聞いているような感覚に襲われてはいるが、僕としては、ただ当てずっぽうに言われるよりはマシだと思える。
 もし、犯人がただ当てずっぽうに——殺意のみで僕の幼馴染みを殺害したのだとすれば、まあ、それほどの恨みを持っていたのだろう、と簡単に片付けられるのだが、単純な問題だったなと思うだけなのだが、もし、犯人に殺害以外に目的があったとしたら。
 被害者を被害者にすること以外の目的があったとしたら。
「……ねえ、少し君の意見を聞いてもいいかな。君は、君の幼馴染みの殺され方について、何か疑問は持っているかしら——何故、犯人は首を斬ったのか、以外で」
 疑問。
 ないのか、と言われれば、ある、と答える他ないのだろうが、明確な疑問になりきっていないような気がして、上手く僕は答えられない。
 黙り込む僕を見て、樽工は顎に手を当てて考えるような素振りを見せた。
「うーん……私の聞き方が悪いのかな。例としては、犯人は、『被害者を殺してから首を斬ったのか、被害者を首を斬って殺したのか』っていうこととかなんだけれど」

Re: マリー・アントワネット殺人事件 ( No.4 )
日時: 2017/05/22 07:20
名前: 千崎みずほ (ID: Uid.g1yd)

「それは……殺してから斬ったんじゃないか。そっちの方が相手も抵抗してこないし、スムーズに斬ることが出来るだろう」
「うん。そうだね。私も同意見だよ」
「じゃあ、つまり、犯人は被害者に恨みを持つ人物で、なんらかの目的で被害者の頭部か胴体が必要だった——あれ、でも、なんだかおかしくないか?」
 どうかした? と首を傾げる樽工。
 僕は樽工を背後から抱き締めるようにしながら、彼女の耳に口を寄せた。
「今回の場合、犯人が必要としていたのは『頭部』じゃないか?」
「どうして、そう思うの」
「だってアイツは——被害者の女子高生の胴体は、彼女の自室で発見されたんだ。それに、頭部は彼女の自宅近くの林で見つかった——だったら、犯人が必要としていたのは、頭部だという可能性の方が高い」
 実際、頭の方が胴体よりも簡単に運ぶことが出来る。犯人が頭部をどのようなことに使ったのかはまだ解らないけれど、少なくとも胴体が必要ならば、頭を切り離す必要なんてないような気もする。
「君はきっと、殺害現場は被害者の部屋だと考えているだろうけれど、それは違うわ」
 樽工は僕の腕を抱き締めながら、恐らくにっこりと笑った。
「被害者はむしろ——頭部が発見された林で殺されたんだよ」
「なっ、ど、どういうことだよ。じゃあ、犯人が必要としていたのは、胴体の方だって言うのか?」
「う〜ん……なんていうか、確かに頭部より胴体の方が重要視されていたんじゃないかな。私の見立てだと、普通、首なし死体が被害者の部屋にあり、そして被害者の頭部が屋外にあれば——まあ、当然のこと、殺害現場は被害者の部屋だと思わせることができるよね」

Re: マリー・アントワネット殺人事件 ( No.5 )
日時: 2017/05/23 19:40
名前: 千崎みずほ (ID: Fv2OCy5P)

「それじゃあ——殺害現場は、林だということか」
「今の段階じゃ、私的にそう思うだけだよ。新たな情報が提供されれば、また推理のしようがあるんだけれどね」
「否、充分だ。つまり、犯人にはなんらかの理由で『殺害現場が被害者の自室である』と思わせる必要があった、ということか」
「それに、さっきも言った通り、頭部はあまり必要なかった——だから、殺害現場である林に捨てたんじゃないかな。胴体だけが必要だったわけだし——頭部は要らなかったわけだし」
 流石というべきか、何故このジャンヌ・ダルクの生まれ変わり様は、こんなにも簡単に数多の可能性を見出だせるのだろう。
 推理小説の読みすぎ、ということも少しは理由のうちに入っているのだろうが——僕にとって、樽工ジュンが僕の幼馴染みを殺した犯人にしか思えない。
 犯人じゃなければ。
 このような深いところまで——発想が届くとは思えない。実のところ、彼女は何者なのだろう。
 否。
 樽工ジュンは樽工ジュンだ。

▼プロローグ終了


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